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依頼

 俺達は街の真ん中に位置する領主館に足を踏み入れ、迎賓の間に案内されていた。


 促されるがままにソファーへと腰を下ろせば、向かいに領主とギルドマスターが腰を落ち着ける。

 クリスはあくまでも護衛役というのか、ギルドマスターの斜め後ろ当たりで立って待機していた。

 ミレアも同じ様な感じで、領主の後ろ当たりで立っていた。


「さて、まずは礼を述べよう。この街を救ってもらって感謝する」


 其々が着くべき場に着いたと見るや、領主が口を開き、イツキに対して深く頭を下げた。


 それに合わせ、ギルドマスターであるギルバートも頭を下げた。


 そんな二人を見て、イツキは首を傾げた後にクリスとミレアへと視線を投げる。


「ちゃんと伝えたのか、クリス、ミレア? 今回の立役者で街の英雄はお前らだろ」


「それは()()()の話だろう? 僕はあるがままに事実を伝えたまでさ」


「右に同じーく」


 俺の疑問に対し、クリスは何処か戯けるような口調でのらりと逃れ、ミレアはクスクスと笑いながら追求を逃れる。

 くっ、こいつら…。


「あー…俺等はただの補助だ、直接的に救ったのはおたくらの人間に変わりはねぇぞ。えっと…名前分かんねぇから領主のおっさんで良いか。あんたの認識はちっとズレが生じてる」


「フフッ、ギルバートの言う通りの人物ですな。目立つことを極端に嫌う、というのは。失礼、まだ名乗っておりませんでしたね、(わたくし)、名を『ゴルド=カタリア』と申します。お気軽にゴルドと呼んでいただければ。あぁ、人目や耳を気にしているのならば大丈夫ですぞ、人払いは済ませていますので」


「……随分と用意周到だな、至れり尽くせりで恐縮の思いだよ」


「えぇ、それはもう」


 ニコニコとした笑顔で応対してくるゴルドに苦笑いを浮かべる。

 やっぱこの街の領主となれば逞しいだけでなく、食えない部分もあるということか。


「それでこの街を救っていただいた方に何も渡さないというのも無礼な話、是非とも報酬を__」


「要らねぇ」


 ゴルドの言葉を遮るように、イツキは提案をバッサリと切り捨てる。


 当然ながらゴルドはぱちくりと目を瞬かせ、少し驚いた様な顔を浮かべた。


「あー、いや、要らねぇってのは語弊だな。あんたの面子も考慮して…そうだな、暫くの路銀に苦労しないくらいの援助は欲しいが、それ以上は求めねぇ」


「…ふむ、理由をお聞きしても?」


 少し考える素振りを見せてから、何か深い理由でもあるのだろうと思ったゴルドは、イツキに対して理由を問い掛けるが、問われた本人は小さく肩を竦めた。


「まぁ、何だ。身から出た錆ってーか、今回の騒動、うちのやつが一枚噛んでてな。俺も深くは知らねーし、理解出来てないのが現状だがな」


 横に座り、何処か申し訳無さそうな表情で顔を俯かせてるミーアの頭をポンポン、と撫でてやる。


「それがある故に、と。随分と律儀なものですね」


「人に迷惑掛けといて自分の我が儘を通そうとする程腐っちゃいねぇさ。だからさっきの要求も別に飲まなくて良い」


 イツキの言葉に、しかしゴルドは首を横に振ってやんわりと否定する。


「それには及びませぬ、街を救って頂いた事に変わりはありませんからな。しかしそうですな…気が収まらぬ、というのであればちょっとしたお使いを頼まれて頂けますかな?」


「…ちゃっかりしてんな、あんたも。それが本来の狙いだろ」


 イツキの言葉に柔らかな笑みを浮かべるだけで言葉にせずとも、真意を知るにはそれで十分であった。


 イツキが再び苦笑いを浮かべていれば、ゴルドに促されてミレアが懐から一枚の洋紙を取り出し、机の上に広げる。


「貴方に依頼したいのは『黒魔の渓谷』の調査です。どうにも最近、あの付近で魔力の異常な高まりがあるとのことで。それに物騒な話もチラホラとありましてね…」


「そういった調査は後ろの冒険者とかの仕事じゃないのか? 危険地に嬉々として突っ込んでく物好きばっかだろ」


「ひっどいなー、その評価。まぁ、実際その通りだけどさー」


「えぇ、勿論の事ながら。しかしこれの危険度に見合う階級の冒険者が残念ながら居ないのです。クリス殿は知っての通り忙しい身でありますからな」


 ……こいつ、そんなに忙しそうにしてるか…?普段から割りと暇してそうなもんだが…。


 そんな気持ちを多分に含んだ視線をクリスに投げかければ、それが不服だったのかプクーと頬を膨らませた。


「これでも結構引っ張りだこの有名人なんだよー? 今回の騒動でもあれやこれやとあちこちから手を引かれたりしてるんだからね、何処かの誰かが投げてきたからさー」


「お、そうなのか。大変そうだな、じゃあこの話は終わりだ」


 イツキとクリスのやり取りを見ていたミレアは、腰に手を当ててため息混じりで言葉を溢した。


「君らってホント、仲良しだよねー…」


「ホッホッ、ですな。私もこれくらいにギルドの仲間達と打ち解けれれば良いのですが」


「いやぁ、ギルドマスターの時点で難しいんじゃないですかねぇ…」


 ミレアとギルバートのそんなやり取りを右から左へと流しつつ、頭を切り替えるためにイツキは話題を戻すことにする。


「結局、この話を承諾しない限りは先に進まないことは明白だし分かってはいるが、確認だ。こいつら二人(グラニアとフェミリア)は別として俺とミーアは冒険者証を持ち合わしちゃいない、所謂"一般人"の部類になるはずだが…そこらはどうなんだ?」


 イツキは、両端を陣取るようにして座る赤と白の女性二人へ視線をやってからゴルドへと視線を戻して問い掛ける。


 大抵、危険区域ってのは一般人や非力な者、実力の見合わない者が立ち入って無闇に被害を増やさないために区切られ、管理されるのが普通だ。


 抜け穴があって、仮にそういった馬鹿が入り込んでも、自己責任として処理…全てとはいかずとも、大方(七、八割)は管理側の責任追求は逃れられたりするだろう。


 まぁ、要は安全面に関するお話である。

 下手な装備を身に着けて足を遅くするよりも、この紅白饅頭を横に付けてる方が効率、利便性、安全性、どれを取ってもお釣りが来るレベルだ。

 …紅白饅頭に限らず横に座るよもぎ餅も同じ様なもんだが。


 だがそれもこいつらが()()()()()()()()()()の話だ。


 昨日の襲撃の時のように、散り散りだってあり得る。

 なら掛けれる保険は掛けるべきだ。


 慎重過ぎるのは考えものだが、予測し得ない事態が待ってる場なら、妥当なくらいだろう。


 だがゴルドの答えは何とも意外なものであった。


「あぁ、そこらに関してはご安心を。貴方と横のお嬢様の一時的な冒険者証を発行致しますので。冒険者であれば問題なく乗り込めましょうぞ。仮に冒険者証(これ)が無くとも、同行の許可等は押し通す(認めさせる)ので問題は特にありません。そして保証に関してですが、勿論ながら目一杯の支援はさせて頂きますぞ」


「やりたい放題だな…職権乱用にならねぇか…?」


「バレても揉み消させて頂くだけなので」


「やりたい放題な上にクッソ黒いな?!」


 あまりにも無茶苦茶すぎる言葉に、イツキは愕然としながらツッコミを入れる。


 そんな様子を横でクスクスと笑うギルバートにイツキは視線を移せば、少し食って掛かるように言葉を投げ掛ける。


「他人事見たく笑ってるが、あんたらは良いのかよ。偽造書発行みたいなもんじゃねぇのか…?」


「ふむ、それに関しては問題はありませんな。何せ私も介入している事柄ですから。それに何より、一介の職の頭が何かしたところで、強大な権力には逆らえますまい!」


 ハッハッハッ!と豪快に笑いながら(うそぶ)く彼に、これ以上取り合うのは無駄だなと悟ったイツキは頭を抱えた。


「はぁ…わーったよ、やりゃあ良いんだろ。けど、こっちの用事が終わってからだ、取り掛かるのはそれからになるからいつになるか分かんねーぞ」


「あぁ、そこらの心配も大丈夫です。『黒魔の渓谷』と貴方の目的地であるエルフ族の住む森はほぼお隣同士ですから、物のついで程度に行っていただければ」


「…おっさん、分かっててこれ持ってきやがったな…? 取り敢えずクリス、後で話がある」


「あっは、イツキくんからお誘いなんて凄く嬉しいけど、反面すっごく怖いなー」


 話はこれで一段落付いたものと見なし、イツキはソファーから立ち上がって扉へと向かって歩き始める…当たりで、ゴルドが何かを思い出したように口を開く。


「あ、因みに。我々はエルフ族との不干渉の条約がございますので、大きく関与は出来ません。が、お土産話は期待しております」


「…やっぱ良い性格してんな、おっさん」


 イツキは領主に対し、最後まで苦笑いを浮かべながらいつもの三人とクリスを連れ、その部屋を後にしたのであった。

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