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月は微睡み、日は昇る

「はぁ〜…やっと終わったー……」


 (くだん)の騒動からそれ程の間を置いてない時分、俺らは広場から誰にも見つからないように立ち去り、人気のない場所へと訪れていた。


 誰も居ないのを良いことに、俺は疲れた体の意志に赴くまま、盛大な溜め息を吐き出しながら地面へ大の字に寝転がった。


 うむ、石畳だからゴツゴツしてて痛いが、火照った体にこの冷たさは実に気持ちが良い。


「イツキ、地面に寝転がるの、汚い…」


 そんな無様な格好を晒す俺を見下ろし、腰に手を当ててお叱りの言葉を賜る幼女。


 …何かこう、くるものがあるな。

 一応断っておくが、決して俺はロリコンではない、断じて。

 …最近ちょっと揺れ気味になりつつあるが……。


 流石にずっとこのままという訳にもいかないので、上半身だけでもと重い体を地面から引き起こす。


「でも、ミーアも疲れ、た……」


「おっと…」


 疲れが溜まり過ぎたのだろう、体をふらふらと揺らしたかと思えば、そのまま前へと倒れるミーア。


 急いで立ち上がって受け止めようとしたが、その前にフェミリアが受け止めてくれた。


「だいぶんと疲れておるようじゃな、お前を守るために相当無理をしたのじゃろう」


「…あぁ…悪いことをさせた」


 フェミリアの腕の中でスヤスヤと寝息を立てるミーアの顔を見ながら、俺はこの街に乗り込む前の事を思い出していた。


 *   *   *


 __王国出立後。


 俺は竜形態に戻ったグラニアの背の上で、フェミリアとミーアにどう動くかを伝えていた。


「取り敢えず情報があまりにも少な過ぎる、これは行動をしていく上で致命的なもんだ。作戦を練るにもこれが無きゃ話にならん」


『となれば着いても即座に其々が方方(ほうぼう)へ、とはならぬな』


「回り(くど)いの、儂らに任せれば全て直ぐに済むであろう」


 何とも嫌そうな顔を浮かべて苦言を呈するフェミリアに、だが俺は首を横に振って否定した。


「いや、それじゃ駄目だ。確かにアンデッド襲撃の件は片付くだろうが、()()()()()


「と、言うと?」


「人間ってのは面倒臭い生き物でな、組織立って動いてるのは特に面倒だ。街とか国家とかな」


「えぇい、理解出来るように言わんか、まどろっこしくて敵わんわ!」


「…黒幕が居るのは、必然。その黒幕の断罪と、事後処理」


「お、正解だ。ミーアはお利口だな、どっかのアホと違って」


「噛むぞ」


 噛みつきの痛さは経験済みなので俺はそこで手を上げて降参の意志を示す。


 強い奴に頭(かじ)られるのって何気にトラウマ案件なんだわ。


 まぁ、フェミリアの言うように速攻で終わらせるのも手ではあるし、それも勿論ながら考えた。


 けどそれをした場合、今回のアンデッド襲撃を引き起こした黒幕を表に出させることは叶わない。


 何なら警戒を強めて影に引っ込み、より陰湿な手を使って襲撃を仕掛けてくるだろう。


 そうなっては面倒極まりない。


 それに一番の問題は「街」が絡んでいる事だ。


 これが何処ぞの野良(?)山賊なら良い__いや、良くないが__それでも処理は楽だ、捕まえて牢屋に放り投げれば良いし、断罪しても文句を言われるような事はまず無い。


 しかしこれがもし、俺の予測通り何処かの街ないし国家となれば話は別だ。


 明確な敵対意志を持っての攻撃、侵略行為。


 戦争の火種としては十分過ぎるほどだ。


 だからこそ、黒幕(そいつ)をとっ捕まえて色々と吐かせなければならないのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()


 襲われた街に与してる人物なら良い、上等なくらいだ。


 だが何処にも属してないような奴がもし仮に捕まえたら、功績と共に責任云々といった面倒な物と一緒に贈呈される事だろう。


 黒幕の出処は街の奴らで探れば良いだけの話だが、深くまで関わる気はない。


 あれこれ吹っ掛けられたりしたら(たま)ったもんじゃないしな。


「てーわけで、俺等が拠点としてる街に上等をくれたバカを捕まえてやりたいが、それを俺等がやったってバレるのは正直に言えば避けたい」


「考え過ぎではなかろうか? 人間共がそこまで頭が回るとは考え難いが」


「何で人間がここまで栄え続けてるか、考えたりしたことはあるか? 少数を犠牲にしようとも生き残ろうとする意地汚さがあるからだ。今回その少数ってのが槍玉に上げられるであろう黒幕を捕まえた奴な」


「ふむ……」


 流石に思い当たるような節でも浮かんだのか、フェミリアはそれ以上突っ掛かる訳でもなく言葉を一つ漏らして押し黙った。


「それにこれは相手に焦りを与えるのと、あぶり出しに有効だ」


『ほう…? と、言うのは?』


「今回の件を起こしたクソ野郎は、少なくともこの件に結構な自信を持ってる。デカい街相手にこれだけの事をしてるからな」


「ふむ…して、それとどう炙り出しに繋がるのじゃ?」


 流石に上手く繋げることが出来なかったのか、首を捻って考え込むフェミリアを見て、ククッ…と小さく笑ってから人差し指を立てて説明してやる。


「自信を持っている、ということは、これに対して完璧に近い準備をして行ってるってことだろ。当然、その準備には情報が漏れ出ないようにも徹底しているはずだ。もし、それが何処かで漏れ出たと認識したらどうだ?」


『……成る程な、何処で漏れ出たか考える…例えそうでなく考えを切り捨て、切り替えたとしても対処に当たらねばならない』


「そういうこった。グラニアは流石に理解が早いな。そして、これらは隠れ潜みながら()()()()()()敵が()()()()()のみだ」


『……複数居ると?』


「少なくとも俺はそう睨んでる。だから街に入ったら手始めに情報の収集、そして同時に協力してくれそうな奴を探す。…まぁ、これは最悪見つけれなくても良いか。噂みたいな感じで上手く伝達させていけば…後は後詰めも考えねぇとな……」


 そこからは説明ではなく考え事へと変わり、立てていた指は顎に当てて、イツキは思考の海へと意識を放り出した。


 フェミリアはそんな様子を眺めながら内心では少し冷や汗を垂らしていた。


 __此奴は一体…何手先まで読んでいるのだ…?本当に此奴は儂らの知っておる、あの阿呆(イツキ)なのか…?


 普段のおちゃらけた雰囲気、バカをしている時とあまりにも違うその様子に思わずそう思わざるを得なかったのだ。



 それから少し間を置いて、考えが纏まったのかイツキが顔を上げて口を開いた。


「おし、釣りで行くか。名付けて「餌はこちらよ、ウキウキ釣り大作戦」だ」


「さっきまでの儂の考えと気持ちを返してくれんかの」


「何のことだ?」


 フェミリアの考えていたことなど露程も知らないイツキは、アホを見るような表情を浮かべているのを見て首を傾げるくらいしか出来なかった。


「よく分かんねぇが仕切り直すけど、釣り形式で行く。餌、つまりは囮を使って(おび)き出しを狙う」


「ふむ、してその囮は誰が担うというのじゃ?」


「お前とグラニアは除外するとして残ってるのは俺とミーア、後は不確定要素で街の奴。これは期待出来ねぇし、総合的に見て必然的に俺になる」


 人差し指、中指、薬指と順に立てていき、候補を消していく際は逆に薬指から折って行きながら説明をしていく。


 流石に戦闘面に関しては勘が鋭いフェミリアは当然だろうな、と言った顔付きをしていたが、ミーアは結構心配そうな表情を浮かべていた。


 多分それ以外も含まれているだろうが…。


「ただ、俺一人じゃロクに囮を熟せない自信しかない。多分黒幕に会ったら即座にあの世行きだ、クソ弱いからな。だから保険兼誘き出しに適任なミーアも一緒に連れて行くことになるが…構わねぇか? ホントなら連れて行くのは気が引k」


「行く」


「…あの」


「行く」


「あ、はい」


 ミーアを連れて行く、という選択肢を出した瞬間にこれ以上無く顔を輝かせた様な気がしたが、気のせいだろうか…。


 というか謎に食い気味な着いてく宣言に押されて承諾したけど、いつからこんなに我が強くなったのだろうか…いや、元からだったか、うん。


「一つだけ言っとくが、結構危険だぞ…?」


「大丈夫。ミーア、イツキより強い」


「いや、まぁ、確かにそうだけどよ」


 流石に面と向かって言われるとちょい(ヘコ)む。


 しかも姿形は幼女であるミーアの言葉は無邪気っぽさが相まってダメージがデカいんだよ。


 気持ち肩を落としてしょぼくれる俺に、ミーアはポンと俺の腕を叩いた。


「でもミーアは、イツキより弱い」


「んだ、そりゃ…? 俺は弱いだろ。さっきも言ったように囮すらロクに熟せる気すらしねぇぞ、殺人鬼と鬼ごっことか流石に勘弁、体力保たねぇから」


「んーん、ちゃんと強い。ミーアは、イツキより強いけど、イツキより弱い」


「禅問答な謎掛けしてる場合じゃないんだが…」


 何で唐突に禅問答が始まったんだ…と微妙な顔でミーアを見ていれば、ポンッ、と薄い胸に小さな拳を当てて自慢げな様子のミーアが口を開いた。


「ミーア達を繋げてる。ミーア達が一緒なの、イツキのお陰」


「成る程の、それを言われたら確かにそうじゃな。こやつの縁が無ければ儂らはバラバラであり、儂はグラニアと未だに争いを続けておったじゃろう」


『あぁ、こやつと意見が同じなのは癪だが、それは深く同意する。我らは確かに力があり、全てを滅ぼせる程の強さを持つが、そういった面での強さは、我らは持ち合わせておらぬ。我らの敵わぬ部分であるな』


 えぇ…何か急に持ち上げ始めるじゃん…すっげぇ怖いんだけど…。


「けどこれ、お前らの意見とか意志だとかを無視してる部分とかあるんだが…結構好き勝手に動くことになるぞ、俺?」


『好きにすれば良かろう』


「え? けどよ…」


『今までお前が考え、成してきた事は全て無駄に終わったか? 無意味であったか? 否、違うだろう。自信を持つと良い』


「うむ、それに貴様は一人で格好をつけるよりも、何かを成して仕出かし、儂らに尻を拭われるくらいの方が貴様らしくて丁度良いくらいじゃな」


「ん、お任せ」


 ……全く、つくづく俺は前世では考えられない程、縁に恵まれたらしい。


 テキトーに済ませるかとか考えてた部分もあったが、こいつらが期待する分くらいは働かねぇと後が怖いな、こりゃ…。


 *   *   *


「…上手く事が運んだのはお前らのお陰だよ、あんがとな」


「ふっ、言ったであろう。貴様が仕出かしたとしても、儂らが尻を拭ってやるとな」


「無茶の度合いが少々過ぎていたがな、流石の我も肝を冷やしたぞ。それに我等を呼ぶ合図がまさか「敵を煽ったら来い」だとはな、全く…恐れ入るものだ」


 (ワリ)(ワリ)ィ、なんて苦笑いを浮かべながら謝罪の言葉を述べながら空を仰ぐ。


 時間に関しては気にしてなかったが、だいぶんと長時間に渡って活動していたらしく、朝日が昇りつつあるのか黒く暗い夜の帳は鳴りを潜め、徐々に白味が帯びた空へと変化していた。


「おし、宿に帰るか」


「あぁ、そうするとしよう」

「そうじゃな、帰って湯浴みでもしようか」

「むにゃ…」


 俺は立ち上がり、其々にそう声を掛ければ、二人は柔らかく優しい声で、一人は気持ち良さそうな寝息で応えた。


 忙しく慌ただしい夜が明け、新たな一日が始まる……。

作戦名書き忘れてるという大失態を犯してました、大変失礼しました。作戦を実行するに当たって名って大事だよね、うん。


因みに作戦名は書いてないことに気付いて2秒で浮かんだことを書きました、ばなな。

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