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嫌な予感ほどよく当たる

 カーテンを閉めているが、その隙間を縫って窓から漏れる朝日の光が瞼を通り越して俺の目を焼く。


 眩しさに眩み、夢の世界に浸っていた俺はほぼ強制と言っても差し支えないくらいに起こされた。


 どちらかと言えば夜型の人間である俺にとって何とも言えぬ、微妙に嫌な朝の目覚めである。


 寝惚け眼を幾度か(しばた)かせ、机に突っ伏させていた体を引き剥がすように起こす。


 流石に横になって寝なかったからか、体がコンクリートにでもなったのかと錯覚する程にはバキバキに固まっており、動かしただけであちこちがかなり痛い。


 これでは何かをするにも支障を(きた)すので、動かせる範囲で軽くストレッチをする。


 うん、やるのとやらないのとでは大違いだ。日本人が朝からラジオ体操するのも頷ける。


 幾分か動かすのがマシになってきた所で部屋の中を見回す。


 同じ部屋で寝泊まりするお嬢さん方は(こぞ)って朝に弱いらしい、起きてるのは俺だけのようだ。


 いや、今が早すぎるだけか。


 カーテンの隙間から窓の外を見やるが、朝と言うにはまだ暗さがほんのりと残っている感じだ。


 今から寝直すにも、体を動かしたのもあって目が冴えてしまい、寝るに寝れなくなってしまった。


 ……散歩でもするか。


 声に出さず、心の中で何をするか決めれば寝てる奴らを起こさないように気を付けながら部屋を出る。


 この時間では宿の主人も起きてないのか、誰に見送られる事もなく俺は朝靄がまだ立ち込める街へと繰り出した。


 と言っても、こんな時間では空いてる店なんてあるかすら怪しいところだ。


 特に何処へ向かう訳でもなく、ふらふらと当てもなく歩き続けた。



 どれだけ歩き続けただろうか?気が付けば宿泊施設が(ひし)めく、西の一区画とは真反対に位置する東の一区画に足を踏み入れていた。


 どうやらこの区画はこの街に住む貴族達の家の集まり、所謂『貴族街』とでも言うべき所らしい。うーん、中世感が凄い。


 それに貴族ってあまり良いイメージが無いんだよなぁ…傲慢が服を着て歩いてる感じがある。


「……ん…?」


 そんな事を考えていたら、向かい側から何やら歩いてくる人影が目に入った。


 特に(やま)しい事をしている訳でも無いのだが、何となく近くの物陰に隠れてしまった。


 あれ?なんで俺こんなことしてんだ?


 うーん…なんて悩むが、考えても仕方無いので気にしないでおこう。


 どうやら前からやって来ていたのは、この区画の住人の一人らしい。

 仰々しい服装を身に纏っており、付き人の一人に対して荒々しい言葉を投げ掛けていた。


「それで、まだ捕まらんのか! 私自らがこうして探しに出ているというのに、目撃の一つすら入らんとは! 無能共は何をやっとる!」


「恐れ多くもエニュート様。シルフ族とは存外に厄介なモノでして、奴等は魔法を使用致します。姿隠しなどを使われては、さしもの奴等でも見つけるのは困難かと」


「ならば魔法崩しの球を使えば良かろう! 簡単な事ではないか、何を手間取る必要がある!」


「それが、奴等の扱う魔法は人には理解し得ぬ構造をしており、魔法崩しの球でも突破できぬのです。魔法無力化、もしくは対魔法術式魔法であれば話は別ですが…」


「手段があるのなら使えば良かろう、それすら出来ぬというのか?」


「大変申し上げ難いのですが、これらなる魔法を扱えるのもまた、人ならざる者、もしくは人を超えた人くらいであり…。確認されているだけでも最強種と名高い龍族の中でも上位、人間であれば宮廷魔術師であり、尚且つ上位列に名を連ねる者を超えた者でないと……」


「チッ…使えぬものだ。理由は分からぬが、あの伝説と言えし種族の一匹がこの街に居るのだ…! 折角この私の目に留まる程の価値を持ったコレクションが目の前にあるというのに、この手に届かないとは…! くっ、不愉快極まりない! 使える手は全て使え、何としても捕まえて私の前に出すのだ!」


 エニュートという名の貴族様は、そのままぶつくさと文句を垂れながら付き人を連れてそのまま何処かへと向かって行った。


 朝早くから自らの足で捜索だなんて御苦労なこった。

 …てか、うーん、予測したのとほぼ同じような貴族の登場だったなぁ。思考読まれてる?


 というか魔法に対する魔法とかあんのな、ロマンの欠片もねぇじゃん。魔術師殺しも良いところである。


 しかし、それにしても……。


「シルフ族、ねぇ…。あのポンコツ以外の事…では無いよなぁ、多分。アイツ、この街の貴族に追われてたのか…?」


 何者かに追われてやって来たとか言ってたしな…。

 いや、待てよ?()()()()アイツはこの街に来たんだよな。


 だが、さっきの貴族はどういった情報筋を使ったのかは知らんが、アイツがこの街に来たのを知った。だから追っている。


 つまり言い換えれば()()()()()()()()()()()()()()


 じゃあ本来のアイツを追っていたのは()()()()()


 ……嫌な山に引っ掛かったかなぁ…。



 あれから俺はもと来た道を戻り、宿泊してる所の近くまで来ていた。


 行きと同じく、目指している場所も無いのでブラブラと散策し続けるのみだ。


 そんなぶらり一人散歩も実は途中で終わりを告げていた。


 隣には何故かにっこにこな笑顔を携えたクリスが歩いているのだ。

 何がそんなに楽しいのか…人生満喫してるようで何よりだけど。


「いやぁ、会った時にも言ったけど、朝から君に会えるなんて運が良いなぁ、僕は!」


「そうかい、そりゃようござんした。俺は朝からお前さんの笑顔で胸焼けを起こしそうだよ…」


「ハッハッ! 存分に僕の笑顔を見て元気になってくれたまえ!」


「勘弁しろよ…」


 こんな調子でずっと歩き続けてるのだ、そろそろ辛い、色んな意味で…。


 うだうだと喋りながら歩いていたが、途中で公園が視界に入れば、休憩するためにそこへと足を運ぶ。


 そして当然の様にクリスも着いてきた、いや当然じゃないんだがな?何でこんなに気に入られてんの、俺。


「……そーいやさ、お前さんはシルフ族を知ってっか?」


 こんなに着いてくるならば、少し気になっていることでも聞いてみるかと思い至り、俺はクリスに問い掛けてみた。


 俺よりも知識はあるし、何よりもこの街で暮らして長いはずだ。何か有益なのを聞けるかもしれない。


 クリスはと言うと、俺の質問に対し間抜けな顔でぱちくりと瞬きをしていた。


「おや、随分と唐突だね。覇者たる最強種の二人を(はべ)らせておきながら、更に増やしたいのかい?」


「そうじゃねえよ、ただ散歩してたときに何処で入手したんだか街に居るだとかで探し回ってる奴を見掛けてな。ファンタジーな世界とはいえ、そんなホイホイと居るもんなのかと思ってよ」


「ふーん…? まぁ、一般的な知識は持ってるよ。『獣人族』や『山の民(ドワーフ)族』、『森の民(エルフ)族』、『悪魔族』と色々な種類がこの世界には生息しているんだけど、その中でもとりわけ数が少なくて遭遇どころか発見例すら極稀な種族が居る、それが『妖精種』だよ。その枠組みの一つにシルフ族が入ってるかな」


「へぇ、つまり妖精は妖精って大きな括りで纏めてんのか」


「そうなるね。『風の妖精(シルフ)』の他にも『火の妖精(サラマンダー)』、『水の妖精(ウンディーネ)』、『土の妖精(ノーム)』の枠組みがあるよ。闇とか光もあるそうだけど、この二つは妖精種の中でも特に少ないから、比較的に多いこの四つが主な種族分けかな」


 成る程、ちょっと聞ければ良いくらいに思っていたが、存外に勉強になる。

 伊達に冒険者をしている訳では無いらしい。流石パイセン、頼りになるっすわ。


「んじゃあ、妖精とは違う『精霊』はどうなるんだ?」


「精霊かぁ、精霊は妖精の一個下に割り当てられるのかな…? だから種族、と言うよりかは妖精に使役される魔物とか、現象の一つ、魔力そのものみたいな認識がされてるよ」


地球(あっち)とは認識にちょい違いがある感じか。けど大まかなのは同じなんだな」


「そうなるね」


 精霊から見たら存外にあのポンコツその三は偉い(?)らしい。意外なものである。世の中分からんもんだなぁ。


「因みにこっちも質問したいんだけど、シルフ族を探してたってのはどんな人物なんだい?」


「ん? 何つったかな、エニ…なんちゃらだ」


「…もしかしなくても『エニュート・ボルバレア』かい?」


「あー、そんなだったかな。貴族様っぽかったぞ」


「君は毎回とんでもない事を引き連れてるね…この件、無闇矢鱈と他の人とかに話さないようにね…?」


 クリスは浮かべていた笑顔を引っ込め、随分と真面目な顔をしてそう言った。


「…やっぱ何かマズいのか?」


「君から聞くまでは風の噂程度で流してたんだけど、最近何かを探してるっぽくてやたらと動き回ってるみたいなんだよね。それがシルフ族だとは思わなかったけど…何にせよ、是が非でも欲しいんだろうね。そしてそんな欲しい物に競争相手が出来たとしたら…?」


「……消しに掛かってくる?」


「御名答。手段を選ばない人としても有名だからね、下手げに首を突っ込まないことをオススメするよ」


「………」


 くっそ、やっぱりめんどくせぇ山じゃねぇか…!!


 クリスから知らされた情報に俺は頭を抱え、そんな叫びを口にしたい気持ちを胸一杯にしながら押し黙ることしか出来なかった。

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