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防衛線

《翌朝:庁舎への報告》

 ──夜が明け、ナオはユレイたちを連れて庁舎へと向かった。


 街の空気は穏やかで、通りには人影もちらほら。

 50階の朝は変わらず静かだった――その時までは。


 


 庁舎では試練担当官がナオを迎え、

 報告書の提出と口頭による確認が行われる。

 


 ナオは端的に調査の要点を説明し、“記録端末の件は伏せた”。

 


 ──代わりに、未知階層の構造、環境、そして帰還ルートの安定性を報告。

 庁舎側はこれを「第五試練・探索段階成功」として評価した。


―ユレイたちの認可

 報告中、ユレイたちの支援記録や状況分析能力が高く評価され、

 庁舎側から提案があった。 


 > 「今回の任務において、随行支援体による戦術支援・知的判断は特筆に値します。

  仮市民No.7432ナオ=カミシロの同行個体、5体に“特別随属枠・仮市民権”を付与します」

 

 ナオはユレイたちを振り返り、軽く笑った。

 「……みんな、良かったな」


 > ユレイ:「評価、受理。以後ノ行動ノ幅、拡張」

 > ミズハ:「……市民……? 私たち……街ノ一部?」

 > リル:「ウレシイ!」

 > アクト:「支援記録、報酬条件、確認完了」

 > ヘイド:「資源確保、補修優先度更新可」




―報酬の受け取りと、突然の報せ


 それぞれが報酬(支援魔石、宿営補助券など)を受け取り、庁舎を出ようとしたその時――

 庁舎の扉が激しく開かれた。


 「ッ、た、大変だッ……!!」

 「魔物が……“北門”側に向かってきてる……! 群れじゃない、単体だが……でかい!!」 


 駆け込んできたのは、防衛線から戻ってきた斥候の青年だった。

 血と土にまみれ、肩口からは斜めに裂傷。


 ナオはすぐに近づき、彼の腕を支えながら訊いた。

 「距離は? 規模と種別は?」


 「大型――たぶん、アクシレイ種……魔化変異体の可能性あり。

  まだ街に着いてないが……あと30分もないと思う……!」



 庁舎の職員が慌てて対応しようとする中、ナオは一歩前に出て言った。 

 「俺が行く。“依頼”として受ける形で、討伐に向かわせてほしい」


 担当官は戸惑ったが、直後に即答する。 


 > 「ナオ=カミシロ殿、仮市民として、緊急支援任務を要請する!

  随行個体の支援戦力としての登録も完了している――任務開始を認可する!」


 ナオは小さく頷き、後ろの仲間たちに向き直った。

 「行けるか?」 


 > ユレイ:「戦闘行動、問題ナシ」

 > アクト:「初撃判断、我ニ」

 > ミズハ:「“今度ハ……守ル”」

 > リル:「ナオ、ボク、行ク!」

 > ヘイド:「群体ナラズ。集中戦術、適応可」


  ナオは視線を鋭く前に向け、静かに呟いた。 


 「出るぞ!“俺たちの街”を守るために」


《出撃:北門へ》

 ──ノワール=フィル《第50階層都市》北門、防衛前線。


 沈む太陽が岩稜の影を長く引き伸ばす中、空が赤黒く濁っていた。街の外縁に広がる岩塊地帯に、ざらつく風が吹き荒れ、乾いた砂塵が視界を濁らせる。


 庁舎を飛び出したナオと魔器たちは、魔素圧を各自調整しながら全速で北門へと走る。魔器たちは小型の飛行形態でナオの両脇を囲み、空中を滑るように並走していた。


 「ユレイ、前方の情報を!」


 > ユレイ:「熱反応探知。前方150メートル、地表侵食型個体。魔素圧、高密度」


 「……やはり“アクシレイ”か」


 それはかつて文献で読んだ、爬獣型の魔物。だが今、ナオの目の前に現れた個体は、教本に載っていたものとは明らかに異なる。


 「でかい……骨格が歪んでる。体表の魔素板、常に乱反射してやがる」


 視界の先で、鉄と岩を砕くような音を立てながら、異形の巨獣が大地を蹴っていた。


 体高は五メートル近く、鋭利な鉤爪と牙、硬化した甲殻、脚部の腱は爆発的な推進力を示していた。尾には棘が並び、まるで“戦うためにのみ生まれた兵器”そのものだ。


 「目が……光を反射しない?……見えてるのか?」


 > ミズハ:「“感知型”ノ可能性。視覚デハナク、震動カ、魔素波カ」

 > アクト:「装甲密度、高位。通常ノ斬撃、不可。魔法拡散反応アリ」


 「つまり、どちらも通じないってことだな」

 ナオは即座に足を止め、周囲の岩陰で構えていた防衛部隊の一人に詰め寄った。


 「状況を!」


 「10人で攻撃したが、魔法は弾かれ、斬撃は皮一枚通らなかった! 前衛が牙でやられた、三人が重傷だ!」


 部隊員の顔は血に塗れていた。額の傷からは流れた血が乾いておらず、声には焦りが滲んでいた。


 ナオはスキルウィンドウを展開する。


 【観察眼 Lv.3】【属性鑑別】【戦術展開】【魔素感知】


 四つのウィンドウが脳内で重なり合い、彼の視界に巨大個体の内部構造が重ねられた透視図として表示される。


 「……背中の中心……そこに魔素コアがある」


 > ヘイド:「コア、螺旋反応アリ。短時間ニ“過負荷放出”ノ兆候」


 「つまり、一定時間ごとに自己防御が弱まる……か」


 > アクト:「貫通可。角度制限:背面斜上35度、距離8.4m」


 「狙えるか?」


 > アクト:「可能。指定角度デノ支援要請、承認待チ」


 「よし、やるぞ」


 だが──


 その瞬間、ナオの視界に、違和感が走った。


 「……あれ……なんだ……」


 ユレイが即座に反応する。


 > ユレイ:「背後、魔素波濃度上昇。複数体ノ接近反応」


 「こっちが本命じゃない……!」


 > アクト:「後方、約43体ノ反応アリ。“群体構成”ノ可能性」


 ナオの全身に、冷たい汗がにじんだ。


 「くそ……この個体、囮だ!」


 目の前のアクシレイ種が唸り声を上げる中、背後の空気がわずかに揺れる。まるで大気そのものが震えるような圧力が、じわじわと迫ってきていた。


 だが、防衛部隊はまだアクシレイ種に意識を集中しており、背後への警戒が疎かになっている。


 「間に合わない……俺たちが動くしかない!」


 ナオは小さく呟いた。


 「本気モード、試してみるか──!」


 その瞬間、ナオの体に魔素が奔る。青白い閃光が脊椎を駆け上がり、彼の目が淡く発光した。


 ■スキル【身体強化・忍脚】【幻移の歩】【集中起動】


 ■魔法【風刃式・補助結界】【雷撃斬糸】【魔縛印展開】


 足元に風が走る。砂塵が跳ね、地面が割れた。


 > リル:「ナオ! ボク、囮ノ補助、ヤル!」

 > ヘイド:「後方遮断魔方陣、展開可能」

 > ミズハ:「前方ノ“突進”、誘導スル。空間圧制御、開始」

 > アクト:「狙撃可能位置マデ、誘導セヨ」

 > ユレイ:「敵ノ連携“断裂”ヲ目指ス。ナオ、中心トナレ」


 ナオは息を吸い込む。膝を低く落とし、視線をアクシレイ種と、その背後へ。


 「行くぞ。ここを越えなきゃ、街がやられる……!」


 瞬間、ナオは空間を裂くように走った。

 魔素が逆巻き、風が爆ぜる。

 

  砂塵を巻き上げ、ナオはアクシレイの正面をすり抜ける。魔素の流れを身にまとい、彼の動きは視認できないほどに鋭い。


 「コイツ、反応してきた……!」

 アクシレイが咆哮し、突進動作を開始。だが、それはナオの誘導通りだった。


 > ミズハ:「今。空間歪曲、成功」

 > ユレイ:「遮断壁、展開。反転行動、封鎖完了」

 > アクト:「狙撃位置確保。射線確保中」

 > リル:「ナオ、飛ブヨ!」


 ナオはミズハの風魔法に身を任せ、空中に跳躍した。

 アクトが背後の魔素コアに照準を定め、放つ——


 《収束魔矢・斉射》


 閃光がアクシレイの背中に直撃し、甲殻を穿つ。瞬間、爆発音とともに、獣の咆哮が夜空に響いた。


 しかし——その直後、背後の地面が隆起するように、複数の影が現れた。


 「来たか、群体!」


 40体以上の中型個体が、地面から這い出るように現れる。

 牙を剥き、闇の中を駆けるそれらの瞳が、魔素に照らされ不気味に光っていた。


 > ヘイド:「前衛防衛、私ガ行ウ」

 > リル:「後衛、任セテ!」

 > ミズハ:「空間、ズラス」

 > ユレイ:「ナオ、全体指揮ヲ!」


 ナオは着地と同時に、冷静に命令を発した。


 「陣形C! 対複数、包囲型! リル、後衛に重ねろ!」

 「ミズハ、三重結界! 俺が前へ出る!」


 咆哮と金属音が交錯する中、魔素の輝きが戦場を染める。

 ナオと魔器たち、そして防衛部隊の精鋭が、未曾有の戦いに挑んでいた――。

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