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43 ストラトキャスター・シーサイド①

 装備を整え、野営地を出発してから、しばらく経った頃。 

 荒野の中を走る馬車に、どのくらい揺られた頃だろうか。

 ふと、海の潮風の匂いが、鼻腔をくすぐった。


「レン」


 向かいに座っているファニが、俺を呼ぶ。

 その目は暗に、もうすぐ着くから準備しろ、と言っているように見えた。


「あぁ」


 俺はそれだけ言って、外を見た。

 するとそこには、まさに雄大と言っていい景色が広がっていた。


 ロロンの馬車が走っている場所が、やや高台に位置しているせいもあるだろう。

 目の前に広がるそれは、うら寂しさすら覚えるほどの平たんな荒野と、奥に見える水平線。

 まるで昔小説で読んだような、別の星のような景色だった。


「ず、ずいぶんと静かですね……生き物なんて、何もいないみたい……」

「私も事前に情報がなかったら、ロロンと同じことを思ってたかもね」


 率直な感想を述べるロロンに対し、ファニは同調するようにそう返した。

 正直なところ、俺も彼女達と同じことを思っていた。

 

 人どころか魔物一匹も生きられないような、広大で静かな荒野。

 こんなところが、本当に後数刻も経たないうちに、轟音飛び交う戦場になるのだろうか。

 そんな疑問を感じてしまうほど、その場所は静寂に支配されていた。


「けれど事実として、あと数分でキャラバンが来て、ここは戦場になる」


 すると、まるで俺の考えを読み取ったかのように、ファニはそう言った。

 いや、実際には、ロロンに行ったさっきのセリフの、続きを言っただけだろうが。


「私たちの役割は、ここで全体を見渡して、一秒でも早く盗賊の頭目を見つけて、やっつけること」


 そう、ファニの言う通り、ロロンが高台で馬車を走らせていたのは、そういう意味がある。

 今回の戦いのカギとしては、やはり一にも二にも、無数の魔物を操る頭目を無力化することにある。


 そのために、俺たちは他のメンバーとは別に、見晴らしの良いこの高台で、頭目を探し出す必要があるのだ。

 他のメンバーがキャラバンの周辺で戦っている間に、索敵や追跡の魔法、スキルに秀でたファニが探し当て、ロロンがそれに合わせて素早く馬車を移動させ、そして俺が、はじく魔法で頭目を仕留める。

 シンプルだが、他に有効な策もないだろう。

 とりわけ、罠のひとつも仕掛けられないような、こんな広大な荒野では。


「レン、準備はできてる?」

「あぁ、おかげさまでな」


 正直、まだ緊張はある。

 俺みたいな底辺が、こんな仕事を完遂できるのかという不安もある。


 だが、それをわざわざ言ってファニを不安にさせる必要はどこにもない。

 だから俺は、少し見栄を張って、メルシーから貰ったベルトを叩いて言った。


「……そのベルトは?」


 と、ファニはベルトのことが気になったみたいで、いぶかしむような目でそう聞いてきた。


「メルシーが作ってくれたんだ。本当、ありがたいよ」

「……ふぅん、良かったね?」

「あぁ、本当にすごいんだぜ、これ。はじく魔法用の弾も一緒に作ってくれてさ、あの子には感謝してもしきれないよ」

「……少し心を許しすぎじゃない? 一度はレンを裏切った相手なんだから、気を付けてよ」


 ファニは何だか、いきなり不機嫌になったような顔で、そんなことを言った。

 やっぱりまだ、彼女にとってメルシーは信用ならない人物なのかもしれない。


 まぁ、当然と言えば当然か。

 一度裏切ったやつは何度でも裏切るなんてのは、よく言われる話だ。

 組織をまとめ上げる立場のファニが慎重になるのは、むしろ当然の対応だろう。

 

「安心しなよ、少なくとも爆発魔法なんて仕掛けられてないさ」

「そういうことを言ってんじゃなくてさ……」

「うん? ……まぁ、メルシーのことなら、今のところは大丈夫だろう。俺たちを裏切っても、彼女にメリットなんかないはずだし」


 俺はなるべくファニを安心させるように、そう言った。

 とはいえ、これは事実だろう。

 

 仮に今メルシーが裏切って、俺たちに牙をむいたとして、なんの得があるというのか。

 そんなことをしても荒野に一人取り残されるか、盗賊連中の慰み者にされるのが精々だ。

 そんな状態で、彼女が裏切る道理などないはずだ。

 であれば、今それを考える必要はないだろう。


 ……と、思ってそう言ったのだが、どうやらファニは納得していないようだった。

 どこか呆れたように「はぁ……」とため息を吐かれてしまった。


「な、なに……?」

「いや……レンが変な女に目をつけられやすい理由が、少しわかったような気がする」

「え?」

「れ、レンさん――」


 どういうことだろうか? と思っていると、今度はロロンが話しかけてきた。


「お、女遊びするなら、せめて普通の子でお願いします。ゆ、勇者とか魔王様みたいなのにこれ以上来られたら、命がいくつあっても足りないので……」

「人聞きが悪すぎないか?」


 俺ロロンの中でそんなヤバい男になっていたの?

 酷い風評被害だ。こちとら女遊びどころから未だに童――失礼、未だに恋愛観家になった女性もいないというのに。


「ち、ちょっと待てよ、俺はそんなこと――」

「……待って」


 納得いかないと思って反論しようとすると、ファニが遠くを見て、そう言った。

 何かと思って俺もその方向を見る。

 ……理由がわかった。なるほど、楽しい雑談は終わりってわけだ。


「お待ちかねだよ。準備して」

「了解」

「り、了解!」


 ファニに言われ、俺とロロンはただそう返事をした。

 ロロンは馬車の速度を速め、待ち伏せをするためのポイントに移動する。


 何を待ち伏せするのか。

 それは今更言うまでもない。


 先ほど遠くに見えた、大量の土煙と、轟音。

 その中で走っている、酷く大規模なキャラバン。

 『餌』は出てきた。あとは、『獲物』が引っ掛かるのを待つのみだ。

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