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「今の時代に罰則とか。炎上とモンペが黙ってないぞ」

「何言ってんの?」


 ぶちぶち雑草を抜きながら文句を言う。勿論監督係に聞こえないよう小声でこっそりと。しかし隣にいた知らない女の子に聞こえてしまったようだ。


「ごめん、ただの愚痴です」

「そう。さっきからずっとボソボソ言ってるから気持ち悪いわ。やめてくれない?」

「……はっきり言うタイプなんですね」

「私サバサバしてるから。裏表無いの」

「……ソッカー」


 赤点取った私達への今日の罰則は校庭の端っこの草むしり。その為汚れても良いように体操服に着替えている。この学園は制服と体操着どちらも学年ごとに入っている刺繍の色が違う。二年生の私は黄色。隣にいる女の子も黄色だから同学年か。


 まだ新学期になったばかりなのでクラスメイトか否かが分からない。……まあ、私の場合一年生の時の記憶が遥か遠くなのと諸事情で、もし知り合いだったとしても判断できないのだが。

 でも女の子の反応から友達では無さそうだ。


「細かい草捨てるからちりとり持って」

「はい」


 それからは特に雑談することもなく、黙々と草むしりとゴミ捨てを終える。そして特に熱い友情が芽生えるというイベントも起きず、着替えてそれぞれの教室に戻った。違うクラスだった。






「お疲れー」

「疲れたー」


 席に座れば凪がヒラヒラと手を振り、実に軽い労りの言葉をくれた。全然体は疲れてないのだが乗っておく。ああ、こういうやりとり尊い。


「どうだった? 会長いた?」

「いないよ。親衛隊が見張ってたけど」

「ああ、あの狂信者たちね…」


 場所割りは生徒会のメンバーがしてたけど、ちゃんと私達がサボらず掃除するかをなぜか親衛隊と呼ばれる男子生徒達が見張っていた。見張るなら手伝ってくれや。言わんけど。


「それよりも勉強しなくては」

「ああ、次の中間テストで挽回出来れば罰則終わるんだっけ」

「うん。早起き辛いからね」

「杏奈らしいわ」


 本当の理由は、少しでも生徒会長と関わる可能性を潰しておきたい…! 


 いや罰則受けてる劣等生に学園トップである会長が気に掛ける要素は無いんだけど、罰を課したのは生徒会だから少しでも可能性は残しておきたくない。


 この世界の事は詳しくないんだけど、絶対少年漫画っぽい世界観だと思うんだよね。


 外出するとたまに視界の端に炎とか風とか使っているバトルが映る。でも死者は自分が知る限り出ていない。このゆるさから、グロが許されている青年系やR15ゲームの世界観ではないはず。

 それに異様にモテる男子軍団もいないから少女漫画や乙女ゲームでもなさそうだ。勿論逆に女生徒のありえないだろ的なお色気系イベントも起こってないようなので、ギャルゲーでもない。


 だから私はこの世界は青春バトル系少年漫画や学園バトルゲームあたりが設定された世界かな、と推察している。……まあ後者はあまり聞かないから漫画世界線の可能性の方が強いと考えていいだろう。


 といっても私は少年漫画に詳しくないから、あたりをつけたところで本当に実在する物語か分からない。もしかしたらただの世界感だけで、物語自体が存在しない可能性もある。


 けれど特別な力を使う人たちや異様なオーラを纏う生徒会長など、明らかにこの世界での主要人物は存在している。

 平穏を望むなら彼らとの接触は避けるべきだろう。だから存在感の強い人は徹底的に避けるべきだ。


 関わったら確実に平穏から遠ざかるでしょ…!


「絶対に罰則回避…!」

「おお、そんなに早起き大変だったのか。杏奈がんばれー」


 学園を牛耳る生徒会長? そんなの絶対メインキャラじゃん。


 今回は点数悪い人が十数人もいたので私は目立っていないが、早く距離を取るのに越したことはない。


「私は平和な毎日がほしいんじゃー!!」

「草むしりってそんな命懸けだったっけ?」


 教科書と問題集を睨みながら叫ぶ私に凪が呆れていた。


 正直、見た感じ今の私にとって脅威となる人はいない。

 筋力も、体の作りも、前の世界の方がハードだった。デコピンで人の頭が吹き飛ぶのが前の世界で、グーパンで人が数メートル身体欠損無しで吹き飛ぶのがこの世界。そのくらいの差がある。これは体の脆さではなく、戦闘値の違いだ。


 特殊能力は置いといて、おそらくこの世界で私より強い人はいないだろう。


 だからといって、私は多少耐えられるけど毒が効かないわけじゃない。数発はガード出来るけど銃火器が効かないわけじゃない。それにあの毎日血反吐を吐くような訓練をやめたら、筋力は確実に弱くなるだろう。もうあんな過酷な日々は送りたくないのだ。私は強くなるのを止めた。


 だから私はトラブルの元から逃げる。


 その為にあの世界を捨てた。

 仲間も、友達も。…私を守ると言ってくれた人も全て。それでも私は安全を選んだのだ。


 命が脅かされる日常は怖い。どれだけ対策しても安心出来る日は無い。過酷なトレーニングにぐっすり眠れない夜。背後には常に気を配り、ギリギリの命のやり取り。


 温かい布団にもぐって眠り、当たり前のように生きて明日を迎える日常。ずっとこれを取り戻したかった。


 だからこそ私はこの力を隠し、憧れだったの命の危険の無い生活を謳歌するのだ。








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