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王国への思わぬ訪問

明けましておめでとうございます。

新年一発目のあれですが、長めです、はい。

 全く訳が分からず、思考は纏まらず、理解も追い付いて無いのだが、状況だけを説明しよう。


 俺は今、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 事の発端は一昨日にまで遡る。



 俺は店にクリスと看板娘を残して、一旦目当ての奴らを呼びに行った。


 一人は今の時間でも寝てそうだし、叩き起こしてでも出すのは容易だろう。

 問題はもう一人の方だが…まぁ、居なかったとしても、それとなく呼べば唐突に現れるようにして来るか。


 あとは、その後の事を考えなきゃだが……今悩んでも仕方ない。さっさと呼んで、ちゃっちゃと向かって、ぱばっと解決だな。



 てなわけで、俺は目当ての人物を連れて店に戻ってきていた。


「呼ばれて、飛び出て、街を巻き込む大事故に」


「頼むからやめろよ?」


「むぅ…なら、じゃじゃーんと登場、ミーアです」


「それなら良い、むしろ今後はそっちで頼む。…んで」


 ミーアの微笑ましい?言動に、間髪入れず懇願するような形で頼み込んでから、腰に手を当てて、()()()()()()()()()()()()()()()の二人を見やる。


「なんでグラニア(オマケ)付けたら追加でフェミリア(オマケ2)が付いてくるんだよ。確かに最初から何か着いてきてたけども。散歩とかで方向同じなんだろうなーとかで流してた俺が悪いのかもしれんけども」


「む、良いではないか。儂を除け者にし、楽しげな事をしようとしとるのかもしれんが、そうはいかんぞ」


「こやつに便乗する訳では無いが、苦言を呈する。我はオマケなのか」


 ぶーぶー!とポンコツコンビからブーイングが聞こえてくるが知らん、そもそも役立つビジョンが見えねぇ。


「へぇ、その子がシルフなんだ。イツキくんって会うたびに女の子増やしてるよね」


「マジで人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ腹黒金髪」


「うわぁ、最早それって悪口の領域に入らない…?」


「はいはい、そーだな。……どうだ、ミーア。分かりそうか?」


 俺はクリスからの追求も軽くあしらえば、棚の品物を見て回っているミーアに声をかける。


 俺がミーアを此処に連れてきたのは、何も小物を買いに来させた訳では無い。


 物に宿る魔力を見てもらっていたのだ。


 物を作れば、それには多かれ少なかれ作成者の魔力が込められて、暫くは残留するそうだ。


 ならば魔法に特化したコイツなら、何かわかるだろうかと思って連れてきてみたが、果たして。


「ん、置かれている八割は、エルフの人が作った物。あの砂の小瓶も、そう」


 そう言って指を指すのは以前俺がサービスとして受け取った物であった。


 そうか、あれもそうだったのか。海とかで記念品として砂を小瓶に入れて商売するのが前世でもあったが、似たようなものだろうか…。


「そうか。それ、辿れそうか?」


「ん、余裕」


 ふんす、と鼻を鳴らしながら自慢気に指を立てて、ブイブイと動かすミーア。かわいい。


「なんじゃ、もう終わったのかの?」


「あぁ、今回はこれがメインだからな。グラニアにはミーアのサポートとか頼もうと思ってたんだ、そこにお前が来るとは思ってなかったけどな」


「ふむ、確かに探知魔法は一人よりも二人の方が効率は良い。お前のその判断は間違ってないと言えよう」


「おし、会いに行ってみるか。何か聞ければ良いんだがなぁ…」


 そうしてポンコツトリオを連れてさっさと店を出ようとすると、裾を引っ張られて足を止めさせられる。


 見ればどうやら看板娘が引っ張っているようだ。


 実に不安げな瞳をしており、今にも泣き出しそうな雰囲気を感じる。


 クリスは…あ、アイツ、安全圏と思わしき場所に居やがる、逃げやがったな。


「あー…別に喧嘩しに行くわけではない、色々と話を聞きに行くだけだ。手荒な真似はしない、絶対にな」


「ホント…?」


「ホントだ、約束する。だから不本意かもしれんが、そこの腹黒兄さんと待っててくれ。何かあっても守ってくれると思うぞ、腕は立つしな」


 そう言って、ポンポンと頭を撫でてやると、不安な気持ちが少しは和らいだのか、目尻に涙を小さく浮かべながらもこくりと頷いた。


「そういや名前、聞いてなかったな。俺はイツキだ」


「…クレア」


「そんじゃ、クレア、ちょっと行ってくる。お前宛に何か貰ったら、ちゃんと渡すよ。期待はせずにお土産待ってな」


 再び、ポンポンと頭を撫でてやってからクリスに後を頼んで店を出た。



 そして俺らは街を出る門へと向かって…門付近で、ある集団と鉢合わせた。


 パッと見ただけでも、明らかに「我ら聖騎士団!」みたいな感じのゴツい鎧に身を包んだ奴らだった。


 何かの要人警護か、別件でこの街の領主宛に重要な情報でも持ってきたんだろうと予測し、関係無い俺達はさっさと横でも通り抜けさせてもらおうとした時であった。


「そこの、止まれ」


 門兵とは違い、低く、しかしてよく通りそうな声で呼び止められたのだ。


 辺りをきょろきょろと見回してみるが、俺ら以外に人は居ない、というより関わらないようにといった感じで掃けていた。


 うわぁ…何か()な予感……。


 そうしてずいっ、と一歩前に出てきたのは、他よりも少し派手な鎧を身に纏った、この団体のリーダー格っぽい渋い顔付きのダンディな男であった。


 齢は見た目だけで判断するならば三十路強ってところだが、あまりにも歳を感じさせない健脚での佇まいである。


 このまま100m走らせてもぶっちぎりでエグいタイムとか出しそうだな。


「見慣れない顔であるな、この街に来たばかりの新顔か」


「あ、あぁ。最近に、な」


「そうか、呼び止めて済まなかったな。何、検挙などではない。少し聞きたいことがあるのだが、イツキ、という名のマレビトを知っているか?」


「あー、えっと…俺がそのイツキ、だけど…」


 恐る恐る、と言った形で俺は名を明かす。


 どうせ下手に誤魔化したとしても、意味が無さそうなのは火を見るよりも明らかだったからだ。


 多分俺が感知できてないだけで、嘘発見器的な魔法とか張られてそうだし。


 男は値踏みをするかのように、こちらをじっくりと見据えてきた。


「ふむ…貴殿が、か。探す手間が省けた、少しご同行を願いたい」


「用事があるから、出来るならば断りたいんだが……」


「無理な相談であるな、国王御璽(ぎょじ)印付の任命書がある。勿論、そこのお三人方も、ご同行を願おう」


 うわ、一番面倒なの出された。


 御璽印付とか、この中世っぽい土地において拘束力高いもん出してくる辺りガチじゃねぇか。


 げんなりとしたこちらの様子をお相手方は意に介さず、こちらだと連れられてそのまま彼らの馬車に押し込められた。


 まだ救いだったのはグラニア(ポンコツその1)フェミリア(ポンコツその2)が暴れなかった事だ。


 流石に暴れては大事になるし、立場も悪くすると察したのだろう、大人しくしていてくれて助かった。


 しかしこいつら三人を見ても特に驚いたり、偏見の目を向けたりしない辺り、この世界での異人とは、ありふれた種族の一つということなのだろう。


 いや、今は角もケモ耳も尻尾も消えてるから気付いてないだけか。


 そんなこんなで、俺らは馬車にがたごと揺られに揺られて数時間、中継地点と思われる街の宿に一泊をし、俺を除いた朝に弱い組を叩き起こして早朝に馬車へと乗り、また数時間。


 太陽が丁度真上辺りに来そうな時間帯に、俺らを連行している団体御一行の目的地である王国、『グローリア王国』にようやっと到着したのだった。


 王国にやって来た俺達は、着いてそのまま観光!というわけにも行かず、あれよあれよと言う間に王城のある、王国の中心部に位置する王都『グロリアス』の方へと連れてこれられ、そのまま城の中へと連れられ、王様と謁見する為に待合室…迎賓(げいひん)の間とでも言えば良いのだろうか、取り敢えずそこに案内され、三人ともども俺達は押し込められた。


 騎士団護衛の道中、街の人達の視線が凄く痛かったです。


「はぁ…こういうとこ、落ち着かねぇから嫌なんだよな…」


「見てみよ、グロリア。この壺は結構高そうじゃぞ、壊したら幾らくらい請求されるんじゃろうな?」


「ふむ、それも良いがこちらの絵画も中々に良さげだぞ。目の前で燃やしたらどんな顔を浮かべるだろうな」


「お腹、空いた」


 椅子に座り、物憂げな様子の俺とは違い、三人が其々好き勝手に部屋の中を見て回り、物色していた。


 明らか二名程からヤベー会話が聞こえてくるが、知らん。俺は存ぜぬ。


 ……まぁ十中八九、無理矢理に近い形で此処へと連れてこられたのがストレスで、それが溜まってんだろうな、んで発散先として選ばれたのがあの物たちと…。

 無機物だが、同情はしといてやる。


 ミーアは…いつも通りだ、多分。


 俺は三人の行動を止めることもなく、溜め息をついて待っていれば、少し経ったくらいで漸く執事らしき人が部屋に入ってきた。


 それから案内されるがままに城内を歩き、一際大きな扉を潜らされる。


 その先はまさしく、今自分が立つ此処の床、そして囲む壁や天井は王城の物であり、一般家屋や宿は足元にも及ばず、高級な宿でも比較にならない威厳と美を持っており、王のみが座ることを許される玉座が置かれている間と称するに相応しい程の広さと荘厳さを兼ね備えた場所であった。


 窓はステンドガラスだろうか?様々な模様や色の入ったのが嵌め込まれており、外から射し込む光によって神々しさを何処か感じさせる。


 柱の一本一本、壁の隅に至るまで丁寧に作られており、素晴らしいの一言に尽きる意匠が施されていた。


 そして入り口から伸びるレッドカーペット、小さな階段を登った先に玉座が置かれており、そこに俺達を呼び出したその人が座して待っていた。


「うむ、よく来てくれた。誠に感謝する。私はこの国の王として、国を治めておる『グレリィ・ゴルト=グローリア』である。歓迎しよう、若いマレビトよ」


「よく言うぜ王様、御璽印章で退路を断って強制的に連れて来させたってのに。歓迎するにはちと乱雑が過ぎねぇか?」


 国の王を相手に、床に膝をついて頭を垂れる礼を欠くどころかポケットに手を突っ込み、やれやれと言いたげな表情を浮かべて言葉を返す俺の不遜とも取れる態度に周りに居た側近や、護衛の騎士達からどよめきの声が上がり、中には憤慨して武器を構えようとする者がチラホラと見られた。


 王であるグレリィは片手を挙げてそれを制し、愉快そうに笑ってみせた。


「くっはっは! 中々に大物であるな、貴殿は。いやはや面白い事だ。私を前にして、マレビトも含めた大抵の者は言動に恐れや敬いを含むものであるが…」


「残念ながら俺にそういった礼節を求めてんなら期待外れってとこだ。質の良い教養は身に付けてこなかったんでな」


「うむ、うむ。そうであるか。手荒に近い形で呼び出しておきながらだが、私としても砕けた喋りの方が幾分も取っ付きやすく、話しやすいというものだ。このままで願おう。それに、うむ…噂通りであるな、()()()()()()()()()()()()()()()


「へぇ…気付くか」


 少し驚いた、どうやらあの王様はこちらの些細な動きにも気付いていたらしい。


 憤慨して武器を構えようとした衛兵や騎士達を、そのもの達が行動に移すよりも早くに正当防衛、もしくは迎撃と称し、暴れようとした後ろの二人をポケットに突っ込んだ手の動きと雰囲気で制したのだ。


 少しでも遅れたり、止めなければ今此処は確実に惨事が広がっていた事だろう。


 想像するだけでもかなりグロい、R-18Gは遠慮願う。


 何よりもここにはミーア(未成年)も居るのだ、見ちゃいけません!

 …ミーアがそれに引っ掛かるかは怪しいところではあるけど、見た目幼女とか少女のそれだからな…。


 国王の観察眼には素直に感心しつつ、しかして言葉に思うところがあったので、「あぁ、けど…」と前置きを置いてから口を開いた。


「一つ言わせてもらいたいが、こいつらはちゃんと言葉を介し、理解し、友好を築ける知的生命体であり、人格を有し、人ならざるものだが、それと同時に一個人でもある」


 つらつらと言葉を繋げ、流暢に動かしていた口を一度閉じ、目を閉じて一拍の呼吸を挟んでから、スッと目を細く開け、王を見据えて口を開いた。


「御していると言ったが、俺はこいつらを隷属してる訳ではない。ただ小さな契約を交わしているのみであり、それを除けばほぼ対等な立場だ。思い通りにいかない事なんざ多々とある。だから…不用意な言動には注意しておこうぜ、互いの為にな…?」


「ふむ、貴殿なりの忠告として肝に銘じるとしよう。お前たちも良いな」


 俺が相手ならいざしも、王の言葉となれば引っ込むしか無いらしく、少しざわつきがあれどそれは徐々に収まりをみせていく。


 不満げな視線とかはめっちゃ増えたけどな。

 あ、おい、今舌打ち聞こえたぞ。


 そんな側近達の様子に苦笑を溢していれば、グレリィ・ゴルトは口を開いた。


「して、此処に呼びつけた用件は…聡明そうな貴殿ならきっと既に察しておるだろうな」


「そいつは買い被りすぎだよ、国王。残念なことに俺は学が一つもない、察する力も無いときた。誇れるものなんざ片手あっても余裕で足りるくらいだ。けどまぁ、そうだな、その質問に対しては一応として「あぁ」と返しておこうか」


 小さく肩を竦めて、己がどれ程小さくか弱くて、何も持ってないかを言葉で示しておきながら、俺は国王の言葉に対してはYesを返す。


 そもそもに後ろ三人を俺と一緒に連れてきたんだ、用件なんざ馬鹿でも分かるというものである。


「ふむ、ならば答えを聞こうか」


「敢えて口にしなきゃなんねぇか、これ? おたくの予想通り、答えは「()なこった」だ」


 んべっ、と舌を出してNOを突き付けてやれば、再び周りからざわつきが聞こえてくる。


 何なら不敬罪として今すぐにでも飛び掛かって押さえ付けんとする奴まで見えるくらいだ。


 だが、そいつらもズンッ、と来る圧力に、足を一歩も踏み出せずにいた。


 圧力の出処は言わずもがなである。

 一歩でも動かば確実に殺す…獣人や人間でない人型の生き物に比べ、感覚が鈍いと言われる人間でも流石に覇者たる二人の、言が含まれた圧は感じられるようだ。


 剣の柄に手を掛けていた衛兵や騎士達は冷や汗を垂らしまくり、足を酷く震わせていた。


「……理由(ワケ)を聞かせてはくれまいか…?」


 圧力は確実に彼にも届いている筈だ。


 しかし国王は顔を引きつらせながらも真面目な顔で問い掛けてくる。


「理由も何も、自由で居たいだけで、(しがらみ)なんざ死んでも御免だからだ。富も名声も馬鹿らしい、身不相応なもんなんざいりもしない」


 後頭部をガシガシと雑に掻き、んー、と唸ってから手を振って出来る限り伝わるようにと努力をし、今抱いてる思いや考えをぶつける。


「それに…」と前置きを一つしてから、口を開いた。


「現状で手一杯なんだ、追加でそんなにいっぱい抱えきれるかよ?」


 そんな俺の言葉が意外だったのか、それとも予想通りだったのか、国王は一瞬目を見開いてから大きく体を反らせて笑い始めた。


 とても愉快な事だったのか、さっきまで引き攣らせていた顔や緊張は嘘のように引っ込み、腹に手を当てて苦しそうにする始末である。


 そんな抱腹絶倒なギャグを言った覚えは無いんだがな……。


「いやはや、すまぬ。うむ、出会って短いが、とても貴殿らしい言葉である。ならば仕方あるまい、私は引き下がるとしよう」


「なっ、国王陛下!?」


 目尻に涙を浮かべ、漸く落ち着いた辺りで意外にも潔く彼は引き下がった。


 その言葉に、眼鏡をかっちりと決め込んだ燕尾服を着込む側近の一人__恐らく執事長や近衛騎士の隊長格の人物__が驚きを含んだ声を上げた。


 ……成る程、あの驚き具合を見るに、情報を仕入れて国王に掛け合い、この場を設ける様に仕向けたのはアイツか。


 大方、他の国とか怖いし、治めてる街も全てが全て、この統治に満足してるわけではないのだろう。

 現にクリエスタも、王国は信用のならないと言った様子が見られたし、内部武力を高めていた。

 そんな中に置かれた状況下で、武力を今よりも更に増強したいなーとか思ってた所に俺達の情報が入った、と。


 うーん、利用する気満々ですね、いっそ清々しさすら覚えるくらいだ。


「お言葉ですが、よいですか、国王。あの者達を引き入れれば我々の国力はより一層高まるのです。ここは今一度、民を率いる者としてのご英断を。果ては王命として__」


「して、それを無理に通したとして、この国に未来はあるか?」


 ろくに隠しもせず、本人達の前でよく堂々と言えるなぁ…なんてある意味で感心を覚えていたら、その言葉を国王は途中でぴしゃりと叩き伏せた。


 言葉にせずとも、真意は読み取れる表情でジッと見据えていたら、少し熱が入っていた側近の一人は、ハッとした顔つきになり、少し苦い顔をして渋々といった様子で下がった。


「俺らが暴れる未来でも見えたか?」


「くっはっはっ! そこまで読めておるならば、貴殿はちゃんと聡明だ、安心すると良い」


 ダンッ、と手摺りを叩き、大きく笑う国王。

 そしてそのまま、ニィ…と男前な笑みを見せてから、その笑みに陰りを見せる。


「…国とは民があってのもの、無理を通してその民を消されては意味などあるまい。元が民であった屍の上に立つ国王など、なんと空虚なるものか」


 その言葉に、俺が制していた後ろの二人がピクリと反応する。


 この二人もまた、覇者であり、頂点に立つもの。


 つまりは王と読んでも差し支えはないくらいだろう。


 そんな二人が反応を示したということは、きっと思うところがあるのだろうが、今それを(つつ)くのは確実に藪蛇だ。


「オ、オホン! えーっと、取り敢えず話はこんなもんで終了か? 特に問題無いなら帰らせてもらうが、まだ何か質問とかあんなら聞くぞ。答えれる気はしないがな」


 俺は雰囲気を変えるためにわざとらしく咳払いをして話題を変えた。


「ほう…?」


 そんな俺の提供に食い付いたのは国王でも、側近の一人でもなく、一人の男であった。


「では、聞かせ願おう。君にはどう言った強さがあって覇者たる龍と狼と慣れ親しんでいるのだろうか」


「……悪い、あんたは?」


 唐突に食い付いてきた男に対し、ちょっと怪しんだ視線をぶつけて素性を問いかける。


 男はそれを聞いてから思い出したように、胸に手を当てて一礼をした。


「申し遅れた。私の名は『カイアス・カニバル』である」


「カイアス!?」


「知ってんのか、グラニア?」


「…生ける伝説と呼ばれるほどの偉業を成し遂げ続けている男だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも伝えられている」


「あぁ、それならば儂も聞いたことあるな。確か女神の寵愛を貰い、()()()()()()()()()()()()()()のだとか」


 え、何そのなろう系小説の主人公張ってそうなチートぶり。


 女神の寵愛とか何ぞそれ、俺との違い滅茶苦茶過ぎないか?小学生が考えた最強の男主人公とかじゃねぇんだぞ、無力で張ってる俺、滅茶苦茶恥ずかしいんだけど?


 うわぁ…と言いたくなる顔付きで二人の話を聞いてれば、本人は少し気恥ずかしげに、しかし満足そうな様子で頬をポリポリと掻いていた。


「覇者たる者達に覚えられているとは嬉しいものだが、恥ずかしくもあるな。うむ、世間ではそう言われている。女神の寵愛を受けた、と言われてもいるが、俺はマレビトではないので、これに関しては何とも言えんのが正直なところだ」


 現世最強のなろう系主人公かよ。


「現世最強のなろう系主人公かよ」


「何と?」


「いや、気にすんな。こっちの話だ」


 首を傾げて、?を浮かべる相手に手を横に振って軽く流せば、腰に手を当てて小さく溜め息をつく。


 ここ最近色々と重なりすぎては無いだろうか…休み寄越せ。


「んで、何だっけか、こいつらとの馴れ初め?」


「否、良縁の持ち方だ」


「あぁ、そうだったな。と言っても、正直なところ俺には分からん。ただ、成り行きでそうなった、としか言いようがない。異常事態(イレギュラー)で出会って、雌雄を決する戦いの審判をすることになって、その延長線でここに一緒に居るだけだし」


「ふむ、であればそれなりの年月を経て?」


「いんや、出会ったのも先月辺りじゃねぇか? 試合を見て、それなりの日数を明かしたけど、そんなに経った気はしてねぇ」


「それでここまでの良縁を……恐ろしいばかりであるな」


「うむ…長い年月、この国を治めているがそういった手合の話を聞くのは初めてである」


 まるで感心した様に唸りながら頷くカイアスと、ここまで沈黙を守っていたが遂に堪えきれなくなったのか、口を挟んで同様に感心するグレリィ国王。


 確かに傍から見たり、聞いたりしてれば前例なんてあるはずもない偉業なのかもしれないが、蓋を開けてみればなんてことない、ただの旅の付添人みたいなもの…という認識なのだが、これは改めた方が良さそうだろうか。


 何気にそういうものとして流し続けていたが、何だかんだこいつらもよく俺に付き添ってくれるものだな、とは今更ながらにも思う。


 何処へ行くにも、大抵一緒に思えるからだ。


「…して、最初の辺りから気になっていたのだが、その幼子は…?」


「あ? あー、えっと…まぁ、気にすんな。凄い幼女Aだ」


 ここまでずっと一言も喋らず、行動も起こしてなかったので忘れかけていたが、この場にはミーアも居ること思い出して振り返ってみる。


 どうやら相当に暇で退屈で、そんな環境に疲れたのだろう、器用な程に立ってスヤスヤと寝息を立てながら眠っていた。


 ここで彼女の正体を明かす事もないだろう、そう判断した俺はサムズアップしながら流す程度に紹介する。


 そしてもうこれ以上は追求するな、と笑顔の圧も付け足しておく。


「そ、そうか。…ふむ、君がだいぶ特殊な環境下に居るのは確かな様だ」


「意図せず望みもせずな、ホントに困ったもんだ」


「困った、で済ませる辺り本当に大物具合を感じさせるな。フフッ、面白いものだ」


「そういうもんだと流すしかないだろ、こんなの」


 楽しげに肩を揺らして笑う彼に対し、俺は肩を竦めてやれやれと言った様子を見せる。


「して、一つ頼みがあるんだが、聞いては貰えまいか」


「何だ? 内容の次第によるけども…」


「うむ、私と一つ、()()()()()()()()


 __………は?

去年はありがとうございました。

今年も作品共々どうぞ、よろしくお願いします。

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