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蝙蝠 前編

火、氷、雷、水、土、風、植物、金属。八つの属性を現す魔石結晶をその身に移植し、己の魂を対価に人を超えた能力者達。人々はその者達を畏怖と憎悪を込めてこう呼んだ、


付与術師(エンチャンター)と!

蜃気楼(しんきろう)を操る星獣の力で隠された巨大潜行型飛行船が現在のグラスランス本営拠点だった。

副リーダーのオモチがグラスランス本営と距離を置きたがる傾向が強く、ゴーグルにマスクをしたアイニスは一人ユニコーンの星獣の力で低速高高度航行している船の傍まで気配と事前情報を頼りに『駆け上がって』きていた。

艦橋付近の蜃気楼が解かれた。

艦橋に向けて加減した光の槍で、明滅信号を送り、着艦許可を伺うと、艦橋の蜃気楼が再展開されるの同時に後部ハッチが開かれ、アイニスは宙のその場で足踏みする形で止まってハッチ側に周り、着艦した。


「お疲れ様です! アイニス同志っ。エンチャンターは自力で船まで来れるから、凄いなぁ」


見たことある本営の若手構成員だった。


「獲得した星獣が飛行向きだったから・・」


経験上、こういう無邪気なタイプは任務で過剰に非情になるか、すぐ動揺するか、そのどちらかであることが多く少々苦手に感じたアイニスはマスクを取って曖昧に応え、ゴーグルも取りながらさっさとドッグから通路へと移動した。

余計な寄り道はせず、グラスランス総代の部屋に向かう。本営の船は広く、空を駆けてここまで来た時より遠い道のりに感じ、すれ違う同志達の羨望や猜疑や自分の活動の信念に入り込み過ぎて無関心な様子を見続ける内に、アイニスは少し目眩がして一度立ち止まった。

実際、これまでの戦いで寿命をかなり消耗していたがまた種類の違う疲労だった。

警備の厳重な総代の部屋に入った。観葉植物が多く緑の匂いがする。


「来たね、アイニス。エンチャンター狩りをしてた手練れのエンチャンターを2人も撃退したんだって?」


柔和な表情の青年が執務机越しに迎えていた。グラスランス総代、雷石(らいせき)のエンチャンター『内なる世界(インヴァース)使い』のウカ・キャリバーであった。

傍に機械化して仮面を付けた女が微動だにせず立って控えている。副官兼護衛のメウルゼェンという。アイニスはメウルゼェンが話しているのを聞いたことがなかった。


「相性もあったわ。作戦立案のモブェルフュートは戦前、『4等民狩り』で出世した男。どうしても芽を摘んでおきたかった」


「まぁ、ね。更迭されてまともな警護もつかなくなった。『手癖』も悪いヤツらしいし、なる早で暗殺しておくよ」


「・・そう」


武装反政府であるグラスランスに『起訴に追い込む』等という脆弱な選択肢は無い。法は、破壊するだけである。


「ウカ。むやみに本営の船まで来るべきでないことはわかっているけど、寄れる機会はそう無いから」


「うん、コソコソし過ぎて、私が実在しないと思われたりもしているようだしね」


苦笑して見せるウカ。


「セントラルラボの襲撃、近いんでしょう? 今回は教団の方は陽動で済ますのは私も賛成だわ」


「ああ、大聖堂の方を襲っても教皇を取り逃がせば、大量の犠牲を出してもタダの空振りだ。ラボは潰す。各国の諜報部も首都周辺で動いてる。偽りの枢軸主義の資金源を断ち、ボロを出させてやろう」


「ええ・・ここまで長かったね、ウカ。初期メンバーで残ってるのはもうほんの少しだけ」


目を伏せるアイニス。


「必ずやり遂げよう。だがその前にいくつか仕事をしてもらうよ?」


「わかってるわ。次は列車ね。一人でも多く救ってみせる。ただ」


アイニスは不調らしい左腕の機械義手を掲げてみせた。


「ピクシー使いにやられた。パーツが足りないの、本営の船にあるかしら?」


「用意させるよ。昔の怪我も君の能力で治せたらいいのにね」


「これは、これでいいわ。・・じゃあ、ウカ。また会えたら、いいわね」


「ああ、アイニス。必ず」


アイニスは退室していった。

柔和な表情を解き、冷え冷えとした顔になるウカ。


「インヴァース、どう思う?」


ウカの左肩に抽象的な小鳥のような星獣が現れて止まった。


「ぴくしーノ力ハ感ジテイルヨ? あれハ強イ星獣ダネ。『現レ方』ガイイ」


「違う。アイニス・フォレストクラウンだよ」


「ピョエ?」


「苦手なんだ、最初から。正義の味方みたいだろう? すぐ死んでくれると思ったけど、ユニコーンの力が強過ぎてね」


眉をしかめるウカ。ある種の卑屈さも表情にあった。


「・・殺ッチャウ?」


「いや、今となっては教皇を殺すまでに欠かせない戦力だ。教皇だけはっ、必ず殺さなければならない」


全身を帯電しだすウカ。


「こいんまんハ強イヨ?」


「わかってる・・メウルゼェン。アイニスの動向は定期的に把握しておいてくれ、今日、改めて会って『敵になりうる』と直感する物があった」


「・・・」


応えないメウルゼェン。ウカはため息をつき、帯電を解いた。


「信頼できるのは君とインヴァースだけさ」


ウカは呟き、左肩のインヴァースも消した。



・・アイニス一派を取り逃がしてから一週間後、俺達は山地を走る列車警護の任務についていた。今は食堂車で昼食中だ。任務中、まともに食事できると思っていなかったから僥倖(ぎょうこう)だが、現場の指揮をしている財閥系出身の少佐は危機感に欠ける印象があった。

エンチャンターが2人も配置された、ということは諜報部が危惧に値する材料を掴んでいたということでもある。

件の少佐は任務地に連れてきてしまっている女優だかダンサーだかの愛人に厚切りステーキを食べさせてもらってホクホク顔をしていた。ダメだこりゃ・・

治療と星獣の力で俺の傷はすっかり癒えていたが、テッドは変わらず手当ての跡があちこちあった。

新しいスポンサー、かなり厳しい人物らしい。世襲議員の家系だっけな?


「先輩、大尉、プディングあったぜ? 奢る」


俺は給仕を断ってカウンターで買ってきたプディングの皿とスプーンを、さっさと随分軽い食事を終えて頬杖ついてきたテッドと、食事しながら器用に席の遠い現場指揮少佐に向かって「無能がっ、蟇蛙(ひきがえる)めっ」と小声で毒づいていたマリガン大尉の前に皿を置いた。

自分の分もテーブルに置き、2人の前に座った。


「私の血糖値を増やして暗殺する気か?」


「随分遠回しな手口だ」


「口の中の左側、ちょっと切ってるんだけど」


「右側で食べると美味いぜ?」


俺はプディングを食べてみた。・・ふん?


「砂糖は、たくさん使ってるな」


田舎で伯母さんが作ってくれた玉子とミルクの味の濃い、素朴なヤツの方が俺は好きだ。


「潜行船のレーションのゴムみたいなのよりかはマシだ。アレでいいと判断した者は銃殺に値する!」


「・・甘いね」


甘味の類いを食べているからポポが出てくるかと思ったが、案外出てこない。気まぐれなヤツ。


「というか、列車警護って、積荷も教えてくれないんだな?」


セントラルラボへの中継空港のある駅までの移送だ。

この辺りだと、共和国の遊撃隊の類いが領土内に入り込んでいて、駅まで送らないと潜行船か高高度船、あるいは高速船じゃないと飛行船で運ぶのは難しいらしい。

その種の船は前線でも不足しているから早々内地の非戦闘任務に回ってこない。

列車は列車で危ないが、交通インフラへの攻撃は戦後の賠償金が桁違いになる上、軍用車両はちょっとした高速移動要塞になってるのでコストのわりに固いと判断されたのかもしれない。

まぁ俺達が派遣されたのはたまたま近かったのと、前回の失態で潜行船の運用権を失ってしまったから、隊全体で軍用空港のある所まで行ける任務がちょうどよかったってのもある。

この任務自体がテッドの新しいスポンサー絡みらしいが、詳しい所はさっぱりだった。


「運び屋は積荷の中身を知らなくていいという。イズキ、貴様に教訓だ。ふふん」


「マフィアの下っ端みたいじゃないかよ」


「軍なんて、いいもんじゃないよ。終戦したら戦中みたいな強引なことはやり辛くなるから、今の内に稼いどきたいんじゃない?」


「え? ガチでお偉いさんの小遣い稼ぎなのか??」


マジかよ、なんか急に面倒になってきたぞ?

その直後! 火の魔力を向かって右手側後部に感じ、感じた傍から火球が食堂車の右手後部の窓を割って飛び込んできて、少佐と愛人と近くにいた給仕と下士官を消し飛ばしたっ。

火炎と熱が拡がるっ! テッドは迷わず水の弾丸を放って食堂車の全ての窓を割りつつ、炎を鎮火し、マリガンや他の生きている軍人や食堂スタッフに水を被せ、俺の周囲に水の玉を3つ浮かせてその支配権を譲渡してきた。

列車の火砲が迎撃を始めたようでもあった。


「オレは途中までドS大尉を連れて『貨物』のカバーに行く!」


小脇に大尉を抱えるテッド。


「おいっ? まず誰がドS大尉だっ。というか、扱いが雑! 上官だぞっ、ケホッケホッ」


噎せている大尉。


「こっちは車外に出る! 非戦闘員は窓枠に顔出すなよっ? ポポっ!!」


「ふぁい」


気だるそうなポポを実体化させ、吹雪に乗って、氷の盾を張りながら、走り砲撃している列車の外の側面に慎重に出た。

途端、火炎弾の雨! 側面だけでなく、列車の上部に取り付けられた手近な砲台も纏めて吹っ飛ばされたっ。氷の盾も砕かれる!

翼を持ち飛行する乗用野獣に乗った共和国兵達が列車に攻撃していたっ! エンチャンターは火を操る1人だけのようだったが、コイツは・・


「オイ~っ!! 誰かと思ったら、いつかの『俺に構うな』ちゃん、かよっ! エンチャンターになってやんのっ!! ハハハッッ」


笑いながら火炎を数発撃ち、炎の蝙蝠の翼を拡げて乗っていた飛行野獣を焼き払って自力で飛びだす火石のエンチャンター! 戦場で普通の人間だった俺を半殺しにして吹っ飛ばしたヤツだっ。


「お前どんだけツイてないんだよっ?! 同情してやろうかっ! オラぁーーっっ!!!」


「ポポ!!」


(うぬぬっ)


炎の翼を畳んで錐揉み回転で高速体当たりしてきた火のエンチャンター! 俺は氷の荊で強化した氷の盾2枚でどうにか受けきったっ。


「お互い様なっ!」


「ああっ?! ビキナーがよっ!!」


俺と火の蝙蝠野郎は列車側面近くの中空で吹雪と火炎を激しくぶつけて炸裂させた!!

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