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居候(?)

「ふむ、遂に阿呆が人攫いを行いおったか、それも幼子とは恐れ入るの」


「我らを堕とせぬと見て純粋であろう齢の見た目をした子を誑かすとは…落ちたな、お前…小児性愛者は我らでは救えぬぞ……」


「おう、お前らの随分な言い掛かりかつ、解釈不一致な物言い、是非とも撤回してもらいたいもんだな」


 宿へと戻り、二人に出会って開口一番を即座にツッコむ俺の姿がそこにはあった。


 ドン引かれており、非常に不本意である。俺がこう望んだわけじゃないんだぞ……。

 てか遂にって何だ、遂にって。いつ俺がそんな毛色を見せた。


 取り敢えずとして弁明は聞いてくれるらしく、俺は事の経緯を細かく二人に説明して状況を知ってもらった。


 その間ミーアは実に自由なものであり、ソファーの上を跳ねたり、ベッドにゴロゴロと転がったりして遊んでいた。


 多くは言わんがソファーの上を跳ねるのは行儀悪いから止めさせておいた。ついでに言えば視覚情報的に煩い。


 何故俺がこんなことをせねばなるまいのだ…。


「ふむ、奇妙な縁があったもんじゃの。しかもシルフとくるか、貴様は随分と運が良いらしいようじゃの」


「そんなに珍しいのか? お前らとどっこいの抜け具合やポンコツさが伺えるくらいだぞ」


「……その評価に苦言を呈したいところだが、後にするとしよう。我らもそうだが、シルフ族はかなりの少数だ。出会うことすら奇跡とされているほどであるな」


「魔法を扱う上ではエキスパートであり、横に並ぶもの無しとされておるくらいじゃ。魔法のみでなら、グラニアでも敵わんだろうの」


 え、何?そんなに激ヤバクソ高レアキャラなの、こいつ。


 でも、確かにその片鱗は俺でも感じることは出来た。

 人払いの結界とか張ってたしね、範囲とかも多分相当に広かったんだろうな。


「イツキ、見直した?」


「見方は変わったな」


 こいつはポンコツからやべーレアポンコツへと昇華だ、絶対に口には出さんが。



 それからこいつの処遇や今後の活動、何を主軸とするかを話し合って決めていく。


 俺から出せる案は…まぁ、公園で考えていた通りだ。


 あれくらいしか思いつけない貧弱な脳をしているからな。後詰めも何もかもこいつらにぶん投げて任せてきた。


 二人からの案で有益そうなのは特に無い、こちらに合わせるといったのが強く感じられる程度か。


 ホントならこの二人の行動指針を主軸として組んでいきたいのだが、如何せん二人は良くも悪くも人外であり、人ではない。

 つまり基準が人ではないので、人種(こちら)の世界では生きてくのや、行動に難ありなのだ。


 (ものぐさ)な性格をしているのは自覚しているので、面倒臭いとは常々思うが、ここで変に放り投げれば要らぬ出来事や厄介事を招くのは目に見えている。

 くっ、めんどくせぇ……。


 ミーアは加わったばかりなので特にこれといった案は出してこない、というか話にすら入ってこない。

 そこんとこ、どうかと思うなぁ、お兄さんは。


 話がある程度一段落ついてきた所で、ふとフェミリアが思い出したように口にする。


「そう言えば、貴様は妖精の種と契約を交わしたのであろう。何か恩恵はあるのかの? ほれ、魔力値の上昇とか、そこな妖精の得意とする魔法とか」


「え、何? 契約ボーナス的なのあんのか、この世界?」


「うむ、妖精種との契約は互いの利益のために結ぶ魂間での約束事の様なものだ。契約を交わした間柄ならば、互いに何かを渡し合うのが普通とされているな」


 うーん、そんな実感は何も湧いてこないな…。実際一方的な形で契約してきたし、持ってた砂の小瓶食われたくらいだし…。あれって渡したの内に入んのか?


 そんな疑問が頭を占めながら、件の人物を見る。


 ミーアは見られているのに気付き、コテンと首を傾げて見せる。あ、これはダメそうな気がする。


「お前と一方的に契約を交わされたが、お前は俺に何か譲渡したものとかあるか? 魔法とか魔力とか筋力アップみたいなのとか」


「んー? ミーア、イツキに、何も渡してない。ミーア、契約者に、何も渡せない」


 くっそ、嫌な予感ほどよく当たる。コイツのポンコツ具合を再確認しただけじゃねぇか。


「……だ、そうだが」


「…特異なものじゃの」


「稀に見られるかと言う程の酷さだな」


「俺もそう思える」


 ホント、何でこうなったんだろうなぁ…。精神面でドッと疲れた気がする。


「……飯食って風呂入って寝るか」


 何もする気が起こらなくなり、小さく溜め息をついてから三人にそう提案し、一階へと降りて俺達は夕食を取った。


 ちょっと意外だったのは、ミーアが存外に何でも食えるっぽかったのだ。


 食うとしてもサラダくらいかなー、なんてシルフというイメージで勝手に思っていたが、肉も魚も食ってた。


 そして大食漢でもあった。


 …そろそろ金策を本気で考えなきゃならないだろう。街に来てからまだ一日二日しか経ってないが、それで飛んでいる金額がヤバい。


 いや、出費にはアクセサリー類も確かに含まれているが、それ以上にこいつらの食費がデカ過ぎる。胃袋どうなってんだよ。


「ふぅ…食ったの」


「うむ、この街の食材は魔力が含まれているから美味いな」


「魔力? 何か関係あんのか?」


「素材となる肉には少なからず魔力が含まれている。家畜でも魔物でも変わらずな。その含まれている魔力が多ければ、それだけ味に変化をもたらして美味くなる」


「この街は隣にあの森があるからの、そこらの家畜の肉を使うよりも良いのじゃろう。危険排除も出来るしの。それに香草類もそれにならったものじゃろうな」


「成る程ねぇ…」


 魔力を感じられず、また持ってない俺でも美味く感じられる訳だ。魔力の影響力凄いな、この世界。


「ん……っは…ん、美味しかった。ミーア、明日も食べたい」


「明日食料が残ってればの話だがな」


 コクコクと喉を鳴らし、飲んでいたコップを机に置いて満足げなミーア。


 それを合図とし、俺は先に三人を部屋へと向かわせる。


 あいつ等が風呂に入るときはこれを貫こう。


 気が利き過ぎるくらいだ、俺のことを紳士と呼んでくれても良いんだぜ?


 しかし……。


「女所帯だと肩身狭いな…」


 せめてミーアが男なら均衡は取れて…いや、数が同じになる程度で、俺の肩身狭さは変わらんか。


「ハーレム物の男主人公はやっぱおかしいな」


 俺は誰に聞かす訳でもなく、クックッと小さく笑いながら独り言を呟き、手に持つ酒の入った杯をクッと煽るのだった。



 それから俺は風呂が空いたのをフェミリアに伝えられ、昨日のグラニアと同様に酒を強請られたので苦笑を溢しながら酒瓶を買って部屋に戻った。


 ホントなら俺が風呂に入ってる時とか、俺同様に出てってほしいのだが気にする素振りすら見せねぇからなぁ…。


 あぁ、今更ながらだが、服は昨日街を散策してた途中で買っている。


 流石に同じのを着続けるのにも限界があるし、洗濯がなぁ…。


 そんなこんなで風呂を済まし、俺達は其々の寝床に腰掛けていた。


 因みに俺の寝床であったソファーはミーアに占領された、解せぬ。

 フェミリアかグラニアのベッドに潜り込めば良いだろうに、と思ったが申し訳ないとかで断ってた。おう、その遠慮を俺にもう少し向けても良いんだぞ。


 追い遣られた俺は仕方なく椅子に座り、机に頬杖をついて三人を見ていた。


「そーいやお前ら、今日は森に行ってたみたいだが何してたんだ?」


「む? 儂らはいつもの如く、死合をしておったな」


「うむ、木々は邪魔であったが、それ以外の邪魔が入らぬ分、久々に動き回れたわ」


「動き…? ってことはお前ら、人化を解いたのか?」


「否、人の姿で行った。最初は不便であったが、慣れれば幾らでもやりようはあったな」


「うむ、本来の姿程でないが身軽さと動きやすさはある。何とでもなるものじゃな」


 こいつら規模での死合となれば、確実に非人間の動きだろうな。三次元の動きとかすんじゃねぇのか、立体○動装置よろしく。


「ふーん…んじゃ一応として聞いとくが、どっちが勝ったんだ?」


「儂じゃ」

「我である」


 二人同時に名乗りを上げて胸を張る。


 うん、目に見えてた。予測通りの返答をありがとう。


 そして二人は、あぁん?と言いたげに互いを見やれば、そのままゴツンと勢い良く額をぶつけ睨み合いに発展。


「クカカ、儂の姿を捉えきれず、翻弄されるがまま無様極まり無く、無闇矢鱈と魔法を放つことしか出来なかった羽つきトカゲが何かをほざいておるなぁ?」


「ん? おかしな事を言うな、我の魔法に恐れを成し、逃げ回ることしか出来てなかったの間違いであろう。あぁ、負け犬の吠える様は無様でしかないからな? せめてそこで取り繕おうという算段か? 駄犬にしてはよく考えたものではないか」


「今一度貴様に儂の力を知らしめる必要がありそうじゃの」


「それはこちらの台詞と言うものだ、お前程度の力ではどうにもならぬ、彼我の間に空いた天と地ほどの圧倒的な本当の力との差を知らしめてくれよう」


 そしてガシッ!と互いに互いの手を掴めば、力が拮抗しているのだろう、そのまま動かずの状態で言い合いを続けていた。


 こうなると長くなるのは目に見えている、関わらず放っておくのが一番の解決方法だ。

 ま、けしかけたの俺なんだけどな!


「……寝るか」


「ん。寝る」


 俺の呟きに、聞いていたのであろうミーアがコクリと頷いて同意する。


 そして俺とミーアは言い合いを続ける二人を放っておき、寝に入るのであった。

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