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5 少女からの依頼

 俺はファニを連れて、再びいつものチャレンジをしている街道に戻った。

 昼間からしばらく経ったが、まだ人の影は見えないままだった。

 うん、これならスムーズに、ファニにはじき魔法を見せられそうだ。


「ここ? 見た感じ何もない廃墟の通りっぽいけど……」

「なにもないからいいんだ」


 俺がそう答えると、しかしファニはより疑問が強くなったような表情になった。


「普通は高レベルな魔法を試すときって、魔力切れ対策のために魔法石やエリクサーをたくさん置いた専用の施設で行うんじゃないの?」

「俺がそんな金持ってるように見えるかい?」


 確か魔法石とかエリクサーっていうのは、効率よく魔力を回復できる、魔法使い御用達のアイテムだったか。

 あれ回復量は凄いらしいけど、値段も結構お高いから、買ったことないんだよな。

 はじき魔法がほとんど魔力を消費しないし、そもそも俺は体に溜めれる魔力が少ないから、魔草巻吸えば十分なレベルってのもあるけど。


 専用の施設なんてものに関しては、本当にごく一部の最高ランク魔法使いが、ギルドから贈与されるような高級品だ。

 冒険者のランクが最後まで最低だった俺には、ついぞ縁のない代物だった。

 ていうか、そもそも追放されちゃったし。


「逆にお金ないってのが信じられない。あんな強力な魔法が使えるんだから、ギルドからたんまり貰ってるんじゃないの?」

「……さっきからずいぶん持ち上げてくれてるけど、チンピラ二人気絶させた程度じゃ、そこまで強いとは言えないんじゃ?」


 たんまり貰ってるどころか追放されました! 今日から文無しに加えて宿なしです! やったね!

 なんて情けないことを元気いっぱいに言えるはずもなく、俺は話を逸らすようにそう聞いた。


「何言ってんの。私に絡んだあの二人、フーリガン兄弟っていうんだけど、スラムじゃ実力者で有名な戦士なんだよ。二人とも多分、下手なAランク冒険者より強いはず」

「……Aランクって、確かドラゴンとかグリフォンとか、あの辺のやったら強い魔物を討伐できるやつ? それより強い?」

「うん、私もあいつらがノックダウンされるところなんて、初めて見たよ」


 いい気味、とファニは続けるが、俺の内心は穏やかではなかった。

 え、アイツらドラゴン殺せるの? 嘘だろ、俺ドラゴン殺すような連中に喧嘩売ったの? やばいって、絶対見つかったら殺されるって。

 夜逃げの準備しようかな、どうせもう家も仕事もないし。


「ど、どうしたの? 顔色悪いけど……」

「あ、いや、いいんだ……。じゃあちょっと、やってみせるね」


 ええいクソ、もうどうしようもない。どうせ俺の人生に価値なんざないんだ。最後にチンピラ共と戦って、ダメそうになったら頭を撃ちぬいて死んじまおう。

 半ば諦めの境地でそんなことを思いながら、俺は人生最後であろうチャレンジをするべく、手ごろな石を探す。

 

「うん、これとかいいな」


 すると簡単にそれは見つかって、良い感じに細長い石ころを、俺は手に取った。

 

「どう使うの、それ?」

「まあ、もうすぐわかるよ」


 俺の言葉に、ファニは何のことやらと首を傾げる。

 そのしぐさに、手品でも見せているみたいな気持ちになって、ちょっといい気分になってしまう自分がいた。


「ゴホン、では……そうだな、あの遠くにある石壁をご覧ください」


 俺はついつい芝居じみた言い方をして、遠くの石壁を指さす。

 距離にして200メートル前後か。その石壁の上に、ボロボロにサビた剣が突き刺さっている。

 絶好の的だ。


「ここから押し出し魔法で、あの剣を撃ち抜いてみようと思う」


 俺がそう言うと、ファニは遠くにある剣を目を凝らして確認する。

 それが終わるなり、酷く怪訝な目を俺に向けてきた。


「ねえ、だからその冗談面白くないって。この距離からあんな小さい的に当たるわけないじゃん。どんなに命中精度の高い最高ランクの精密狙撃魔法だって、この距離の半分以下でようやく期待できるくらいなのに」

「え、そうなんだ」

「……やっぱり冗談なわけ?」

「ち、ちょっと待って、まあ一旦見ててくれよ」

「ふぅん」


 ずいぶんと訝しんだ様子で、ファニはそんな生返事をした。

 ていうか、最高ランクの狙撃魔法って、この半分以下の距離じゃないと当たらないのか。

 まあ恐らく、役立たずのはじき魔法でできて最高ランクの魔法でできないってことはないだろうし、そんな遠くから狙う意味がないから、やらないだけだろうけど。


 なんてことを思いながら、俺は右手に石を込める。

 右腕を伸ばし、脇をしめる。

 この距離なら片手でも十分に当たるだろう。左手をポケットに入れる。

 狙いよし。魔力充填。発動。



 バンッ。



 そんな、乾いた破裂音が響いた。

 ほぼ同時に、ガキン、と遠くから金属が衝突したような、甲高い音が聞こえる。


 石壁に刺さっていた剣は、柄と刃の部分が見事に折れていた。

 よし、クリーンヒットだ。


「とまあ、あんな感じ」


 そう言って、俺はファニのほうを見る。


「う、うそ……!?」


 すると、彼女は信じられないものを見たように目を見開いていた。

 言葉を失っている、という表現が当てはまるかもしれない。


「ご、ごめん、ちょっとあっち見てきていい?」

「え? あぁ、もちろん」


 俺の返事を聞くなり、ファニは的である剣があった石壁へと歩いていった。

 なんとなく、俺もそれについてゆく。


 石壁に到達すると、ファニは石が当たって折れた剣をまじまじと見つめていた。

 その表情はまるで意味がわからないと言った様子だ。

 

「……剣に何の細工もしていない」

「えぇ、そこまで疑う?」


 ちょっとショックだった。まさかここまで信用されてないとは。

 いやまあ、あったばっかりだし信用もへったくれもないのはそうなんだけど。


「だ、だって普通あり得ないよ! あんな遠距離から詠唱も無しに、しかもこんなに高威力で高精度の魔法なんて、どんな最上級魔法でも聞いたことがない……」

「精度はともかくとして、そんなに高い威力にはしてないはずだけど……サビた鉄の剣を折っただけだし」

「何言ってんのさ。これよく見てよ」


 そう言って、彼女は折れた剣を俺に見せながら、続ける。


「これ、見た目はただの鉄の剣だけど、柄と刃の接合にオリハルコンが使われてる」

「オリ……なんだいそりゃ?」

「知らないの? 勇者の剣にも使われてる、世界一丈夫な伝説の金属だよ。災害級って呼ばれてるSランクの魔物にすら壊された記録がないっていう、最高級の武器素材ってとこ」

「……ちなみにそれ、すげえ高かったりする?」

「え? う、うん……この剣に使われてる量で、庭付きの豪邸が買えるくらいの値段らしいけど」


 ……え、やばくない? これ俺が壊したって持ち主にばれたら弁償させられるんじゃねえの?

 いやいやいや待て、こんなところにそんな高い武器放置してる方が悪いって。不可抗力だってこれ。

 うわどうしよう、夜逃げの理由がポンポン増えてくる。


「ど、どうしたの? なんか、妙に落ち込んでるけど」

「なんでもないよぉ……俺には一生かかっても払えなさそうだなって思ってさ」


 心配そうにそう聞いてくるファニに対して、俺は思わずそう答えた。

 

「……お金ないの?」


 と、ファニ。

 

「お金どころか職も寝床もないよ……今日ギルドを追放されたんだから」

「ギルドを?」


 ファニの驚いた声を聞いて、俺はようやく自分の言ってしまったことに気づいた。

 しまった、初対面の女の子に何を話してるんだ俺は。

 あぁ、かっこ悪いなもう……。


「本当に? ギルドの冒険者って、基本的に誰でも入れる、間口の広さが売りじゃないの? 追放されるなんて聞いたことないけど」

「それでも追放されたんだよ、無能すぎるからって……まあ、嫌われてたってのも大きいだろうけど……」

「……ねえ、もしよければさ、何があったか聞いていい?」

「情けない話だけど、実は――」


 それを皮切りに、俺はファニに自分の現状をついつい話してしまった。

 ギルドではいつも役立たず扱いで、村八分になっていたこと。前のパーティーでもずっと嫌われていて、杜撰な扱いを受けていたこと。そして今日、とうとうギルドから追放処分を受けて、今日帰る宿もないこと。

 

 言っていくうちに自分の現状を思い出し、ため息が出てくる。

 ホント、仕事どうしようかな……。

 

「ふぅん。職なし文無しで、しかもあんな強力な魔法が使える魔法使いか……」


 と、ふと気づくと、ファニはなにやら一人でぶつぶつと言っていた。

 なんだ? と思って耳をそばだてて聞いてると、極ごく小さい声で、彼女は一言。


 ――使えるかも。

 確かに、そう言っていた。


「ねぇ、レン」


 独り言が終わったかと思うと、ファニはどこか真剣な眼差しをして、俺の名を呼んだ。

 

「な、なんだい?」


 彼女のその圧力と言うか、迫力に気圧されて、ついついどもって答えてしまう。

 そんな俺を、ファニの切れ長な目がしっかりと捉えていた。


「ひとつ、お願い……いや、依頼があるの。当然、謝礼はしっかりと出す」

「依頼?」


 オウム返しにそう返事をすると、ファニは頷いて、口を開いた。


「私たちのパーティーに、力を貸して欲しい」


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