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バグ

「しかし、歩けど歩けど景色は変わらずだな。生き物にも会わねぇし」


「うむ、それには少し思うところがあった。こうも生き物に会わぬのは奇怪だな」


「大方この阿呆の阿呆さ加減に呆れて相手する気も起きずにどっか行っとるんじゃろ。食ろうたら阿呆が感染る、とな」


「おう、自己紹介か? ちゃんと出来て偉いな、褒めてや_いっでぇえー!!」


 ガルルルゥと獣っぽい唸り声を上げて、俺の頭に噛み付いてくるフェミリア。

 人の姿をしているので力は抑えられているとはいえ、かなりの激痛に思わず悲鳴を上げる。


「…何をやっとるんだ、お前らは」


「今のは此奴が悪い」


 呆れた様子で言葉を零すグラニアに、漸く口を離したフェミリアが、ぺっと地面に唾を吐く。


 女性がそんなはしたない事しちゃいけないと思います。


「ッてぇー…こちとら超人じゃねぇんだぞ…マジで噛み砕かれて死ぬかと思ったわ…」


 噛まれた位置を手で擦りながらフェミリアへと視線をやって__それから、とある一つの事に気が付いた。


 フェミリアの顔が多少だが険しくなっている。


 そんなに俺は不味かったか?なんて間抜けな事を思ったが、どうやら違うらしい。

 グラニアも同様に顔付きが少し険しくなっているような気がする。


 その事に疑問符を頭に浮かべている時、ふと耳に届くのはかなり近くで草木をかき分ける音。


 ハッとして即座にその方向へと振り向けば、奥の暗がりから出てきたのは熊の様な生き物。


 普通と違うのは、大きさもそうなのだが体毛が金属で出来てるのかと言いたくなるような光沢を持っており、明らかに硬そうなのと、頭部には動物専用の鎧みたいな物を着けている所。


 何処かの国で飼われてます感のある感じだが、溢れ出る野性味はそれを優に否定する。

 友好さの欠片も見られねぇしな!


「なんでこう、人間に上手いこと会わねぇかな」


「会わないではなく()()()()が正しかろうな」


「あぁ。かの獣畜生を見てみろ、前脚に血糊が付いているだろう」


 言われてからそこへと視線をやると__あぁ、確かについている。


 払いもしないのか、それとも払うだけ無駄なくらいベッタリなのか、模様だと思ってたそれは鉄のような臭いがするので、違うと判断できる。


 大方、頭のあれももしかしたら()()()の一つなのかもしれない。器用なものである。


「丁度良い、貴様の天恵を見せてみよ。何かしら持っておろう」


「んなもんねぇよ」


「そんな訳無いだろう、この世界で信仰されている女神からまれびとは天恵を授けられている筈だが」


 ほう、この世界の神は女か。良いことを聞いた、会ったら横っ面(はた)いてやる。


 こうして悠長に会話をしているが、熊公と言えばこちら_厳密には二人を、野生的な本能で危険さを感知しているのか、様子を見るように辺りをうろちょろしたり、止まってジッと俺を見てくる。


 多分どうにかしてこの二人から餌を取りたい、ってとこだろうか。この二人を前に良い度胸をしているな…俺だったら尻尾巻いて逃げるわ。


「生憎だが俺は神とやらに会った覚えはない。会えてたとしても、目的やら云々を伝えられる前に俺が罵詈雑言浴びせてたろうな」


「…ほんに図太いな、貴様は。()()()()()()()()()凡人以下だった故、それ相応の天恵を与えられたが故の低さかと思うたが…」


「え、何、ステータスとか見れんの?」


「? うむ、見れるぞ。他を見るにはスキルが必要となるが、自身のはいつでも見れる」


 RPGの世界かよ…。異世界だったわ。


「え、どうやるんだ? ステータスを見るのって」


「どう、と言われてもな。人間の場合はステータスと一々明言せねば出せぬ仕様であったか」


「マジか、試してみる」


 グラニアにやり方を教えてもらった俺は、熊公に狙われていることをそっちのけで__というか完全に忘れてステータス!ステータス!と呟き続ける。


 傍から見れば完全におかしな奴だが、知ったことではない。

 人の視線を気にしてちゃロマンなんて追い求められるか?無理な話だろう、そういうことだ(?)


 因みにだが熊公は遂にしびれを切らして襲い掛かって来たが、フェミリアに叩かれて爆発してた。


 哀れ熊公は爆発四散。

 ナムアミダブツ。



 それから暫くして、自分のステータスを見ようと躍起になっていた俺は__


「__出来ねぇ」


 膝から地面に着いていた。所謂orzである。


「不思議なこともあるものだな。まれびとであれば有している物をお前は何一つとして有してないのか」


「それどころかこの世界の一般からも劣るとは…哀れよの」


「うるっせぇ! チクショウ、こんな事になるなんて想定外も良いとこだろ、バグだこれは! 悪質なバグ! クソゲーオブクソゲーだ! パッチはよ!」


「存外に元気じゃな、此奴」


 受け入れられぬ現実に、俺は肉片と化し辺りに飛び散った熊公の残骸を怒りのままに地団駄を踏んで、意味もなくわーぎゃーと騒ぎ立てた。


 そんな俺を二人は呆れたような、哀れむような、何とも言えぬ目で見ていた。

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