表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

一角獣 前編

火、氷、雷、水、土、風、植物、金属。八つの属性を現す魔石結晶をその身に移植し、己の魂を対価に人を超えた能力者達。人々はその者達を畏怖と憎悪を込めてこう呼んだ、


付与術師(エンチャンター)と!

輝く雪の中、だいぶコツがわかってきていた。


「ポポっ!」


「はいはい」


冷気に変わったポポが巻き起こした冷たい風の中に氷の(いばら)を発生させる。アンモニアとソフトドラッグ臭い場末の通りに拡散する!

ポポは元になった童話の『挿絵』に因んだ発現をすると効率良く力を出せるようだ。 荊は『荊の魔女の園』の場面からだ。

物語の中では誤解を解きにゆく件だった。やや皮肉か?

痩せて顔色の悪い相手は半端な『爆破』の力で応戦してくるが、そんな火力でこの荊は止まらないっ。


「ちっくしょうっ! 政府の犬がぁっ!!」


「通り名も好きじゃないが、やたら『犬』って言われるのもな」


俺はため息をつきつつ冷たい荊で痩せた男を捕らえ、左手の甲の移植されていた粗悪な火の魔石結晶を左手ごと砕き、爆破を消し去り、昏倒させた。

荊が砕け、ポポが実体を取り戻す。


「後輩君、また生け捕り? 甘いんじゃなーい」


もう1人の粗悪な魔石結晶移植者を魔石ごと複数の水の槍で惨殺していたテッド・ビッグリバー。年下の先輩。


「捕らえて諜報部に引き渡す。それに粗悪品でも魔石に適性があったのなら、働き口はあるよ」


『いい仕事』じゃないだろうが、死んでしまえばそこまでさ。



8年余り膠着していた連合国と共和国の戦争は、大陸最大の魔石採掘地帯アダマン平原の戦いが『若干程度』連合国に有利となったのを機会に、大半の周辺大陸諸国は連合国への大規模な物資と資金提供を始めた。

財閥と聖教会と国民を煽ることしか知らない代議士達による肥大した枢軸主義の方が、無法で交渉の余地が無く経済発展の見通しの無い機構主義よりまだ『マシ』と判断したらしい。

これで戦況が一気に変わり、本格的な物量戦が牙を剥き始めると、探知や撹乱、特殊部隊等の活動に強い適性を持つ者達以外のエンチャンターは、前線でチマチマとゲリラ戦じみた戦いをする必然性が薄れ『戦後』の工作戦に備え、後方で『雑処理』というより他無い任務を振られるようになった。

違法移植された粗悪なエンチャンターもどきへの対処等が今のところ多いな。

1度、マスコミも入れた、お偉いさんの戦勝を先取りしたパーティーで大量の『フラッペ』を作ってみせるパフォーマンスをやらされて、ポポを宥めるのに随分苦労したりもしたが・・



他の処理車両とは別にピックアップの防弾車が2台来たから、ん? と思っていると、テッドはもう1台に乗っていずこかへ走り去っていった。


「雑用続きになったのは俺のせいじゃないと思うんだが、怒らせたかな?」


後部席の隣に座ってるマリガン・カシモリ大尉に振ってみた。

いつもなら『貴様、くだらんことを言うな』とか『個々のエンチャンターの心情等問題ではない』とか、即、つんけんしてきそうなもんだが、マリガン大尉は片側だけ眼鏡に掛かり気味な前髪を指でイジり回す初見の仕草をしていて、妙な間が空いた。

まだ実体化しているポポは最近食べるようになったレーズンにかぶり付いている。人を食べる星獣も珍しくないので『喰おうと思えば喰える』らしい。


「・・あの小僧を後援しているモブェルフュート中佐がこの街に来ていてる。行ったんだろう」


確か、教会閥出身の髭ダルマのマッチョな男だっけな。


「へぇ? ああいうタイプでもスポンサーの御機嫌は伺うんだ」


「アレは中佐の小姓(こしょう)だ」


「古風だな」


槍に荒い精製の魔石を仕込んで鎧騎士が野獣と戦ってた中世じゃあるまいし。と思ったが、なぜか大尉にうんざり顔をされた。ん?


「我々も、これから向かう所がある」


「船に戻らないのか?」


「重要な任務だ」


まだ任務があるのか? 俺の寿命、随分安く見られてるんじゃないか。



途中、服屋に連れてゆかれ、特務部の連中にスーツに着替えさせられ、コロンを振られ、整髪料で髪を撫で付けられ、その上でかなり加減された緩いクラシックの生演奏のある高級レストランの座席に座らされた。

向かいの席には相変わらず眼鏡にしかめっ面ではあるが、化粧をしてドレスアップしたマリガン大尉が座っている。

ポポは整髪料の臭いやベタ付きが苦手らしく、テーブルの上に用意されていた人形用のアンティーク調椅子に座ってムッとしていた。


「マリガン大尉、これは?」


「イズキ・エルリーフ中尉。貴様のこれまでの働きから、凄惨な任務を除けば対応力が高く、精神的にも安定しており、有用評価は『A』と判定された。戦後、国籍の再発行もあり得る。退役まで生き残れば、監視の元、政府関連の民間業務等での社会復帰は認められるだろう。僻地であれば一般職に就くことも不可能ではない。戦前ではあるが、前例は多数ある。反乱防止策でもあったんだろうが」


どう受け止めればいいやら。ポポは知らん顔で凍らせた、戦中でもある所には当たり前にある高級ワインの粒を齧ったりしているが。


「その上でだ! 貴様の信用度をさらに高める為にっ。今夜、私に貴様と性行為に至らしめと、指令が下ったっ!」


赤面して言い放つマリガン大尉っ。


「・・え?」


「今夜、私に貴様と性行為に至らしめと、指令が下ったのだっ!!」


ヤケクソ気味にリピートするマリガン大尉っ! え~っ??


(ヤっちゃうなら終わるまでボクは消えてるけど?)


テレパシーで伝えつつ、椅子の背もたれに沈んで脱力しているポポ。


「いやいやいやっ、大尉。その・・やめとこう。返って、具合が悪いよ。な? ハハ」


「私と性行為に至らしむのが嫌だと言うのかぁっ?!!」


椅子から立ち上がって声を上げるマリガン大尉! 他の客や演奏者、従業員達がギョッとするっ。


「違う違う違う違うっっ、任務と! プライベートは分けようかっ? マリガン・カシモリ大尉っ!! 貴女の戦後の人生の為にもっ!」


息の荒い涙目の大尉と目が合っていたが、やがて座ってくれた。


「おいっ、肉料理と酒の追加だっ! 血税を無駄にしてやるっっ」


ポポは面白がったが、荒ぶる大尉は給仕に申し付け、その後はガッ付き、大酒を飲んでいた。

参ったぜ・・



翌日、俺とテッドと二日酔いのマリガン大尉は、潜行飛行船で次の目的地へと向かっていた。


「久し振りにまともに力を使えそうだね」


上機嫌のテッド。そんなに寿命を星獣に渡したいのか? 言わないけどさ。


「・・相手はレジスタンス気取りのテロリストどもだっ! イタタっ」


声を張ったから響いたらしく頭を抱える大尉。没落した旧財閥の娘で、終戦まで一定の地位に居続けないと家が詰むらしい。

1等国民が2等国民に格下げとなれば、物価の安い新興国にでも移住しないと家格は保てないだろうしな。


「とにかくっ、・・終戦間際に今になって活発化した反政府組織『グラスランス』! その有力一派の拠点をようやく諜報部が突き止めた! 現地部隊と合流しっ、一気に叩くっ!! ううっ」


「水をもう少し飲んだ方がいいんじゃ?」


「今、飲もうと思ったところだっ! 貴様は私に構うなっ」


「・・了解した」


(意外と合うかも?)


(はぁ?)


姿を消してるポポにテレパシーで混ぜっ返されたりしたが、俺達の船は目的地の全く人家の無い野獣(やじゅう)ばかりが多い連合国領ホーデル荒原(こうげん)へと向かった。



・・電撃を飛ばすキリン型の野獣や、鉄製品を噛み砕くハイエナ型の野獣、意思ある吸血回転草(かいてんそう)等が目立つホーデル荒原には巨石群が目立つエリアがいくつかあった。

その一つの一際大きな巨石が積み重なった、半世紀以上前に連合国と荒らそって滅ぼされたこの地の先住民達が『地門(ちもん)岩宿(いわやど)』と呼んだ岩の小山の中に、グラスランスの『アイニス派』の拠点はあった。

室温はかなり低い岩山の中心部近くの空洞を改造した広間に、左腕は機械義手で栗色の長髪を束ねた女、アイニス派リーダー、アイニス・フォレストクラウンはいた。

内部のアニス派構成員達はかなり慌ただしく動いている。


「地下水脈! いつでも抜けられるようにっ。非戦闘員はもう行って! 無理しなくていいわっ!」


「アイニス! 歩兵は大した規模じゃないにしても、エンチャンターが2名こっち向かってるっ。同志からの報せだから間違いないよ。襲撃がわかってるなら迎え撃たなくても」


副リーダーのかなりふっくらした体型の女、オモチ・キナコスキーが忠告した。


「こっちに戦力が無いのと時間を掛けると他の閥に手柄を盗られそうだから、作戦は拙速。立案者がモブェルフュート中佐なら教会閥の中でも美味しいとこ取りしかしないヤツら! ここで叩いとけば減点合戦してる本営であの閥自体に打撃を与えられるわっ」


減点合戦~の件で眉をひそめるアイニス。


「勝算、あるかい?」


「ある! このアジトと、あの子達が切り札よっ」


アイニスは殺気立った状況に怯えて身を寄せあってる子供達3人を振り返った。

3人共、額と、左の手の甲から肘の辺りまで包帯が巻かれ、その上から奇妙な文字の書かれた札を何枚も貼られていた。

左手は札や包帯越しに左の手の甲に何か異物があるのが見て取れる。


「機構主義もどうかしてるわ。でも、枢機のヤツらが魔石適応者や4等国民にしてきたこと、必ず償わせる! この一角獣(ユニコーン)使いのっ、アイニス・フォレストクラウンが!!」


額に1本の角を持つ輝く馬の星獣を出現させ、緑石(りょくせき)のエンチャンターは怒りと魔力で瞳を輝かせていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ