表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/17

10


「うぐぐ、お腹がいたいー。捻れるように痛いいい。病院に行く程じゃ無いけど保健室で一日寝てないと治らないくらい痛いぞー」

「……桜木、演技ならもう少し気持ちを入れろ」

「じゃ、薬を飲んでも辛い日なんで、寮で寝ててもいいですか?」

「お前な……もうちょっと……、保健室ですらなくなってるし。……まあいいや。一人で帰れるか?」

「大丈夫です! 先生さよーなら!」


 頼りにならないが空気を読める担任のおかげで無事仮病が通った。後ろから親友がもうちょっと慎みを、とか言っているけど聞こえない。今日は一日中こっそり佐々木さんをストーキングして、様子を探るのだ!






「あれ? 佐々木さんがいないぞ」


 コソコソと窓の外の死角から2-Bクラスを覗き見るも、佐々木さんの姿が無い。とりあえずそのまま授業後の小休憩時間も見張っていると、どうやら佐々木さんは朝から生徒会室に呼ばれて不在とのことが分かった。Bクラスでも生徒会に呼ばれたという事は話題になるらしく、休憩になった瞬間そこかしこで噂されている。


 確か佐々木さんって生徒会苦手じゃなかったっけ。心配しつつも急いで生徒会室に向かう。……勿論正面からではなく外からこっそり盗み聞きするつもりである。


「ここかな〜」


 この学園はまるでショッピングモールかと言いたくなるような広さだ。所々に置いてある学園マップを参考に、生徒会室近くのベランダに着地した。


 見えないが、中に三人いるのが分かる。その中に独特の気配があるので、おそらく会長がいるのだろう。彼はこの世界のメインキャラクターの一人っぽいので、久しぶりに本気で自分の気配を消す。ああいうのは感が鋭いからね。


「ーーぞ、ーーた」

「??」


 聞こえづらい。耳をピッタリと壁に付けて、聴覚に神経を集中させた。普段使っていない感覚を研ぎ澄ませば、他の雑音が遮断されクリアな世界に入り込む。


「……だから、私は知りません」

「嘘を付くな。あの場にいた者がお前の名を出し、会長ご自身がその目でみているんだぞ!」

「…………」

「まただんまりか。会長、昨日から埒があきません。どうしますか?」


 佐々木さんと知らない男子生徒の声がする。会話を聞く感じ、彼女が呼び出された理由は何かを佐々木さんから聞き出したいようだ。


 見えないけれど、震えているが乱れていない息遣いと鉄の香りがしないことから、乱暴な事はされていないらしい。


 ……てか、そんなヤバい事しないよね。どれだけ前の世界に染まってんだ私は。


「そうだね。どうしようか」

「!」


 一人でテヘペロしてたら聞いた事のある、涼やかなのにどこか艶を感じさせる声が響いた。その声に怖さは無いのに何故かぞくりと心の芯が震える。


「何かを違反している訳じゃないから殴って無理矢理聞き出す事も出来ないし、こちらが何を提示しても君はそれに頷かない。正直どうしようかと流石の僕も悩んでいるよ」

「……っ」

「こうやって僕が威圧しても恐怖は感じるようだけど、頑なに口を割らないね」


 ブワ、とこちらにも伝わる殺気にハッとして、それから頭が痛くなった。このくらいなら私は何ともないけど、これはどう考えても一般の女子高生にぶつけるモノじゃないでしょう。手は出してないみたいだけど、そもそも密室に男二人に囲まれてるって状況も結構問題なのでは。


 佐々木さんに同情する。でも危険は無かったようなのでひとまずはホッとした。


「君は僕のファンクラブを名乗る連中に嫌がらせをされているみたいだね。アレは僕も鬱陶しいし、解散させても時間が経てばまた湧くから面倒で放っておいたんだけど。始末してあげようか」

「…………」

「そしたら君も教科書盗まれたり、上履きを水に付けられたりしなくなるんじゃない?」

「……そこまで知っておいて放置されたんですね。治安を守る生徒会が呆れるわ」


 佐々木さああん!! 一般女子とか言ってごめん! 強い、あなたは強い女性だよ! あれだけの殺気を当てられて言い返せるのまじで凄いと思う!

 そして会長お前はサイテーだな!


「発端は君の成績不良だろ。自分で解決しろよ」

「そうですね。麗しの会長目当てとか言われて、ですね」

「…………」

「…………」


 もう、私いらなくない? 会長相手に立派に佐々木さんは充分渡り合えてると思うよ。まさかパッと見お嬢様な佐々木さんがここまで強いとは予想外だった。不意に、今朝見せた強い瞳を思い出す。

 ……力が無くても心が強いって、こういう子の事を言うのかな。


「君、僕が本気で女に手を出さないと思ってる?」

「……いいえ」


「え」


 佐々木さんのふるまいに少ししんみりしていたら、急展開発生。ワントーン低くなった会長の声にギョッとした。

 会長って女子には手をあげない常識くらいは持ってるんじゃなかったの?! 突然の佐々木さんピンチに動揺する。



「……ルールを破らなければ、と思ってます」

「そう。よく分かってるね」

「あなたは()()()ではない。我が道を進む人でしょう」


「???」


 ヤバい話に着いていけない。例えが難しくて私には理解出来ん。けれど会長には伝わったようで、ニヤリと笑う気配を感じた。


「そうだね。君の言う通り。僕は時には自分の為に、自分のルールを破ることもある」

「っ会長!」

「こんな風に、ね!」

「……っ」


「だめ!!」


 ヒュッと風を切る音と逼迫した悲鳴。そして息を呑む音。流石にヤバいと思って止めに生徒会室に乱入した。


「…………あれ?」

「桜木さん……?」


 そこには椅子に座った佐々木さんと、それに駆け寄る体制で固まっている知らない顔のマッチョ。そして佐々木さんの隣にあるサイドテーブルを殴り壊している会長。


 その会長がゆっくりと態勢を戻し、そしてこちらをやけに遅く感じる動作で振り返る。にこりと笑顔を携えながら。


「やあ、はじめまして」


 いや、この状況で一人だけ笑ってるのは怖いて。

 ……それが、私が会長に抱いた第二印象だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ