第4話:150年前からの呪い:連帯保証なき相続
藤田は、はあああ~~と長く息を吐いてから、「俺だって詳しくは知らねーからな」と頷いた。
「えーとだな……よくあるだろ?『七代先まで祟ってやる』みたいなやつ。そのまんま」
「それこそ、へーとしか……」
「お前が六代目にあたるらしい、ってよ」
「何年前の話だよ……ええと」
仮に初代が30歳で呪いを受け、その子がまた30歳で子供を作って……で、俺だとすると、約150年か。となると、明治初期か。150年前の祟り(負債)? それって時効じゃねーの?
「なんか、さらに胡散臭くなってきたな……」
要するに、先祖が抱えた負債(怨念)を、数世代にわたって子孫が返済し続けているってスキームか。だが、俺は連帯保証契約を締結した覚えもなければ、そんな負の遺産を相続放棄せずに受理した記憶もない。祟りというシステムは、コンプライアンスもガバナンスも欠如した、極めて悪質な債権回収だな……。
「それは町長もそう思ってたっぽいけど。まあ、続けるぞ? ……なんか昔に、この辺の村に、女たらしのクソ男がいたらしいんだわ────」
その色男は数々の美女と浮名を流しては、放蕩に耽っていたらしい。ある日、色男は生真面目そうな女に手を出してしまい、舞い上がった女とつい夫婦になると口約束をしてしまった。当然、男にはそんなつもりは欠片もなかった。冷たく袖にしても付きまとってくる女を邪険にしていると、女は自殺してしまった。それでも色男がいつものように遊びに耽っていると、死んだ娘が怨霊となって、「七代祟ってやる!」と叫びながら側にいた女を呪い殺してしまったという。
「よーするに『私と結婚するって言ったじゃない!!』ってキレたって話だ。うん、手を出す相手を間違えたな。重い」
「そんなことで自殺? そんで七代祟る?」
「そんな粘着気質だったから、男が逃げたんだったりしてな、はははっ、っと!」
藤田は何かに気付いて、慌てて口を閉じる。
「やべー、町中では、祟りの悪口言うなって言われてた」
(確かに。その話が本当なら、ここはその祟りの本拠地だ。用心するに越したことはない)
悠斗も口をぎゅっと閉じて、車の周囲を見渡した。今のところ異変はなさそうだ。
「まあ、心配すんな、速谷さんでバッチリ祈祷してもらってから、アルファルドの中は安全だぜ~」
藤田がルームミラーにぶら下げた交通安全のお守りを指で弾く。
「祟りは交通安全と関係なくないか?」
悠斗の突っ込みを藤田はまあまあと流して話を続ける。
「で、その女の話はちょっと横に置いてよ。──その頃、村は妖怪だか怪異だかに悩まされていたらしいんだな。でよ、その女が自殺したあたりから、なんか知らんけど町のヤバいのが消えたらしい」
「妖怪って、ますます、信憑性が……」
自分の持つ常識からかけ離れた話が続き、悠斗はこめかみを押さえる。
(妖怪、怪異、なあ……)
「とにかく、そのヤバいやつの力を使って呪ったんじゃねーかって」
「ふぅん……」
悠斗は再び考え込む。
(なるほど)
悠斗の頭の中で、今まであった出来事と、現状が「祟り」という事象を中心に組み上がっていく。
(要するに、この町は俺の家を怪異という『負の資産』のゴミ捨て場として利用しているわけか)
元々薄かった地元への愛着が、がくんとマイナスへと傾く。
「よし、家に向かってくれ」
「え? いいのか?」
「どうせ、引導を渡すつもりで来たんだ。ゆっくりしてたら邪魔が入るんじゃないか?」
悠斗の言葉に藤田が、むむ、と唸る。
俺が帰省していることを秘密にしていたことが、町長側にバレるのはマズイんだろう。だったら役所に本気になられる前に、とっととケリをつけよう。
「早く出せって」
車を出すように促すが、藤田はなおも悩んでいる。
「いやぁ、行くのは全然いーんだけどよ。どうすんだ? おばさんはちょっとやそっとで納得しねーだろ?」
「はん、何をしても無駄だってことをわからせるだけだ」
「まさか、殺したり……」
「しねーよ。犯罪者になってどーすんだ。いいから出せ」
藤田は渋々車を発進させる。
悠斗の実家まではゆっくり走っても10分とかからない。実家までの短い道程の間、藤田はずっと「悠斗が町にいないとマジやべーらしいんだよ」「とにかく戻ってきてくれよ」「俺も困ってんだよ」などと切々と語ってきたが、悠斗は無視を決め込んだ。
トラウマ級のキチガイ女から逃れるために必死に生きてきた。
必死で勉強して、都会の大学に受かり、返済不要の奨学金を受けながらバイトと勉強に明け暮れ、これまた必死で就職活動した結果、一部上場企業に入社し、今は順調に出世街道にも乗れている。住民票を移し、ロックして、スマホも番号を変えた。ここまでやっても、10年経っても、心の平穏は訪れなかった。いつも、いつも、クソ女のことが頭から離れなかった。
悪夢にうなされる。
絶対に帰らないと強く決心しているのに、「帰らないと」という心の声が聞こえてくる。
ダーリンがいなかったら、本当に殺していたかもしれない。
「祟り」が原因だと?
それは、悠斗に取ってむしろ朗報とも言えた。




