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古樫

火、氷、雷、水、土、風、植物、金属。八つの属性を現す魔石結晶をその身に移植し、己の魂を対価に人を超えた能力者達。人々はその者達を畏怖と憎悪を込めてこう呼んだ、


付与術師(エンチャンター)と!

旧教の聖地であったレイター遺跡は50年程前までは野獣ハンター達の狩りの穴場だったが、連合国加盟前のエンゼタリア国の国軍によって完全掃討され そのまま封鎖されてしまっていた。

件の今の教皇の代になってから一度大規模な調査隊が送られたが、それっきりだ。

野獣避けは念入りの施されていたが、遺跡その物は今では完全に放置され、無人であった。

ラオデンはかつてのエンゼタリア国出身で、今では廃れた遺跡の管理者の家系であったらしい。

本営のセントラルラボ攻略まで少し余裕がありそうだったので、俺とまだ体調の悪そうなアイニスは、人も野獣もいない空虚なレイター遺跡に来ていた。

罠かもしれないので一応今朝の時点で別隊に調査に入ってもらい、その後、出入口を見張ってもらっていたが特に異変は確認されていない。それでも岩人形を4体連れてきている。


「ここか」


俺の探索用の強力な懐中電灯と、アイニスが作ったいくつかの光の玉で遺跡深部の壁のレリーフを照らしていた。

それは旧教で『古樫(ふるかし)』と呼ばれ、信仰対象となっていた聖なる樹の図だ。


「この、古樫はエンゼタリアに星の神秘の力を与えたというわ。学者は当時の未精錬な魔石を用いた原始的な付与術の恩恵を差しているとしているけど・・」


「これは、『(もん)』だね」


ポポが実体化して言った。


「門?」


俺が聞き直すと共に、古樫のレリーフの壁は輝き、気が付くと人形を除く、俺とアイニスとポポだけが夕暮れの草原にいた!

どこまでも草地が続いているが丘の先に大きな樹が1本だけ立ってるのが見える。


「・・古樫だ。これは、能力の発現、いや、星の世界に近い気がする」


「何が何やら」


「先に行ってる! 挨拶してくるよっ」


「おいっ? ポポっ」


ポポはさっさと丘の樹へと飛んで行ってしまった。

俺とアイニスは顔を見合わせたが、後に続く。

近付くと、アイニス達の拠点の森の巨木の森の木々程ではないが、立派な、樫の老木が立っていた。

そしてその根本には簡素で古びた石の祭壇があり、そこには樹の幹と根と半ば一体化した。古風な法衣を着た少女が座って目を閉じていた。

額に植物の魔石、それもあり得ない程の純度と力の密度の物が埋め込まれ鈍く輝く。

ポポはその肩に止まってあくびを1つした。


「来たね、イズキと、アイニス。星の世界で、哀れなラオデンに詫びられたよ」


少女が両目を開くと、その目も丸ごと緑石の魔石だった。マジか??


「貴女は? ラオデンから促されてきたのですが・・」


「私は、エンゼ。私が記憶する限り、この世界の最初のエンチャンター。星の世界の秘密を解き明かしてしまった者さ」


「人間なのに『こっち側』になっちゃった人だよ」


ポポに言われるとエンゼは苦笑した。


「文明の発達と共に私の解き明かした技は廃れると思ったんだけど、人間は存外、しつこい所があったようだね。まぁ随分なことになっているよ」


「気楽なもんだな。もう神様みたいになってるなら、ちょっとはなんとかしてくれないか?」


「コインマンか。アレは、1つの『完成』だ。私とは違う方法で、星の力に摂理を与えることに成功した。着地があんなことで、まぁ、残念な気分ではあるよ」


残念て・・


「私の命は残り短いですが、教皇の狂気を止めたい!」


エンゼは魔石の瞳でアイニスを見詰め、ため息をつくと、おもむろに自分で左目の魔石を取り出したっ!


「おいっ、あんた!」


見てるこっちが慌てた。


「この時代にもコインマンに対抗できる星獣は『何体か』いるが、契約者達の方が、お前達のようには動かないだろう。アイニス、お前にやろう。正直、今さら1つ大陸の人類がどうなろうが関心無いが、無礼な小僧に、私の棲み処を荒らされたくない。ラオデンの一族への手向けでもあるね」


エンゼの魔石の目玉は浮き上がりアイニスの胸部の魔石に吸収された。


「ああっ!」


アイニスの樹の力が高まり、ユニコーンが実体化して立ち上がって鳴き声を上げた。周囲の植物が活性化しだしたがエンゼが指を鳴らすと収まった。


「その力でも、コインマンには打ち勝つのは難しい。契約者の精神性が尋常ではない。そこでイズキ」


「俺?」


「ポポに氷の力の真理をいくらか伝えておいた。ポポは現れ方がいい。長く研鑽すれば私に頼らなくてもコインマンに対抗できる程だ。といっても時間がないから、カンニングさせたが」


「ポポ、結構秀才だよ?」


カンニング得意なのは秀才じゃないぞ?


「私はあまり、そっちに関わり過ぎると、良くない。この辺だね。後は2人で上手くするといい・・ポポ、イズキの側にいてやるんだよ?」


「契約したし、しょうがないからねぇ」


エンゼから、景色が急激に遠退いてゆく! 俺とアイニスとポポは元来たその先へと引き戻された。


「エンゼ様! 必ずっ」


「俺も、かぁ」


俺達は人形達が困惑していた、レリーフの壁の前に戻っていた。

アイニスはすっかり活力を取り戻していたが、ポポの力も高まっている。


「こりゃ、行くとこまで行くしかないか」


蝙蝠の言う通りだ。参っちまったな。



・・セントラルラボが落とされて、5日。各国は存外、牽制し合うに止まっているようですね。

『私』を取り込めるか? 伺っているんでしょう。


「どうした物ですかね? コインマン」


「ドッチト、何ヲ、交換スル?」


私の聖堂の、私の前に、2人のエンチャンターがたどり着いていました。コインマンは既に顕現させています。

1人は一体どんな代償を支払ったのか? 異様な樹の力を宿す、緑石のエンチャンター、ユニコーン使いのアイニス・フォレストクラウン。

要注意人物だとは思っていましたが、インヴァースではなくこの子が障害になるとは。


「おいっ、俺にも注目していいんだぜ? 最近このパターン多くてうんざりしてきたっ」


「ポポもいるよ~」


もう1人は確か逃げた出来損ないの、氷石エンチャンター。妖精のようなのを連れてますね。まぁいいでしょう。


「全ては星の腹の中のことです。・・では」


2人のエンチャンターは構えを取りました。ん? 氷の方も妙に力が強いですね。へぇ。


「交換しましょう、その卑称な運命を!!」


コインマンは、星と仔犬の、私の硬貨を弾き出しました。

無念! ここまでですっ。このシリーズの要素は他話に生かしたいですね。読んでくれた方々はありがとうございました。

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