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「まずは君の名前を教えてよ」

「……矮小な私めなぞ、会長様が気にする程の存在ではございませんよ」

「僕は言葉遊びは好きじゃないんだ。教えないならその子に聞くよ」


 チラリと会長が視線を向けるのは当然佐々木さん。まあ助けに入った時点でバレバレですよね。突入前に既に気付いてたっぽいし。やはり途中でつい声が出ちゃったのは失態だったかなー。平和ボケしてたかあ。


「教えなくていいわ! 私の事は気にしないで!」

「竜」

「はい」

「ちょっと! 何するの!」

「佐々木さん?!」


 どうしようかなーと悩んでいたら、佐々木さんが叫ぶ。それを邪魔に思ったようで、会長が見知らぬマッチョの名前を呼ぶと彼は心得たように、彼女を別室に誘導する。一瞬焦るが、その厳つい体とは裏腹に丁寧に彼女の手を引く様や悪意を感じない事から、佐々木さんに危害を加えるというより私と隔離するためだと理解したので大人しく見送った。


「大丈夫だよ。うるさいから少し別室で待機してもらつだけ」

「分かってるけどさあ……」

「へぇ。分かってるんだ」

「いや! へぇーソッカー。さすが生徒会は紳士ダナー」

「……胡散臭いけど、まあいいよ。僕は機嫌が良いからね」


 つい普通に返事してしまったが、会長は本当にご機嫌なようで、私の無礼は気にしていないようだ。

 目の前の社長が座ってそうな立派な椅子に座り、私は先程佐々木さんが座っていた椅子を勧められる。よかった。もしかしたら床に座れとか言われるかと思った。流石にそこまで人でなしではなかったか。


「さあ、まずは名前を教えてよ。ああ、先ずは聞いた方が名乗れってタイプかな? 普段は許さないけど今回は特別に許してあげる」


 なんか勝手に話し出したぞ。


「僕は(ひいらぎ)暁斗(あきと)。この学園の生徒会長をしているよ。三年生。好きな事は僕のジャマをする人を叩きのめす事。嫌いなものは弱い人間かな」


 どこの戦闘民族ですか? ツッコミどころ満載だが、ニコニコと自分の番は終わったぞと言わんばかりに私のターンを待っている。

 まあ、あの傍若無人で有名な会長がここまで譲歩してくれたのだ。ここは乗っておこう。


「私は桜木杏奈です。クラスは2-Fで部活はしてません」

「ふぅん」

「…………」

「……………………それだけ?」

「え? えーと……好物は干し芋です」

「…………」

「……うーん。あとは……好きな言葉は平穏で、嫌いなものは非日常です」


 なんだこれ、面接か。困惑気味に会長へ視線を向けると、口をへの字にしてなんだか不満そうだった。


「君は……桜木は、戦うの好きじゃないの?」

「……ぐ」


 言っている事は物騒なのに、美人が悲しげに首を傾げるな。サラサラの黒髪に肉食獣のような鋭い黄金の瞳。危険人物だと分かっているのにハマるファンクラブの子たちの気持ちを理解してしまいそうになる。


「あ、当たり前です。私は平和が好きです。一秒でも長く布団に入っていたいし、紙で指切るだけで泣きたくなる……のは言い過ぎですが、痛いのは嫌です。喧嘩なんて論外です」

「…………」

「それに私はか弱い女子ですよ。戦うなんてありえません」


 何も話さなくなった会長を畳み掛けるように、私は無害な人間ですよアピールをしておく。しかし墓穴を掘ってしまったようで、最後の言葉に会長がニヤリと怪しく嗤う。……そのお顔、悪役みたいですよー。……いやもしかして悪役なのかな。


「それは嘘だね。僕は昨日見てたんだ。桜木、君がさっきの女子生徒を庇った所を」

「……え」

「昨日あの場に僕もたまたまいてね。うるさいから無視してたんだけど、突然現れた気配に飛び起きた。この学園にそんな強者がいたなんて知らなかったからね」


 あ、あれか。こっそりストーキングしてた日、佐々木さんが転びそうになって咄嗟に飛び出した。あの時周りの様子まで探ってなかったから知らなかったけど、会長いたのか。え、まじで?


「け、ケハイってナンデスカー」

「目を向けた時には既に君は彼女と一緒に倒れていた所だったけど、アレは近くに転がっていた岩から守ったんだろ? あの上に倒れていたら死にはしないけど一生物の傷が残っただろうね。ああ、ちゃんとあの後生徒会で撤去しておいたよ。一応学園中チェックしたから、もうどこで転んでも大怪我をする事はないだろう」

「そうですか。よかっ……ナンノコトヤラ」

「……桜木、君誤魔化すの下手すぎない?」


 必死にとぼけたのだが、何故か会長に憐れまれた。解せぬ。


「それにさっきも突然現れたよね」

「ぐ」

「君の声が漏れるまで気付かなかったけど、ベランダからこちらの会話盗み聞きしてただろ」

「ぐぬぬ」

「詰めが甘いね」


 ぐあー! 墓穴しかない。もうこれ黙秘しかない気がしてきた。遅いかもだけど。


「先程の女子生徒は、君の情報をずっと言わなかったんだ」

「へ」

「昨日、君達が去って残ってた生徒たちに君の名前を聞いたんだけど、どうやら勘違いをして彼女の名前を言ったんだ。だから代わりに彼女から君の名前を聞き出していたんだけど、昨日から頑なに答えなくて。この僕と竜を前にしてね」


 佐々木さあーん! そんな怖い目に会ってまで、私が生徒会に目をつけられないように名前を隠してくれてたんだ! この学園では会長に目を付けられたら危険だからって。

 だから朝あんなに疲れてたのか……。自分だって大変な状況なのに、何で朝会う程度の私の為にそこまで……?


「まあ、その努力も君が来た事で無駄になっちゃった訳だけど」

「うっさいわ!」

「……へぇ。それ、僕に言ったの?」

「……あ…………いえ、そんなつもりは。ハハハ」


 ツンデレお嬢様の優しさに申し訳なく思ってた所、会長の余計な一言に思わずキレた。そして低くなった声色に速攻謝る。力で負ける気はしないけど、ビビる気持ちは別だ。私の本質は小市民。


「……まあ今回は許してあげる」

「ありがとうございます!」

「その代わり、生徒会に入ってね」

「はい! ……はい?」

「生憎生徒会の役職はもう埋まっている。だから特別に生徒会長付き秘書という立場を作るから、明日から放課後は生徒会室に来るように」

「え、は、ちょ!」

「じゃあもう今日は用ないから出てって」

「いやさっきの返事は了承のはいじゃないです!」

「……何、僕に逆らう気?」

「イエッサー! 喜んで!」

「それでいいんだよ。隣にさっきの女子生徒がいるから一緒に連れて帰ってね」

「ハイ!」


 慌てて生徒会室から出て隣室へ向かう。武力行使して断る事も出来なくはないんだろうけど、前に凪から聞いた会長の権力のヤバさを思い出した。確かこの学園にいる限りなるべく逆らわない方が良いんだったよな……。力比べなら問題無いけど、学園皆を敵に回す勇気はない。


 だって勉強が……! 学園生活が……! 下手したらこの町まで影響力あるって言ってたよね……? 絶対関係ない所にまで響く……!

 なんか変に気に入られたようだけど、下手に逆らわない方が良いよね。いやでも最後塩対応だったからそうでもないのかな……?


「はぁ〜あ」


 どちらにしても生徒会に入る事は色々波乱を呼びそうだ。私の平穏が崩れるような気がして、大きな溜め息を吐く。そしてしょんぼり気分のまま、私は佐々木さんのいる部屋の扉を開けた。








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