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「ふああ……、ねむい」

「あくび見られたら引っ叩かれるわよ」

「むぐ」


 今日も今日とて草むしり。お布団大好きっ子な私に早起きは辛い。漏れ出たあくびをしてたら隣のサバサバ系女子に注意された。慌てて口を閉じる。


「桜木さんって朝苦手なのね」

「うん。佐々木さんは早起き得意?」


 最初トゲトゲしてたように思ったこの子は佐々木さん。なんだかんだで一緒に草むしりしていくうちに仲良くなった。昔の私なら避けるタイプだったかもしれないが、前の世界のおかげか彼女に怒られても小型犬がキャンキャン鳴いてるようにしか思わないので怖くない。脅威が全くないのでむしろ可愛いとすら感じている。


 佐々木さんも本気で怒ってる訳ではなく、口調が強くなっちゃうタイプなだけらしい。最初距離を取られていたが、何言ってもへらへらと気にしない私に彼女から段々と話しかけて来るようになってきた。不器用ちゃんか。可愛いぞ。


「私はもっと早く起きて勉強してるから平気」

「まじか」


 すげー。夜更かし寝坊人間には出来ない芸当だ。


「桜木さんはなんでここに? あなた去年一度も罰則無かったじゃない」

「いやあ、急におバカになりまして……」


 三年も違う世界に行ってたんで。その間勉強なんてしてないから、培った知識は遥か彼方だよ……。


「なにそれ。……あなた、もしかして会長目当てじゃないでしょうね」

「会長?」


 むしろ近づきたくないが。


「たまにいるのよ。あの人、怖いけど綺麗な顔してるでしょ? それに女子には手を上げてないし。だからお近づきになりたいってわざと罰則を受ける人がたまにいるの」

「へえ」

「……その反応じゃ違うみたいね。でも気を付けなさい。会長は基本男子にしか手を上げないけれど、絶対じゃないわ。女子生徒で行き過ぎた行為をした子がまだいないだけよ。絶対あの人は場合によっては女子でも躊躇しないタイプだわ」


 わあ、私と同じ感想を持つ子がここにいた。なんだか親近感。


「よく分かるね」

「そりゃあ何度も罰則くらって会長が何人も殴り飛ばすのを見てきてるからね。あの人はそんな甘い人間じゃないわ」


 よく罰則受けてるんだ、と言ったら怒られるのは分かっていたのでその言葉は呑み込んで、頷いておいた。


「……やっぱりそうかあ」

「でも会長だけじゃなく、ファンクラブにも気をつけなさい。親衛隊はとにかく、ファンクラブは会長と直接関わる機会が少ないせいで、危ないから」

「ファンクラブ?」

「女子生徒の集団よ。ファンクラブ内で牽制し合ってるけど、中にはガチ恋勢の過激派もいるの。会話もした事ないのに、自分は会長に好かれてると勘違いしてる子もいるわ。……本当の会長の冷徹さなんて知らない癖に。あんな恐ろしい彼氏、私なら絶対嫌だわ」


 付き合えると思ってないけど、そこは激しく同意。


「まあ、罰則程度じゃ会長は最初のお叱り以外は出てこないから大丈夫。ただファンクラブには気をつけてね」


 会長もヤバい人だが、そのファンもヤバい人だったか。つまり妄想癖のあるメンヘラということなのだろう。そういう人は会話が通じないから、関わらないのが吉だな。


「わかった。教えてくれてありがと」

「! べ、別に」


 ポンと音が付きそうなくらい赤くなった佐々木さんが可愛い。最初のツンツンした感じはどこへ行ったやら。元々綺麗系な顔立ちもあり、ギャップ込みでめっさ可愛い。これがあのツンデレというやつか。


 




「一限目から体育とかダルいわ……」


 佐々木さんと別れ、教室に戻り凪と一緒に体育の授業を受ける。元々体操着だったから着替えなくて楽ちんとか思ってたら、隣を走る凪がブツクサと文句を言っていた。


「そ、ソウダネー」

「朝からマラソンとか……杏奈、あんた余裕そうじゃない?」

「そ、ソンナコトナイヨ」

「去年は私と同じくらい運動神経悪かったじゃない。……まさか、ジムとか通い始めたんじゃ」

「ないない! えーと、その。あー、最近体動かす事に目覚めてさ! 春休み勉強そっちのけでずっと走ってたんだよね」

「……へぇ、そうなんだ。でもあまり勉強おろそかにしちゃだめだよ? この学園は厳しいんだから」

「……ハイ」


 必死に言い訳をしたらなぜか憐れまれた。そんなにあのテスト結果は酷かったんですね……。


 それからはバレない程度に周りの顔色を見ながら速度を合わせ、適度に辛そうな表情をして体育の授業を乗り切った。いや本当に散歩かな? と感じる程余裕だったんだよ。マラソン。


 最終的には凪も「やっぱあんたは運動不足のままね。私の勘違いだったわ」という評価を頂いたので、私は女優になれるかもと思った。いや嘘です。ごめんなさい。





「あ、佐々木さーん!」

「…………」


 校庭から更衣室への移動中、佐々木さんの後ろ姿を見かけたので声を掛ける。が、距離があったせいか気付かれず、佐々木さんはそのまま角を曲がってしまった。


「聞こえなかったかな」

「杏奈、あの人と知り合い?」


 隣を歩いていた凪が私に問い掛ける。


「うん。朝の草むしりで仲良くなったの」

「いやな繋がりね……」


 もうここ二週間くらい毎朝顔を合わせてるし友達だ。……あれ、友達だよね?


「あの生徒会の罰則だから少し心配してたけど、杏奈が楽しくやってるならよかったわ」

「……凪!」


 もしかして周りの目がある時は話しかけるな陰キャめ! という意味の無視だったのでは……と若干落ち込みそうになった所で、凪のデレ発言。

 なんだ今日は可愛い祭か。


「らぶー!」

「はいはい。予鈴鳴るから早く更衣室行くよ」


 骨を折らないように細心の注意を払いながら親友に抱きつく。しかしその熱い抱擁はいなされ、走り去ってしまった。この学園は遅刻も厳禁。慌てて私も凪を追いかけて更衣室へと急ぐ。






「ごめんね、桜木さん……」


 誰もいない曲がり角の先で、佐々木さんがそう謝っていた。






女の子登場率 >>> ヒーロー登場率

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