閑話 チョコは無くとも感謝は伝えれる
2/14がバレンタインであることを思い出して、いっそいで書き上げた。
貰えねぇ奴がこう言ったイベント毎を一々覚えてると思うか、いいや、思わないね!!(()
「何じゃ、これは? 外面は同じじゃが、夕餉に食らう"みーとぱい"なるものとは違うようじゃの」
「人間共が口にする甘味であったか、確か"菓子"と呼ぶべきものだったか?」
「ん、さくさくで、美味しそう」
朝、もとい昼過ぎ、漸く起きて活動を始めたこいつ等を集め、部屋に備え付けられた机の前に座らせる。
三人の前には、其々の分のパイが皿の上に置かれており、甘そうな匂いを放っていた。
「あぁ、ちょいと宿屋の女将さんに台所と食材を借りて作ってみたんだ。この世界にバレンタインがあるか知らねぇけど、こういったのは俺らの中であっても良いだろと思ってな」
「ふむ…そのばれん、たいん? というのは、どういうものなんじゃ?」
「チョコレートっていう茶色の甘味を異性やら親しい同性に贈ったり、贈られたり、はたまた贈り合ったりするイベントごとだ」
「ほう、それはまた面白い行事だな。お前が唐突に思い付いた変なものでなくて助かった」
「俺に対する偏見の目を修正するのはまた今度としておいて…このイベントでは、チョコと共に想いも託すってのがあってな。意中の異性に贈りつつ、告白するのが通例みたいなのがあったな。ま、残念ながら俺にそんな相手なんか居なかったから貰う機会なんざ、一つたりとも無かったがな」
こんな甘いどころか、あまりにも苦過ぎる汁を舐める経験をしたのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
え?母とか以外の異性からちゃんとチョコ貰ったって?ハハッ、爆ぜろよ。テメェは今から非モテの敵だ。タンスの角に小指をぶつけやがれ。
「ま、流石にこの世界でチョコレートは望めねぇからな、代用としてレモンっぽい果実と、砂糖っぽい何か甘い粉を使って作ってみた。味は…まぁ、多少は保証するぞ。試食したときは悪くなかったしな__って、どうした。やけに静かだな、お前ら」
作ったパイ__いや、この場合はタルトと言うべきだろう__の説明をしていれば、普段以上に三人が静かな事に気がついて不思議に思い、首を傾げて問いかける。
何故か三人は何処か頬を赤らめており、恥ずかしがっているかのような様子を見せているが…何か小恥ずかしいことでも言ったか?俺。
「い、いや…何じゃ…先の話を聞いた後にこれを貰うと思うと、少し、の…」
「う、うむ。些か我も動揺を…い、いや! 我は覇龍である、臆するものなぞない! お前の想い何とするものぞ!」
「…グラニアは、ツンデレ…?」
「う、うるさいぞ小娘!」
スゲェな、この世界にもちゃんとツンデレという枠と言葉は存在し、認知されていたか。
いやてかお前、ミーアに対して小娘て。
しかし、やけに静かな理由が分かった、事前に言うような事でも無かったか。
これが理由で食うのを渋られてもこちらとしては困る、作ったからには食って感想を聞きたい。
果たして何というべきか……あ、そう言えば。
「あー、想いつっても、親愛とかの意味もあるからな。因みに俺からお前らに対してのは親愛と感謝ってとこだな。お前らが居るから毎日楽しめてるし、居ないとそもそも、こうした生活とか出来てねぇし……」
こうして現状を理解するために言葉を並べてみたが、うん、ひでぇな、俺何もしてねぇのがよく分かる。完璧にヒモだわ、これ。
俺に対して、うわぁ…なんて思いながら頭に手を当てて少し俯いていれば、再び静かなのに気が付き、顔を上げて三人を見やる。
何故か先程とはまた何処か違うような感じだが、しかし同じように顔を赤らめていた。
今度は何だ?何の言葉がお前らをそうさせている…?
「…貴様はあれじゃな、無自覚に女を誑す才能があるようじゃの」
「うむ、よく小恥ずかしい事をぬけぬけと言えるわ…」
「外でしちゃ、ダメ…」
「え、何だよ、お前ら三人して…」
何故か歯切れが悪い返答どころか、不名誉な評価を下された。
うーむ…俺が素直に感謝を伝えるのはそんなにおかしいことなのだろうか…。
「あー、もう良い良い、気にするでない。どうせ無自覚でやっとるんじゃろ。それよりさっさと食ろうてやろうぞ」
「はぁ…そうするとしよう。誑しの作るものはさぞ異性を堕とすに特化したものであろうな」
「お前らは俺の料理を何だと思ってんだ」
「ん、美味し…」
そんなこんなで、いつもと変わらず、俺やグラニア、フェミリアはわいのわいのと騒いだりしつつ、先にタルトに舌鼓を打って頬を緩ませるミーアに続き、二人もタルトを食べ、そして普段通りの日常を過ごす。
俺の、こいつらと一緒に居る今の日常は、前世と比べれば…いや、比べるのも烏滸がましい位には、特別な毎日だ。
だが、まぁ…やっぱ俺等内であれば、こういう日あっても良いもんだな。