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39 作戦会議

 翌日。

 東から強烈な陽の光が差し込んできて、荒野が赤く染まっていた。

 酒溜まりの鼠(レザボア・ラット)の野営地でもちらほら起きて、活動し始めているのが目についた。

 そんな中。俺はといえば。

 

「眠い……」


 非常に眠たかった。理由はわかっている。

 昨日はファニにメルシーのことを根掘り葉掘り聞かれたために、寝るのがずいぶんと遅くなってしまったからだ。


 特に俺とメルシーの関係性については、それこそ衛兵が尋問する如く執拗な質問攻めをしてきた。

 なんでそんなことが、そこまで気になるのかはわからなかったが、聞いたらヤブヘビであろうことは間違いなかったので、俺は素直に彼女に答えるに徹したわけだ。


 おかげさまで、こちとらずいぶんと寝不足である。

 目に隈ができてるんじゃないか、というくらいだ。


「ふぁ……とりあえず、共用テントに行くか」


 欠伸をしながら、けれど眠気で重い身体を無理やり動かすために、自分に言い聞かせる。

 朝には、作戦に参加する全員が共用テントに集まるというのが、日課となっている。

 主に現状の情報共有と、今日ターゲットにする盗賊の情報について、全員で最終確認を行うためだ。

 いわば、作戦開始前のブリーフィングに当たる時間だろう。


 俺は重いまぶたをこすりながら、すれ違う人たちへの挨拶もほどほどに、共用テントへと向かった。

 当然の如く共用テントは同じ野営地なので、到着に時間がかかる道理もない。

 歩いて十数秒もすれば目的地にたどり着いて、俺はそこに入った。


「お、来たか」


 テントの中に入ると、そんな声が聞こえた。

 モニカさんが簡素な椅子にふんぞり返って、俺を見ているのがわかった。

 見ると、ファニとロロンも既に来ていた。


「おぁようございます……」

「なんだなんだ、気のねぇ挨拶しやがって、寝不足か? ファニと言い、昨日は珍しい奴らも夜更かししてたもんだな」


 モニカさんのそんな言葉を聞いて、俺は思わずファニのほうを見た。


「……ん、ごめん。昨日は柄にもなく、はしゃいじゃって」

「へぇ、昨日は夜遅くまで、レンと二人(・・・・・)でかぁ?」


 と、揶揄うように宣うモニカさんに、ファニは言葉を詰まらせていた。

 彼女の言わんとすることがなんとなくわかってしまい、なんだか俺まで居心地の悪い気分になってくる。

 いや、別に、これと言ってやましいことは何もしてないんだから、堂々としてればいいはずなんだが。


「……レンさん、姐さんに何か不埒なことしてませんよね?」

「してないよ。してないからそんな、呪い殺せそうな眼で見ないでくれ、ロロン」


 ロロンもモニカさんの言葉に乗せられてか、俺のことを光のない目でじっと見つめてきた。

 すんごい怖い。何だったら昨日の大男よりも圧があるかもしれない、と思えるほどだ。


「すいませんボス! 遅れました!」

「いやぁ、昨日飲みすぎちまって」

 

 すると、そんな声と共に、複数人が入ってきた。

 最初に入ってきた人は、知ってる人だった。オゾブさんだ。

 それ以外の人は知らないが、昨日、彼と一緒に肩を組んで飲んでいた人たちだ。


「ん、ごほん……じゃあ全員揃ったことだし、始めようか」


 と、先ほどまで言葉を詰まらせていたファニが、よどみなく言った。

 まさに『助かった』とでも言うような、切り替えの早さだった。

 モニカさんが「チッ」と舌打ちをしていたのが、その予想をより強固なものにした。


 とはいえ、俺も助かった。

 これでロロンの糾弾から逃れることができる。


「……後で聞かせてくださいね。詳しく」


 と、ロロンは耳元で、底冷えするような声で囁いてきた。

 何なんだよもう、ファニと言いロロンと言い……俺を追い詰める趣味でもあんのか、この子たちは。


「さて……じゃあ次のターゲットについて。今回は特に重要だよ」


 そう言って、ファニはテーブルにある地図を広げた。

 さっきの寝不足顔から、パッとボスの顔に切り替えるのだから、大したもんである。


「今回の襲撃予想地点はこの場所。昨日とは規模が違う、キャラバンのメインルートだ」


 ファニが指さしたその地点は、昨日よりもずっと海岸に近く、非常に開けた場所であった。

 地図にかかれた補足情報を見てみると、キャラバンの規模も昨日とはけた違いだ。

 

 それこそ、昨日は二、三台程度しかなかったのに、メインルートを通る大型馬車は、実に数十台。

 まさしく大型馬車群(キャラバン)の名にふさわしい量と言えるだろう。


「そして、もちろんここを襲撃する盗賊の数も、昨日の比じゃない」

「当然だろうな。荷物が多い分、運ぶ人足も相応に要るだろうし」


 ファニの言葉を、モニカさんがそう同意する。


「そうだね、もっとも――」


 するとファニは、地図を見たまま、けれど厄介事を睨むように目を細めて、続けた。


「あるのは『人』だけじゃないけれど」

「どういう意味だ?」

「これを」


 ファニはモニカさんに返事をしながら、何か紙切れを出した。

 それは清書されていない走り書きの文字でびっしりと埋まっているようだった。


「これは……?」

「昨日生かして捕らえた盗賊の一人から、優しく聞いた(・・・・・・)情報をまとめたもの」


 俺の声に、ファニはそう答えてくれた。


「……ちなみにどう聞いたかは、聞かないほうがいい?」

「それは私じゃなくって、ロロンに聞いてよ」


 ロロン? と思いながら、俺は彼女のほうを見てみる。


「え、えへへ……結構、お優しい方でしたので、すぐに答えてくれました。た、多分、まだ(・・)死んでないと思います」


 ……聞かないでおこう。

 思い出したようにふにゃふにゃと笑うロロンを見て、強くそう思った。


「……なんだと?」


 すると、紙切れを見ていたらしいモニカさんが、そんな声を上げた。

 他の人たちも紙切れを見て、ざわざわとどよめいている。


「そう、ここに書いてある通り、盗賊団は魔物を操って行動できるらしい」

「魔物を?」

「うん、それも何百匹って規模でね」

 

 ……みんながどよめいている理由がわかった。

 そりゃ確かに、厄介なことこの上ない。


「ストラトキャスターのクソ野郎。なんでこんな大事なこと、黙ってやがった」

「大方、本気で討伐できるとは思ってないからだろうね」


 モニカさんの悪態に、ファニはそれだけ答える。

 まぁ、それしか答えようがない、というのもあるだろうが。


「どうすんだ? 何百匹もの魔物なんて、さすがにこの人数じゃ持て余すぜ?」


 モニカさんのその疑問は、実にもっともだった。

 最初に盗賊の規模はある程度割れていたから、それを踏まえてのこの人数と人選だったはずだ。


 しかしそこに新たに、大量の魔物が加わってくるという。

 確かに、持て余すどころの騒ぎじゃない。


「……別に、全部を相手にする必要はない」


 しかし、そんな俺たちの不安とは裏腹に、ファニは笑ってそう言った。

 どういうことかと思っていると、彼女はおもむろに顔を上げ、俺を見た。


「聞いたところによると、この大量の魔物は、盗賊の『頭目』一人によって操られているらしい。相当優秀なモンスターテイマーだね」

「……なるほど、逆にいやあ、そいつ一人を闇討ちできりゃあ、後はどうとでも料理できるってわけだ」


 モニカさんはファニの意図に気づいたらしく、笑ってファニの意見に納得した。

 ただ、まだ疑問はある。

 

「でもそんな奴、絶対に前線に出てこないだろ? どうやってそいつを倒すんだ?」


 そう、そんな何百匹も魔物を操れるモンスターテイマーならば、自分は絶対に魔物と盗賊の陰に隠れて守らせるはずだ。

 そもそもどうやって、その頭目のところまで行くというのか?


「……何言ってんのさ、盗賊も魔物の群れも、全部無視して撃ちぬけばいい。それができる人間が、ここにはいる」

「え?」


 俺は思わずそんな声を出した。

 すると、ファニは笑って俺を見て、指をさす。


大物喰らいジャイアント・キリングは任せたよ、名射手(スリンガー)

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