vs生ける伝説
うぇーい、改めまして…あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
「聞き間違いじゃなかったら、俺は今まさに死刑宣告を受けた気がするんだが」
「死刑宣告とは人聞きが悪いな。ただ手合わせを願っただけだろうに」
それが俺にとっては何よりも死刑宣告だっての!!
むぅ…と唸りながら物申したげな様子を見せる英雄に対し、俺は白い目を向けながら憤りを感じさせる雰囲気を放つ。
誰がレベル1しかない奴がカンストどころか、その概念すらぶっちぎった化け物に挑むんだよ。スライムですら魔王に逆らおうなんて思わないぞ。
「横から口を挟んですまんの、生ける伝説よ。すまぬが儂らの連れは貴様が思っておるほどに強くはないぞ」
「うむ、同意だな。そこらに放ってみろ、人とぶつかっても死にそうな奴ではある」
「おう、お前らが俺の味方をしてくれんのはこの上なく嬉しいが、そこまで貧弱になった覚えはねぇぞ。少なくともそれなりにぶっ飛ばされて倒れるだけだ」
「キメ顔で言われても締まらんのぅ…」
俺の貧弱さ加減など、人に言われる前から自覚済みだ。
マジで言葉通りの現象が起こる自信がある、「ヤムチャしやがって…」が見れるぞ。
というかこの世界の奴等が超人過ぎるだけである、この前見かけたけど町人ですら馬鹿みたいな速度で走ってたぞ。
俺が思うに、前世の奴とこっちの世界の奴とでは体の構造や過ごしてきた環境、生活やらがあまりにも違いすぎるが為に差が大きく出ている、そしてそれを埋めるに足るのが天恵なのだろう。
だから俺がクソ貧弱なのはデフォなんだ、そういうことなんだ、ドゥーユーアンダースタン??
てか仮にそうだったとしたらマジで許さねぇからな、この世界の神は。せめて体くらい丈夫にしろ。
「それならば心配はせずとも良い、安全も配慮して少しばかり仕掛けを施している。こっちだ」
カイアスは俺達のやり取りを見てから、その程度なら心配ないと軽くあしらって先導するように歩き始めた。
「…スゲェな、俺の許可とか無しに行きやがったぞ。英雄ってやっぱ自己とか我が強ぇーんだな」
「そうらしいな。ほら、観念して行くぞ」
一瞬呆けてから感心したような、何とも言えぬ感じで、先を歩いてくカイアスの背を眺めていれば、グラニアが同調しながら俺の背を軽く叩いてせっつかせた。
俺は促されるがままにカイアスの背を追い掛ける形で王城内を歩いたが、色々と面白い発見をした。
どうやらこの王城は近衛兵達の詰め所みたいなものが併合されているらしく、ガチガチな鎧に身を纏った奴だけじゃなくて訓練や自主練終わりっぽい奴とか歩いてるのをちらほらと見掛けた。
いや、もしかしたら俺が知らないだけで近衛兵や、王城の内部ってこんな感じが普通なのかね。
後は何もかも目につく全ての物が、金銀装飾溢れるアホみたいに豪華絢爛なのかと思ったが、そうでもなく客が招かれる迎賓の間や、玉座が置かれている王の間以外は意外にも質素さを感じさせる意匠だった。
まぁ、それでも一般と比べたら、当たり前の如くだいぶ豪華なんだが。
目につく物全てが物珍しいので、あっちこっちと 目移りしてしまい、お付の執事さんらにクスクスとちょっと笑われてしまった。
少し気恥ずかしさを覚えたが、それを超える好奇心がすぐにそんな俺の気持ちを掻き消した。
どれだけ長く生きてても、おいそれと王城に訪れるなんて普通は無いからな、冒険心が疼くというものだ。
それからあれこれと視線を泳がせて見ながら歩いて暫く、カイアスに連れられた俺達一行はコロシアムの様な建造物の前に立っていた。
………あれ?
「王国内ってこんなのもあるのか…? てかデカすぎねぇか、これ…?」
外観だけでも伺えるあまりの壮大さに圧倒されながらカイアスに尋ねれば、うむ、と一言唸って頷いた。
「人間というのはどれだけ平穏無事に過ごせても、それを永劫に享受し続けることは出来ない。必ずどこかで闘争を求める部分は出てくる、兵士職は特にな。それを発散させる場所として私が国王に掛け合い、造ってもらったのだ」
ニィ、と男前な笑みを浮かべながらとんでもないことを言い放つ。
言い得て妙なのではあるがな、それにしても規模があまりにもデカすぎる、そしてそれを容認する王も王だな、おい。
そして俺らは案内されるがままにコロシアムの中へと足を踏み入れた。
中はひんやりとした空気の割にはどこか熱を感じさせるような雰囲気が漂っており、柄にもなく感化されて多少だが、気分の昂りを感じている俺がそこに居た。
少なくとも『参加者』ではなく、『観戦者』としてであれば、今より更に気分が高揚して楽しめるだろうが。
時間もあってか明かりが付けられておらず、少し仄暗さを感じさせる廊下をカイアスの案内の元、歩いていれば、どうやら目的とする場所が近付いてきたらしく、外からの光が射し込む長方形の出口_もとい、入り口が見えた。
「さて、改めてようこそ。血と闘争の場、コロッセオへ」
その光を背に彼は先に出ていき、振り向いて腕を広げながら告げた。
そこは馬鹿みたいに広かった。
それはもう壮大な外観に負けず劣らずの広さだ。
どれくらいかと問われればサッカーコートは優に入る程だと言えるくらいである。多対多とか余裕で出来そうだ。
そして何故か観客席には埋め尽くさんばかりの人で溢れていた。中にはちらほらと道中ですれ違った兵士っぽい奴等の顔も見受けられる。
多分英雄の戦いが見れると何処かで聞いたのだろう。野次馬根性を持つ人ならば、その程度の噂を耳にするのなど造作もない事、な筈だ。
てかさっきまで一緒に居た筈の三人組が今は観客席の空いてる場所へ案内されているのが見えた。
ずるい、俺もそっち側に行きたい。絶対俺とお前らの立ち位置反対だと思う。
そこからちょっと離れた一段と目立つ、この場をよく見下ろせる場所には国王も何故か居た。
仕事どうしたんだ、あんた。
俺らが入場した事により、元々漂っていた熱気は更に増し、地響きを起こさんばかりの歓声が轟いた。
「説明をしておこう。この戦いの場には今日限りだが、特殊な結界が張られている。それはその場に居る者達に、基準とした者の強さになるものだ。今回は私の強さを元としている」
「……つまり、俺以外に9人ほど此処に人が居れば、俺を含めてあんたと同レベルの奴が10人出来上がるって訳か?」
「端的に言えばそうなるな。そして先に断りを入れておくが、そちらは全力を出してもらって構わないが、私はセーブさせてもらう。宮廷魔術師5人を導入した結界で、当然ながら強固なのだが安全を配慮した上での判断だ」
「そりゃ構わないが…あんたは何を望んでいるんだ? 怪獣大戦争でもしたいならここに来る前に言った様に、覇者と戦えば良かったんじゃないか? それこそフェミリアやグラニアとか」
「君の強さを知りたい、ただそれだけだ」
戦闘狂か何かを思わせてもおかしくないセリフを口にしながら、不敵な笑みを浮かべる彼に反して、先程まで熱気に当てられ、高揚していたとは思えないほどに、俺はあまり乗り気になれなかった。
相手は百戦錬磨で、尚且つ全ての戦いに全勝してきたような奴だ。
対して俺は戦闘経験など皆無、魔法はおろかスキルや技術など何も持ち合わせちゃいない。
まず何をすりゃ良いのか分かってもないという有様だ。「え、戦闘の構えって何? 美味しいの?」ってノリを出せるくらいにはド素人である。
こんなのでどう戦って強さを見せれば良いと言うのだろうか。
「んじゃあ、まぁ……あんまし期待すんな、よ__っとっと?! 痛、つぁぁああ!?」
あれこれと戦わずに済む言葉を練って考えてみるが、全てを切って捨ててきそうな感じで待ち構える彼に、完全に折れた俺は、ええいままよと喧嘩殺法で走ってヤクザ蹴りを放とうとした途端、走り始める瞬間に、勢いままに前へと吹っ飛んだ。初動で何かに蹴躓いて転んだとかではない、前へ進むために地面を蹴ったらロケット頭突きよろしく吹っ飛んだのだ。
彼の最初の説明通り、どうやら強さが彼基準にされているらしく、それは精神的能力に限らず身体能力も底上げされているらしかった。
ちょっと踏み込んで距離を詰めてみようと思ったくらいの加減でこれである。
当然の如く馬鹿げた力の制御など知りもしないので、勢い良くコロシアムの壁へと目掛けて突っ込んだ俺は、下手な壁よりも更に強固な結界に鈍い音を立てて頭を思い切りぶつける結果と相成った訳だ。クソすぎる。
「む…?」
この仕掛けを施した本人が何やら不思議そうな声を漏らしているが、こちとらそれどころではない。
頭が割れそうなほどに痛ぇ、現実的ではないが、尻みたいに真っ二つになってない事を祈るくらいには痛い。
「くっそ、やりづれぇ。俺の体じゃねぇみたいだ、俺の体なら言うこと聞きやがれっての。それか厨ニ心を擽るような何かでもしてみやがれってんだ…!」
痛みがだんだんと苛立ちへと変わっていき、体から溢れ出る、余りある力の出力によって制御の効かない俺の体に対してキレながら、手へと意識を集中させる。
今だからこそ分かるが、この世界には確かに魔力というべきものが存在している。
何となくそんなのが感じられるのだ。
今までは他から言われ、「へー、そんなのあるんだなー」程度の漠然とした認識であった。
だが今では_今のみと言うべきだろうが_自慢ではないが、俺は元から人より少し目が良いくらいだったのが、それが飛躍的に上げられており、挙げ句にそれとなく、魔力っぽい流れみたいなのが視認出来ていた。
目で見える限り、周囲へと視線を泳がせて見てみれば、魔力は一人ひとりがちゃんと保有しており、余りある程にそれを持つものは一つの鎧の如く、その身を守るように纏うような形をしているのが分かる。
目の前の化け物と大怪獣1、大怪獣2はもう見なくても桁違いなのは分かってるので省略だ、見るだけ無駄感もある。
そしてそれはどうやら俺も例外ではなかったらしい。
腹の上、丁度水月辺りに熱らしき物を感じ取れ、ぐるぐると渦巻くように動いていたのだ。
知り合ってきた奴等と違い、ハブられている気分を何処となく感じていたのだが、ちゃんと世界は俺のことをこの世界に生きる生物だと認識しているように思えて一安心する。
それならばと操れる根拠も何もないが、一つの賭けとして体内に宿る魔力を体中に巡るように意識し、循環させてから終着点として手のひらに集めるイメージを持ってぶっつけ本番で試してみた。
こういったのは大抵がラノベや漫画とかの知識、それとその場のノリで何とかなるものだ!ロマンってそういうもんだろ!?
果たして結果としては__俺の手には光が集い、しかと日本刀らしきものが握られていた。
「…へぇ、こいつは良いな」
剣とは重すぎず、しかして軽すぎないくらいが良いと何かのラノベで読んだ気がするが、随分と理想的過ぎるくらいの重さをそれは持っていた。
あまりにも出来すぎている感じだが、まぁ…魔力で創り出したものだしな、で深く考えずに片付けて流す。
型や流派なんて露程も知らないので、取り敢えず想像した通りの、何かそれっぽい構えでも取って、いよいよと腹を括る事としよう。
弓兵でありながら弓使わない奴とか居るし、それに比べたらマシマシ、多分。
まぁ…早い話、要は「もうどうにでもなーれ」、ってやつだ。
こっちも向こうと同じく、ゆっくりスローペースで、ぼちぼちと進めていこうかと思ってます。
展開は大分熱い感じになってきてますがね、主人公はどこまで活躍出来るのか…!
そして今更ながら、無能っぽさ感じられねぇな…?となったので、無能は取りました、はい。
てことで「文字通り無力で異世界転生」、よろしくお願いします!!