46 ストラトキャスター・シーサイド④
「来ます!」
ロロンの声と同時に、後ろからサンドワームが大量に押し寄せてきた。
数にして、一、二、三……すげえな、数えきれない。
これは一旦、距離を開けた方が得策だ。
「馬車の速度上げれるか!?」
「これ以上って、レンさん狙えるんですか!?」
ロロンのそんな問いに返事をする前に、サンドワームが近づいてきた。
動けないファニをめがけて、一直線に来ている。
自分のご主人様を探してることに気づいたのだろうか。勘の良い奴だ。
「させるかよ」
間髪入れずにホルスターから弾を取り出し、俺はワームめがけて撃った。
一、二、三、四……。
六匹目の頭をぶち抜いたところで、再装填。
七、八、九、十匹。
ぶち抜くたび、馬車が奴らの血に塗れ、砂と混じったそれが、口に入る。
あぁクソ、しんどいな。
「これが答えになるか!?」
「わ、わかりました! 振り落とされないでくださいよ!」
速度を上げても命中率に問題はないとわかってもらえたらしい。
ロロンは俺に行ったと同時に、馬車のスピードを爆発的に上げた。
だがその瞬間、測ったようにサンドワームが馬車の前に這い出てきた。
このままだと、激突する。
「レンさん!」
「わかった!」
すかさずロロンの肩から右手を突き出し、目の前のワームを狙う。
「少し耳痛むぞ」
ロロンにそう言って、すかさず、はじく魔法を発射した。
音なんて、ワーム共の出す轟音で聞こえやしない。
それでも衝撃が指に走る。
それが数回。
その瞬間、目の前が鮮血に染まった。
血まみれのその先には、荒野の景色。
「突っ込め!」
「う、うわぁぁ!」
ロロンは叫びながらも、しっかり馬車を加速させる。
馬車が、ワームに開いた穴に突っ込んだ。
肉を踏みしだくような不愉快な音と共に、顔にべちゃりと血が付着する。
それと共に、着地をしたような衝撃に襲われる。
目の前を見ると、先ほどいたワーム共はいない。
どうやら、無事に貫通できたようだ。
「う、うえぇ、気持ち悪い……」
「クソ……一張羅が台無しだ」
ロロンと一緒にそんな愚痴を呟きながら、後方に目を向ける。
……やっぱり、サンドワームの数は減っていない。
むしろ増えていないか、あれ?
「ロロン、まだいけるか?」
「あ、当たり前です! 姐さんを守れるんなら、疲労で死んだってかまいません!」
「そりゃ、頼もしいこって……」
ロロンにそう言いながらファニの方に目を向けてみると、そこには先ほどと変わらず、微動だにせず馬車の床に座っているファニがいた。
最上級の探索魔法って話だった。あの様子じゃまだ、時間がかかりそうだ。
ロロンはああ言ってはくれたが、彼女の様子を見るに、あまりその言葉を当てにはできそうになかった。
彼女の顔には、疲労の色が目に見えて浮き出ていたのだ。
これは言わずもがな、ロロンのスキルと魔法によるものだろう。
彼女はサンドワームから逃れるために、大量の魔力で自身の愛馬に強化付与を行っている。
この強化付与を行った愛馬は、とても馬とは思えない速度で走ることができるが、その速度の分、ロロンの魔力を消費することになる。
サンドワームの速度はかなり速く、またその数も多い。
その分ロロンが魔力を消費するペースは普段の比ではなく、となれば当然、あっという間に魔力切れを起こすことになる。
ロロンが魔力切れを起こした場合、俺が踏ん張って、彼女ら二人を守るしかない。
できるかできないかではなく、それをやるしかないのだ。
「は、はぁッ……まだまだ来ます! 行きま――」
と、ロロンが言いかけたその瞬間。
不意に、馬車の下から何か、音がした。
なんだ、今のお――
瞬間、衝撃。痛み。そして、上下の反転。
次の瞬間、目に広がったのは、空だった。
「……え?」
俺とロロンの声が、重なった。
浮遊感が、身体を襲った。
そして、次の瞬間。
自分たちの身体は、落下を始めた。
「うおぉ!?」
「そ、そんなぁ!」
俺とロロンは、ようやく状況を理解した。
下を――地面のほうを見ると、そこには横転して破壊された馬車と、巨大な口を開けた、サンドワーム。
あの野郎、かちあげやがったんだ。
馬車ごと、俺たちを。
「クソ野郎!」
俺はすぐさま、真下にいるサンドワームをはじく魔法で撃った。
弾はワームの口の中にクリーンヒットし、断末魔を上げて地に伏した。
ざまぁみろだ。
「あ、姐さん!」
ロロンが、そんな悲痛な叫びをあげた。
彼女が向いている方に目を向けると、俺のすぐ隣に、ファニが落っこちているのがわかった。
目を閉じて、微動だにしていない。
クソ、まだ魔法が終わっていないんだ。
「クッソ!」
俺は思わず、ファニを引き寄せて、抱きかかえた。
すかさず、俺を下側にして、地面に激突した時の衝撃が、少しでも衝撃が俺に回るようにする。
けれど……クソ、この高さじゃ、焼け石に水だ。
ダメだ、落ち――
「見つけた」
そんな声が、自分の胸の中から聞こえた。
何かと思って、声がしたほうを見てみる。
すると、そこには、目を開けて、こちらを見ているファニの姿があった。
見つけたって、つまり……。
「レン、ロロン」
すると、彼女は不敵に笑って、続けた。
「落下はなんとかできるから、今はこっちに集中して」
「なんとかって……いや、わかった」
俺は喉元まで出かかった疑問にふたをして、ファニの言葉に従うことにした。
彼女が何とかできると言っているのだ。どうせこのままだと死ぬだけなら、それを信じるしかないだろう。
「弾を込めて、レン。一発でいい」
彼女にそう言われ、すかさず俺は、ホルスターから一発、弾を右手に込めた。
「よし」
ファニはそれを確認すると、俺の手を掴んで、とある方向に伸ばした。
「あっちだ。最大出力で撃って」
「了解」
俺は、ファニの言葉に従って。
全部の魔力を使い切るつもりで、はじく魔法を、その方向に放った。




