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「何、桜木。僕に喧嘩売ってるの」

「いえ、トンデモゴザイマセン」


 昨日の女子寮での話と自分の記憶の相違から、翌日会長の顔をガン見してたら不機嫌そうに眉を思いっきり顰められた。やはり昨日見た笑顔は私の幻覚だったのかもしれない。


「行くよ」

「はい」


 今日も昨日と同じように園内をブラブラと散歩する。ルートがあるのか目的地があるのかは知らないが、私は会長に着いていくだけだ。


「ね、アレ」

「誰? あの女」

「あー、なんか会長が直々にスカウトして生徒会に入ったらしいよ」

「何人も入りたいって嘆願してたのに、何であの子? コネかな」

「え、ファンクラブが知ったらヤバくない?」


 昨日は比較的人が少なかったのだが、今日はまだ下校してない生徒が多く、それなりに人気が多い。そのせいで目立つ。案の定、会長の隣にいる女子生徒は誰だとヒソヒソと話している。会長は騒音嫌いで有名なので、決してみんな大声を出さないが、人一倍聴覚が優れている私は全て拾ってしまう。ああ、明日から学校が怖いなあ。


「うるさいな」

「…会長のせいでしょう」

「君も聞こえてるの」

「そりゃあ、ここまであからさまですから流石に…」

「へぇ、いいね」


 会長は全然声を潜めてないけど、私は周りに聞こえないよう小声で会長に文句を言う。元凶にここはなんとかしてもらいたい所だが、会長が私の為に動く事は全く想像できないので期待はしない。とりあえずは会長のうるさい宣言で野次馬はサササーっと消えていったので良しとしよう。いやあすごい。鶴の一声ならぬ会長の一言。


「おや」

「?」


 テクテクとただ無言で会長の後ろを歩いていれば、何かの気配を感じたようでピタリと止まる。

 …嫌な予感しかしない。


「桜木、あっち行こう」

「…拒否権は」

「してもいいけど、どうなるか分かる?」

「ついていきます! どこまでも!」


 コテン、と可愛く首を傾げると同時にポキポキと片手の関節を鳴らす会長。あ、凪、姫華。やっぱり会長は女も容赦なく殴るタイプっぽいよ。

 命の為なら何でもするよ根性が染み付いていた私は、秒で従った。


 満足気に鼻を鳴らして先を歩く会長に小走りでついて行く。嫌だなあああああ。正体は分からないけど会長が向かう方向から何かが戦ってるような空気というか、ピリピリとした緊張感が漂ってきているのだ。行きたくねええ。


「昨日の話、実際に見せてあげる」

「……」

「すごく嫌そうだね」

「当たり前じゃ無いですか。私はか弱い一般人ですよ。何危ない事に巻き込もうとしてくれてんですか」

「君、自分をか弱いって言うわりに結構僕に口答えするよね」


 クスクスと笑う会長を盗み見る。ここ二、三日の付き合いでしかないが、最初に出会った時の気に入らない事があれば即殴る、という印象はもう感じていない。明確には分からないが、会長は何か自分の中のルールがあって、それに抵触しなければ実力行使に出ないように思える。とはいえ、彼も思春期の男子高校生だ。うっかりツッコミを入れ過ぎて、琴線に触れないよう気を付けなければ。





「……」

「……」


ーーボォォオン!!

ーーガラガラガラ


 現場に到着してみれば、そこは荒地だった。未だ爆発音が鳴り響き、建物は跡形もなく崩壊し、黒煙が上がっている。…これで死者はいないし、他の生徒はこの大惨事に一人も気付いてないんだよ? よくあるご都合主義なんだろうけどさ、実際考えると色々可笑しくない?


「ゴホゴホ」

「桜木、アレが能力者だよ」


 煙で咳き込む私を心配するでもなく、会長は視線で空中で未だ戦う二人を示した。ハンカチを口に当てながら私も目線を上げて目を凝らす。


 そこには鮮やかな赤髪の少年と、黄緑色の髪色の少年が何やら叫んでいた。


「"暗黒の深淵より燃え盛る火の精霊よ、その熱き炎を我が手に宿し燃やし尽くせ!【炎の隕石(フレイムアエロリット)】!!"」


「はっ! そんなヘボい攻撃が効くかよ! "何者にも縛られぬ誇り高き自由の風よ、我を阻む者から守護せよ 【風の盾(アネモスシルト)】!!"」


 そして両者の周りにはそれぞれ炎の塊と風が現れぶつかり合う。


「……」


 それを見て、私はまずその超常現象に驚くよりも赤面した。

 ……は、はずぅううううう!! 恥ずかしすぎるっ! あのくっさいセリフは呪文だろうか。この世界はあの言葉を言わないと能力が発動しないの? 前の世界は辛くて好きじゃなかったけれど、初めてこの世界よりマシな部分もあるのだなと思ってしまった。


「桜木?」

「…いえ、驚いてしまって」


 そんな急に地団駄踏み出した私に、会長は怪訝な表情で声を掛ける。そんな不審者を見るような視線はやめてください。それよりも会長はあれを聞いて何とも思わないんですか。鋼の心臓をお持ちですね。


「…会長は彼らを粛清するんですか?」

「いや、アレは仲間同士のじゃれ合いだからしないよ。片付けもあちらの専門部隊がするからね。今日来たのは君に能力者がどんなものか見てほしかったから連れてきただけ」

「?」


 見てどうしろと? 私は当事者ではない。無駄に羞恥が爆発しそうになっただけなんですが。


「僕と一緒にいたら、今後ああいうのと遭遇する事になる。君は能力者じゃないから直接関わる事はないだろうけど、知っておいた方がいいだろ」

「はあ」

「気の無い返事だね」


 戦うのは会長ですからね。私はこの世界では一般人枠なので、関わりたくありません。絶対平穏から遠ざかるヤツでしょ。


「能力者という方と遭遇したら一目散に逃げればいいですか?」

「戦えるなら倒してもいいよ」

「無理です」

「そうかい? なら僕の邪魔にならないよう、物陰で大人しく隠れているんだね」

「そうさせていただきます」


 会長は何かを私に期待しているようだが、本気で能力者と渡り合えるとは思ってないようで、敵前逃亡の許可はすんなり降りた。最低限の常識を持っているようで安心したよ。


「…逃げていいなら、なんで会長は私を側に置くんですか?」


 ふと、疑問に思ったことを口に出す。すると妙に重い空気が会長から漂い、思わず一歩下がった。

 

「そうだねぇ。……聞きたい?」


 高校三年生に出せないような色気を瞳に乗せて、ニンマリと唇に弧を描く。私の方が年上なのに、思わず存在ごと食われそうな悪寒を感じ、肩を震わせて気づけば叫んでいた。


「いいですいいです! 結構です! やっぱり全然気になりません!!」

「そうかい」


 それは残念だ。と全然残念に思ってなさそうな雰囲気で真顔に戻った。いつもの会長である。


「今日は騒ぎもないし、ここで解散でいいや。また明日ね」

「はい! 失礼します!」


 開放宣言を頂き、私は脱兎の如くその場を逃げ出した。

 力じゃ絶対私の方が強いはずなのに、存在感で負けてるとか。なんか悔しいいいいい…!






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