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群れとの戦闘

 風が変わったのは、アクシレイの咆哮が消えたほんの数秒後だった。


 それは気流の異変ではない。空気の「重み」自体が変わったのだ。土埃が舞い、かすかに焦げたような魔素の匂いが漂い始める。


「……来たか」


 ナオは歯を食いしばり、残った魔素を制御しながら背を向けていた岩場の向こうを睨む。地鳴りが小刻みに鳴り、揺れる。まるで、大地そのものが脈動しているようだった。


 > ユレイ:「個体数、48体。内、魔化個体6体。特異動作個体アリ、“指揮反応”ノ可能性」


「やっぱり……こっちが本命か」


 ナオは肩をゆっくりと回し、軋む筋肉と悲鳴を上げる関節をなだめるように呼吸を整える。額には既に汗が滲み、右肩には浅い裂傷が走っていた。


「……まだいけるか?」


 問いに応えたのは、5体の魔器たち――


 > ユレイ:「問答無用。戦闘続行可能」

 > アクト:「戦線維持、火力十分」

 > ヘイド:「敵、撃ツベシ」

 > ミズハ:「ナオ、離レチャ、ダメ……!」

 > リル:「ボク、動ケル! イマダケハ……!」


 ナオは微笑みすら浮かべず、静かに頷いた。


「よし。全員、布陣。連戦になるぞ」


 黒い波が襲いかかってきたのは、その数秒後だった。


 群れ。蠢く脚音、唸る咆哮、泥を蹴る爪の音。あたりの岩肌を削りながら、数十体の魔物が一斉に突進してくる。


「ミズハ、封鎖! リル、左翼へ! アクト、右から迎撃! ヘイドは中間防衛! ユレイ、俺と中央を取る!」


 > 「了解」

 > 「ウゴク!」

 > 「布陣ノ調整完了。回路展開」

 > 「敵位置、補足――照準ヨシ」


 戦端が開かれた。


 ナオは自身に強化魔法【風刃連舞】【影移歩】を重ね掛けし、群れの中へ切り込む。


 魔物の皮膚を裂く風圧。疾走と同時に結界札を投げ、【咆哮結界符】で周囲の聴覚を制限。その隙に、ヘイドとアクトが挟撃を仕掛ける。


 鋭い爪が眼前を掠める。数センチずれていれば頸動脈を抉られていた。


「っ、まだ……!」


 ナオは刃を翻し、反撃に転じる。体を沈め、敵の懐に潜り込んで一閃。だが、次の瞬間、背後から別の個体が飛びかかってくる――


 > 「ナオ、避ケテ!」


 リルの警告。即座に【幻影転位】で退避。魔物の爪が地面を抉るのが遅れて聞こえた。


「ありがとう、リル……!」


 呼吸が浅くなる。身体が重い。視界の端で、ミズハが回復結界を展開しながら叫んだ。


 > 「魔素濃度ガ高イ! ナオ、無理シチャ、ダメ……ッ」


「でも……止まれないんだよ!」


 叫びと共に、次の敵の首を刈る。その手の内では既に次の札が構成されていた。

 

 そのとき、群れの奥――黒い影が現れる。


 それは一段と巨大で、身体中に異常な魔素結晶を纏っていた。目は血走り、頭部には一対の角。動きは遅いが、すべての魔物がその個体を避けるように動いていた。


 > ユレイ:「“指揮個体”確定。群体ノ魔素経路、コノ個体ヲ中心トスル制御構造」


「指揮官……!」


 ナオの背筋に冷たいものが走った。過去の記録では“稀に現れる”とされる高知能個体。もしこの個体がまだ力を温存しているとしたら――今この瞬間が勝機だーゾクゾクする。


「集中攻撃……仕掛けるぞ!」


 ナオはスキルと魔法を同時に解放した。


 ■【風刃式・六方斬陣】

 ■【雷撃斬糸・刻印型】

 ■【幻歩乱影】

 ■【強制転送結界】+【自壊封印符】


 刹那、視界が高速で揺れる。音も、光も、魔素の圧力に沈む。


「アクト! 右前脚狙って! リル、時間を稼いで!」

「了解!」

「ボク、動クッ!」


 アクトの重撃が指揮官の関節を砕き、リルの閃光で一瞬視界が奪われた。


 そこに、ナオが結界札を貼り付ける――


「自壊封印、展開ッ!」


 青白い魔方陣が広がる。魔物の身体が暴れ、咆哮を上げ、そして……爆裂。

 空間が震えた。砂煙が吹き飛び、辺りが真昼のような光に包まれる。



 

 静寂。ナオはその場に膝をついた。


 肩で息をしながら、目の前の焼け跡を見つめる。そこにはもう、指揮官の姿はなかった。


「……終わった……のか」


 ミズハが駆け寄り、ナオの傷に手を当てる。温かな癒しの光が傷口を塞いでいく。


 > 「ナオ……無茶、シスギ……!」


 > アクト:「戦果確認。全体個体数ノ92%、討伐確認」

 > ユレイ:「最終指揮ノ評価――ナオ=カミシロ、戦術判断ニ於イテ最優」


 防衛隊の隊長が駆け寄り、呆然とナオを見た。


「まさか……たった1人で……この数を……」


 ナオは小さく笑った。


「1人じゃない。“1人と5体”じゃなくて、俺たちは“6人”だ。全員が、戦った」


 空が、白み始めていた。



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