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祭と政

前回のあらすじ:祭り楽しもうとしたら色々裕福なおっさんが話し掛けてきたぞ

 周囲に居た街の人等も何だ何だ?とざわつき始めるが、そんなのはお構い無しだと言うようにズンズンと足を踏み鳴らし、金髪の裕福そうな男は何故かこちらへと向かってきた。


「貴様らの事だ! 何、無関係ですみたいな顔をして呆けておる! 貴様らだろう、奴らを手引きをし、この街に入れて破壊し回ったのは!!」


 男は大層興奮しているのか、鼻息を荒くし、指を差しながら詰め寄り、果てには俺の前に立てば唾を吐き散らかしながら喚いていた。


「あん? 誰だ、お前」


「こ、この私を知らないだと…!? …いや、この街の者ではないからこそ、私を知らないのであろうな! 私はエニュート・ボルバレア伯爵である、しかとその小さな脳に刻みつけるのだな、()()()!」


 興奮しながらも名乗る冷静さはちゃんと持っているらしい伯爵殿はこちらを()めつけながら、吐き捨てるように大罪人という濡れ衣を押し付けてくる。


 街の破壊の手引だの大罪人だのと言ったワードが出れば、当然ながら集まってきた街の者達の耳に入り、ざわつきは一層大きくなり始めた。


 中々に面倒だな、これ…てかエニュートって聞き覚えあるな…何だっけか……。


「んー…大した妄想力だな、エニュート君。うん、凄い凄い。んで、俺らが手引きして街の破壊活動に勤しんだという証拠みたいなもんはあるのか?」


「ふん、あくまで(とぼ)ける気か。しかし無駄だ。そこなる赤いドレスの女と、品性の欠片も見受けられない族の出であろう白い女が街中を駆け回り、魔法を撒き散らしておったからな! あれはアンデッドを生み出す、若しくは呼び出すものであろう!」


 へぇ…あの破壊速度を見れる奴が居たのか。

 …いや、多分あの金髪男(エニュート)が見たんじゃなくて、手練れの側近当たりが見たのか…。それでも普通に凄ぇけども。


「なぁ、時に聞くんだけど、魔法の残骸? 残留物? みたいなので、どんな魔法が使われたかみたいな鑑識っぽいのは出来ないのか? それかそれに近しい物があるとか」


 ふと気になったので後ろの二人に聞いてみた。


 この世界では魔法が解析されており、それの効果を打ち消すような道具が開発されているのだ、それならばそういった物が一つや二つあっても良さそうなものだが…。


「魔法は発動してから形を失うまでが早くての、使われてから直ぐならばまだ分かるものであるが、時が経ったものであれば詳細の特定までは難しかろうな。四属性であらば、残った痕跡で大凡の検討くらいは出来るであろうが…」


「うむ…龍族であれど、風化した痕跡を見て正確にそれだと言い当てるのは至難の業でもある。人族が造り出す物でも、検討は出来ても確定はさせれんだろうな。効果を打ち消すと言っておったあれも、謂わば魔法陣の紋様を一部書き換える程度のものであったし」


 どうやら俺の期待は(ことごと)く外れてくれるらしい。全く、時には俺に優しくしてくれても良いだろうに…。


 しかし、そういった物があるならばこの良くわからん疑惑を晴らすことも出来るのだが…と考えていれば、放置して此方で話し始めたのが気に食わなかったのか、エニュートが再び憤慨した様子を見せて食い掛かってきた。


「この私を差し置いて、何をごちゃごちゃコソコソと話しておるか! 何から何まで怪しい奴らめが! お前らも何をしているグズ共の穀潰しが! さっさと捕まえに掛からんか!!」


 怒りはどうやらイツキ達に留まりきらなかったらしく、周りでがやがやとざわつく人達に怒鳴り散らしていた。


 街の人達は「どうする?」「いや、確たる証拠が無い限りは…」「でもなぁ…」なんて口々に言葉をこぼすだけで留まっており、誰も動こうとすらしなかった。


 それに腹を煮やしたか、怒りで赤く染まる顔を更に赤らめたエニュートは、再び怒鳴り散らそうとするが何かを思い出したように、一瞬止まってからニヤリ、と笑みを浮かべた。


「そう言えばお前らが手引きしたであろう奴等の頭らしき男、最期に誰かに向けて叫んでいたなぁ…? それも働きだとか、餞別だとか。あれはお前らに向けたものなんじゃないか? ん?」


 エニュートがそう言った瞬間、空気が一変する。


 確かにあの時、黒尽くめの団体の頭らしき男は大きな声でそう叫んでいた。

 その場に居なくとも近くに居れば聞こえるものだ、内容もバッチリだろう。


 あぁ、クソッ…面倒なことになった。後始末のクソ嫌な部分が早くも浮き上がってきたな…。


 内心で舌打ちをしながらイツキは辺りを、周りに悟られない程度に一瞥して耳を傾ける。


 街の人達からは「確かに言ってたぞ…」「あぁ、俺も聞いた。あれは誰かに向けたものだったぞ」「じゃあエニュート様の言う通り、あいつらが…?」なんて言葉が聞こえてくる。


 エニュートに至ってはこれしたりと言った顔つきでニヤニヤと笑みを浮かべていた。クッソ、殴りてぇ。


「確かにあれは誰かに向けてのものだろうな、だが俺達だとは断言できないだろ。手引きした証拠も無い、それを目撃した奴もこの場には居ない。噂に尾ヒレが付いて泳ぎ回るのはよくある事だが、今回もそれと見て良さそうだが?」


 流石に肌色が悪すぎるのは誰が見ても明らかだ。


 イツキは後ろの二人が辺りに危害を加えたり、暴れたりしないように手で小さく静止の合図を送りながら、エニュートを真っ直ぐ見据えながら問いかける。


 しかしエニュートはそこまで取り合う気を見せない素振りを見せつつ、勝ち誇った笑みを見せて口を開いた。


「クク、実によく回る舌じゃないか罪人風情が。だが、今の貴様の言葉を信じるものが此処に居るとでも? 今この状況で私よりも信頼の低い貴様の言葉を誰が信じるか。あぁ、大罪人の一人には少しばかり興味があってな? そこな緑の小娘をこちらに渡してもらおう。今回の件の話を聞かせてもらう重要参考人としてな」


「白々しい…そっちが大本命だろ…」


「ん〜? はて、何のことだかさっぱりだな」


 緑の小娘…十中八九ミーアの事だ。


 そしてその要求を聞いて、漸く何処でエニュートを見たかを思い出した。


 コイツ、ミーアを追いながら付き人に怒鳴り散らしていた、あの貴族か…。


 確認するように頭の中で呟きつつ、状況を改めて確認してみるが、すっかり流れはエニュートの思うがままに掴まれてしまっていた。


 __古来より人ってのは脅威に晒されたらその脅威に対して過剰なほど敏感になる。

 直接的な脅威に晒されたらそれはなお顕著に出るものだ。


 そう言ったものは大抵、脅威が取り除かれても暫くは残り続けるものであり、『防衛反応』として昇華し、近しい事柄が起こったり、起こりそうな場合に人間は攻撃的になる。

 自分の身や、家族、大切なものを守るために。


 そうして行われるのが「脅威を排除する」という名目で正義を翳し、悪と認識した脅威を断罪する、()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな事は起こらない、ただの妄言に過ぎないと夢見がちな理想論者様も、もしかしたら居るのかもしれないし、そう反論するかもしれないが、残念ながら過去に行われているのが実態であり、そんな反論を易々と否定するのが人という生き物だ。


 例えばそう…有名で、広く大衆に認識されているものを挙げるならば『魔女狩り』、『異端者狩り』だろうか。


 そしてそれが此処で行われかけている。俺達を対象(脅威)として。


 現に街の人達の雰囲気もあまり宜しくはない、疑念や懐疑、果てには血気盛んな冒険者からだろうか?敵意っぽいのすら感じられるくらいである。


 今にも一触即発が起こりそうで冷や汗が垂れる…というか後ろの二人と、手を繋ぐこの幼女をどれだけ上手く止め続けれるかで気疲れが起こる…。

 なんで疲れ果てた次の日に、体に鞭打ってこんな事をしなければならないのか…。


「じゃあ、私は彼の言い分を信じるとしようか」


 完全に良くない状況に、()()()()()()の事を考えていれば、ふと聞き覚えのある声が耳に届く。


「誰だ、貴様は」


 流れは完璧に掴み、欲しい物を手に入れるまでもう少し、というところで邪魔が入ったのもあり、腹立たしげな様子でエニュートは声を上げた人物の方を見やる。


 声を上げた者は、冒険者らしい身軽な軽装の出で立ちとブロードソードを腰に下げた茶髪の男_クリスであった。


 クリスはエニュートの言葉を聞くやこれ見よがしに態とらしく悲しそうな表情を浮かべた。


「おや、私は貴方の事を存じているのに、貴方は街の住人の一人すら分からないと。悲しいことを仰られますね、伯爵」


「フンッ、たかがそこらに居る程度の下民を気に掛けるわけ無いだろう。サッサと立ち去れ、居座るならば不敬罪として力づくで去ってもらうが?」


「へぇ…?」


 そこまで聞いた俺は不敵な笑みを浮かべる。

 成る程、コイツは胡座をかくばかりで情報を得るのは相当に不得意らしい。


 今の今までも何かを成すにも全て部下にやらせるばかり、自身は何もしないってタイプだろうな。

 典型的な「嫌な貴族」ってやつか。


「…何か言いたげだな? 何を笑っている、遂に追い詰められ過ぎて気でも触れたか」


「いや、何。存外にあんたは周りが見れてないんだな、って思ってよ。後は無知さにちょっとな」


「なにぃ? 私はこの街を治める貴族の一人だ、貴様みたいなのに言われずともちゃんと見れている」


「そうか? んじゃあんたはある意味では大物って訳だ。まさかこの街を救った英雄に対してお前なんて知らねぇなんて言うんだからな」


 イツキが指摘した事により、初めてエニュートはハッとした顔つきになり、クリスの方を見やる。


 雑に確認するだけで、ちゃんとしっかりと見てなかったのだろう。

 自身が言ったことの大きさと、俺に指摘されたという二つが合わさり、冷や汗を垂らしているのが見て取れた。


「ふ、フン! それはあれだろう、貴様らが結託し、そう仕向けていただけに過ぎない筈だ! 何とも巧妙なものだな? 貴様は仕掛け、そしてコイツが解決する。どちらが考案した? よもや冒険者の此奴か、全くもって度し難い、これだから冒険者等という野蛮な奴等は…おい、いつまで突っ立って居るつもりだ能無し共が! さっさとあいつらを捕まえんか!!」


 どうやら風向きが少し変わったのを感じ取ったのだろう、必死に取り繕い、挙げ句に見事な妄想力を働かせてあれやこれやと無いものをでっち上げていきながら、周囲に怒鳴っている。


 ここまで行くと逆に感心する、どっちがよく回る舌を持っているのか分かったものじゃない。


 そして、流石に冒険者を馬鹿にされたからか、辺りにいた街の人達は遂に動くこともなく冷たい眼差しをエニュートに向けていた。


「くっ、ぅ…この使えん穀潰し共が…! ならばこの私が直々に!」


「その必要は無い、エニュート氏。君の代わりに私が彼等の身柄を引き受けるとしよう」


 誰も動く気配がないと悟ったエニュートは、是が非でもミーアが欲しいのだろう、力づくでも俺等からその身を奪い取ろうとしてきた。

 が、動く前に背後に来た人物に肩を掴まれ、その動きは封じられた。


「どいつもこいつも私の邪魔ばかりを…! 今度は誰、だ……」


 不快だと言わんばかりに肩を掴んでいた手を思い切り振り払い、忌々しげな顔付きで振り返ったエニュートは、その憤りが徐々に鳴りを潜めていき、代わりに先程とは比べ物にならないくらいに蒼白な顔へと変わっていった。


 無理もない筈だ、そこに居たのはこの街を代表する二人の男性と、事件解決のもう一人の立役者が居たからだ。


「貴殿自ら表立って動く働きぶり、実にご苦労だな、エニュート伯。後は領主である私に、任せて頂けるか…?」


「あぁ、あの者らが暴れたりして危害が及んだら、などと言う心配は要りませんぞ。ギルドマスターである私とクリスがついておりますからな。まぁ、彼等ならそんな心配や問題は無いでしょうが」


「あ、僕もちゃんと居るし着いてくから、忘れないでよね」


 領主、ギルドマスター、果てに事件解決の立役者二人、相手が悪いことこの上ない事を嫌でも思い知らされたエニュートは、何かを言いたげにしながら渋い顔に歪めつつ横へすごすごと避けた。


 領主はそれを見届けてからゆっくりと前へ歩み、イツキの前に立った。


「では、ご同行を願いましょうか」


「…分かった。…勿論、こいつらもだな?」


 領主はイツキの問い掛けに対して肯定するわけでも、否定するわけでもなくやんわりとした笑みを浮かべ、背を向けて歩き出した。


「無言は肯定ってな…りょーかい…。悪いな、お前ら。最後の詰めだ、付き合ってくれ」


「フン、言われずともそうするわい」


「お前が行くならば、我らも向かうまでよ」


「ミーア、ちゃんとイツキと一緒に、行く」


 其々の快諾を聞けば、嬉しさ半分、何処か気恥ずかしさ半分の表情を浮かべ、イツキは三人を連れて領主達に案内されるがまま、領主館へと向かうのだった。

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