第四話 ドレスの下
【第四話】
アーサーは腕を組み、冷たい視線を寄こした。
「聖女の証とやらを、わたしは一度も見たことがない」
「それは……っ」
見せてほしいと言われたことは何度かある。でも、都度断ってきた。場所が場所だけに下着まで脱がねばならないからだ。
そもそも、慎み深さが美徳なのだと教え込まれたリリアベルは、流行りの胸もとまでさらけだしたドレスは着ない。いつも首まできっちりと包む慎み深いドレスをまとっていた。
そういうところが、奔放なアーサーからすればつまらない女とされてしまうのだった。
「婚約者なのに、おかしいとは思わないか?」
「いずれ……お見せできる日がきます」
「どうだか。それに、ララローズも見たことがないそうだ。妹なのに不思議ではないか」
「え? そんなはずは」
驚いて妹を振り返る。
同じ屋敷で一緒に暮らした年月はたったの二年だが、同性の姉妹である。舞踏会のドレスの試着時など、肌をさらす機会は幾度かあった。
しかし、ララローズは困惑したように眉をひそめて黙り込む。
「……」
さも、どちらの味方もできないとばかりのいい子を装って。
オーラは黒々として邪気を放っているが、それはリリアベルにしか見えない。
周囲は当然、可憐な妹の肩を持つ。
「面と向かって姉を糾弾はできないだろう。ララローズ嬢は優しいから」
「まさか、リリアベル嬢は、殿下とお近づきになりたいがために長年欺いていたのか?」
「だとしたら、大変な不敬だぞ」
「大公様の威信にかかわるだろう」
「衛兵を呼んだ方がいいか?」
人々の邪推はとんでもない方向へ行きはじめる。
(このままでは)
さすがに黙っていられず、リリアベルは震え声を挟ませた。
「いいえ、たしかに印はあります。ここに」
ドレスの上から胸の上に手を当てる。しかし、アーサーは嗤った。
「ドレスを脱いで見せてみろ」
「さすがに、ここでは……」
「結局はそれだ。嘘つきめ」
「嘘ではありません」
「埒があかないな。おい、後ろから押さえておけ」
公子の命令で、リリアベルの背後にいた者が進み出た。と思えば、後ろから腕を摑まれ、羽交い絞めにされる。
「きゃああっ」
「おとなしくしていろ。すぐに正体を暴いてやる」
美麗なアーサーの瞳は、いまや悪魔のごとく輝き、その魔手を伸ばしてくる。
「殿下、やめて、お願い……!」
悲痛な叫びに、周囲の狂気じみた熱が高まった。