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そのヒロインは恋をしない  作者: 霜山ナイト
8/11

7

 ノートにこれまで起こったことを箇条書きに書き出していくと、今度は自分が何に困惑しているのか書き出し始めた。

 こうやって細かく分析していくところがケイトらしい。


「まず、ここがどんなところなのか知らないと。何かの撮影のセットってこともあるかもしれないし」

 そう言って、どうやって調べるかの候補を挙げていく。

「この建物の中にいる人に聞いてみる。地図をみつける。民家の様子を見る。あとは食事の内容とかでもある程度わかるかな」

 自分がどんな場所にいるか把握することを第一として行動計画を立てている。

 いつもすごいなぁと思っていたけど、こういう風に書き出していってたんだね。

「さっきの人はどう見ても日本人じゃないのに、流暢な日本語を話してたわね。周りにいた人たちも、みんな何を言ってるのかはわかる。でも、こんな立派な西洋風のお城で、しかも住めるようになっている所なんて日本にあったかしら?」

 ずーっと独り言が続いている。

 私といる時のケイトは、どっちかというと口数が少なくて大人しい印象があったけど、今こうして見るケイトはだいぶ違った印象を受ける。

「ケイトって、1人でいる時はこんななんだね」

 なんでも知ってる幼馴染だと思ってたけど、新たな一面を知ってちょっと嬉しくなる。


 しかし、このままではゲームが進められない。私がヒロインをコントロールしてゲームを進めるはずが、そのヒロインが自由に動いてしまう場合はどうしたらいいんだろうか。

 ステータス画面ではフラグが立った相手の好感度を見られるようになっているが、まさかのゼロ。誰のフラグも立ってないので見られるものがない。

 本来であれば王子のフラグが立っているはずなのに。

 高感度のバロメーター管理もできないなんて、本当に私のやることがなくなってしまう。


 これからどうやってこのゲームを進めていくか悩んでいると、ケイトのほうは反対にこれからの方針が決まったみたいだった。

「今日はまず、この建物の中を調べましょう」


 このゲームはただの恋愛シミュレーションとは少し違う。ちょっとした冒険や謎解きなんかがあって、やり込み要素が結構ある。

 単純にキャラクターのストーリーを進めることもできなくはないが、それだとトゥルーエンドにはならないのだ。

 ヒロインキャラを操作してお城の中を探検したり、聖女としての魔法の特訓をして魔法のレベル上げをしたりもする。

 画面上では、デフォルメされたヒロインが自室を出ようとしていた。

 ヒロインが扉の前に来ると、『部屋を出ますか?』と選択コマンドが表示される。

「こういうのは私が選択するのね」

 『はい』を選択すると、一度暗転してお城の廊下に出る。

「なんで急に扉が開いたのかしら?」

 また『部屋に入りますか?』と選択肢が出てくる。 今度はちょっと意地悪して『いいえ』を選択してみる。

「開かない…もう部屋に戻れないということかしら?鍵が閉まったりした様子はなかったのに、なんなの?」

 不満気なケイトの声が聞こえた。

 どうやら私が選択肢を入力しないと、扉の開閉はできないようだ。しかも、ケイトの意思と私の意思が合致しないと進めないということになってるらしい。

 画面の中のケイトは部屋に戻るのを諦めて、お城の中を探索することにしたようだ。

 コントローラーのスティックを操作していないのに画面が動いていくのはなんとも妙な気分だ。

 目につく扉を片っ端から開けていこうとするので、画面には『扉を開けますか?』の選択肢が表示されては消えてを繰り返している。


 ある部屋に入ったところで、ケイトの動きが止まった。

 どうやらここは図書室みたい。

「これ、何語なのかしら?見たことない文字ね」

 本に書かれている文字はこのゲームの舞台となっているセントメディア国の言語のはずだ。そりゃあ見たことないだろう。

 私も前作のスチルに描かれているのを見たことあるような気もするが、そこまでよく見てないので覚えていない。

「なんでこんなグルグルと書きにくそうな字なのかしら」

 本を読んでいるらしいケイトが、本の文字に対して文句を言っている。

 そして、今度は部屋の中をあちこち移動して回っている。何か探してるのかな?

「ここが図書室なら、地理書とか地図とかなんか見つかるかも」

 なるほど。さっきのケイトのタスクの中にも地図をみつけるってあったもんね。

「あった!」

 どうやら目当てのものを見つけたらしい。

 ケイトはテーブルのところに移動すると本を広げたようで、画面が切り替わって本のページが表示される。

 まるでケイトの視点で見ているようだ。

「この赤い印が今いる所ってことなのかしら?細い線が地域を表してるなら、太い線で囲っている部分がこの国ってかとなのかしらね?」

 画面は地図が表示されたまま、ケイトの声が聞こえてくる。

 誰に言うでもなく、独りで呟きながらじっと地図を眺めているのがわかる。

「本当に、ここはどこなの…」

 地図に書かれているのは見たこともない国のものだ。きっと混乱しているに違いない。

「うぅ…私がケイトと話せたらいいのにー!」

 見ているしかないのがもどかしくて仕方がない。

 このゲームはストーリーを進めるためにRPGパートで鍵となるアイテムを集めたりミッションをこなしたりしなければならない。

 ケイトがこの状況を脱するためにも、それは必須事項のはずだ。

 攻略サイトを見ると、神殿で女神と対話することで文字も読めるようになるらしい。

 これをケイトに伝えられればいいのに。


「とりあえず、ここが私が知ってる世界じゃない可能性が大きくなったわね」

 文字が読めないので詳細を知ることはできないとさっさと見切りをつけて次へ向かうことにしたようだ。

「ここが図書室なら、もしかしたら、あの人はこの近くの部屋にいるのかしら?」

 あの人とは王子のことだろうか。

 図書室だと近くにいる要素が何かあったっけ?


 図書室を出て廊下を進むと、扉の前に衛兵が立っている。

 そうだ!このゲームが前作と同じなら衛兵に見つかってはいけない。

 聖女に何かあってはいけないと、すぐに自室に戻されてしまうのだ。

 ゲームの序盤だと衛兵の数も少なくてバレずに探索する難易度は低めだけど、ストーリーが進んで国が荒れると共に衛兵の数が増えて探索するのが難しくなるのだ。

「わー!ケイト!見つからないように隠れて〜!」

 私の声は、もちろんケイトには届かない。

 むしろケイトは衛兵目指してガンガン進んでいく。

「せ、聖女様!危ないですのでどうかお部屋にお戻りください」

 案の定というか当然というか、すぐに見つかってしまった。

 しかし、ケイトは部屋に戻されることはなく、それどころか物怖じせずに衛兵に問いかけた。

「ここはさっきの王子の執務室かしら?できたら少し話したいの。会える?」

 短い言葉で要件を伝える。

 ケイトの言葉を受けた衛兵は「少々お待ちを」と言って、扉の中に消えていった。

 すぐに戻ってくると、扉を開けてケイトを部屋の中へ促した。

 ここでは私の選択肢入力は必要ないらしい。


 図書室を出たケイトは王子の執務室を探していたらしい。

 そうか。図書室の近くに執務室ってあるのか。調べ物とか資料の置き場とか考えたら、確かに近い方が効率的だよね。


「聖女様。私に用とは、どうかなさいましたか」

 デフォルメされたキャラを動かすRPGパートの画面からストーリー展開のアニメーションに切り替わる。

 やっぱ王子イケメンだわ。目の保養になる。

「少し確認したいことがあります」

 王子を前にしても普段とまったく変わりないケイト。

 王子に話ってなんだろう?

 もしかして、ここでやっとフラグが立ったりするかな。

 ちょっとワクワクしながら、私は画面の中のケイトを見守った。

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