表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

第三話 扉

 次に目を覚ましたとき、リリアベルは、今が朝だか夜だかよくわからなかった。


(頭がずきずきする……)


 額を押さえながら起き上がる。どうやら自分はソファーに寝ていたらしい。

 部屋には静寂が落ちている。テーブルに置かれた燭台の蝋燭は、ずいぶんと短くなっていて、窓の外は真っ暗だった。


(夜……みたいね)


 それに、視界を巡らすと、薄桃色の調度に囲まれている。


(ここ……ララローズの部屋?)


 そこで、混濁していた記憶がはっきりした。

 リリアベルは深夜に妹の部屋で紅茶を飲んで、そのまま眠ってしまったのだ。


「いやだ、ドレスが」


 視線を落とすと、せっかくシャイロハーンから贈られたシャンパンゴールドのドレスは、寝乱れてしわくちゃになっている。その上、膝上には黒いしみが広がっていた。

 そういえば、眠気に勝てず、紅茶をこぼしてしまったのだと気づく。すっかり渇いてこわばっているのを見て、青ざめた。


(なんて失態なの)


 落ちるだろうか。ショックで胸まで苦しくなる。


(なにか拭うもの……)


 しかし、テーブルの上の茶菓子やナプキンはすっかり片づけられていた。


「ララローズ?」


 妹の姿もない。


(もしかして、今は深夜?)


 すでに朝を迎え昼を過ぎ夜になっていたが、丸一日眠っていたとは夢にも思わない。


「ララローズ、寝てしまったの?」


 ソファーに寝転がる姉を動かせなくて、仕方なく彼女も寝室へ入ったのかもしれない。居室と続き部屋になっている寝室は、壁に据えられた戸でつながっている。

 リリアベルは中へ呼びかけてみることにした。


「ん……、いたた……」


 立ち上がると、やはり重い頭痛に襲われる。まるで強い酒に酔ったような状態だ。舞踏会中でさえ一滴も飲んでいないはずなのに、どうしてだろう。


「ララローズ、起きて?」


 戸を叩きながら、耳を澄ませる。

 中から返事はない。

 次にノブを回してみるが、内側から鍵をかけられていた。


(やっぱり寝ているのね)


 自分の部屋へ帰るのがよさそうだ。居間の扉に手をかける。


「え……?」


 がきん! と嫌な手ごたえがした。内鍵をひねってみるが、関係がない。


(まさか、外側から施錠されている?)


 信じられないが、南京錠かなにかで閉ざされているようだ。


(そんな馬鹿な)


 中でリリアベルが寝ているから、気づかって誰かが鍵をかけてくれたのだろうか。


(それにしたって……)


 ずいぶんと乱暴な方法に思える。いくらはしたなく爆睡していたとしても、揺り起こせば済む話なのだから。

 大声を上げながら扉を叩けば誰かが来てくれるかもしれない。

 しかし――、どうにも憚られた。

 今が深夜だとするならば、無用な騒ぎを起こしかねない。


(きっとララローズにも迷惑がかかるわ)


 せっかく祝いだといって手ずから茶を淹れて歓迎してくれたのだ。厚意を無にしたくなかった。


(起きるまでしばらく待ってみましょう)


 ひとまず、汚れてしまったドレスは脱いで応急処置をしたほうがよさそうだ。背中のピンを上から外していき、すとんと床に円を描いて落ちたところを、またいで抜け出た。

 コルセットにシュミーズとパニエだけの姿となってしまったが、部屋の中があたたかいのでなんとかなる。


(水と拭くもの……)


 薔薇が活けられたガラスの花瓶に目が行った。花瓶の下には白いクロスが敷いてある。


(ごめんなさい、あとで洗って返します)


 手を合わせて心の中で謝りながら、それを拝借した。クロスを湿らせ、丸めてドレスの汚れた箇所を叩く。


(どうか落ちますように)


 リリアベルは細い灯りの下、下着姿でドレスのしみ抜き作業に没頭した。




 しばらくして、隣の部屋で物音がする。

 鍵を開け、寝室に踏み込むような足音だ。メイドが用事があってやってきたか、もしくはララローズが外にいて部屋へ戻ってきたか、どちらかだろうか。


(よかった)


 リリアベルはドレスをテーブルに置いて続き戸のほうへ歩いていく。声をかけようとした瞬間、戸の向こうからも声がした。


「ララローズ?」

「え……」


 男性の声だ。しかも、聞き覚えがある。


(アーサー殿下!?)


 信じられない事態に、頭が真っ白になりかけた。


「ララローズ、そこにいるのかい?」


 しかし、戸の内鍵をひねる音がして、はっと我に返る。

 慌ててドアノブを押さえつけた。


「違います! 開けないで!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
------------------------------------------------------------------------------
★新連載はじめました★
『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』

↓あさたねこの完結小説です↓
『後宮恋恋』

『愛され天女はもと社畜』


------------------------------------------------------------------------------
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ