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ーードカァアアア!!
「……」
放課後、図書室で勉強していたところ突然の衝撃音と砂埃が外から上がった。
チラリと窓を見てみれば、遠くで火花が散っている。
「はぁ」
薄々予想してたけど、どうやら何人かメインキャラクターが学園内にいるらしい。おそらく二人分の戦闘が向こうで繰り広げられている。この学園は広いから、戦えてしまうのだろう。
私の視力は良いのでここからでも多少見える。この距離なら被害に遭うことはない。しかし同時に聴覚も良過ぎるので、戦闘音がうるさい。普通の人には聞こえないんだろうけど鬱陶しいぞ。
ーーシャッ
「これでよし」
開いていた窓を閉じて鍵を掛ける。ついでにカーテンも閉める。金持ち学校の図書室にある設備は遮光性、遮音性共に抜群だ。これなら雑音は聞こえないし、視界の隅でチカチカしないから勉強に集中出来るだろう。
冷たい? いや君子危うきに近寄らずだよ。死にはしない世界なんだから勝手にバトっててくれ。私は仲裁とかは一切しないぞ。
「……」
多分、平和ボケしてたんだと思う。その一連の動作をたまたま図書室に来ていた会長が見ていた事に私は気付かなかった。
「あれ、佐々木さんその傷どうしたの?」
あれから一週間、佐々木さんはあの日の続きを話す事は無かった。でも話しかけてはくるので、私も特に何も聞かず今まで通りに接している。
「あっああ、これ? 転んじゃった」
「絆創膏あるよ使う?」
「ありがとう。…これ良いやつじゃない」
「佐々木さんの玉の肌に傷が残っちゃいけないからね〜」
「言い方が気持ち悪いわ。でもありがとう」
相変わらずのツンデレに笑いながら、本題に入る。
「最近怪我多いね」
「え! ええ…? そう?」
「私に出来ることある?」
「! …何を言ってるか分からないわ」
「そっかあ。じゃあ何かあれば遠慮なく言ってね」
「……」
「…絆創膏いっぱい持ってるし」
「…そういう意味?」
最近佐々木さんに元気が無い。朝は普通に会話するんだけど、どこか空元気だ。不思議に思って注視してみると、所々小さな擦り傷やホコリが付いている。一つ一つは大した事無いので本人が綺麗にしているのだろうが、今まで生死と隣り合わせだった私が集中すれば違和感に気付かない訳がない。
だけどここは学園だ。戦場とは違う。これから社会に出る若者に、命の危険でもないのに必要以上のお節介を焼いても良いのだろうか。どう言ったら良いのか分からず、足踏みしてしまう。
ちなみに私の実年齢は三歳年上だが、この世界に転移した時一六歳で通っていたのでそのまま過ごしている。体年齢はそのままなのか若返ったのか分からないが、精神年齢はそのままなのでついお姉さんぶってしまう。
それに何だか隠したがっている彼女に、無理矢理追求は出来なかった。だから曖昧に誤魔化す。
「私は2-Fクラスの桜木杏奈。何かあったら遊びに来てね」
「…うん」
でも逃げ道は用意しておきたい。今までお互いに話題にしなかった情報を出す。佐々木さんは言わなかったけど、強制したい訳じゃないからそれで構わない。まあFクラスなんて出来ることないけど、話し相手がいる事を知ってくれているだけでいい。私はいつでも待っているから。辛くなったらいつでもおいで。
…多分、彼女はいじめられている。
「…杏奈、あんたどうしたの」
「あ、凪」
お昼休み、私は教室の窓からあんぱん齧りながら外を見張っていた。
「学園の平和を見張ってる」
「そんなん生徒会と親衛隊がやってるでしょ」
「それじゃ足りないんだよお」
牛乳を啜りながら監視を続ける…が、特に異常は無かった。
「この時間いつも勉強してたじゃない。どうかしたの?」
「それがさあ佐々木さん、多分いじめられてるみたいなんだよね」
「それほんと?」
「うん。本人はそうとは言ってないだけど、最近小さい傷とか汚れが多いんだよね。最初こっそり猫でも飼ってるのかなーと思ったんだけど、獣の匂いがしないし…」
「は? 獣の匂い?」
「い、いや! 違った! いや違わないけどとにかくいじめっぽいんだよね!」
こっちの世界じゃ匂い判別出来ないのが普通だったの忘れてた。慌てて撤回するも凪は怪訝な表情ながらも気にはしてなさそうだった。
「いじめかあ。嫌だね。でもそれが本当ならどうする? Fクラスの私達じゃ助けるどころか下手に介入したら悪化させちゃうよ」
「凪…」
こうすんなりと私の話を聞いてくれて、当たり前のように協力してくれる所好き。なんて良い親友を持ったんだ私。
「先生に言っても相手によっては意味ないよね…」
「もし生徒会なら手が打てないし…生徒会?」
生徒会って学園の評判と秩序大事にしてなかったっけ。もしかしたらいじめも対象かもしれない。
「杏奈…もしかして先生がダメなら生徒会を頼るつもり…?」
「無理かな?」
「うーん。相手によるかもね。とりあえずは佐々木さんとそのいじめっ子のクラスを調べないとじゃない? 身元が分からないと報告も出来ないし」
「確かにそうだね。今日放課後調べようかな」
「ごめん、今日部活の練習試合でどうしても抜け出せないの。明日はどう?」
「あはは、ありがとう。でも一人でも大丈夫」
「でも多分私達より上位クラスだろうから、バレたら危ないよ」
「大丈夫。そこはバレないように上手くやるから」
マジで大丈夫。前の世界で気配を消して背後から襲撃とか普通にやってたので、隠密行動はやろうとすれば出来ますよ。
「んー、もう! 絶対危ない事はしないでよ!」
「うん、分かった」
私が譲らないと察したのか、釘を刺してくる凪。そんな彼女にほっこりしつつ、内心謝った。
だって、こういうのは早い方が良い筈だから。