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火、氷、雷、水、土、風、植物、金属。八つの属性を現す魔石結晶をその身に移植し、己の魂を対価に人を超えた能力者達。人々はその者達を畏怖と憎悪を込めてこう呼んだ、


付与術師(エンチャンター)と!

ようやく、故郷に来ていた。俺が脱走しないように特務部の連中が遠巻きに見ている。

全て破壊されていた。死体はとっくに回収されているが、焼け跡の炭や剥き出しの生焼けの木材の臭いはした。

まず実家の跡を見て、それからネリシャの家に行った。爆破はされても、それ程引火はしなかったようで家は形を留めていた。

こんな田舎に魔石対空システム等無い。対空できそうな機銃も手回し式の骨董品が1基、自警団のガレージで埃被ってるくらいだ。

深夜、ワケもわからないまま、郷の周辺域や農地以外の家屋は潰された。

連中は別件で領空を侵してきたが不首尾(ふしゅび)で、撤収する際に腹いせで『寄り道』したと推定されている。

俺は崩れたネリシャ家の中までは入らず、もう郷を去ろうと踵を返し掛けたが、


「ちょっと待ってほしいね」


小さなダイアモンドダストを起こして小妖精が姿を現した。


「なんだよ?」


「いい物があるんだ」


小妖精は笑ってみせ、崩れた家の一角に氷を発生させ、その氷を操って近くまで引き寄せた。

焦げた本が入っている。


「ネリシャの童話か」


彼女が子供の頃、ネリシャの好きだった物語。氷は砕け、薄い焦げた童話は俺の手の上に落ちた。表紙はほぼ小妖精だ。

読める部分には、北国の森の奥の凍った泉で1人で踊ることに飽きた小妖精が旅立ち冒険をして最後は人間になり、旅で出会った少年と2人で、新たな小妖精達が産まれた氷の泉を訪ねてくる所で物語は終わる。

幸せなフィクションだ。


「この子の名前はポポ。ボクのモデルだから、ボクの名前もコレにしようと思うんだ」


「いいんじゃないか? 次は、集合墓地に行く」


俺は閉じた本を手に踵を返し、特務部の連中が回していた防弾車の方に歩きだした。


「イズキ。一回、ボクを呼んでみてよ?」


「最近、我が強くなったんじゃないか?」


「呼んでみてよ」


厄介だ。


「イズキ、イズキ。イズキ・エルリーフ!」


顔の周りを飛び回って言ってくる。


「わかった! ポポっ、お前はポポだ! これでいいか?」


「エヘヘっ。そう、ボクはポポ。それがボクの名前」


それからしばらく、車が出てからもポポは実体化し続け、特務部のヤツらに怪訝な顔をされていた。



俺の次のターゲットが決まった。土石(どせき)のエンチャンターだ。通り名は『鯨のミヴゥーム』。動物の名前を付けるヤツはわりと多い。今回はついでに、重要度は低いがソイツが詰めてる共和国の前線基地を潰す手筈だ。

魔石対空システムに掛かり難い、潜行(せんこう)飛行船で近くまで運ばれる。


(・・いいの?)


実体化せず、テレパシーだけでポポが話し掛けてきた。


(何が?)


(兵隊のままでいいの?)


(今、どうこうしてもすぐ始末されるだけだ。エンチャンター1人じゃ攻撃飛行船50隻に勝てない。属性や手口がバレて搦め手が嵌まれば、歩兵300人にも勝てないんじゃないか?)


(諦めた? 歴史になっちゃえば戦勝国以外では『遺憾な時期があった』くらいだろうけど)


(そこまで達観してない。この時代のことはこの時代で片付けるべきだ。俺はその動きの一部でもいいと思ってる)


(・・そう、思ってるだけ?)


手厳しい。ネリシャ達の意思がベースなら、それもそうか。


(エンチャンターの力を使いこなせてない。それに、俺は俺が思う程、機能的な人間でもないんだよ)


(卑屈は言い訳にならないと思う)


(ああ、そうだ。ポポの童話みたいにできない)


捨て台詞みたいになっちまって、言った傍から砂利を噛んだ気になっちまった。


「イズキ・エルリーフ中尉」


軍の方の俺の担当者の眼鏡女がキッと睨んで呼び掛けてきた。マリガン・カシモリ大尉。常に睨んでくる。軍人でよかったな。


「もうすぐ降下地点だ。現地では陽動隊とは別にもう1人、潜入向きのエンチャンター都合がついた。・・鯨にはこちらの兵をこれまで5万人あまり殺された」


「一桁間違ってないか?」


さっきの計算が早速パンクしてるぜ。


「正確だ。ヤツは制圧向けの能力だ。いずれにせよ、貴様は現地でもう1人のエンチャンターと共闘し、確実に鯨を仕止めろっ! その呪われた、恥ずべき命に代えてもなっ」


(コイツ、ボク、嫌い)


毎回『死んでこい』としか言わないヤツではある。



吹雪を纏い、一応低空飛行で夜の闇に紛れて飛び、目的地の共和国前線基地『ヨ・036』近くの高台まで来た。

特注の氷の魔石を仕込んだ耐寒懐中時計で確認する。今の俺は暗闇でも問題無く見える。

やがて、予定の時刻になった。

合図も何も無く、基地の正面と東側側面から陽動隊の攻撃が始まった。


「また無駄に、ボク達の中に還ってゆくね」


「よせよ」


露悪だろ。

俺とポポは西側側面から潜入を始めた。

道すがら、範囲内の攻撃飛行船等は飛べない程度に壊してゆく。かち合わせた歩兵は冷気や打撃で昏倒させる。手加減できない程の状況じゃない。


「ポポ、もう1人のエンチャンターと鯨の位置はわかるか?」


「鯨は待ち構えてるみたいだからわかる。もう1人はたぶん地面? 隠れて動いてるから特定できない。そっちも鯨の位置はわかってるからほっといていいよ」


「わかった」


すぐに基地のあちこちで水の柱が噴き出し、基地兵員を混乱させだした。鯨の能力じゃないし、もう1人のヤツだろう。進み易くはなった。


「こっち! 車が来るけどっ」


「構わないさっ」


ポポの案内で進むと装甲戦闘車2両を伴った歩兵隊だ。悪いが、俺の技量じゃこれは手加減できない!

歩兵の銃撃と装甲戦闘車の砲撃を吹雪で加速しつつ避けて突進し、すれ違い様に歩兵と操縦席の戦闘車乗りを凍結させて砕いた。


「あれ?」


吹雪から小妖精の姿に戻ったポポが困惑しだした。


「鯨が、凄く近いかも? ・・上?」


見上げると、軍服の小柄だが屈強そうな初老の男が浮かせた小さな土の塊を掲げるよえうにして、宙に飛び上がっていた。鯨のミヴゥームだっ!

くっそ! 全く探知できなかったっ。


「フンっ!」


ミヴゥームが投げ付けてきた土の塊は見る間に巨大化し、家2軒程の大きさとなって降ってくる! 俺は吹雪に変えたポポのに乗って回避した。

コンクリートの地面が陥没し、装甲戦闘車が潰されて爆破する。見た目通りの質量じゃないなっ。


「連合国のエンチャンターか。醜い枢軸(すうじく)主義者の犬め!」


落とした土を操り、通り名そのままに鯨の形に変えて乗るミヴゥーム。


「鯨に犬って言われてもなっ!」


(ポポは妖精さんだぞっ)


高速移動しながら氷の矢を連発するが土の盾で防がれ、向こうが撃ってくる土の弾丸は重く、氷の盾で防ぎ切れず捌き難い。


「相性、悪いっ」


冷や汗を凍らせていると、


バシュウウウゥッッ!!!!


陥没させられた地面から水の柱が噴出し、ミヴゥームと操る土の鯨を水浸しにしながら宙高く打ち上げたっ。


「後輩君! 今だってっ!」


水の中から液体の15歳くらいの少年の人魚が出てきて、すぐに水でできた馬と魚の中間くらいのモノと実体化した連合国の軍服を来た少年に分かれた。

味方のエンチャンターか、器用な事する! だがありがたいっ。


「ポポ!!」


「うんっ!」


俺はポポを冷気の渦に変え、氷の剣の連打と吹雪を同時に放ち、剣は濡れた土の盾で防がせ、土の鯨本体とミヴゥームには吹雪を吹き付けさせた。


「おおおっ?! 機構主義だけがっ、人類に真の平等をもたらすというのに! なぜ・・わから、ないっっ、がっ?!」


水を被ったせいで、土の鯨とミヴゥームは為す術無く凍り付き、砕け散っていった。


「はい、任務完了っ! あとは兵隊さん達で十分でしょ? オレ達は魂、消費しちゃうもんね?」


華奢な少年兵のエンチャンターは気安く話し掛けてきた。どうも先輩らしい、俺は扱いに困った。


「あ、ああ。撤収しよう。・・えーと、俺は氷石のエンチャンター、イズキ・エルリーフ。こっちは俺の『星獣(せいじゅう)』で、ポポだ」


「ポポだよ、よろしくね」


「妖精使いのイズキ君だね。凄い自我のしっかりした星獣なんだ」


「まぁ、な」


「オレはテッド・ビッグリバー。水石(すいせき)のエンチャンターで、『ケルピー使いのテッド』って呼ばれてる! これからもよろしくっ、後輩君!」


連れてる水の馬だか魚だかは特に喋らなかった。


「・・了解した」


属性相性からしたら今後も組むことは多いかもしれないな。

しかし、炎上する基地を見回し、やはり自分が立場を変えて再生産しているだけような気はした。

ポポの指摘を、いつまでもはやり過ごせないだろう。

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