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真実が眠る場所

 ノワール=フィル地下区画β――

 かつて魔器の製造と管理が行われていたその区域の最奥。


 そこに存在するはずのない座標――F50-X12。

 地図にも、記録にも残されていない『封印の裏側』。


 その場所へ向かって、ナオたちは静かに歩みを進めていた。


 > ユレイ:「現在位置、座標F50-B08。移動経路安定。次ノ進入点、“断層座標X12”ヘノ接続確認」

 > アクト:「魔素密度:異常濃度。封印起源領域ト一致スル波形検出」

 > ヘイド:「外装圧低下。魔素振動ノ干渉野アリ。慎重ナ進入推奨」


 通路の終端、行き止まりと思われた場所には、かすかに魔素が波打つ壁があった。

 記録端末を翳すと、壁の中心が淡く光り、ゆらりと揺れて波紋を広げるように――道が、開かれた。


 ミズハ:「……道、開イタ……?」

 リル:「向コウ、何カ……聞コエル気ガスル……」


 ユレイ:「空間位相ノ一時重複。“転送門”ニ近イ性質アリ。但シ、転送デハナク、“封印ノ裏面”ニ直接繋ガル回廊」


 ナオは、一歩、波紋の向こうへと踏み出した。



 そこは、異質な空間だった。


 広がるのは、灰白色の石造りと、黒鉄の柱が交互に並ぶ半回廊構造。

 床は水面のように滑らかで、魔素がまるで液体のように揺れている。

 空気は重たく、しかし清冽だった。音が沈み、反響すら起こらない。


 天井には蜘蛛の巣のように魔紋が走り、淡い青白い光を灯していた。

 それは古代語にも似た記述を含み、魔器たちでさえ即座には解析できない精密さだった。


 「……ここは、“見る者”のための場所、だ」


 ナオの呟きに、仲間たちは黙って頷いた。


 リル:「ココ、“誰カガ残シタ記録”?」

 アクト:「空間ノ魔素回路、思考反応式。視線ト意志ニ応答スル設計」

 ヘイド:「空気ニ漂ウ圧力、“観察者ノ遺構”ト類似スル緊張感」


 ナオはゆっくりと進む。背後の魔器たちも無言でその背を守る。


 その場にあるすべてが、かつての“神代”に属した者たちによって組み上げられ、

 “継承されるべき記録”として保たれてきたのだ。


 (……これは、見せるために作られた場所)


 (誰かが、“未来に伝えるために”……この空間を、残した)


 やがて、中央へと向かう通路の先、

 大きな球状の装置が浮かび上がった。

 それは魔素の結晶で形成された半透明の球体で、

 内側には回転する環状機構が複数重なっていた。


 > ユレイ:「中央構造体ニ向カウ導線アリ。“思考結晶体”ノ残存反応ヲ感知」

 > アクト:「対象、“封印ノ鍵カ”“記録ノ核”ノ可能性アリ。警戒ヲ」


 ナオは胸の内にざわめく何かを感じながらも、一歩、また一歩と近づいていく。


 それは恐れではない。

 それは、確信に近い直感だった。


 自分がここに来ることを、誰かが知っていた。

 自分がここで“見る”ことを、誰かが信じていた――


 「……ここが、“最深”じゃない。“核”だ」


 「記録の核心。真実が眠る場所」


 仲間たちはその言葉に、静かに頷いた。


 ナオは手を伸ばし、魔素の球体に触れる。

 その瞬間、光がひとつ、脈動を打った。


 ――封印の裏。記録の心臓部。


 彼らは、ついに踏み込んだ。


 神代の残響が、そこにあった。


 回廊の奥。

 まるで神殿のようにそびえる、円環の中央――


 そこに、“それ”はあった。


 漆黒の石柱に似た主塔。

 四方から張り巡らされた魔素導管。

 そして中心部には、淡く光を帯びた六面体の結晶核が浮遊している。


 > アクト:「対象、“思考結晶体”ト推定。

  記録媒体ト情報構造体ノ融合型記憶核」

 > ヘイド:「接続端子非接触式。“感応型記録”ノ可能性高」

 > ユレイ:「反応条件、“意志ノ確認”ニ近イ信号反応アリ」


 ミズハ:「ここ、……誰カノ“想イ”ガ詰マッテル……」

 リル:「動カシテイイノ……ナオ?」


 ナオは、一歩ずつ中央構造体へと近づいた。


 足音が吸い込まれるように沈み、

 空間全体が呼吸を止めるような感覚に包まれる。


《ユレイたちが感じ取る違和感》


 そのとき――


 > ユレイ:「空間記録層ニ、不自然ナ“断絶”検出」

 > ヘイド:「過去ノ時間軸ト連続シタ“観測切断”アリ。記録ニ欠損」

 > アクト:「空間ソノモノニ、“記憶ノ痕跡”ガ断片的ニ残留……」


 ユレイたちは通信を交えながら、目に見えない“場”の記録を読んでいた。


 > ミズハ:「……誰カガ……“消サレタ”?」

 > リル:「記録、残ッテルノニ……何モ、ナイ、ノ……」


 アクトが明確に告げた。


 「此処、“改変ノ痕跡”アリ。

  記録ハ、“意図的ニ一部切除”サレタ」


《ナオ、起動の瞬間》


 ナオは手を伸ばした。

 思考結晶体の表面に、直接触れることはせず――


 心の中で、問いかけた。


 (俺は、ここに何を知りに来た?

  神代の名の下に、何を“継ぐ”というのか?)


 ふと、脳裏に父と母の声がよぎった。


 『開祖の教えを忘れるな……常に目立たず、月を眺めよ』


 (ならば今は――“見る”ときだ)


 「見せてくれ。……ここに残された、“真実”を」


 その瞬間――


 結晶体が、静かに回転を始めた。


 石のようだったそれが、淡い光を帯び、

 内部に――**映像のような“思考痕跡”**が浮かび上がっていく。


《思考記録:起動準備完了》


 > 結晶体内音声:【──記録開始】

 > 【記録層No.317-B/神代機関・深層記録】

 > 【記録者名:コード“K.G.(継承者)”】

 > 【映像再生条件:感応起動者ノ同調率95%以上達成】


 ユレイがすぐに補足した。


 > 「ナオ、現在ノ同調率──96.2%。再生条件、達成」


 ナオは、ほんのわずかに息を飲んだ。


 「……俺が、“起動者”ってことか」


 ミズハがそっと囁く。


 「……ナオ、“記録”ニ選バレタノ、ネ」


 空間は、まるで呼吸するかのように、微かに揺らぎ始める。

 思考結晶体の光がナオに向かって脈打つように鼓動を刻み、

 彼の前に、今まさに“かつての真実”が開かれようとしていた。


 それは、神代の名のもとに語られなかった物語。

 誰にも明かされることのなかった、封印の裏側の記憶――


 そしてその扉は、ナオという“意志”によって、いま開かれようとしていた。

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