34 襲撃と再会◆
「クソ、なんだ! 何が起きた!?」
盗賊の大男は血だらけになった腕を抑えながらも、仲間たちに叫んだ。
そして、それが合図になったかのように、甲高い衝撃音が、幾度となく響く。
硬い何かが風を切り裂くような音が鳴るたびに、他の盗賊たちも叫び出す。
「痛ッテェ! なんだ!?」
「矢でも飛んできてんのか!?」
「んなわけあるか! どこに矢が刺さってるってんだよ!」
盗賊たちは腕や足から血を流し、パニックになっていた。
ただごとではない。そう感じ取った大男は、とっさに攻撃されたであろう方向に、メルシーを盾にするようにして立たせた。
「ひっ……!」
「動いたら喉元掻き切るらかな……おいお前!」
メルシーが逃げないよう首にナイフを突き立ててから、大男は叫ぶように扉の横に立っていた兵士を呼んだ。
しかしながら兵士もまた、まるで予想だにしていなかったというように、外のほうを見て慌てていた。
「クッソ、あの話本当だったのかよ! 領主の野郎、どうせ何もできないっつってた癖に……!」
「んだと……? お前何か知ってんのか!?」
「い、いや、盗賊団用の討伐隊を雇ったって領主からお達しがあったんだ。でも、あんまり気にしなくていいって……」
しどろもどろになりながらそんなことを言う兵士を無視して、大男は考える。
――俺たちに向けて討伐隊が結成されることは、特段おかしなことじゃない。
まだあのアホ領主が俺たちの退治を諦めてなかった頃は、散々騎士団やら兵隊やらが来て、『お頭』と一緒に返り討ちにしたもんだ。
決闘を挑んできた女騎士を返り討ちにして、犯してやったのがもはや懐かしい。
だが、討伐隊が無駄だとわかってからは、キャラバンの荷物を一部俺たちに寄越すっていう、今の形式に落ち着いたはずだ。
それがなぜ、今更。それにこの、得体のしれない魔法……。
まさか、王国が出張ってきやがったのか?
いや、それはない。こんな何もない僻地にこもっている俺たちを掃除したところで、連中に旨みなんぞないはずだ。
連中は腐ってる。自分たちの利益にならんことは絶対にしないはずだ。
しかし、じゃあ一体誰が――
「おいローグ! あれ見ろ!」
不意に、大男は他の盗賊仲間から自分の名前を叫ばれ、思考を中断した。
何事かと思い仲間のほうを見てみると、何やら狼狽えた様子で、キャラバンの外を指さしている。
何事かと思い、大男は焦りながらもそちらに目を向ける。
「……なんだありゃぁ」
大男は目を疑った。
先ほどの正体不明の攻撃と同じ方向から、馬に乗った集団が、猛スピードでこちらに向かってきているのだ。
数にして、十人か二十人ほど。
それが、こちらに突っ込んで――
「し、死んでください!」
と、集団の一番前にいる少女が、そう叫んだかと思いきや、勢いよく馬ごとキャラバンに乗り込んできた。
「グアァッ!?」
ついでに、そこにいた盗賊の一人を踏みしだいて。
「おいロロン! あんまり無茶すんじゃねえぞ!」
「だ、大丈夫です! 私の愛馬は強いですから!」
「そういう問題じゃなくねえか?」
「お、オゾブさんたちも、どうぞご無事で!」
ロロンと呼ばれた少女がそう言うと、オゾブと呼ばれた男は親指を立てて、キャラバンの前の方へと馬を走らせていった。
確かそこには、外で待機している盗賊仲間たちがいたはずだと、大男は思い至った。
なぜ外の仲間たちにも気づかれず、彼らはここまで接近してこれたのか。
それはわからないが、それでも大男は、あることを直感で感じ取っていた。
こいつらこそが、あの兵士の言っていた討伐隊。
さっきの謎の攻撃をしてきた奴の、仲間だと。
「……面白れぇ、喜べテメェら! ぶん奪れるもんが増えたぞ! 返り討ちにしろッ!」
すると大男は、外まで聞こえるような大声で叫んだ。
一瞬の静寂。
しかしそれが過ぎると、他の盗賊たちも鼓舞されたかのように、一斉に雄叫びを上げた。
そして、戦いの火ぶたが切って落とされた。
いたるところから発生する叫び声、剣の衝突音、魔法の発射音。
外からの激しい戦いの喧騒が聞こえる中。
キャラバンの中は打って変わって静かだった。
そこには、馬に乗ったロロンが一人と、それを固唾をのみこんで囲む、幾多の盗賊たち。
そして、怯えながらただ成り行きを見守ることしかできない、少女達のみだった。
「……で? 俺たちはお前が相手してくれんのか? 綺麗なお馬さんに乗ったお嬢さんよ」
挑発するように、大男はロロンに聞く。
その際も彼はメルシーを離すことなく、万一不意打ちされたときのための『肉盾』代わりとして、自身の前へと立たせていた。
「た、助けて、お願い……!」
「……そ、その人を離して、服を着せて、帰ってください。なんて言っても、やってくれるわけないですよね」
メルシーの助けを聞きながらも、ロロンは大男にそれだけ言って、続ける。
「わ、私がやると、女の人たちも巻き込みかねないとのことで、できません」
「そりゃおっかねえことだな。じゃあなんだ、お前も一緒に『お楽しみ』するか?」
そう言いながら、大男はメルシーの露になった胸を揉みしだく。
「ひッ……う、うぅ……」
メルシーの顔が不快感と恐怖で満たされ、大粒の涙をボロボロと零しだした。
「……た、多分挑発ですよね、それ? だ、大丈夫ですよ、そんなことしなくても」
「あぁ? どういう意味だ?」
「だ、だって多分、すぐ終わりますから」
などと言って、自身の後ろ、ぶち破った入り口の方に目を向ける。
なんだ? と大男は思いながら、そちらを目で追った。
すると、そこからゆっくりと、一人の男が入ってきたのが見えた。
まだ年の若い、けれどどこか気怠い感じの、頼りなさげな見た目の男。
その男を見て、メルシーは目を見開いた。
それは、知っている顔だったから。
ここにいるはずのない、けれど思わず助けを求めてしまった、彼だったから。
「……れ、レン?」
「あぁー……えーとメルシー、そう、目に良い恰好してんね? ……あれ、ごめん、違う?」
どこか、こんな状況とは不釣り合いな、酷くどもった、下手くそすぎる言葉選びで、メルシーに返事をした。
かくしてレン・ユーリンは、盗賊たちと対峙したのだった。




