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接敵

 ドヤァと自慢げなミーアの頭を撫でてやろうと手を伸ばせば、ピクッ、と反応したかと思った次の瞬間、唐突に伸ばした手をパシリ、と払われた。


 え、何、反抗期…?


 払われた手とは反対の手で口を抑えて驚きと悲しみを覚えれば、不意に土煙が舞うすぐ隣当たりからカンッ!カンカンッ!と金属音が響いた。


「んぉ!? な、何だ?!」


 突如の金属音にビビり、辺りへと視線を泳がせれば、ミーアと自身を囲うように薄緑色の結界が張られており、地面には数本のナイフが転がっていた。


 どうやら音の正体はこれだったようだ。


「へぇ…今のに気付くのかよ。流石と言うべきか…いや、ホント、やるねぇ、嬢ちゃん?」


 うわぁ…と言う表情を浮かべてナイフを見ていれば、何処からとも無く聞こえてくる声。


 そして暗がりの一角からヌルリと、全身を黒いローブで包み、フードを深く被った一人の男が賛辞の言葉を投げながら出てきた。


「……ミーア、コイツは…?」


「……ミーアを追ってた、敵」


 自分、不審者です!と容姿で自己申告してる様な奴を見て、ミーアとの出会いを思い出しながら、念のために小声で問い掛けてみれば、浮かべた予測はドンピシャであった。


 そして言葉短くも確認をしていれば、奴が出てきたのを合図としたかの様に複数箇所から同じような格好をした、背丈バラバラな奴等が姿を表し、周囲を囲っていた。


 他の奴らは口を真一文字に結んでおり、愛想もへったくれも無いが、こいつらのリーダー格と思わしき男はニヤニヤと笑みを浮かべ、随分と軽々しい態度を取り続けている。


 これもこれで腹立つし相手したくねぇな…。


 しかし、他に取り合えそうな奴も居ないので、至極嫌なのだが言葉を交わす覚悟を決める。


「…あー、悪いな。今色々と立て込んでて取り込み中なんだ、宗教勧誘なら他所でやってくれねぇか?」


「そう連れねぇこと言うなよ、兄ちゃん。けどまぁ何、お前さんにゃ用は()ぇし、手荒な事はしねぇさ、抵抗さえしなけりゃな、だから安心してくれて構いやしねぇぞ」


 うわ、出ました。悪役とかが言いそうな台詞…マジで言うやつとか居るんだな…。


「へぇ、そりゃ有り難いな。闇討ち上等でナイフを投げてくる様な、見た目も行動も怪しさの押し売りセールみたいなやつに、身の安全を語られるほど信用に値しないもんは無いがな」


「おいおい、ホントに連れねぇなあ? けど俺たちゃそこの嬢ちゃんに用があるだけだ。風の妖精(シルフ)族の嬢ちゃんにな。威勢が良いのは好きだが、弱いやつがやればそれは只の虚勢ってもんだぜ? ()()()()()()()()さんよ」


「………」


 そこで軽口を交わしていた口を閉じ、会話を半強制的に終わらせる。


 どうやらこちらの事は全てお見通しらしい、情報が出回っている様だ。


 というか、何で俺は奴等に知られているのだろう?そんな触れ回るようなことをした覚えはない、やってるのは基本的にバカ二人(あいつら)だ。


 何なら最近はちょっと離れ気味だぞ…?あいつらが森に入っていくときとかも着いてってないし。

 あれ?思ったけどこれ、審判役要らなくね?何であいつら俺に着いて回ってんの??


 敵を前にしているというのに、結界で守られているからなのか、んー?と首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる俺に対し、疑問に答えたのは意外にも黒尽くめの男であった。


「何で知ってるか? 簡単な話だ。こんなドデカい街中で、貴族でも名が売れた冒険者でもねぇ奴が美女二人を(はべ)らせてりゃ、噂も流れる。後は真実味が高いのを精査するだけだ、やらせりゃ子供でも出来る」


「あぁ…成る程な。そりゃ盲点だ、気付かせてくれてあんがとよ」


「礼には及ばねぇが、対価としてそこの嬢ちゃんを置いてっても良いんだぜ?」


「断る、と言ったら…?」


 渋い顔で、それでもと言葉を返せば、男はまるで駄々を捏ねる子供を相手するかの様な、やれやれと言った具合の笑みを浮かべて頭を横に振った。


「そりゃ出来ねぇ相談だ。それと……嬢ちゃんが張った結界に守られて随分と安心しきっているようだが…ほれ」


 男はローブに付いたポケットに手を突っ込み、物を探すようにごそごそと(あさ)ってから、何かを取り出して此方へと転がすように投げてくる。


 それはビー玉程の小さな玉であり、数は複数個。

 コンッ、と小気味の良い音を立てて地面に落ちて転がってきた。


 そして、それが結界付近まで到達した瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()


「ッ__!!」


「【()()()()()】つったかなぁ、それの改良版だとよ。効果の程はご覧の通り、妖精族の魔法ですら抜群に効いちまう代物だ。技術の進歩ってのは恐ろしいもんだよなぁ…?」


 ここで漸く俺は、結界で守られて緩み切っていた緊張の糸を張り詰めさせる。


 全く、魔法を扱わせりゃ覇龍をも凌ぐんじゃないのか。

 というか魔法殺しの道具とかあっちゃ駄目だろ、真っ向からロマンを否定してどうすんだ。


 言いたいこと山々な状態で渋い顔を浮かべれば、男は反対にご機嫌な様子で両の手を広げた。


「さぁ、どうする、伝説と幻想を従えるマレビト。他三人や連れは違うが、"お前さん自体"の強さは既に調べがついてる。ギルド内で鑑定の水晶に出された強さは、子供にすら負ける程の弱さだってな。あまりの低さに、水晶の故障を疑われたらしいが。泣けるねぇ…?」


「余計なお世話だチクショウ、自覚してること一々言ってくんなよな」


「ククク…そう意気込み過ぎるなよ。力は適度に抜くもんだ。んで、どうだ? 打つ手は無くなったか? 大人しく嬢ちゃんを寄越してくれるなら…」


「お断りだつったろ、悪質な勧誘ほど粘着質なもんは他に()ぇな。油汚れの方がまだ素直さがあるもんだ」


「……そうか、実に残念だ、交渉決裂だな。じゃあ望み通り、苦しみながら悶えて死ぬと良い」



 *   *   *



「イツキくん、大丈夫かなぁ…」


 隣に座るクリスが不意にポツリと言葉を溢した。


 彼と僕の二人は、ギルドと街の要請に応え、街中を駆けずり回って人々を救出したり、援護したりしながらイツキに頼まれていた仕事を(こな)していた。


 流石に延々と駆けずり回る事は体力的にも厳しいものがあり、こうして一段落した当たりで塀に腰掛けて休憩していたのだ。


「大丈夫だよ、と言い切りたいけど…僕、彼の事あまりよく知らないからなぁ…付き合いも長い訳じゃないし。そう言った面で考えれば、君の方が僕より分かるんじゃないの?」


「うん、ある程度なら分かるよ。けど、僕も君より長くはあるけど、彼との付き合いは言うほど長くも、多くもないよ」


「じゃあ分からないっていうのが正しいんじゃないの?」


 僕の疑問に、彼は腕組みをし、うーん、と唸る。


「実際のところ、そうなんだよねぇ…分かるけど分からない。これが素直なとこかな。彼はお世辞にも強いとは全く言えないから」


「……けど、だからこその作戦なんじゃない?」


「うん、かもしれないね。彼が()()()()()()()()()だろうし、彼が鍵であり、中心であるのにも変わりない。けどそれは、裏を返せば、彼が倒れたら瓦解しかねないものとも言えるんじゃないかな、って。多分彼のことだから保険とか掛けてそうだけど…でもなぁ……」


「成る程成る程、つまりクリス君はこの()()()()()ではなく、()()()()自体を気に掛けてるって感じかな?」


 お熱だねぇ〜?このこの〜、なんて(からか)いながら肘で彼の脇腹を(つつ)けば、彼は目をぱちくりとさせた後に、少しはにかんだ笑みを浮かべた。


「かもね。だって彼みたいな人はこの世界では見掛けないから、面白くって」


「それは確かに。でもホントに不思議だよね、僕たちはいざ知らず、何で彼はそこまで思い入れが少なそうなこの街に命を掛けてまで戦うんだろ…?」


「うーん…分からないや。ホント、僕たちは彼のことをほとほと知らないようだね。これが終わったらたっぷり聞いてみようか」


「……そうだね、願わくば沢山の事を聞きたいな。それこそ色々と、彼の前の世界の事とか_」


 __()()()()()()()()()()()とかを、生き残った彼に。



 *   *   *


「はぁ、はぁ、っ……」


 俺は今、広場のど真ん中で一人、膝から崩れ落ちて荒い呼吸を繰り返していた。


 体のあちこちは真新しい切り傷が出来ており、ボロボロだ。


 ミーアは一歩二歩離れた向こうで、暗闇の中に潜む奴等を相手に、必死に抵抗をしていた。


 全く、何故自分でもこのような事をしているのかが、てんで理解出来ない。



 __この街が襲われたから?



 なら我関せずで見て見ぬふりをし、とんずらをこけば良い、前世での人間関係や物事と同様に。


 確かに世話になったが、命を天秤に乗せてするほどではない。

 何なら俺より強いやつなどこの街には山程には居る、出しゃばっても赤っ恥をかくのがオチだ。



 __店主がこいつらの魔法陣によって出現したアンデットに殺されたから?



 それも違うな、此処に来るまではそれを知る由も無かった。


 仇ならば知らずに誰かが取っていただろう。



 __ならば義理立てか?



 残念ながら俺はそこまで善い人ではない、義理があろうと無かろうとヤバくなれば逃げるような奴だ。

 義理人情とかあったもんじゃないし、持ち合わせてすらいないものである。



 __ならば何故?



 幾ら言語化しようとしても、答えが見つからなければその行動の理由を言葉にしようがない。


 結果として出たものは「んなもん知るか」であった。


 全く嫌になると言うものだ、変に正義感みたいなものが出てしまったのだろうか?


 こんな人間じゃなかったんだけどな…ホント、ヒーローに憧れる子供(クソガキ)かっての…。


 そこまで考え、皮肉を心の内で吐き捨ててから、ふと気付いた。

 この理由も訳も分からぬ、行動理念が。


 そしてそれに気付いた俺は、ハハッ、と小さく乾いた笑いを溢し、自身に向けて嘲笑を帯びた表情を浮かべる。


「おいおい、どうした? (つい)に耐えきれなくてぶっ壊れちまったか?」


 そんな様子すら筒抜けなのか、何処からとも無く暗闇の中からあの男の声が聞こえてきた。


 どことなく…いや、確実にこちらを馬鹿にするような、笑いを含んだものだ。


 そんな言葉を聞きながら、持っていたナイフの柄を握り直して立ち上がる。


「いんや、俺自身の行動に、俺自身がよく理解出来てなくてな。…そんで考えたんだよ、何でこんな事をしてるのかってな。それに今、漸く気付けたんだ。そして理由が馬鹿馬鹿しかったから、自分に対して嘲笑ってやっただけさ」


「へぇ…そいつぁ俺も気になるな。聞いてやっても良いぜ?」


「何、取るに足らねぇ、くだらねぇ理由だ」


 グッとナイフを握る手に力を込めれば、斜め上へと振り上げ、風を切る音と共に飛んできた敵のナイフをギリギリで弾き飛ばした。


こいつ(ミーア)や、俺に協力するあいつら(バカ共)に、良い格好見せたいだけの、ただの(バカ)の意地だってな」


「……ク、クク…ククク…良いねぇ、上等じゃねぇか。清々しいまでのバカさ加減だ、俺は好きだぜ? そういうの」


 俺の答えに対し、何処で聞いてるかも分からぬ男は愉快さを隠すこともなく笑い声を高く上げた。


「けどよ、こっからどうするつもりだ? こっちの姿を捉えきれてない以上、お前らがどうしようと(なぶ)り殺されるのは時間の問題だ」


 確かに一理ある。


 現状、暗闇に隠れる相手に対してこちらは有効打を与えれず、一方的に体力も気力も削られている。


 ミーアも思うように動けず、ストレスが結構溜まっているようだ、さっきからずっと膨れっ面だしな。


 圧倒的に不利な状況に、以前変わりはない。


 俺が持ち直したところでたかが知れている。


 だが、機転としては十分だ。


「ミーア、こっちに来い」


 俺から少し離れながら、俺よりもめちゃくちゃ動いて戦ってくれているミーアを呼び寄せる。


 ミーアは随分と不思議そうな顔をしてから、飛んできたナイフを弾き、トテトテと擬音が付きそうな走り方で此方へと寄ってきた。かわいい。


 そして頭をぽんぽんと撫でてやってから、そのまま手を置き、暗闇の向こうを見据える。


 奴等の戦い方はある程度見定めた、数も把握した、自身の動きも多少だが慣れてきたし、()()も準備が出来たらしい、体力はほぼ0に近いくらい残ってねぇけども…。


 さて_ここらでいっちょ、反撃の狼煙でも一つ上げて見せるのが、頃合いとしても丁度良さそうか。

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