45 ストラトキャスター・シーサイド③
「サンド、ワーム……?」
ファニから聞こえてきたその名前を、俺は思わず、オウム返しにそう聞き返した。
状況から見た限り、この魔物――で合ってるよな?――の名前だろうけど。
「……普段は地中に生息している、Aランクの魔物だよ」
俺の疑問を察したらしく、
「Aランク!? そりゃまたずいぶんと……」
「けど、いくらナワガカ荒野が魔物の巣窟だって言っても、こいつがいるのはあり得ないはず。一体……」
「ということは――」
「は、話してる場合じゃないですって! 来ます来ます!」
すると、ロロンが割って入って、そう叫んできた。
彼女の言葉とほぼ同時に、俺たちを囲った巨大ミミズ――サンドワームが一斉に、馬車へと襲い掛かってくる。
図体のわりに、ずいぶんと素早い。
ヒュドラといい魔王といい、最近はヘビみたいなやつを相手にしてばっかりだ。
まずい、このままじゃ――
「レン!」
ファニの言葉に、けれど俺は何も返さない。
その代わりとでも言うように、身体が無意識に動き始めていた。
右手をホルスターに。
弾を込める。
数は三匹。三発。
右手を伸ばす。
発射、衝撃。
コンマ一秒の後、サンドワームの頭が爆ぜた。
一瞬後にもう一匹、二匹。
血の雨が降った。
「う、うわすげぇ……」
俺は思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
以前よりも威力が格段に上がっているのだ。
メルシーの作った弾が精巧だからか、はじく魔力の運動エネルギーを伝えやすくなっているのかもしれない。
つくづく、すごいものを作ってくれたらしいな、彼女は。
「感激してる場合じゃないですって! 次来ますよ次!」
「うぉ!?」
し、しまった、呆けていた。
目の前を見れば、追加のサンドワームが襲ってきている。
クソ、なんとか間に合わせ――
「『レイザー』!」
すると、唐突にそんな声が聞こえた。
その瞬間、一閃というにふさわしい閃光が、サンドワームに触れる。
何かと思った、次の瞬間。
「ギッ……!?」
サンドワーム共がそんな鳴き声を上げ、身体の上半分が真っ二つに裂けた。
それはまさに、切れ味のいい剣で切り裂かれたかのようで、綺麗とすら言える。
「な、なんだ、なにが……」
あっけに取られていると、俺のすぐそばに、何かが降り立った。
何事かと思って、そちらを見てみる。
「ふぅ……」
「ファニ……?」
するとそこには、ファニがいた。
何か、細身の美麗な剣らしきものを携えていて、服には僅かに血が付着している。
「ひょっとして今の、ファニが……?」
「馬車を早く出して! ここから離脱する!」
俺の言葉を遮って、彼女はロロンに檄を飛ばした。
「は、はいぃ!」
ロロンが返事をした瞬間、馬車は猛スピードでその場から走り出した。
「レンはサンドワームに注意! 外を見張って!」
「り、了解!」
ファニにそう叫ばれ、俺は大急ぎで外の様子を見た。
「……まずい、キャラバンが」
キャラバンの方向を見たとき、思わず俺は、そんな言葉が出てきてしまった。
それはなぜか? その答えは明白だ。
サンドワームが、キャラバンの周りに無数に出現していたのだ。
その有様はまるで、昔本か何かで見た、イソギンチャクという生き物に似ている。
実に悍ましい光景だった。
「ファニ! キャラバンのところ!」
「クソ……! ロロン! 撤退の合図を!」
ファニは心底悔しそうな顔をして、ロロンに号令を出す。
ロロンは間髪入れず、大慌てで鏡の取り出し撤退の合図をした。
「迂闊だった……まさか、サンドワームを従えてるだなんて……!」
ファニはまるで、苦虫を噛み潰したような表情だった。
無理もないだろう。今のところ俺たちは、見事なまでに敵の術中にはまったと言っていい。
このままじゃジリ貧だ。
撤退の指示を出したとはいえ、あんな化け物相手に、オゾブさんたちもどこまで逃げられるかわからない。
このままじゃ最悪、全滅も……。
「……レン、ロロン。お願いがある」
すると、ファニはなにやら、思い詰めたような顔でそう言った。
「な、なんでしょうか? と、特攻ですか? 姐さんの頼みなら、私は喜んで――」
「時間を稼いでほしい」
ロロンが何やら物騒なことを言っているところに、ファニはそう被せた。
「時間って、どういうことだ?」
「最上級の探索魔法を使う。それでなんとか、サンドワームを操ってる盗賊の頭を見つけられるはず」
「さ、最上級探索魔法って、そんなもん使えるのか!?」
「うん、だけど、これを使うと、私は一切動けなくなる」
俺はファニにそこまで言われて、ようやく彼女が何を言わんとしているのか、わかった気がした。
彼女が身動きを取れない間、魔法を使う時間を稼がなければいけない。
それはつまり――
「全力で、私を守って。できる?」
そんな言葉を出すファニの顔は、しかし有無を言わさないものがあった。
できないなんて言うことは、絶対に認めない――彼女の表情は、言外にそれを伝えてきていた。
「わ、わかりました! 姐さんは、命に代えても絶対に守ります!」
ロロンはそう言って、フンと鼻息を鳴らす。
さすがにファニの忠犬だ。彼女だったら、本当に自分を代償にしてでもファニを守るだろうことが、容易に想像できた。
「……レンは?」
ファニは俺にそう聞く。
彼女のその顔はなぜか、不安そうに見えた。
断られるとでも、思っているのだろうか。
「……ボスはアンタだ。俺は命令に従うだけだよ」
俺はそれだけ言った。実際、それだけで十分だと思った。
絶対に守ってやるなんて、無責任なことは言えない。
ただやるなら、ロロンと同じく、命懸けでだ。
それ以外の選択肢など、あるはずもない。
「……ありがとう」
そう言って、ファニは馬車の床に伏せ、詠唱を始めた。
さて、後ろには大量のサンドワーム。
対してこちらの戦力は、馬車と射手ひとりのみ。
ファニが盗賊の頭を見つける前に馬車が破壊されたら、その時点でゲームセット、敗北となる。
楽しい鬼ごっこのスタートだ。




