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結末

 「ひゃあああぁぁぁぁ、ひぎいぎぎぎ」

 「始まったぞ、成功したんだ」

 未来が腰を据えて、皆立ち上がった、次の瞬間甚田を含んで皆止まってしまった。


 「おねえちゃんっ!、どうしたの、おねえちゃん」


 「駄目ッ!、きゃぁ」

 「痛っ」

 ばきゃん、がしっ、ばたばたばた。ばたぁつ!!。


 有ってはならない音がして皆一瞬の間が開いてしまった。


 「おねえちゃんっ!!!」

 「このっ!!」

 腰を落としていた未来が一番早く、渾身の力で引き戸を引き開けたために外れて飛んだ。


 「あっああああぁぁああっ、あああああああああぁぁぁぁ」

 「おねえちゃん、どうしたの?、いたいの?」


 十歳にならない少女がさよちゃんに抱き着いて頬擦りして泣いていた、只々音を出すしかできない喉で。


 「おなかいたい?、なかないで、ねえ、おねえちゃん、うぇっ」

 「これが右手の、最後の思い・・・」

 静祢が呟いた。

 「うえええええんっ、おめぇちゃん、ないちゃやぁぁぁ」

 「ああああっうあああああんん、ああああああんっ」


 慌てて囲炉裏部屋に入ってきたさゆりが見たのは抱き合って泣いている姉妹と呆然としている大人たち。


 そして泣いている未来だった。



 翌朝、甚田一家や村長、村人たちに送られて一同が村を出た。

 

 しばらくして侑次郎が伺うように聞く。

 「あのー日真理さん?」

 「何でしょう?」

 「いえっ何でもないですが、そのよいのですか?」

 ここにきての質問とは!と日真理が目を見張る。

 「まさかあなた!」

 一同がジト目で侑次郎を見る。


 「いやいや待て待て、嬉しいです、来てください、けどお前ら昨夜一緒にいたよなっ!」


 後ろのきゃっきゃうふふを聞きながら肩を落として前を歩く香とさゆり。

 「そうだ姉様、あの結界教えて下さいよ」

 「え、教えるのはいいですけど時間かかりますよ?」

 「姉様はどれくらいかかったんですか?」

 「ええと、習得には二週間ぐらいだったでしょうか?」


 それじゃあ自分は二か月くらいかかるなと計算した。

 「けれど大変だったのはその後で」

 「え?、副作用とか有るんですか」


 香がため息交じりにいう。

 「はい、人や物がまともに見えなくなります」

 「まさか、いまは?」

 「ちゃんと見えますよ、戻るのは、だいたい三か月だったはずです」


 これを自分に当てると早くて半年、予想では一年かかると考えて頭の後ろに手を当てて空を見てしまう。

 後ろで侑次郎が日真理さんの機嫌を取って、未来と一樹が剣の話をして昭と章子がもじもじしているのを吹雪と山賀夫婦が見ている。


 刀を見せてもらって、目を輝かせる未来を見てやっと子供の立ち位置かと大樹が微笑む。


 「なに?」

 なんとなく後ろを見てしまったさゆりが未来と目が合って気まずくて聞いてしまう。


 「あのさ、一樹さんの家、部屋が沢山有るんだってさ」

 まさかの内容にさゆりの動きが止まる。内容もだが話し言葉に癖が無い。


 「大樹さんもまだしてないって言ってたし」

 大樹と静祢と章子が目を丸める。


 「一緒に住んだりできないか?」

 城條 さゆりが上を向いてから後ろを見た変な姿勢で固まった。


 「祝言をあげてさ」

 日真理が侑次郎の腕に近づいて、章子が昭を見て大樹が口を大きく開けて吹雪が飛び出した。


 キアー!!。

 「痛っ、痛いって、何だよ、イテエ」

 吹雪は作られた個体でまあ番は難しいだろう。


 しばらく目をかっぴろげて止まっていたさゆりがゆっくりと前を見た。


 「まあ、あたしも用事があるしさ、その、いいよぉ」


 後ろが急に騒がしくなっていても顔が熱くなったさゆりは前を向いたままふと香を見た。


 「姉様あっ?!」


 血走った目で見つめられて思わず悲鳴めいたこえがでた。

 後ろで一樹が頭をかいている。


 「師匠!!」

 最難関回復魔法、療花回生縛を一回で成し遂げた人の誰が?。

 「はいっ?、え、姉さま?」

 「ご教授をっ、なにとぞっ!!!」

 「ええっ」

 「師匠っっっ」

 「えええええーーーーーーーーっ!!」


 雨の月間近の澄み渡った空にぽつぽつある雲が寄り添うように流れている。



 雨の月が過ぎ今麻衣村周辺に見回り組が配置されてしばらくしたころ。甚田一家が温泉に来ていた。

 三年前に村の有志と一緒にきたときは湖で一休みして直ぐに温泉地に必要な物資獲得に走りこんだので景色をもう一度見たいと思っていた。

 さよちゃんの手を引いている甚田が楓と一緒に歩いているゆかに聞く。

 「ゆか覚えてるか?前に一回来たんだ、どうだい」

 「・・・しらない・・」

 一度細胞が認知したからか片言がすぐ話せるようになったゆかは知らずに冷たい返事をする。


 当時村から三里の所に魔王軍が来ていて子供だけを残して置けなかったのだ、家族で一度見たはずの景色。

 「あたしあの木知ってるー」

 「あ、おい」

 手を離したさよに声をかけるが走ってしまう。

 「お姉ちゃん、またおしてぇ」

 「・・うん・」


 湖の手前、幹の上が大きく二股になっている木に向かって走っていく。

 甚田が右の方にいる先客に目を向ける。


 子供が大きな手を振り回している。


 見回り組の治圭太は驚いていた。

 少し遠慮が見える夫婦らしい二人の間でマヤマカガシの盾を手に付けたまま握り飯を食ってる子供がいた。

 気になって声をかけたら突っかってきたので相手をしたのだが、まさしく魔力を使っている。

 恐らくマヤマカガシに残ったわずかな魔力に惹かれたんだろうと予測はしたがそれにしても早い、上体と足の位置が全くぶれない。

 「おっと、この子誰かに教わってんの?」

 「いいえ、・ああ、その盾を作った人を壁の隙間から見てました」

 「それだけで、ほえぇ、これか、すごいね」

 「兄ちゃんはこんなんじゃないっ!!」


 少し離れた木陰に刀を持った男女がいる、男が声をかける。

 「治圭太っそろそろ行くぞ」

 「おうっそれじゃまたな、坊主」

 「どうやって来るんだオッサン」

 村で鍛錬に付き合ってくれる大人はいない。

 意識半分は期待していてもおかしくは無い。

 「みつけてやるさぁー」

 走っていく男を睨みながら声を上げる。

 「佐山村だー」

 治圭太が後ろ向きで手を振った。


 

 かんっ、がっ、がっ。

 何かを叩く音がして甚田が目をやる。

 さよが木の股に乗って下で何やらしているゆかを見ている。


 楓は木の根に一緒に座っている甚田の溜息を聞いた。

 気になって意識を向けていると独り言のように呟いている。

 「俺さあ、最近爺様の口癖をよく思い出してたんだ」

 「どんな?」

 一応聞いてくれる優しさが好きなんだと意識の奥で思っている。

 「似ているから反対になれるんだって」

 「塩と砂糖とか歩くと走るとか言ってたやつ?」

 「ぞうっ」

 「あれって何か後に、ちょっと待って、あなたまさかっ、え、えええっ!」


 「ずばながっっだーーー」

 「何々、ええ??、どうしたのっ?」

 「ずきなぼのも一緒、声も、じくざも一緒、でもだがら、違うどがんじでたーーー!!」


 そう言って甚田がゆかの元に走っていって二人で土を掘り返し泣きながら大きな石を担ぎ上げた。

 「・ほって、ほうって・」

 「そうだこんな石こうじてやるぞー」


 大きな石を担いで湖に入っていく甚田を見て楓は記憶を探る、そして思い当たった思い出が一つ。

 「あの時さよが転んで頭を打った石なんだわ」

 甚田とゆかが大騒ぎしていたのを思い出した。


 どっぼーん!!。


 ゆかと手をつなぎさよを片手で抱き取って湖から甚田が帰ってくる。

 こんな日が続くようにと手を合わした楓だった。


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