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そのヒロインは恋をしない  作者: 霜山ナイト
7/11

6

 私は今、とても困惑している。


 今朝、母から手渡された乙女ゲームをプレイしているのだが、ヒロインがどう見てもケイトにしか見えない。

 見た目だけじゃない。

 声も、ケイトそのものなのだ。


 私はまだヒロインの名前さえ入力していないし、そもそもヒロインの名前の入力画面が出てこなかった。

「何がどうなってるのか」


 整理しよう。


 この乙女ゲームは私が以前にプレイしたゲームの続編で、昨日、父が出張帰りに買ってきたものらしい。

 母が受け取って、今朝、パートに行く前に私に渡してくれた。

 もちろんパッケージは未開封の新品。

 ディスクにも傷や変わったところはなかったし、オープニングは前作から引き継いだロマンティックなオーケストラ。何よりキャラデザは私の大好きなイラストレーターさんが手掛けている。アニメーションも原画を損なうことなく描かれていて、素晴らしいものだ。

 声優陣もなかなかの有名どころを揃えていて、今作も目で耳で楽しめること間違いなしだとプレイする前から断言できる。


 ただ、ヒロインの見た目がパッケージと違う。


 パッケージに描かれたヒロインは栗毛のセミロングで両サイドにヘアピンがついている。

 制服も乙女ゲーらしく可愛らしいデザインで、白のブレザーに赤チェックのスカート、首元には赤いリボンがついている。

 白のハイソックスに焦茶のヒールがついたローファーを履いていて、ザ・ヒロイン!という感じだ。


 しかし、テレビ画面に映し出されているヒロインはパッケージとは全然違っている。


 黒髪のロングをハーフアップにしてグレーのシュシュで留めているし、制服も、よくある感じの飾り気のないネイビー1色。膝まであるボックススカートに、同じくネイビーのハイソックス。

 靴は黒のローファーで、まるで、私の知っている幼馴染の姿そのものだ。

 そう、まさに光明院ケイトそのものの姿をしているのだ。


「私、まだ夢を見てるのかな」

 言いながら思いっきり頬をつねってみるが、痛みははっきりある。

「痛っ!やっぱ夢じゃないよね…」

 一時停止させた画面をじっくり見てみても、ケイトにしか見えない。

 アニメになってる分、顔は多少変わってるような気もするが、ケイトの面影を残したまま美少女になった感じだ。

 早戻し機能がついていれば、名乗るところをもう一度確認したい。

 ただ、このゲームにはその機能はついていない。

 リセットして、はじめからやり直せばいいのかもしれないが、それで今のケイトそっくりのヒロインでやり直せるのかがわからないから、リセットもできない。


 結局は好奇心が勝って、このままゲームを進めてみることにした。


 まずは、このゲームのおおまかなストーリーを確認する。

 このゲームのヒロインは、災いが続く国を救うために異世界から召喚された女子高生。

 聖女として、お城に住みながら、イケメンたちとのストーリーが展開していく。


 まずは、この国の王子。

 誠実で、国民の支持も厚く頼り甲斐のあるリーダー。ただ、災いが続くことで国が荒れ、気苦労が絶えないという不憫属性もある。

 王子ということもあり、お城に住むことになるヒロインとは1番接点が多い攻略対象だ。

 見た目も、金髪碧眼の長身痩躯で、いかにも王子様って感じ。

 うん、私はそういうの大好物です。


 次に絡みが多そうなのが、公爵家の跡取り息子。

 実は、国が乱れているのをいいことに、王子を蹴落としてこの国の王位を狙っている。王子とは幼馴染でもあるが、常に比較されてきたために性格がひねくれてしまっている。

 劣等感が強く、よく自虐的な皮肉を言っているために友達は少なく、1人でいることが多い。

 黒いやや長めの髪に鮮やかな緑の眼。イケメンなのにどこか陰気な雰囲気も漂っている見た目だ。


 この2人のどちらを選ぶかというのがメインストーリーの大きな分岐になるみたい。


 聖女というのは、神にも等しいと考えられているほど、この国にとっては重要な人物となるらしい。

 なので、聖女が選んだ人こそがこの国を治めるのに相応しい人物と考えられるようだ。


 つまり、王子を選べば、国は平和になるし、王子は王位を継いで聖女とともに国を統治することになる。

 逆に、公爵家の跡取り息子を選べば、王子は廃位され、代わりに公爵家が新しい王族として国民から認められるようになるという流れになるらしい。


 他にも攻略対象は4人居て、2人とも選ばなかった場合など、一定の条件を満たすと出てくるみたいだ。


 発売からまだ2日だが、既に全ストーリー制覇をしている猛者がいるようで、攻略方法はネットであっという間にわかってしまう。便利というか、素っ気ないというか、すごい世の中になったもんである。


 まずは、王道の王子ルートから進めていこうと決めて、会話の選択肢を選ぶ。

 最初の会話、王子の誘いに乗ることで、すぐに王子ルートに入ってしまうみたいだ。


 王子自ら、城下を案内しようと馬車に乗ってのデートのお誘いだ。

 私は十字キーを操作して「王子の手を取る」を選んだ。


 すると、画面も切り替わり、ヒロインが王子の差し出した手に自分の手を重ねようとしているイラストになる。

 王子の誘いにドキドキしながらも手を取るヒロイン……となるはずだったが、なんと、ヒロインは手を取らなかった。


 どういうこと?


 思い直したケイトっぽいヒロインは、自室として当てがわれたお城の一室に入って扉を閉めてしまった。

 王子は差し出した手のやり場がなくなって困惑している。

 仕方なく諦めて、執務へ戻る王子。切ない。


 また画面が切り替わって、自室に戻ったヒロインの様子が映し出される。

 何をするのかと思ったら、ノートを広げて、自分の今の状況について書き出し始めた。

 こういうところ、本気でケイトっぽい。

 セリフにはすべて音声が入っているので、ヒロインが話すとケイトの声が流れる。


 ぶつぶつと呟きながらメモをしていく。

 その中で、気になるセリフを言っていた。


「さっきまでコンビニに居て、気がついたらなんかよくわからない場所に来ていた。明らかに見た目は日本人じゃないのに、日本語で話していた。彼は、私のことを聖女と呼び、彼自身はこの国の王子だと名乗った」


 コンビニにいて、気がついたら来ていた?

 やっぱり、本当にこのヒロインは私の知っている光明院ケイトなの?

 ケイトがゲームのキャラとして異世界転生しちゃったってこと?


 きっと、進めていけばわかるはず。

 私はさらにゲームを進めていくことにした。

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