閑話 聖なる夜へ翳せ、ともに光を
閑話なのにクソ長くなりました、悪い癖出ました、はい。
てことで半分にぶった切ってお送り致します。
時刻としては朝の八時辺り。
俺は寝泊まりをし続けてもう一種の家と、ネカフェに居を構える奴みたいな認識をし始めているこの部屋の真ん中で腕を組み、ベッドに寝転ぶ二人と対峙していた。
「諸君! 今日は何月何日か分かるかね!?」
「んむ、また阿呆が何か阿呆な事を思い付いたのか、物言いをし始めおったぞ、グラニア」
「まぁ、そう言ってやるな。ふむ、その問い掛けから察するに、我等の暦ではなく人間達の暦の方だろうか。だとするならば、前に冒険者とやらが言っていたのを思い出すに…十二の月と、二十と五の日じつであったか」
相変わらず釣れ無い態度でグラニアに丸投げをしたフェミリアに対し、丸投げされたからなのか、ちょっと真面目過ぎるくらいに取り合ってくれたグラニア。
うーん、この差よ。
「おう、正解だ。十二月二十五日、それは聖なる日として定められし日…そう、『クリスマス』だ!!」
「「クリスマス?」」
バッと腕を広げ、高らかに今日が何の日であるか高らかに宣言をすれば、予想通りクリスマスを知らない二人が首を傾げる。
「前世でやってた祝い事みたいなもんだ、特に夜がメインの。この世界で例えるなら、あー…無礼講の祭りごと?」
んー、この世界の基準とか俺も勉強途中だから知らないしな…取り敢えずそれに近しいものを例として挙げれば、まだこいつらでも分かりやすいだろう。
…そういや、一部界隈では『"聖"なる夜』を『"性"なる夜』とかに文字を変えて読んだりしてたが…独り身に対する嫌味なんだろうか?もしそうなら全力で応えてその喧嘩を買ってやる。
貴様と俺で戦争しようぜ、戦争、戦争、戦争!
そんな俺の想像をよそに、ふむふむと小さく頷きながら聞いていたフェミリアが口を開いた。
「無礼講の祭りか、つまり暴れても良いのかの?」
「良いわけねぇだろオタンコナスが」
「オタンコナス!?」
「うむ、その表情は大変素晴らしく良いものだが、さっきの発言とリアクションがもう少し欲しいから減点だな…クリスマスポイントマイナス200」
「何じゃクリスマスポイントって?! というかマイナス大きすぎやせんか!?」
愕然とした表情を浮かべ、ガバッ!と勢いよく上半身を起こして食いかかってくるが、特に見なかったものとして俺はスルーを決める。
「あ、あとグラニアさん。もう少し気を抜いてくれませんこと? それなりに俺が巫山戯難いんで。取り敢えずクリスマスポイントをマイナス2しとくな」
「横暴ではあるまいか!?」
こちらもまた、流石に思わずと言った形で、愕然とした表情を浮かべてツッコんでくるグラニアさん。
良いね、フェミリアとはまた違った砕けた感じで。そういったの好きよ、私。
「んじゃ、各々プレゼントなるものを買ってくるように。プレゼント交換会すんぞ。前世では、する相手とかまず居なかったからちょっと憧れてたんだ」
「よく今の流れでそれに参加させようと思ったの…図太さが行き過ぎて横暴さが目に余るぞ」
「うむ、拒否権は当然あるのだろう? ならば我はその会なるものの参加を拒否する」
「えーー、んじゃクリスマス特別メニューなる料理は俺が独占__」
「よしグラニアよ、どちらがこの会なるものに相応しい荘厳な物を用意出来るか勝負といこうではないか!」
「フッ、吠えるなよフェミリア。お前が見ただけで腰を抜かす物を用意してみせよう。相応しさに心当たりがある分、我が勝利に揺るぎはあるまい!」
……どうやら要らぬ火を付けてしまったらしい。
まぁ、やる気になったからヨシとしよう、うん。俺は知らね。
そうして、やる気が可視化出来るのではと思うくらいに満ち溢れた二人と共に、俺は宿を出て商店街通りへと赴いた。
因みにミーアは何か朝起きた時点で居なかった、多分散歩にでも出掛けてるんだろう、知らんが。
そうして目的の商店街が軒を連ねる通りに着き、二人と別れた俺はぶらぶらとのんびり歩いていた。
結局アイツらに渡す用として買ったアクセサリー、未だに渡せてないんすよね、へへっ。
いや、何だかんだタイミングを逃し続けてましてね?忘れてたりとかしてないんですよ?ちゃんと覚えてましたとも、はい。
……正直に言うと、日和ってました、はい。
だってさ?だってさ!?中身が悪魔も魔神も顔面真っ青なバケモンだとしても、見た目は女性じゃん?俺、女性に贈り物とかしたことないし!?経験無し彼女居ない歴=年齢の男にはちょーっとばかし難易度が高いかなーって思うんだよね!!
うっせぇ!ど、どどどドーテーじゃないんですけどぉ!?
くっ…自分で言ってて悲しくなってきた…。
自分で自分に過大なダメージを負わせ、心無しか気落ちした状態でトボトボと歩いていれば、ふと聞き覚えのある声が聞こえた気がする。
下に向けていた顔を上げ、そちらを見れば_そこにはクリスとミレアのペアが居た。
ふーん、こんな日に二人で居るってことは、やっぱデキてんのかなぁ、あいつら…ハハッ、爆ぜろ。
そんな邪な感情を感じたのか、会話を打ち切って二人してこちらを向いてきた。
「あ、イツキくんじゃないか! 奇遇だねぇ、君も買い物かい?」
相変わらず腹の中を読めない、ニコニコとした表情を浮かべて、おーいだなんて呼び掛けながら手を振ってくるクリス。
そのままこちらへと近づいて来て、当然のように横へと並んでくる。
ミレアも同様に、クリスとは反対の方へと回って並びやがった。
え、これ俺がこの二人の間に挟まる形だけど間男みたいな感じで処されない?大丈夫?
「処されたりしない? 大丈夫?」
「? 何か処されるような事でもしたのかい?」
「現在進行形でしてる_というより、されてる」
「?」
「相変わらず君は面白いね、言ってることがあまりよく分からないや!」
あはは!とミレアは楽しげに笑いながら、クリスは不思議そうな顔をして、俺の歩く速度に合わせて着いてくる。何故。
「まぁ、俺は買い物をしに来たというより、ただの散歩だな。歩いてるだけだ」
「へぇ、面白そうだ、僕もついて行こうかな」
何が、どうして、どう見たら、ただの散歩がそれ程までに興味を引くほど、面白そうに見えるんだ…?
「あ、それなら僕もついてくよ。イツキくんの行くとことかって面白いこととか起きそうだからね!」
そんな歩くトラブルメーカーみたいに言われても…。
ますますこいつらがよく分からなくなった…と内心で思いながら「勝手にしろ」と言って散歩を続ける。
聞けばこいつら、街の警邏の為、此処に居たらしく暇だったので喋っていたとのこと。それで良いのか、お前らと街の奴ら。
此処に着いてからまだそれ程歩いてもないし、時間も経ってないのにどっと疲れていた俺は、その時まともな思考が出来てなかったのだろう。
もういっその事、この二人もクリスマス会に巻き込んでしまえば良いかと考えた俺は、二人にこの後する事を歩きがてら打ち明けていた。
「ふぅん、僕を差し置いてそんなことを画作していたのかい? 釣れないなぁ、イツキくん」
「うっせぇ、今打ち明けただろ、それで手打ちにしろ」
「それでくりす、ます? ってのをするには何をするの?」
「あー、そうだな…正直な話、俺よりもクリスの方が知ってそうだし説明は任せた」
「わ、すっごい投げやり。けど、それに応えてみせるのが僕ってものだよ」
そうしてクリスにクリスマスとは何かの説明をぶん投げ、俺は二人を連れながら、綺麗に整えられた石畳の道を歩く。
改めて見ると、やっぱよく統治された良い街なのが伺える。
ファンタジー世界によくある、中世を思わせる景観にしろ、これだけ馬鹿デカく、そして商店通りが活気に溢れてるのは良い街と言うに値するだろう。
他見たことないから比べようが無いんだけどな。
それに、今寝泊まりをしている宿の良いところは、キッチンが使えることである。
つまり、自分で料理が出来る奴や自身のあるやつは自分で作れるのだ。
更に何と宿泊者は利用料0!有難い限りである。
プレゼント交換するついでに、クリスマス料理を作るつもりなので食材を買っておかねば…。
そうしてうだうだと喋り、練り歩き、買うものを買っていれば日が傾き、足から伸びる影が伸びてきたので、俺はフェミリアとグラニアの二人を探し出して合流を果たす。
果たしてどんなとんでもな物を用意したのだろうかと戦々恐々としていたが、見た感じではどちらも何一つ持っていなさそうであった。
不思議に思いながらも、取り敢えず時間も時間なのでそのまま加えて五人という大世帯で宿へと戻った。
ミーアは朝と同じくいつの間にか戻っており、先に部屋でごろごろしてたが、部屋に入ってくる俺達を見るなり、とてとてと寄ってきて、おかえりーだなんて言ってくれる。かわいい。
そうして一度、プレゼント交換する用の荷物を置き、俺は食材を片手にキッチンへと向かった。
ついでにクリスとミレアも連行した。
飯食わせるのだから手伝いぐらいはしてもらわねば。
ここで意外だったのは、クリスは料理が存外に出来て、ミレアは壊滅的にダメだったのだ。
ある種では衝撃的な事実と言えるだろう…将来この勇者の夫になるやつは苦労しそうである。
「ッふぅ…何とか出来たか」
朧げながらも、前世の知識を思い出せる限り思い出し、この世界には無さそうな調味料は代わりになりそうなもので代用したりして、何とか作り上げた料理を前に、俺は額に浮かぶ汗を拭いながら満足感に浸る。
「うん、ここまで上手くできるとは思ってなかったよ。料理人の才能あるんじゃない、イツキくん? 今度ジョブ設定してみたら?」
「気が向いたらな」
「へぇ、見たことないけど、これは中々に美味しそうだねぇ」
出来上がった料理を前に、興味深そうに見ていたミレアが呟く。
見た目も大丈夫らしい、この世界の住人の目にも適ったようで何よりである。
「おら、腹ペコ三銃士。出来たぞ。……言っとくが俺らの分もちゃんと残せよ…?」
そうして出来上がった料理を三人で部屋へと運び、テーブルの上へと並べていく。
「わ、分かっておるわ!」
「う、うむ。心得ているとも…!」
「ん、早く、食べたい」
腹ペコトリオといえば、待ちきれないと言わんばかりに席についており、今か今かと待っている状態であった。
そんな様子に苦笑を浮かべつつ、最後の料理を運び終えれば運んでいた三人も席につく。
「んじゃ、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
「いただきます…? これで合ってるかな?」
俺がいつものように食事の挨拶をすれば、ミレアを除いた全員が慣れた形で挨拶を口にして所作を行う。
ミレアはそんな様子を不思議がりながらも、見様見真似でやっていた。
「あぁ、ちゃんと合ってるから安心して良いぜ。さ、食おう」
「うん!」
そうして会話に花を咲かせながら俺達は食事を楽しみ、腹を満たした。