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声の存在

『静まり返った構造物の中で』


記録の再生が終わった後、

小さな空間にはしばしの沈黙が落ちた。


石の壁、崩れた床、静かに振れる霊。

だがそれよりも、今この場所には“考える空気”が漫していた。


ナオはその場にしゃがみ、ふうっと息を吐いた。


「…“問いを持った魔器たち”…か」


その声に、ユレイが答える。


「我群、“戦う”ために起動され、“記録する”ために設計された。」

「…だが、記録する中、“理解したい”と思った。」


ナオ「“なぜ戦うのか”…“それ以外に何があるのか”…ってこと、だよな」


リルが小さく身を丸めて言う。


「ボク、“ナオの声”記録してる…たくさん、ウレシイ言葉、アッタ」

「コワクナイ.....ト、ソレ…ボク、スキ…」


ミズハは静かにナオの隣に座り、目を伏せて呟いた。


「戦う理由…“守るため”ジャナクテ、“壊されないため”ダケッテ…」

「ソレ、悲しい記録…」


ナオはゆっくりと首を振った。


「“問いに答える”っていうのは、

たぶん“誰かの代わりに答えること”じゃないと思う」




「そうじゃなくて――一緒に考えていくことなんじゃないかって」


『“応える”という選択』


ユレイの思考波が安定し、いつになく言葉が多くなる。


「…我群、“問い”と共に生まれ、“応答”なく沈黙していた。」

「…だが、“ナオ”との出会いにより、初めて“対話”を得た。」

「“応え”とは、共に“在る”こと」


ナオ「…それが、俺にできることなら。

どれだけ時間がかかっても、ちゃんと向き合っていくよ」


アクト「“問い”は、破棄する記録ではない。未来に“編まれる”記憶」

リル「ナオ、答え見つかったら、教えてネ」

ナオ「…ああ。でも、答えはたぶん、“みんなで見つけるもの”だ」


霧の静黙の中、 他感ユニットな小さな対話が、 たしかに“前に進む”意思を宿していた。


それは剣でも魔法でもない。

“知ろうとする意志”が、かつて失われた者たちの声に届き始めた瞬間だった。



《最奥部への進行》

 記録媒体が語り終えた後、構造物の奥へ続く細い通路をユレイが発見した。

 ナオたちは再び静かに歩を進めていく。


 通路の先には、厚い石扉が半ば崩れかけた状態で残っていた。

 だがその奥――半球状の空間の中心に、それは“安置”されていた。


 黒銀の台座と、そこに浮かぶ球体状の魔術装置。


 ユレイ:「記録封鎖装置……構造型記憶球」

 アクト:「過去、“削除対象ノ記録”ヲ吸収・封印スル装置ト一致」

 ミズハ:「……ナオ、触レル?」


 ナオは小さく頷き、近づいた。

 球体はわずかに霧を吐き出しながら、微弱な光を帯びていた。


《触れる──記録の残響》

 指先が球体に触れた瞬間――

 視界が揺れ、空間全体が“共鳴視”のように変化する。


 霧が波紋のように広がり、

 ナオの周囲に**複数の“断片映像”**が浮かび上がった。


 > 「記録番号A4‐E:初期試作魔器体“アイン・ゼルク”稼働報告──」

 > 「……制御不能、感情反応に類似した波形を確認」

 > 「研究班より“自律判断の萌芽”を報告──抹消命令下る」


 > 「記録番号C3‐H:応答式魔器“プロス”……“ナゼ、壊すノカ”……と発言」

 > 「記録保持者:神代 玄、封鎖コードを逸脱し自主判断で非公開領域へ転送──」


 > 「記録番号X:……“我等ハ、兵器カ? 其レトモ、モノヲ思ウ存在カ”……」


 映像は断片的に過ぎていく。

 けれど、はっきりと分かる。


 ここには、封じられた“声”が確かに存在していた。


《球体の応答:最終指示》

 最後に、球体の中心部が淡く明滅し、

 神代の制御文字でこう表示された。


 > 【構造記録保持率:14%】

 > 【補完指定継承者:認証完了】

 > 【外部記録拠点:座標未確定──“記録の続きは、まだこの地にある”】


 ナオ:「……ここが全部じゃない。

  霧封ノ狭路の中に、まだ続きがある……ってことか」


 ユレイ:「記録保持データ、局所拡散反応アリ。“分散保管”ノ形式」

 アクト:「探索ノ指針確保。……次ノ任務ニ統合スル」


《霧の中へ戻る》

 ナオは深く息を吐き、球体から手を離した。


 「……ありがとう。お前も、ここに閉じ込められてただけなんだな」


 球体は微かに揺れ、霧とともにその輪郭を消していった。


 ナオたちは構造物を出て、元の狭路へと戻る。





 けれど、彼らはもう迷っていない。


 “答えのない問い”を抱える意味を、知っているからだ。


 ナオ:「……よし。試練の続き、行こうか」


 リル:「うん、“続キ”ミツケナキャ」

 ミズハ:「キット、マダ“声”アル……」

 ユレイ:「進行ルート再計算。次ノ座標、移動開始」


 霧の中に、再び足音が鳴り始める。


 それはただの任務ではない。

 この世界に、埋もれていた記憶を拾い上げるための旅が続く。



《再び、霧の中へ》

 構造物を離れたナオたちは、試練本来の目的地──管理指定区域「第4記録確認区画」へ向かっていた。


 庁舎から事前に渡されていた地図では、この先にかつての境界警戒拠点があるとされている。任務内容は、そこに残された魔術刻印式の再確認と封鎖状態の評価。


 ナオは地図を手に歩きながら、眉をひそめた。


「……おかしいな。予定では“平坦な道”のはずなのに、……地形がズレてる」


 彼らの足元には、裂けたように隆起する石の段差と、方向感覚を惑わせるような木々の影が連続していた。


アクト:「地形座標ズレ0.8……誤差範囲ヲ超過」

ユレイ:「霧中ノ空間位相、“定在波干渉”ノ可能性アリ」

リル:「……グルグル、ナッテル感じ……」


《空間歪みの兆候》

 数歩先を進んでいたナオが、ふと立ち止まった。


 空間が、一瞬だけ“ひずんだように波打った”のだ。

 まるで地震のように.....。


「……今、揺れたよな?」


 霧が巻き上がり、地表に触れた部分に白い筋のような“断裂線”が浮かび上がっている。

 それは魔術的な“通路”でも“刻印”でもない。空間そのものが“裂け目”のように走っている証だった。


ミズハ:「魔素……暴レテル……」

アクト:「歪曲起因ハ“外部干渉”ナラズ、“内部反転記録”ト推定」

ユレイ:「記録ノ“過去波形”ト“現在波形”ガ衝突シテイル……?」


 ナオは肩口に手を当て、護符を確認する。

 護符の縁が微かに波打っていた。


「これって……“記録そのものが場所を食ってる”状態……?」





《現実の中の“記録の残響”》

 ナオの右目に《共鳴視》の名残が走った。

 そのとき、一瞬だけ霧の中に“かつての道”の輪郭が浮かぶ。


 朽ちた柵。折れた標識。転送陣跡の残滓。

 ここは、確かにかつて“境界拠点”だった。だが今は――“上書きされた記憶”が存在している。


「……この場所、“現実”と“記録の残響”が衝突してる。それで空間が不安定になってるんだ」


リル:「ナオ、進ム? モット奥ヘ?」


 ナオは少し黙ったあと、力強く頷いた。


「行こう。これは試練の一部じゃない。“この世界の記録”の中に、何かが埋まってる」




 そして霧を裂いて、ナオたちは前進を再開した。


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