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9 新パーティー加入

 西の門に走って向かっていくうちに、段々と雨が弱まっていくのがわかった。

 それに伴って、先ほどまで雨音に隠れていた周囲の音が、鮮明に聞こえてきた。


 もうそろそろ西の門のはずだ。

 耳を澄ましても、俺を追いかけているような声や、パニックによる悲鳴などは特に聞こえてこない。

 どうやら、なんとか撒けたらしい。


「あ、姐さぁん、まだ待つんですかぁ……?」


 と、不意にそんな声が、近くから聞こえた。

 聞こえた方角的には、ちょうど西の門のところだ。

 誰だ? 知らない声だが……。


「さっきも言ったでしょ? 朝日が昇り始めるまでは待ってて」


 と、先ほどとは別の声。

 ファニの声だ。

 ということは、もう一人の方は、大方彼女のパーティーメンバーか。


「どっちにしろ、彼がいないとこの仕事は成功しない。お願いだから、もう少しだけ我慢して」

「……そのレンって人、そんなに強いんですか?」

「心配?」

「だってはじく魔法しか使えない人なんて、とても戦力になるとは……あ、いえ、決して姐さんを疑ってるわけでは、ないんですが」


 ファニの声と一緒に、彼女のパーティーメンバーであろうもう一人が、話していた。

 聞いてみたところ、俺の加入に対して、あまり乗り気ではないらしい。


 まあ、無理もないか。はじく魔法なんて最弱魔法しか使えないやつが加入しますと言われたら、そりゃ渋い顔をするに決まってる。

 しかし、とはいえ、俺ももう取り返しのつかないところまで行ってしまった身だ。

 今更、踵を返すわけにもいかないだろう。


「まあ、大丈夫だと思うよ。それに多分、そろそろ――」

 

 ファニが話しているのを聞きながら、俺は彼女たちの元へと進んでいった。


「ファニ」


 と、俺はそこにいる二人に声をかけた。

 そう、西の門で待っていたのは二人。ファニと、もう一人は知らない女の子だった。


「!……レン、待ってたよ」


 俺が呼びかけると、ファニは嬉しそうな顔をこちらに向けて、そう言った。

 なんだか、あんな表情を向けられることなど今までなかったから、新鮮な気持ちだ。


「ロロン、彼がレンだよ」


 そう言って、ファニは隣にいる、パーティーメンバーであろう女の子に俺を紹介した。

 暗くてわかりにくいが、明るい桃色の髪をした、どこか気弱そうな子だった。


「ひぇ、お、男の人!? あ、うぅ……」


 ファニに紹介されるも、ロロンと呼ばれた子はそんな声を上げて、ファニの後ろに隠れてしまった。

 どうやら第一印象の通りの子みたいだ。


「あー……ごめんレン、この子、ちょっと人見知りでさ」


 と、どこかバツが悪そうにして、ファニは続けた。

 

「紹介するね、彼女はロロン・ベイビー。うちのパーティーでテイマーをしてもらってる子だよ」

「テイマーって言うと、動物や魔物を使役できる、あの?」

「そう、そのテイマー」


 ファニはそう言いながら、自分の後ろに隠れているロロンの頭を撫でる。


「え、えへへ……」

 

 ロロンは撫でられた途端、先ほどの怯え顔が嘘のように、緩みきった顔をした。

 ずいぶんと可愛がられているようだ。


 しかし、テイマーか。冒険者でもなかなかいない、結構な上級職業だったはず。

 ファニの上級魔法といい、かなり高レベルなパーティーのようだ。

 改めて、なんで俺が誘われたのかわからないくらいだ。


「にしても、ずいぶんと派手にやったみたいだね」


 と、急にファニが、そんなことを聞いてきた。


「え、何の話だ?」

「酒場に攻撃魔法をぶっ放した狂人が出たって、もう街中で噂だよ? あれ、レンでしょ?」

「……あー、いやごめん、何のことだか」

「私の魔法、忘れた? 『マッピング』と『トラッカー』」


 ……忘れていた。そういえばファニは、最上級の追跡スキルを持っていたんだった。

 俺がいつどこにいるかは、彼女にとっては手に取るようにわかるってわけだ。

 どうにも、ゾッとしない話だ。


「衛兵のあの様子じゃ、そうとう暴れたんじゃないの?」

「ご想像にお任せするよ……」

「ふぅん?」


 なんて、揶揄うように彼女は返事をする。

 ただ、バカにしてるのとはまた違う、妙にくすぐったい感じ。

 なんだか調子が狂う。


「じゃ、ここにいるのもなんだし、移動しようか。ロロン、お願い」

「か、かしこまりましたぁ! ご案内しまぁす!」


 ファニの言葉に、ロロンは嬉しそうに答えて小走りで駆けていった。


「近場に馬車を置いてあるんだ。まずはそこに行こう」

「わかった」


 俺はファニにそう言って、彼女と共にロロンの後についていった。

 

「ところで、今回の仕事の話だけど」


 俺は道すがら、ファニに今回の依頼の話を聞いてみることにした。


「ダンジョンに入って、そこにいるお目当ての魔物を倒すのが目的なんだっけ?」

「うん、まあ大まかに言うとね」

「それって、どこのダンジョンのなんていう魔物なんだ?」

「ダンジョンは『ジクシン洞窟』、そこにいる『ヒュドラ』を倒したいんだ」

「ヒ、ヒュドラぁ!?」


 ファニの言葉にそんな言葉を出したのは、前を歩いていたロロンだった。

 急に大声を出されたもんでびっくりしたが、彼女の顔を見るに、それ以上に驚いているようだった。


「ロロン、声が大きい」

「ま、待ってくださいよ姐さん! ヒュドラって言ったら、ギルドから接触禁止令が出されてるレベルのモンスターじゃないですかぁ! そんなの倒すの無理ですよぉ!」


 ロロンが涙声を震わせながら、そう捲し立てる。

 そういえばギルドでそんな張り紙があったっけか。どうせ縁のないものだと思ったからあんまり見てはいなかったが。


「大丈夫、倒せるよ。ね?」


 と、ファニはそう言って俺に目配せをしてきた。

 どこか妖艶なその感じに、妙にどぎまぎしてしまう。


「えぇ~、この人がですかぁ?」


 ファニとは異なり、ロロンは俺に対して、懐疑的な目を向けてきた。

 まあ彼女の反応は正しいだろう。知らないやつの実力を信じて命を預けろなんて、無茶な話だろうし。


「で、でも姐さん。ヒュドラって、ランクで言ったらAを超えて、Sランクに届きうるかもしれないって言われてるんですよぉ? きつすぎませんか?」

「あぁ、Sランク以下なら、多分なんとかなると思う」


 ロロンの言葉に、俺はそう答えた。

 なんだ、ずいぶんと大仰に話すもんだから、とんでもない次元で強いのかと思った。

 Sランクくらいなら、俺も『はじく魔法』の練習で、何回か一人で倒しに行ったこともあるし、大丈夫だろう。


「は、はい……?」


 ただ、俺が答えると、ロロンは何を言ってんだこいつという顔を、俺に向けてきた。

 え、あれ? 俺そんな変なこと言った? 不安そうだから大丈夫ですよアピールしようとしたんだけど……。


「大丈夫だよロロン、安心して」


 そんなことを考えていると、ファニは柔らかい声で言って、続けた。


「きっと、面白いものが見れると思うよ」


 そう言う彼女の顔は、まるでこれからイタズラをしに行く子供のような、そんな笑い顔だった。

 そんなこんなを話しているうちに、馬車が見えてきた。

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