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出立

【前回のあらすじ】

領主に直接依頼をぶつけられたが、目的とする場所に近い所らしいのでついでにやっとくか。

 窓から射し込む朝日が(まぶた)越しに眼を焼き、黒かった視界がぼんやりとした白へと染め上げられていく。


 未だ体は優しく包み込むように、気怠く伸し掛かる眠気に従順らしく、意識が夢の世界から浮上し、薄らと目は開けれても、突っ伏した机から引き剥がすに足る力が出せなかった。

 流石に昨日はどんちゃん騒ぎをし過ぎた気がする。祭りの空気に当てられて羽目を必要以上に外してしまったのだろう。


 だが、いつまでもそうしている訳にもいかない。もたつきもあってか予定よりも大分と遅れが出ており、いい加減エルフの森に向かわねばなるまい。


「ん、ぐ…ッ! ィ、てて……」


 起きたくないと体から上がる抵抗の声を無理やり伏し、ベリベリと机から引き剥がしてから立ち上がる。昨日の疲れもあるが、それ以上に長らくベッドや布団で寝てないのもあり、かなり体が固まっている。少し伸ばしただけで痛みが走るとは…ちゃんと横になって寝なきゃダメだな。


 走る痛みと纏わりつく気怠さに得も言えぬ感情を抱きながら、壁に掛けられた時計を見やる。

 時刻は五時を過ぎた当たりを指し示しており、自身がどれだけ早くに起きたかを知らしてくる。


 部屋を見渡せば、寝具を占領する三つの塊が未だにスヤスヤと安らかな寝息を立てていた。ミーアを間に、グラニアとフェミリアが並んで、向かい合って寝る形である。

 寝具は確かに大きくはあるが、三人は流石に手狭に感じるものがあるだろうに…。よくもまぁ、ああしてスッポリと収まれるものである。 


「……こうして大人しけりゃ、引く手なんざ数多なんだろうな、こいつ等」


 そんな光景を拝めるのは早起きの特権であり、得であるなんて良く分からぬ言葉を脳内で浮かべながら、ポツリと誰に対しての言葉でもなく独り言を呟きつつ暫し眺め、起こさぬように極力音を立てないようにしながら、イツキはゆったりと旅支度を始めた。



        *   *   *



「おら、シャンとしろー。朝飯も食ったし、支度も終えただろ。…立ったまま寝ようとすんな。器用だな、おい」


 時刻はイツキが自身の支度を始めた当たりから約三時間半後。最早日課となってしまった、イツキよりも断然に目覚めが悪い三人を起こし、朝食を食わせ、旅支度を終えさせ、遠い昔に(くぐ)った気にさせるクリエスタの門前に、眠気に負けそうになってフラフラと体を揺らす姫さん達と立っていた。

 因みに三時間半の内、三時間は起こすのに(つい)えた。労働とさして変わらないのではないか…?

 あぁ、あとこいつ等が眠たげな眼を擦りながら大量の朝食が瞬く間に消えていく様は一種のホラーでした。多分、時間として5分も掛かってなかった。


 さても、大きく「旅支度」、と言ってもイツキ達にはそんな大掛かりな物など必要無く、最低限の物資と道具、そして幾ばくかの路銀さえあれば十分であり、傍から見れば荷物量の少なさに近場に少し遊びに出て行くのかと思わせるくらいだろう。


 正直なところ、食料などは現地調達するとして、調理もその場、寝るのも悲しきかな、この世界に飛ばされた時から野宿に慣れてしまったので何処でも、と、ある種の無敵状態である為、手ぶらでも良いか等と考えもしていた。路銀は領主のおっさん(ゴルド)ギルドマスター(ギルバート)が用意してくれたし、それを持って…と思っていたが、支援の一環なのか幾つかの道具を寄越してくれていた。


 一つは【収納袋】。

 見た目は何処にでもありそうな、片手サイズのただの袋なのだが、空間魔法だか何かが内に掛けられているらしく、見た目以上に収納が可能なのだとか。

 ものは試しにと、あれやこれやと無茶を承知で入れてみたのだがダ◯ソンも驚きの収納力。あまりの収納量に正直恐怖すら覚えた。

 あと、ランク毎によって入れれるものも変わってくるらしく、最上位のものは生物でも液体でも何でもござれの見境無しらしい。空間魔法ってだけでも訳が分からないのに、こうもなると何でもありに思えてくる。

 そして取り出す時は入れたものを脳内で浮かべつつ手を突っ込めば取れるらしい。あと、単に保存が効くのか、それとも時魔法的なのが掛けられてるのか、入れたものを取り出す時、入れたままの状態で出てくる。出来たての料理を入れて、時間が経ってから取り出しても出来たてのままなのだ。とても摩訶不思議。

 因みにクリス曰く、これ一つだけで庭付きの家一軒買えるくらいの値段が最低価格らしい。聞かされた時、冗談抜きに手が震えた。


 二つは【本】。

 これに関しては良く分からん。取り敢えず手渡されたが、どう言った物なのか、どんな効果があるのかは知らない。聞いても特に答えてくれなかったが…まぁ、害のある物では無いだろう。…多分。今は収納袋の中だ。


 三つに瓶詰め薬液…所謂【ポーション】類。

 回復やら解毒やら色んな種類のを結構貰った。中には店ではあまり見られなかった付与系(エンチャント)の物まであった。

 持ってるだけでもガチャガチャと五月蝿く、また嵩張って両手も完全に塞がってしまうので、漏れなく全部収納袋の中にぶち込んでおいた。収納袋様々である。


 これらだけでも羽振りが良過ぎるくらいに至れり尽くせりなのだが、加えてエルフの森近くまで運んでくれる馬車までも手配してくれていた。正直今回の依頼に対して過剰では…?と思わなくもない支援の程である。

 馬車に関しては多分クリスの入れ知恵だろう。こいつ等の朝の弱さを知ってか知らずか…何にせよ、有り難いことに変わりはないので、甘んじて受け入れている。

 ……この世界の、かつこの時代の馬車って一回の乗車にどんだけの運賃掛かるんだろうな…。


 因みに見た目は如何にもRPGとかで出てきそうな感じの、少しボロさの見え隠れする年季の入った馬車だ。乗り合い式なのか、何人かが先に乗っているのが伺える。

 流石に個人団体専用の馬車、とはいかないらしい。が、これが良いよな、やっぱ。旅感がとても出てて。


「何だ、お前らもこれに乗るのか?」


 門近くで停まっている馬車を感慨深く眺めていれば、不意に声を掛けられた。

 そちらを見やれば、まだ少し眠そうな雰囲気を残している、此処へ初めて訪れた時に相手した番兵が居た。


「よぉ、おっさん。息災そうだな」


「何とかな。お前こそ、あの悲劇で死んだかと思ったが、まさか無事だとはな。運良くこの街に居なかったのか?」


「いや、ちゃんと居たさ。何やかんや色々とな。ま、生き汚さと悪運の良さは認めるぜ」


「だろうよ、こうして生きて喋ってんのが何よりの証左だ。言うまでもねえだろうが、外に出てくんなら気を付けて行きな」


「おっさんが心配するなんざ、明日は雨だな。ま、程々に、気楽にやってこう。互いにな」


 変わらぬ軽口の叩き合いをし、ニヤリと口角を上げてから手を挙げて挨拶を済ませる。


 それから先に三人を馬車に乗せ、俺が代表として御者に挨拶と確認事項、注意などを聞いてから遅れて乗り込んだ。

 先に乗せた三人以外から視線を一気に浴びたが、特に長く続くわけでもなく、直ぐに興味が失せたのか其々が談笑に戻り始めた。


 同乗者達は…商人らしき若めの男の人物が一人とその護衛っぽい、少し老齢の男が一人、それと冒険者のパーティっぽい女性四人組に、夫婦らしき男女と、その子供なのか二人の幼い男の子と女の子。

 合計して十四名と結構な人数だが、それでも手狭に感じられないくらいには広さと大きさがあるらしい。

 俺がどうやら最後だったらしく、席に着くや否やガタゴトと小気味よく揺れながらゆったりと進み始めた。


 子供達は朝だと言うにも関わらず、これから出掛けるのが楽しみと言わんばかりにキャッキャとはしゃいでおり、夫婦や冒険者組も温かな目で見ていた。

 対してうちの(見た目は)子供代表であるミーアは…残念ながらまだお(ねむ)らしい。いつの間にか横に座る俺の腿を枕にしていた。

 残り二人も同じらしく、片や赤い方は礼儀正しく座りながら少し頭を横へ傾けて寝ていた。器用である。もう片や白い方はと言えば、腕を組んで天井を仰ぎ、少し口を開いて寝ていた。予想通りではあるが、もう少しこう、恥じらいと言うものを持つべきなのではないだろうか。コイツの性別って女で合ってるよな…?男らし過ぎん…?


 そんな様子を見て、何とも言えぬ思いを胸に苦笑いを浮かべながら、これから始まるであろう出来事と苦労を頭に浮かべる。


 今回の旅もまた大変になりそうな気がするな。…出来れば面倒事は起きませんように……。


 言葉には出さず、俺は縁に肘を置き、頬杖をついて、過ぎ去る外の景色を眺めながら、きっと叶わぬであろう願いを込めた。

皆様、お久しぶりです。そして大変長らくお待たせ致しました。題名がフラフラ〜、コロコロ〜と安定もせず変わる小説の続編です。

 いやホント、何かしっくり来ないんですよね…かと言ってこれだ!と言うものも浮かばず……。良いの無いですかねー…。

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