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 ここで私の簡単な自己紹介をしておこうと思う。


 私は所謂普通の女子高生だった。キラキラしたグループにいたわけでもないし、虐められている訳でもない。特別頭も良くないし、飛び抜けて運動出来ることもなかった。平均を絵に描いたら私になるんじゃないかなと思うくらい、何の特徴もない普通の女子だった。


 だけど運命の悪戯か、ある日気が付いたら別の世界にいた。


 それは私を普通の女の子から特別な女の子へと変えた。

 …いや、成らざるを得なかった出来事だった。


 私が転移したのは漫画の世界。偶然か必然か、私はこの漫画を知っていた。その世界はマイナーな青年漫画。

 どういう世界か端的に言うと、異能バトル系漫画だ。それを理解した途端、青ざめた。


 なぜならその漫画はデコピン一つで人が死ぬような、エグい世界観なのだ。

 まずモブは九九パーセント死ぬ。サブキャラも七割死ぬ。メインキャラも容赦無く退場する。


 それに気付いてからはひたすら自分を鍛え上げた。幸い私の体も漫画の世界に適応したようで、トレーニングしたらした分だけ、身体能力や漫画特有の特殊能力が天井知らずに跳ね上がった。


 もともとビビりだった性格が功を奏したようで、ストイックに訓練を重ねた結果、私はメインキャラクター達と同じくらい強くなれた。


 色々紆余曲折はあったけれど、最終的に私は違う世界へ転移する方法を見つけた。それを使って元の世界に戻ったのだけど、転移した世界は元の世界ではなく不思議な世界だった。


 確かに元の世界に似ているし、私の家族や友人はいるのだけど世界観が一致しない。時折どこかで爆発音が聞こえるし、高校生同士が炎や雷を纏ってバトルしていた。けれど、誰もそれを見て驚きはしてもニュース沙汰にはならない。


 暫くこの世界で暮らしてから、おそらくここは元の世界と何かの世界が混ざった世界なのだろうと予想した。


 この世界での"私"はおらず、また小さい頃の思い出はこの世界の家族や知人にも同じものが共有されていることを確認している。


 正直最初は葛藤したが、家族も友達もいるし前の世界みたいに命の危険は無いので、まあいいかと納得した。

 そもそももう他の世界に渡る術は無い。前回見つけた方法は、たまたま見つけた一度きりのチャンスだったのだ。



 時々人が凍っていたり、手の平から風を生み出すビックリ人間が視界の隅に映るけど、暫くバレないように横目で観察してたら、それはある一定の人達だけだということが分かった。

 だからそれに関わらなければ平和ということだ。前の世界のように息をするように人は死なない。むしろこの世界の一般人はバトルにすら関わらない立ち位置。なんて安全。モブ最高。


 ここがどの世界かは分からないが、所謂メインキャラ達に関わらなければ平和な日々が手に入るということだ。ひゃっほう。

 前の世界で培われた身体能力でこの世界の主要人物は何となく把握済みだ。だから私は一般的なか弱い女子を演じて、ひたすらにその人達を避ければ良い。我ながらナイスなアイディアである。



 ……と、思っていたんだけど。



「君達、ふざけてるの?」

「……」


 今私は、複数の生徒と一緒にとある一室に閉じ込められ説教されていた。


 異様な雰囲気の部屋の中、静かに話すのは一人の男子生徒。誰かは知らないが校内放送で呼び出されたので来てみれば、訳も分からず並ばされこうして怒られている。

 不思議に思っているのは私だけのようだ。他の生徒達は酷く怯えた様子で、嵐が過ぎるのを待つように身を縮め息を潜めている。事なかれ主義の私も空気を読み、とりあえず真似ておいた。


「なんでだんまりしているのかな」

「……」

「僕をナメてるの?」

「ひぃっ…!」


 決して声を荒げていないのに不機嫌さを滲ませた言葉に怯え、とうとう一人の男子生徒が悲鳴を上げた。


「ここに集められたのは新学期の小テストで著しく点数が悪かった生徒達だ」


 しかし彼を気にもとめないで、目の前の男子生徒は静かに話し続ける。


「成績を落とすという事は、この学園の評判を落とすと同じ意味だ」


 高そうな机に寄りかかる姿勢は決して威圧的ではない。むしろサラサラな黒髪に切れ長の瞳、スラリとした体型はどこか軟弱な雰囲気を与えそうだ。しかしその全てを、纏う空気が真逆の印象に塗り替える。

 季節は春の筈だが肌寒さを感じるような冷気。アーモンド型の瞳は鋭く、目の前の生徒達を刺すようだ。

 思わず悲鳴を上げてしまう気持ちも分からなくもない。現に他の生徒達も冷や汗を垂らし震えていた。

 …私は未だに彼の正体が分かってないのだが。


「つまり生徒会長であるこの僕の顔に泥を塗るのと同等の行為をしたという事だ」


 おお、生徒会長だったのか。

 答えが分かって内心スッキリしていた所で、周りの生徒達が一斉にビクリと肩を震わせる。慌てて私も同じ動作をした。


「君」

「…っ!」


 そんな中、彼は一人の男子生徒を指差した。指名された生徒は可哀想なくらい震えている。


「何でそんな事したの」

「ぁ…、う、あ…」

「? 僕が質問してるんだよ。早く答えてよ」

「ひっ…! す、すみません!!」

「謝罪じゃなくて理由を聞いてるんだけど」


 ガタガタと震える様子はまともに会話出来なそうだ。しかし他の生徒は巻き込まれたくないと言わんばかりに必死に気配を消し、目を逸らしている。

 何故、そこまで一人の生徒に怯えるのだろうか。


 けれど地味に目立たず堅実に、平穏な日々を送る事が私の密やかな目標なので悪いが私も放置する。

 頑張れ! 名も知らない男子生徒!


「はあ、会話にならないな」


 ふう、とため息を吐く姿はどこか儚げで美しい。綺麗な肌に完璧に配置かれたパーツは格好良いというより美人というのがしっくりくる。


 が、その数秒後、私はその評価を撤回した。



ーーガシャアンッッ!!


「…え」


 必死に気配を消していた事も忘れ、思わず声が出た。しかし周りも悲鳴を上げていた為、幸いにも私の声は掻き消された。


 何。何が起こったの?


「……」


 恐る恐るみんなの視線の先を追うと、先程まで質問されていた男子生徒が白目を向いて五メートル後ろに倒れていた。泡を吹いて気絶しているようだ。


「……」


 ゆっくりと生徒会長に視線を戻すと、殴った後のような体制をしていた。


 …え、生徒会長がやったの? その細腕で?







1話しか投稿してなかったのですが、ブクマと評価下さった方がいらして嬉しかったです。多分前作の読者様かな。ありがとうございます。

こちらも引き続き更新頑張りますので、よろしくお願い致します。

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