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一難去って

 件の騒動から宿に戻り、寝床についた当日の朝__もとい夕方。


 流石に寝たのが朝というのもあって起きるのがかなり遅くなったのと、寝過ぎたのか、かなり頭と体が痛い。


 いや、頭は寝過ぎたせいなのだろうが、体は確実に違うな、筋肉痛だわ、これ。


「ぅっ……」


 喉の奥から絞り出すかのように出した声も、蚊の鳴くような(うめ)き声になっている。相当に体力を使ったようだ。


 それもそうか…連戦続きだったからな、最後なんて敵を煽り散らかしたし、声も枯れるくらいはするか…。


 何とか無理くりに体を机から引っ剥がし、上半身を起こしてから頭に手を当て、意識をハッキリさせるために横に振る。


 それから辺りを見渡してから初めて違和感に気が付いた。


「あれ…あいつら、何処に行った…?」


 そう、部屋には本来居るはずの者達が居らず、自分一人だけだったのだ。


 時刻を考えれば外に出ていてもおかしくはない、特にあの赤と白の二人は化け物並みに体力はあるし、寝ずに行動しても、翌日に差し支えるような事は何も無いだろう。


 だが、緑のあいつは違う。


 少なくとも昨日は俺と同じように相当な無茶をしていた。だから幾ら体力があいつら並みにあろうと、同様に眠りこけているものだと勝手に思っていたのだが…。


「ま、良いか…。取り敢えず体を動かさねぇと__()ッッッ…つ〜〜〜……!」


 幾ら心配しても仕方はない、それに下手なことがあろうとあれらなら大丈夫だろう、常識に対して中指を突き立ててるような存在(奴ら)だ。


 それよりも、と気分等を切り替えるために机に手を付き、支えとして立ち上がろうとした瞬間、体は相当ボロが来ているのか足に力が入らず、そのまま椅子から転げ落ちてしまった。


 ただでさえ体中が筋肉痛やらで痛いというのに、今の追い打ちで痛みを加えられた体は「限界だと言っているだろう!」と怒りを露わにするかの様にあちこちから叫びをあげていた。


 それなりに若い年齢の男だと自分なりに思っているが、それでも形振(なりふ)り構わず泣き叫びたいところだ。


 男だって泣きたいときくらいあるだろう?俺は今それが来てるだけだ、情けなくない…はずだ。


「ってて…けど、ここまでガタが来てるのはキツいな…」


 近くの柱を支えにして何とか立ち上がれば、震える足で壁伝いながらに入り口を目指して歩く。


 後もうちょっと…よし、手を伸ばせばノブに手が掛か__。


「帰ったぞー!」

「ぞー!」


「ぶっ…!?」


 ノブに手を掛けて扉を開けようとした瞬間、イツキが開けるよりも早くに扉が開け放たれる。


 悲しきかな、その扉は思いっきりイツキの顔面にクリーンヒットし、情けない声を漏らしてイツキは背中から倒れることになった。


「なんじゃ、起きとる気配がしたと言うに、まーた此奴は寝とるのか。呑気なもんじゃの」


「…顔が赤い、鼻血も出てる……襲撃…?」


「なぬっ!? 儂らが居ない間を狙った犯行か! おのれ、姑息な手を使いおる…!」


「ッッてぇなボケェ!! 殺す気か!!」


 衝撃で軽く意識が飛んでいたが、痛みで半ば強引に戻されればガバッ、と上半身を起こし、犯人共に食って掛かる。


「存外に元気じゃの、死んだかと思うたが」


「イツキ、おはよー」


「ご挨拶が過ぎんだろ、テメェらのお陰で危うく死にかけたっての。そんなに俺が嫌いか…ったく…」


 俺を危うく殺めかけた犯人1(フェミリア)は何食わぬ顔をしており、犯人2(ミーア)に至っては横で屈み、片手を上げて起きた時の挨拶をしていた。


 そんないつもと変わらぬ二人に毒気が抜かれたイツキは、片手を未だに痛む顔に当て、やれやれと言いたげに頭を横に振りつつ、ミーアの頭を撫でてやった。


 ミーアは満足げに「むふー」と猫のように目を細め、得も言えぬ顔で喜んでから立ち上がる。


「イツキ、起きたなら外、行こ」


「外? 何かあんのか?」


「ん、そうか。お主は外の喧騒も気にせず寝ておったからの、分からぬのも無理はないか。復興の前祝いと()かして、街の者共は祭り騒ぎじゃぞ」


「へぇ、てことは()()も上手くいってんだな、上々じゃねぇか」


 ミーアは一刻でも早く行きたいのか、座りっぱなしの俺の腕を引き立たせようとしてくる。


 そんな様子に思わず小さな笑みを溢しながら、よっこいせと立ち上がる。

 我ながらおっさん臭いものだ、もう少し若い自覚はあるんだがな……。


「そういやグラニア(あいつ)はどうしたんだ?」


 俺の顔面に強打をくれやがった今は憎き部屋の扉を開け、二人を連れて宿を出る際に居ない人物に気付いた。

 どちらか片方に問うでもなく、何となしに聞いてみたら手を繋いで歩くミーアが口を開く。


「街のあちこち、見てる。事後の影響が無いか、とか、残骸が残ってないか、とか」


「へぇ…マメなもんだな」


「上に立つ者の責務だとか思うておるんじゃろうて、律儀なものよ」


 ふーん、と納得するような声を漏らしつつ、視線をフェミリアへとやる。


「そういうお前は見たりしないんだな、仮にも上に立つもんではあるだろ」


「見はひはほ(したぞ)? ンッ…うむ」


 手には空いた串を持ち、もごもごと口を動かしてからゴクリ、と飲み込んで頷きながら何故か得意げなフェミリアさん。


 てかコイツ、ちょっと目を離していた今の一瞬で何かの串焼きを買ってきやがったのか…。


「ほれ、お前も食って英気を養っておけ」


 えぇ…みたいな表情を浮かべ、フェミリアを見ていたら何の気まぐれか、フェミリアがもう片方に持つ紙袋から串焼きを一本取り出してこちらへと差し出してきた。


「…お前にしては珍しい気配りだな」


「味がちょいと微妙であった、ワシ好みではないの」


「お前な……」


 グシャ、と持っていた紙袋を潰した当たり、これが最後の一本なのだろう。


 取り敢えず貰いはしたので一口だけ口にした後、ミーアに差し出す。


 味は…うん、コイツが言うような微妙さは無いな、てか普通に旨い方だと思うが…。

 俺から串を受け取ったミーアも、普通にムシャムシャ食ってるし。味が微妙だったらコイツもコイツで残すからな…。


 ま、個人の好みということにしておこうとイツキは己を納得させれば辺りを見ながら散策を続けた。



「む、やっと来たか。何をしておった、待ち兼ねたぞ」


 件の騒動の終止符が打たれた広場に到着すれば、そこには真っ赤なドレスに身を包み、腕組みをして着いた俺等をジト目で見てくる人物がそこに居た。


「やれやれ、大方寝起きの貴様が「腹が減った」と言って露店を巡ったというところか…」


「線は良いが対象が違ぇな、露店を巡ったのは後ろの腹ペコガールズだ。間違っても俺じゃねぇからな」


 便乗してあれやと食いはしたが、そこは敢えて伏せておく。


 何か後ろからは二つほど「ズルいぞ」と言いたげな視線を投げ掛けられてる気がするが、まぁ気のせいだろう。


「む、そうか、それはすまないな。…取り敢えず見ての通りだ。あれだけ暴れたが、ものの見事に復活している。人の力とは中々のものだな」


「…確かに、逞しさはあるのう。あれだけ破壊されたり、傷を付けられようとここまで元通りにするとは」


「ん、それに人には『魔導具』がある。それもあるから、早い」


「……さっすが、魔法が蔓延る異世界だことで。時を戻したかのような修復もお手の物ってか」


 ほぇー…と辺りを見回しつつ、観察をする。


 ここまで広く、大きく、被害も中々だった街全体をここまで直すのは相当なものである。


 相当な手練がこの街には在籍しているのだろう、全く凄まじいもんだ。


 てかここも祭りのエリアに入ってんのな…ちょっと歩けば露店っぽいのあるし、木材とか山積みに置かれてるけど、それを休憩場みたいな形で腰を下ろして休んだりしてる人も居るし。


「やっと見つけたぞ、貴様ら!」


「ん…?」


 周囲を見渡し、感心しきっていれば唐突に上げられた大きな声が耳に入り、そちらを向く。


 そこには金髪の、体…特に腹当たりが大層裕福な男がこちら側に向かって指を差していた。


 んー…どっかで見たような気がするが、はて、何処だったか…。

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