表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/47

45 ストラトキャスター・シーサイド③

「サンド、ワーム……?」


 ファニから聞こえてきたその名前を、俺は思わず、オウム返しにそう聞き返した。

 状況から見た限り、この魔物――で合ってるよな?――の名前だろうけど。


「……普段は地中に生息している、Aランクの魔物だよ」


 俺の疑問を察したらしく、

 

「Aランク!? そりゃまたずいぶんと……」

「けど、いくらナワガカ荒野が魔物の巣窟だって言っても、こいつがいるのはあり得ないはず。一体……」

「ということは――」

「は、話してる場合じゃないですって! 来ます来ます!」


 すると、ロロンが割って入って、そう叫んできた。

 彼女の言葉とほぼ同時に、俺たちを囲った巨大ミミズ――サンドワームが一斉に、馬車へと襲い掛かってくる。

 図体のわりに、ずいぶんと素早い。

 ヒュドラといい魔王といい、最近はヘビみたいなやつを相手にしてばっかりだ。

 まずい、このままじゃ――


「レン!」


 ファニの言葉に、けれど俺は何も返さない。

 その代わりとでも言うように、身体が無意識に動き始めていた。


 右手をホルスターに。

 弾を込める。

 数は三匹。三発。

 右手を伸ばす。


 発射、衝撃。


 コンマ一秒の後、サンドワームの頭が爆ぜた(・・・)

 一瞬後にもう一匹、二匹。

 血の雨が降った。


「う、うわすげぇ……」


 俺は思わず、そんな言葉が漏れてしまう。

 以前よりも威力が格段に上がっているのだ。

 メルシーの作った弾が精巧だからか、はじく魔力の運動エネルギーを伝えやすくなっているのかもしれない。

 つくづく、すごいものを作ってくれたらしいな、彼女は。


「感激してる場合じゃないですって! 次来ますよ次!」

「うぉ!?」


 し、しまった、呆けていた。

 目の前を見れば、追加のサンドワームが襲ってきている。

 クソ、なんとか間に合わせ――


「『レイザー』!」


 すると、唐突にそんな声が聞こえた。

 その瞬間、一閃というにふさわしい閃光が、サンドワームに触れる。

 何かと思った、次の瞬間。


「ギッ……!?」


 サンドワーム共がそんな鳴き声を上げ、身体の上半分が真っ二つに裂けた(・・・・・・・・)

 それはまさに、切れ味のいい剣で切り裂かれたかのようで、綺麗とすら言える。


「な、なんだ、なにが……」


 あっけに取られていると、俺のすぐそばに、何かが降り立った。

 何事かと思って、そちらを見てみる。


「ふぅ……」

「ファニ……?」


 するとそこには、ファニがいた。

 何か、細身の美麗な剣らしきものを携えていて、服には僅かに血が付着している。


「ひょっとして今の、ファニが……?」

「馬車を早く出して! ここから離脱する!」


 俺の言葉を遮って、彼女はロロンに檄を飛ばした。


「は、はいぃ!」


 ロロンが返事をした瞬間、馬車は猛スピードでその場から走り出した。


「レンはサンドワームに注意! 外を見張って!」

「り、了解!」


 ファニにそう叫ばれ、俺は大急ぎで外の様子を見た。


「……まずい、キャラバンが」


 キャラバンの方向を見たとき、思わず俺は、そんな言葉が出てきてしまった。

 それはなぜか? その答えは明白だ。


 サンドワームが、キャラバンの周りに無数に出現していたのだ。

 その有様はまるで、昔本か何かで見た、イソギンチャクという生き物に似ている。

 実に悍ましい光景だった。

 

「ファニ! キャラバンのところ!」

「クソ……! ロロン! 撤退の合図を!」


 ファニは心底悔しそうな顔をして、ロロンに号令を出す。

 ロロンは間髪入れず、大慌てで鏡の取り出し撤退の合図をした。


「迂闊だった……まさか、サンドワームを従えてるだなんて……!」


 ファニはまるで、苦虫を噛み潰したような表情だった。

 無理もないだろう。今のところ俺たちは、見事なまでに敵の術中にはまったと言っていい。


 このままじゃジリ貧だ。

 撤退の指示を出したとはいえ、あんな化け物相手に、オゾブさんたちもどこまで逃げられるかわからない。

 このままじゃ最悪、全滅も……。


「……レン、ロロン。お願いがある」


 すると、ファニはなにやら、思い詰めたような顔でそう言った。


「な、なんでしょうか? と、特攻ですか? 姐さんの頼みなら、私は喜んで――」

「時間を稼いでほしい」


 ロロンが何やら物騒なことを言っているところに、ファニはそう被せた。


「時間って、どういうことだ?」

「最上級の探索魔法を使う。それでなんとか、サンドワームを操ってる盗賊の頭を見つけられるはず」

「さ、最上級探索魔法って、そんなもん使えるのか!?」

「うん、だけど、これを使うと、私は一切動けなくなる」


 俺はファニにそこまで言われて、ようやく彼女が何を言わんとしているのか、わかった気がした。

 彼女が身動きを取れない間、魔法を使う時間を稼がなければいけない。

 それはつまり――


「全力で、私を守って。できる?」


 そんな言葉を出すファニの顔は、しかし有無を言わさないものがあった。

 できないなんて言うことは、絶対に認めない――彼女の表情は、言外にそれを伝えてきていた。


「わ、わかりました! 姐さんは、命に代えても絶対に守ります!」


 ロロンはそう言って、フンと鼻息を鳴らす。

 さすがにファニの忠犬だ。彼女だったら、本当に自分を代償にしてでもファニを守るだろうことが、容易に想像できた。


「……レンは?」


 ファニは俺にそう聞く。

 彼女のその顔はなぜか、不安そうに見えた。

 断られるとでも、思っているのだろうか。


「……ボスはアンタだ。俺は命令(オーダー)に従うだけだよ」


 俺はそれだけ言った。実際、それだけで十分だと思った。

 絶対に守ってやるなんて、無責任なことは言えない。

 ただやるなら、ロロンと同じく、命懸けでだ。

 それ以外の選択肢など、あるはずもない。


「……ありがとう」


 そう言って、ファニは馬車の床に伏せ、詠唱を始めた。


 さて、後ろには大量のサンドワーム。

 対してこちらの戦力は、馬車と射手ひとりのみ。

 ファニが盗賊の頭を見つける前に馬車が破壊されたら、その時点でゲームセット、敗北となる。


 楽しい鬼ごっこのスタートだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ