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試練②ー報告と報酬

 ──再び、《フィル=ノワ》の庁舎・報告の間。


 石壁に囲まれたその空間は、前回と同じくひんやりとした静けさに包まれていた。

 だが、今回ナオとミュアが立つ位置には、かすかな緊張の色が漂っている。


 《評議の五柱》のうち、再び四名――猫耳の長老ミスラ、鬼族のガルド、夜妖のエナ、精霊族の記録官シルアが揃い、沈黙の中に視線を向けていた。


「では、ナオ・カミシロ。第二の試練の結果を、聞こう」


 ミスラの声音は淡々としているが、声の底にあるものは、明らかに“関心”だった。


 ナオは一歩前に出ると、落ち着いた口調で語り始めた。


 「48階深部、《霊封の斜路》にて、封門を確認しました。外部から内へ魔素の流れを断つ構造。文様が扉一面に刻まれ、魔素反応に応じた変化を見せました」


 淡々と、だが一語一語を確かめるように続けていく。


 「文様の一部を解析。確認された語意は《境界》《護り》《外界》。

 封門の奥からは異質な魔力の気配があり、存在感は“視線”に近いものでした。

 侵入はせず、観察・記録を優先。帰還し、報告に至ります」


 その瞬間、室内の空気がわずかに変わった。



 記録官シルアがそっと前へ出て、澄んだ声で問いかける。


 「……“境界”という言葉。あなたは、それに対して何を感じましたか?」


 ナオは一瞬、言葉を探すように視線を落とし、やがて目を閉じて答えた。


 「それは……“線”だと思いました。越えてはならない、けれど守るために存在する線。

 そしてそれは、この世界と、俺のいた世界を繋ぐ“裂け目”にも通じている」


 しばしの沈黙。


 その中で、長老ミスラが瞼を細めて言葉を紡ぐ。


 「君は、恐れないのか? その“裂け目”が何をもたらすか分からぬのに」


 ナオは、苦笑した。


 「……怖いですよ。けど、それでも知りたいんです。もし自分がそれに関われる立場にいるなら、それが“ここにいる理由”かもしれないから」


 その真っ直ぐな言葉に、評議会の面々がわずかに目を見開く。


 やがて、ミスラが古びた巻物を広げ、筆を取った。


 筆先はためらいなく走り、巻物に新たな記録が刻まれる。


■庁舎記録:更新

カミシロ・ナオ ― 試練②《封門調査》:完遂


封門の実在証明

封印文様の初解読

外界干渉の初兆候確認

→ 評議会により“次段階への関与資格”を承認


 記録官シルアが巻物を巻き取りながら頷く。


「この報告は、《外界符痕》との一致を示す貴重な記録となります。後世にも残されるでしょう」


 ミスラが静かに立ち上がった。


「ナオ・カミシロ。この試練をもって、我々は君を“ただの滞在者”から“参与者”として認める」


「次に君に課す試練は、街と外の“歪み”に踏み込むものとなる。

 これは、我々の“記憶にすらない領域”だ。未知に備えよ」


 ミュアが横目でナオを見つめる。その瞳には、尊敬と同時に――淡い不安の色が滲んでいた。


 夜妖のエナがゆっくりと前に出て、柔らかな声で囁いた。


「……そう遠くないうちに、“あの扉”は再び動き出すでしょう。

 あなたがそこに関わる者なら、その時こそ、門は真に開かれます」


 ナオは静かに頷いた。


「――それまでに、俺自身も、準備を整えておきます」


 言葉に迷いはなかった。


 この世界における“自分”の立ち位置。

 少しずつだが、ナオはその意味を確かに見つけつつあった。






《報酬》

 ──庁舎から支給された住居は、《フィル=ノワ》の北端、街はずれの緩やかな斜面に建てられていた。


 小さな石積みの平屋。木製の扉と、煙突のある台所つき。

 裏には地下水路が流れ、小道を挟んで食堂や仕立屋、道具屋などが並ぶ小商い通りに面していた。


 「ここが……俺の家、か」


 ナオは扉の前で一度深く息を吸い、鍵を回した。


 静かな音を立てて扉が開く。

 中は簡素だが清潔で、最低限の家具が整っていた。木製の机と椅子、粗末ながら温かみのある寝台。壁際には物干し用の縄が掛けられ、棚には燈火結晶が数個、整然と並べられている。


 ミュアが後ろから顔をのぞかせる。


「悪くないでしょ? 昔、旅の商人が使ってた部屋なんだって。水道も通ってるし、何よりここ――」


 彼女は指をさした。


「すぐ近くに、食べ物屋と仕立屋と道具屋があるんだよ!」


 その声には、どこか誇らしげな響きがあった。




■通りの紹介と住人たち


●道具屋《ケルダ工房》

店主:頑固な鬼族の職人バロス


 石造りの店内には、無骨な金属道具が所狭しと並ぶ。


「おう、新入り。人間だと?……ふん、あの試練やったのか。なら使え」


 無愛想な第一声だったが、ナオが工具を丁寧に扱う姿を見て、眉をひそめながらも口元がわずかに緩んだ。


「……道具の扱い、慣れてるな。悪くない」


 以後、ナオが手入れ方法を尋ねると、ぶっきらぼうながらも的確に教えてくれるようになった。


●食べ物屋《ノミの巣亭》

店主:料理好きの猫耳老婆マール


 暖かな香りが漂う小さな食堂。木の椅子と机、布張りのクッション。


「あらまぁ、ナオ坊ちゃんじゃないの。おかず付きの雑炊、食べてきな」


 初対面のはずなのに、どこか懐かしい口調。出てきた雑炊は、根菜と鳥肉をじっくり煮込んだ滋味あふれる一品だった。


 ミュアと来ると「ご新規歓迎」として無料でふるまわれ、ナオは思わず恐縮してしまう。


●仕立屋《糸の月》

店主:羽根族の姉妹職人ペル&ルル


 織機の音が優しく響く、羽毛と布地に満ちた店。


「服のサイズ、計らせて。動きやすいのが好き? それとも“忍者っぽい”のがいい?」


 ナオが戸惑うと、姉妹はくすくす笑いながらメジャーを回し、寸法を測る。


「素材は風通しのいいやつが合うわね。あと、ちょっとだけ防具的にしてあげる」


 後日、外套をアレンジした機動服が仕立てられ、ナオは思わず見惚れてしまった。


●街との接続


 通りを歩けば、子どもたちが「お兄ちゃんだ!」と駆け寄ってくる。

 露店の主人は「あの試練の人だろ」と言って野菜をまけてくれた。


 気がつけば、ナオの足取りは自然と街の一部になりつつあった。






 夜、帰宅したナオは、室内に灯火をともして小さくため息をつく。


「……こんな日が来るなんてな」


 異界であるはずのこの場所で、家があり、声があり、手が差し伸べられる日常がある。

 ふと、かつての現実――たった一人での食事や、自販機の灯りだけが頼りだった帰り道が、遠く霞んでゆく。


 そのとき、窓の外から「コツン」と小石の音がした。

 開けると、ミュアが照れ隠しのように立っていた。


「……夕食、食べた?」


「いや、まだ」


「じゃあ……一緒に、ノミの巣亭。ほら、“歓迎の続き”だってさ」


ミュアに手を引かれ再び街に繰り出した。


 (あの扉の先に待つ真実も、このひとときも、すべて“ここで生きる”自分の糧になる)

「まだ試練は2つ終えただけ。ヤルしかない」

不安がないと言えばウソになる.......。しかしそれでもナオは前に進むことを決めていた。


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