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そのヒロインは恋をしない  作者: 霜山ナイト
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「ねぇ、コンビニ寄ってってもいい?ちょっと立ち読みしたいものがあってさ!」


 私は、教科書を机の中に戻しながら、斜め後ろに座る友人に声をかける。


「いいよ。私もちょっと確認したいのあったし」


 そう言って、私の友人、光明院ケイトは静かな笑顔を返してくれた。


 ケイトとはもうずっと長い付き合いだが一緒のクラスになったことはほとんどなく、まさか高校2年になって同じクラスになるとは思ってもいなかった。

 同じマンションで、幼稚園の頃からずっと一緒の友達、いわゆる幼馴染だ。

 幼稚園の間はずっと一緒だったが、小学校に上がるとクラスが離れてしまうことも多くなった。それでも休み時間や放課後は、いつも一緒に遊ぶほど仲がいい。

 一緒のクラスになったとわかったときは、2人で抱き合って喜んだ。


 高校とマンションは徒歩で20分かからないくらいの距離で、2人とも通学の楽さを最優先に選んで進学した。

 登下校は2人で話しながらがお決まりで、両方の親からは何をそんなに話すことがあるのかとよく言われた。

 年頃の女子には話すことなんて24時間じゃ足りないくらいあるって!

 どちらかと言うと話すのは私ばっかで、ケイトは聞いてることの方が多いけど。

 私がゲームのキャラについて熱く語っても、ケイトはバカにしたりしないで、いつも静かに聞いていてくれた。

 でも、私がゲームを勧めてもバッサリ断ってくるくらい、ちゃんと自分を持っている。


 そんなケイトが私は好きで、一生こうやって友達として付き合っていくんだと思っていた。


「あったあったー!今週のチェック!」


 コンビニに着くと、私はまっすぐ雑誌の棚の前に行き、目当ての雑誌を手に取った。

 ケイトも、珍しく雑誌を手に取って立ち読みしている。

 読んでいるのはハンドメイドの雑誌みたい。

 最近は、マクラメにハマってるみたいで、つい最近もケイトが作ったブレスレットをもらった。そのブレスレットは、今、私の左手首についている。


 私は、友人から手元の雑誌に視線を戻すと、目当てのマンガを探すためにページをめくった。




 一瞬だった。



 スゴイ音と衝撃は後から来た。

 鳴りっぱなしのクラクションがうるさい。

 気づくと私の右側には白い車とぐちゃぐちゃになった雑誌や棚があった。

 床には、割れたガラスや壁の破片、吹き飛んだ雑誌や絵本が散らばっている。


 私のすぐ右側で雑誌を見ていたはずのケイトがいなくなっていて、少し視線を動かした先の、車のボンネットと棚の間で見つけた。

 長い黒髪で顔が隠れていて様子がわからない。

 近づこうとしても足が動かない。

 私は、衝撃で床に倒れたまま、上半身だけを起こして、車に挟まれた友人に向かって手を伸ばす。


「110番!110番して!」

 誰かが叫ぶ声が聞こえる。


「君!ケガしてるじゃないか!」

 誰かが私の肩を掴んで話しかけてきたが、そんなものはどうだっていい。

 私の大切な友達を早く助けてあげないと。

 あんな風に挟まれたままじゃ、苦しいに決まってる。


 必死に手を伸ばすが、私の身体は全然近づいていってくれない。


「車から離れて!危ないから!動ける人は店の外にこっちから出て!」

「ほら、君も立てそうかい?」

 サラリーマンっぽい男の人が私のことを覗き込んできた。


「あ…友達……あそこに…」

 あそこに私の友達がいるから誰か助けて!そう叫んだつもりだったが、私の喉から出た声は掠れていて、舌ももつれて、うまく言葉にできなかった。

 私のことを覗き込んだ男性は、私が手を伸ばしている方を見ると「あ…」と声を出したきり何も言わず、私の右腕を自身の肩にかけ、そのまま無理やり引き上げて立たせた。

 立った瞬間、右脚の痛みで力が抜けたが、倒れそうになるのを左脚に力を入れてぐっと堪えた。


「危ないから、君だけでも安全なところに行かないと!」

 そう言って、そのまま私を引きずるようにして店の外へ出た。


 外は人だかりができていて、たくさんのスマホがコンビニの様子を写している。


 その様子を見て無性にイライラした。

 私の友達はまだ店内に残されたままなのに、なんで誰も助けてくれないの!


 すぐにサイレンの音が聞こえてきた。

 警察、救急、消防、勢ぞろいだ。


「大丈夫?どこを怪我したのかな?」

 救急隊の男性が私に話しかけてきた。

 店内を凝視し続ける私をおかしく思ったかもしれない。かけられた声に遠慮を感じた。


「友達が…まだ中にいるんです」

 質問とはまったく違う答えになってしまったが、救急隊の人もすぐに察したらしく、「君の友達はいま救助しているから安心して。君も怪我をしているからみせて欲しいんだ」と話した。


 そうか、今助けて貰ってるんだね。

 大丈夫だよね。もう大丈夫だよね。


 そして、私は安心感からかここで意識を手放してしまった。


 遠くで救急隊の人の声が聞こえる。

 フワッとした感覚で抱き上げられたのがわかったのを最後に、次に目覚めた時は病院のベッドの上だった。

 それは最悪な知らせと共に。



 私の友達、光明院ケイトは亡くなってしまった。

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