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勇者

 公園にて嫌な情報をクリスから聞かされ、溜め息と共に頭を抱えながら今後どうするかと俺が思考に耽っていた時、入口辺りで人影がふと足を止めた。


「あっれー、其処に居るのはクリスくん? 何してるのー?」


 随分と軽快なノリと声色で跳ねるように近付いてくる。


 その声に、クリスと俺は二人揃って顔を向けて確認をする。


 そこには栗色のショートヘアをした、前世基準ならば中、高校生辺りを思わせる身長の、溌溂そうな少女が立っていた。


 随分とボーイッシュな格好だが、うん、ちゃんと女性らしい体だな。

 はい、そこ。変態みたいとか言わない。


 しかし、うーん、見覚え無し。…いや、当たり前か。この街で知り合いとか少ねえしな。

 居て片手あれば足りる人数くらいだ、交友関係広げないとなぁ…。


 対してクリスは見知った相手なのか、さっきまでの表情は鳴りを潜めていつものニコニコとした笑みを浮かべていた。


「やぁ、ミレアちゃん。僕は彼と散歩しててね、今はちょっと休憩しつつお話をしてたところさ」


「ふぅん? また悪巧みでもしてるのかと思ったや」


「人聞きが悪いなぁ」


 またってことは前科でもあるのだろうか…?

 こいつはこいつで変わらず人を食ったような笑みを浮かべ続けている。そんなんだから怪しまれんだぞ。


「君は初めまして、だよね? 僕はミレア、『ミレア・マクロイア』。よろしくね!」


「イツキ、ただの一般人だ」


 彼女、ミレアは随分と元気な名乗りと共に手を差し出してくる。


 俺もそれに倣って名乗りつつ相手の手を握った。


「うーん……確かに魔力量は少ないし、力も結構弱いねぇ…けど、そんな君がどうしてクリスくんと知り合いなのかな?」


「えーっ…と……?」


 何かすっごい圧みたいなのを感じるんだが、怖いんだが。何?俺、処されんの?


 …ってか握った手が動かねぇ!力強え!!何だ、この世界の奴等の握力は軒並みゴリラしか居ねぇのか!?


「アッハハ、その位にしといてあげなよ。弱い者虐めする『勇者』とか、流石に名が泣いちゃうよ?」


「勇者…勇者? このちんまいのが?」


「そ、僕は勇者! 皆の平和を守ってるのだ! あと身長は関係ないでしょ、ちんまい言うな!」


 フフン!とドヤ顔をこれでもかと見せてきた後、俺の言葉にぷんすことした表情で抗議してくるミレアさん。

 とても表情豊かで、妙齢さ加減が伺えますね、良いと思います。

 けど、それは置いといて、いい加減手を離してくれませんかね…お兄さんのお手手がそろそろ壊れそう。あ、離してくれた。


 んー、しかし…勇者が居るってことは魔王とか魔神とか居たりすんのかな…魔物とかモンスターとか居るし、居てもおかしくなさそうよな。


「クリスと知り合ったのはただの運だ。ギルドで身分証発行するときに居合わせてな、色々と教えてもらった。そんな縁だ」


「へぇー、あのクリスくんが。てことは何か気を引くようなものでもあったの?何か持ってたり?」


「初対面相手にぐいぐい来るな、あんた…」


「そりゃ、これくらいじゃなきゃ勇者なんて出来ないよ。色々と面倒臭い事とか多くてねぇ、のらりくらりと躱す貴族を相手にしなきゃいけなかったりとか、ね」


「へぇ、魔物相手に斬った張っただけじゃないんだな」


 どうやら俺の思うRPGとかでよくあるような魔物を倒すだけが仕事の勇者ではないらしい。本当の勇者は想像よりも随分とご多忙な様だ。


 まぁ、ある種では傭兵とか騎士とか、そこらと同じなんだろう。知らんが。


 言い様では政治にも関係とかしてそうだろうか…というか、勇者とか言うんだからコイツも転生者だったりすんのかな…。


「それでそれで? クリスくんは君の何に惹かれたの?」


「聞く相手間違ってんぞ、明らかに俺じゃなくてあっちだろ…」


「いやいやぁ、僕の口からはとてもとても」


 ニッコニコ顔で逃げやがったな、コイツ!!


「んー…まぁ、いっか。()()()()()()()()()()()()


「? 何でそこで貴族が出てくんだ?」


「あれ? これにも引っ掛からないかぁ、さっきそれっぽいこと話してた様な気がしたんだけど」


「お生憎様だが、交友関係は自慢できるほど広くなくてな。片手あれば足りる程の中に、残念ながら貴族は入ってねえな」


「……本当みたいだねぇ、嘘言ってないや」


「正直者で通ってるんでな」


 ……っぶねぇ!素知らぬ顔してかま掛けしてきやがった!しかも僅かだろうと聞こえてたのかよ!

 なんてやつだ、クリスの知り合いだからとちょっと警戒して予防線張ったらこれだよ!マジでコイツまともな知り合い居ねえんじゃねえのか!?


 ミレアのかま掛けに、内心で戦々恐々の思いをしながらも、努めて表には出さないようにして話をしていれば、ここまでニコニコ顔で黙ってた奴が口を開いた。


「まぁまぁ、イツキくん。彼女は()()()()()。そっちに引き込んだりとかするような子じゃないよ」


「………」


 クリスの言葉に俺は疑心の目を向けて真偽を問い掛けるが、クリスはそんな視線を小さく肩を竦めて流すだけだった。


 俺はそんな態度に気に食わなさを感じながらも、ミレアの方を向き、少し逡巡してから溜め息を吐き、言葉を零した。


「…俺はマレビトって奴だ、この世界じゃ珍しく無いんだろ」


「へぇ! 君、そうだったんだ! でも弱くない? クリスくんとか、他のマレビトよりもうんと弱く感じるけど…」


「おう、そうだな。イレギュラーだとかで、女神とやらに会えず、力も貰えずでこの世界に飛ばされたんだよ。魔力もからっきし、悲しくなってくるくらいだ。ま、悪運くらいは多少あったらしい、コイツに会ったし、話も聞けた。同じマレビトだから、気に入られたってのがあるんだろ。それ以外は知らん、本人に聞け」


「ふーん? 確かにマレビトなのに天恵も無いと怪しまれちゃうからね。正体を隠したのも説明がつく、かな…? けどなぁ…他に何か隠してない?」


 仕事上なのか、それとも元からそうなのかは分からないが、随分と疑り深い性格をしているらしい。


 んー?と言いたげにこちらへ顔を近付けて更に聞き出そうとしてくる。


 流石におかしさも感じられるので、俺は素直に聞いてみることにした。


「随分と疑り深いが、何か理由があっての事か? 元の性分だと言われれば、それで終いな訳だが…」


「うーん、そうだねぇ。こっちばかり聞くのも対等じゃないか。ギルドに寄った時に、名は聞けなかったけど、最近顔を出した、あるマレビトさんの話を聞いてね。何でもとんでもない事をしたとか。流石に気になるでしょ?」


 ね?なんて言うように首を傾げて聞いてくるミレア。

 しかし、それに同調するにも当事者だから頷こうにも頷きにくい…。やり難いことこの上ないやり取りである。


「後は此処ら近辺を収める国の王様から、最近この街にやって来たマレビトさんについて調査しろとか言われててさー、それでクリスくんと仲良しこよしな君が目に入ったと言うわけなのです、うんうん!」


「王様は随分と耳が早いんだな、噂好きなのか…? 全く…。多分、興味があるのは俺じゃなくて俺の連れだろうな」


「お連れさん? 今居るの?」


「いや、今は寝泊まりしてる宿だ。まだ起きてないだろうな、朝に弱い奴等だし」


 きっと今もぐーすかと寝息を立てて夢の中にでも居るのだろう。ソファーを占領したアホその三もきっとそうだろうな、朝とか強そうなイメージがあったんだが…。


「へぇ、因みにそのお連れさんって?」


「覇龍と覇狼」


「……へ…?」


「あぁ、あと最近一人増えたな」


「へぇ、それは僕も初耳だ。今度はどんなとんでもが入ったんだい?」


風の妖精(シルフ)


「……わぁお…」


 俺の答えに、最初はミレア、そして続け様にクリスが間抜けな顔を晒す。


 クリスは流石に慣れたのか、直ぐにニコニコ顔に戻っていたが、ミレアの方は開いた口が塞がっておらず、パクパクと何かを言いたげに開閉するくらいだった。


「ま、ままま、待っ__」


 やがて失っていた声を取り戻してきたのか、漸く言葉を発そうとしていた。が、それを瞬時に俺は手で塞いで遮った。


「大声を出さずに問い掛けるなら離す、無理なら落ち着くまでこのままで居ろ」


 あまりの唐突な行動に、二人とも目を見開いていたが、瞬時に意図を察すればミレアはコクコクと頷き、離しても良い合図を送る。クリスは俺がこれ以上、彼女を害さないと見てそのまま静観の姿勢だ。


「__覇龍と覇狼ってその…大丈夫、なの…? 暴れたりとか…それにシルフの方も…」


「その辺は言って聞かせてる。俺の言葉を破らない限りは大丈夫だろう。シルフの方は…まぁ、あれは単体でどうにか出来るとは思わんけどなぁ…」


「イツキくんって案外味方になった子には甘い目で見がちだよね…。一応として言っておくけど、妖精族の子は莫大な魔力と、それに見合った多彩な魔法、そこにプラスで一部しか使えないって言われてるけど、妖精族のみが扱える最上級の魔法を有してて、下手な国家なら消し飛ばせるよ。一人でもね」


「そりゃ恐ろしいな、あのポンコツには期待出来なさそうだが」


「君ってホント……大物だねぇ…」


 呆れたと言わんばかりの表情で、何かを言いたげにしたが結局口にはせずに、濁すような形で終えた。


 ミレアの方は、上手く言葉を纏めることがまだ出来てないのか、押し黙ったままである。


 だが、それではダメだと思ったのだろう。幾分か自分の中で考えが纏まったのか、小さく何度か頷いてから徐ろに口を開いた。


「……うん、ようやく理解出来た。王様が気にした部分も、クリスくんが言ってたことも、君が気にかけて隠そうとした理由も。()()()()…つまり()()()()だね…?」


「そ、多分イツキくんを介して、その三人を良いように使おうとしてるんじゃないかなぁって僕は思うよ。何よりもうちのマスターが先駆けたからねぇ…その手の話には、今の彼の警戒度は高いんだよ」


「え、因みに誘いにはどうしたの?」


「当然蹴った、ギルドに利用されるのも(しゃく)だし、何よりも貸し借りを作るような関係は御免だからな。ホントならこいつにも作りたくはなかったが」


「アハハ、連れないなぁ、イツキくんは」


「おう、胡散臭さ全開の奴に、誰が好き好んで貸し借りを作りたがるか知りたいところだ」


「うん、君との信頼関係の深さが伺えるね。正直な感想をありがとう」


 俺の辛辣とも取れそうな言葉を、相変わらずニコニコとした表情を一切崩さず余裕で受け止めてみせるクリス。


 行動としてはイケメンの部類なのかもしれないが、今の俺としては厄介な奴以外何者でもない…何で好かれてんだ…?


「……ん、大体は把握したよ。ごめんね、あれやこれやと色々聞いちゃって」


 流石に内容が内容なだけに、申し訳なさそうな表情で頭を下げて謝るミレア。


 流石にそこまでされるとは思ってなかったので、驚きで少し固まってしまったが、俺は立ち上がればミレアの頭をポンポンと叩く。


「気にすんな、どうせ仕事で探らなきゃならねぇんだろ。勝手に俺の知らない内に調べられたりするのは気持ち悪くて仕方がないし、怒りも覚えるが、こうして直接聞いてきてくれる方がまだマシだ。だから取り敢えず頭を上げろ、事案として連れてかれる」


「事案って…何と戦ってるのさ、君は…」


 えぇ…と言う微妙な、ちょっと呆れたような引きつった笑みを浮かべながら頭を上げて問い掛けてくるミレア。


 俺はその問い掛けに、顎に指を添え、暫し考えてから答えを出した。


「体裁と、なろうのコンプラ…?」


 何とも言えぬ空気が三人を包む。


 だいぶ長い間を会話で過ごしたらしい。時刻は丁度、昼前くらいを差そうとしていた。

イツキは自分をモブAだとか思ってますが、こんなモブが居たらそれはそれで嫌ですよね。覇龍と覇狼連れたモブとか何処のなろうなのやら(()

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