表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのヒロインは恋をしない  作者: 霜山ナイト
1/11

〜どうやら私の幼馴染が乙女ゲーのヒロインに転生したみたい〜

 まだ信じられない。


 ケイトが、ケイトが死んだなんて……。


 昨日がお葬式だった。だけど、現実感がなさすぎて式の間、涙の一滴も出なかった。

 同級生たちはわんわん泣いてたのに。

 私は、小さい頃から一緒に遊んできた友達が亡くなったっていうのに、涙も流さない非情な人間に育っちゃったんだな。


 あの事故から10日。


 学校には行く気になれず、ずっと家の中にこもっている。

 こんな時、自分の部屋があったりしたらいいなって思うけど、部屋数が少ないマンション住まいなので、プライベートなんてあってないようなもんだ。


 あれ以来、何をやるにも気力が湧いてこない。

 なんだったらごはんも食べなくていいくらいなんだけど、そこはさすがに親が無理やりにでも食べろって言ってくる。

 食べても味が感じられなくて、ただ咀嚼して飲み込むだけの機械的な作業みたいになってる。


 夜は寝るとあの時の光景がよみがえってきて、すぐに目が覚めてしまう。

 おかげで私の目の下にはクッキリとクマができてしまっている。

 髪も肌もボサボサのカサカサで、とても女子高生とは名乗れない感じになってきている。


 何もしていないのに時間は流れて、1日が終わっていく。


 今日もただボーっと時間が過ぎていくものだと思っていたが、パートに行く前に母親が私に声をかけてきた。


「ねぇ、コレ、あなたが好きなゲームでしょ?続編楽しみにしてたじゃない?お父さんが買ってきてくれたの」

 そうやって手渡されたのは、私がハマっていた乙女ゲーの続編だった。


 そっか。発売日過ぎてたんだね。


 何も言わずに受け取ると、「じゃあお母さん、パート行ってくるから」と言って、いつも通りに出て行ってしまった。


 こういう時、ちょっとは何かしたらとか、少しは外の空気を吸ってきたらとか、そういうアドバイスみたいなのを言ってこないのがうちの家族のいいところだと思う。


 手渡されたゲームのパッケージにはキラキラしたイケメンたちが描かれていて、これを買う時のお父さんを想像したらちょっと元気が出た。


「みんな、ありがとね」


 自然と言葉が口から出て、私は横たわった身体を起こしてゲーム機に手を伸ばした。


 毎日毎晩、リビングのテレビで乙女ゲームに勤しんでいたのに、あの日から10日もやってなかったんだなぁ。なんかもう起動音が懐かしく感じる。


 前作と同じテーマ音楽が流れてきて、オープニングが始まる。


 はじめのアニメーションで、主人公の女の子が異世界へと召喚されて来るシーンで、私は、画面を凝視した。


 なんで早戻しができないの!?

 そういう仕様のゲームだから仕方ないんだけど、戻して確かめたい衝動に駆られた。


 だって、これって……。


「私の名前はこうみょういんけいと」


 テレビから流れてきた音声を聞いて、私は気が動転した。

 ケイト?ケイトって言った?

 っていうかケイトの声そのままだったよね?

 え?何?どういうこと?


 そうだ、私まだ名前の入力とかしてない。

 なのに既にゲームはスタートしていて名前が決まってしまっている。


 というか、この手のゲームは名前が自由に入れられるようになってるし、それが故に名前の部分は声があてられてなく、飛ばされるものだ。

 なのに、ハッキリと名乗った声が聞こえた。


 パッケージを見ても主人公の名前は公式設定でも決められたものはない。

 もちろん、声優の名前もない。

 主人公の部分は音声がなく、出てくるメッセージを読むしかないのだ。

 前作と同じならそうなっているはずだが、パッケージを見る限り、今作でもそれは変わらないようだった。

 そうだよ。声があてられてる時点でおかしいんだよ!


「なんで…声…。しかも名前まで」


 そう。この主人公の名前は私の幼馴染のものだ。

 ほんの10日前に、コンビニに突っ込んできた車のせいで亡くなった、私の幼馴染。光明院ケイトと同じ。


 コントローラーを握る手が汗ばんでいる。

 今、家に私しかいないから、誰にも確かめようがないのが悔しい。


 何がどうなっているのか全然わからないし、そもそもこれが現実なのか私の幻想なのかもわからない。

 ただ、いつの間にか私はしっかり身体を起こしてテレビの前に座っているし、なんだったら空腹を感じている。


「ちょっと気になり過ぎてヤバイ」


 ジャージに手をこすりつけて汗を拭うと、コントローラーを握り直した。


 買ってきてもらった手前、何もしない訳にもいかないと思ってつけただけだったが、とんでもないことが起きた。


 私は、今から本腰を入れてゲームをプレイすると決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ