じゃんけん大会(2)
「へぇ……こいつはまた…」
俺は目の前に居る二人の女性をまじまじと眺めていた。
一人は燃える炎を体現したかのような、シンプルな真紅のドレスを身に纏った女性。整った顔立ちに、出るところは出ているスタイル。瞳孔が細い目は、ドレスの色をそのまま写したような色味を持っている。髪は肩甲骨辺りまでとそれなりに長く、色もまたドレスと同じく紅だ。
モデルをしててもおかしくないくらいには、美麗という言葉が似合う容姿である。
普通と違うのは頭には二本の角が、腰辺りにはドラゴンの尾のようなものが生えているくらいか。
片やもう一人は、モ○ハンに出てくるキリンの素材を使った装備に酷似した格好だった。
流石に頭のあれは無いが、民族衣装ばりのそれを見た俺が真っ先に浮かんだ感想は「めちゃくちゃキリン装備じゃねぇか」だった。
……いや、仕方無いじゃない?だって結構好きだったし。そこそこにやり込んではいたし。
何にせよ、こちらはこちらでかなり動きやすそうだ。髪型はウルフカットであり、白銀をそのまま溶かし込み、流したような色をしていた。凛々しい顔つきによく似合っている。頬には牙を横にした様な紋様が二本あり、何と言うか部族の出感が凄い。
だが、それを差し引いたとしても、こちらも負けず劣らずの美麗という言葉が似合うほどの容姿を持っていた。
女性らしい柔らかそうな身体とは違い、溌剌さが見て取れる、程よく引き締まった身体付きと薄く浮かぶ腹筋は、男でも女でも見惚れたものだろう。何よりもへそ出しがエッチです。
胸部装甲は…まぁ、来世に期待でもしとこうか。
いや、そう言えば頭に浮かべた声とか聞かれてるんだっけか?……そんときはそんときだ。死ぬ気で逃げるとしよう。逃げ切れるかは別として。
そしてこちらもまた、横の女性に同じく普通の人間には無い、ピンと立った狼耳と、腰辺りから生えているフサフサの尻尾があった。
察しの通りだ、諸君。
この二人はさっきのドラゴンさんと狼さんである。
片やドラゴンだった赤い女性はご機嫌そうに尻尾を揺らし、もう片方の狼だった白の女性は不機嫌そうな表情をしながら尻尾もそれに合わせて揺れていた。
分かり易さがより分かり易くなったな。
てか今更ながらこいつら雌だったのな。口調やらで勝手に雄認識してたけど。
「クックッ、見惚れるのも分かるが、呆けた面のままで居てもらっても困るな。しゃんと審判はしてもらうぞ」
「その通りだ、儂らに斯様な格好をさせておるのだからな! しかと行ってもらわねばならん! …しかしてグラニアよ、貴様と儂の格好、随分と趣が違うようであるが?」
「あぁ、お前用に動きやすさを重視してやったものだ。感謝せいよ?」
いや、服装ではないのだが…とぶつぶつ小さく呟きつつ、色んな角度から己の身体を見る彼女。
安心しろ、どんな身体でも好むやつは一定数居るもんだ。
「…今しがた此奴から得も言えぬ邪な視線を感じた気がしたが」
「気にすんな、狼っ娘。何処が慎ましかろうと好く奴は居る」
「ホントに図太いな貴様は?! そして狼っ娘て!?」
サッと胸部装甲に腕を回し、愕然とした表情を浮かべて叫ぶ狼っ娘に対して肩を竦めて苦笑を浮かべてから、改めて二人を見やる。
「んじゃ、審判はすっけど…折角だ。対戦方法は俺が決める」
「図太さここに極まれりじゃな、やはり殺すか」
「折角人間の体を得たんだ。それを使った対決も悪くねぇと思うぞ。なぁ、ドラゴン?」
「ふむ、我としてはどんな方法であろうと、そこな犬っころと雌雄を決せれるなら構わん」
「だってよ、狼っ娘」
「儂と此奴の対応の差が随分と激しく感じるぞ…」
ジト目を送ってくる狼っ娘に対して、何のことやらと肩を竦めてからスッと手のひらを顔の横まで持ってくる。
「んじゃ、平和的なものとしてじゃんけんにしよう」
「「じゃんけん?」」
二人揃えて聞き返してくる様子にちょっと面白さを感じながら、俺はじゃんけんの説明を二人にした。
後出しじゃんけんだとか、そういった難しいものを取り入れたものではない。
何の変哲もない、普通のじゃんけんだ。
こんなんで雌雄を決せられるか!と突っ込まれそうなものだが、そこは何とか言葉巧みに追求を躱した。
交渉とか、そっちの才能があるのかもしれん。
この世界にそういった職があるのか分からんが、目指してみるのも有りかもしれんな。
かくしてじゃんけんの説明を終え、試しとして実際に二人とやってみてから行わせた。
* * *
__そして時は動き出す。
いや、すまん。言ってみたかっただけだ。あんなどこぞの石仮面を着けるような吸血鬼の持つ能力とか持ってねぇし。
ホントなら直ぐに終わると思ってた。思ってたんだよ?冗談とか抜きに、うん。
けどこいつらの仲良し具合は計算外だ。
誰が通算0勝0敗全あいことか予測出来んだよ、ふざけんな。
出す手全て同じとか何千億分の確率だ?天文学的数字を学びに来てるじゃないんだが。
途中途中、休憩と称して俺の飲食タイムを挟んだりとかしたけど、ここまで長引くとは予想だにしなかった。
そりゃ二百年も戦い続けるわな、種族は違えど同じなんだもの。
あ、因みにこのじゃんけん大会と全く関係ないが、飲食は二人に用意してもらった。普通に美味かった。野性味に溢れる物ばかりだったけど。
だが、こうも長い間も変わり映えのない勝負と食事が続けば、人間いつか飽きが来るものだ。
だって仕方無いじゃない、人間だもの、みつを。
なので、現状を打開する為に俺は口を開いた。
「…よし、勝負は一旦終わりだ、保留」
「ゼー…ハー…ほ、保留…じゃと…? 抜かせ…ま、まだ儂は…やれ、る…ぞ…!」
「フーッ…フー…ッ、そうだぞ…虫、けら…ナメられた、ものだ…な…!」
二人して大きく息を乱し、肩で息をしながらもこちらに食って掛かる。
寝るまではずっと見てたが、何でそんなに息絶え絶えなんだよ。全力でやりすぎじゃないか…?
「まぁ、そう言うと思ってたが、流石に長引き過ぎだ。ホントならもうちょっと早く決着がつくんだぞ、これ。どんだけ仲良しなんだよ」
「「誰がコイツ(此奴)なんかと!」」
ホント、息ぴったりな仲良しこよしで何よりです。
一日ごとに更新したいのですが難しいもんですね