不思議ちゃんはシルフちゃん
はて、俺はこれをどうするべきなのだろうか。
というかこの現状、どう動くのが正解なのだろうか?
なぁ、教えてくれないか、シ○ジくん。笑うのが正解なのか…?
「ん……」
俺がどう返答するか迷っているとき、何かに反応を示したのか目の前のファンタジーローブさんは更に詰め寄ってくる。
そして手を伸ばしてきたと思ったら__そのままポッケを弄り__弄り……???
「__ちょいちょいちょい?! 何ナチュラルに人のポッケを弄ってきてんだ!? 誰だコイツに禄でもねぇ教育したの__って、どわぁ!」
ベンチに座り、更に詰め寄られてもいたので思うように逃げれず、俺はそのまま勢い良く後ろへと倒れてしまう。
思い切り後頭部を地面にぶつけ、痛みにゴロゴロと地面を転がって悶える。
めちゃくちゃ痛ぇ…。
そんな俺を気にも留めない憎たらしいファンタジーローブさんは、どうやら俺のポッケから目当ての物を取り出せたらしい。
手に持つそれをジッと見ている。
「ってて…おいコラ、人のもん盗っちゃ駄目だって教えられなかったのか…」
未だに後頭部がジンジンと痛みを訴えてくるが、手で抑え涙目ながらに睨み、叱りながら何を盗られたか確認する。
流石になけなしの金とかだったら非力でも全力で取り返しに掛かっていたが……どうやら盗られたのはサービスとして渡された砂入りの小瓶だった。
ローブさんは相変わらずこちらを気に留めず、ジッと小瓶を見ているだけである。
全く、何なんだ、この不思議ちゃんは……。
そんな穴が開くくらい小瓶を見ても何もないだろうに。
腰に手を当て、やれやれと言った様子を隠しもせずにローブさんを暫く見続けていれば、漸く動きが見られた。
ローブさんは小瓶をクッと握ったかと思えば……。
「…あむっ」
それをそのまま小瓶ごと食べた。
__そう、食べたのだ。小瓶と砂を。
「__はあぁぁあ!? ちょ、待て待て待て待て待て!! マジで唐突に何やってんのさお前!? ちょ、吐け! それ吐き出せ! 食いもんじゃねぇぞ! ほら、ペッ! ペッしなさい!」
「……? べー…?」
「べー、じゃねぇよ! おちょくってんのか、お前!?」
あまりの突然な出来事に理解が追いつかず、遅れて反応が出来た。
相手に詰め寄り、肩に手を置いてユサユサと揺さぶりながら指示するが、何故かベー、と舌を出してくる。
あぁ、もう嫌だ!『見る』分には可愛くて癒やされるかもだが、『相手する』となるとこの上なく面倒くせぇ!
誰か俺の代わりにこの不思議ちゃんの相手をしてくれねぇか?!それか不思議ちゃんの相手ができるマニュアルを寄越せ!!
「くっそ、近くにコイツの親…それか、誰か人居ねぇか…!!__あ、あれ…?」
流石にキャパが超える出来事に頭を抱え、膝から崩れ落ち、助けを求めるのと親に責任を取らせるために辺りを見回し、そこでふと違和感に気付く。
此処は腐っても大きな街の公園だ、コイツに絡まれる前までも老若男女問わず人が多かった。
だが、今は俺とコイツ以外誰も居ないのだ。そう、人っ子一人と感じられない。
あまりにも不気味過ぎる靜寂に、ゾクリとした何かを感じて少し震えながら立ち上がり、一歩後ずさる。
さっきまでとは明らかに違う現状、そして確実にこれを作り出したのは目の前のコイツだろう。
幾ら様々な事で鈍いと定評の俺でも流石にこれには気付ける。
何が目的だ…?
相手の目的が一切見えず、訳も分からない。
某邪神のTRPGを彷彿とさせる不気味さとよく分からん理不尽さが感じられた。
「無駄、人払いの結界、張ったから。もう一度、聞きたい。貴方は、何?」
食べ物を食べた後の様に__というか実際、食い物じゃないのを食ったけど__親指をペロリと舐めてから、コテンと首を傾げて再び同じことを問い掛けてくる。
成る程、目的は俺の正体を知ることか…?だが、なら尚更に解せないのは、それを知ってどうするのか、だ。
…応じるかは分からないが、少し掛けてみるか…。
「教えてやっても良いが、先にこっちの質問に答えてもらおうか。お前こそ何だ? 何者で誰なのか、先に名乗るのが礼儀だろう」
「ミーアは、ミーア。シルフ族の、ミーア。よろしく…?」
再びコテン、と首を反対方向に傾げて挨拶をするローブさん。
おう、存外にすんなりと答えてくれましたね。
てかシルフ族て前世で言えば、確か妖精の一種じゃなかったか?
そっかぁ、遂に俺、魔法使いになる前に妖精さんに出会っちゃったかぁ、ファンタジーでメルヘンだなぁ。
「……そんなシルフ族のミーアが何のためにこんな事を?」
「その前、質問、答えてない。早く、答える」
「あ、あぁ、そうだったな。悪い。俺はイツキ、只の、あー…一般人?」
俺の答えにふるふると顔を横に振って否定してくる、お気に召す答えではなかったらしい。
「貴方、一般人、より、弱い」
余計なお世話だよ!!
「弱くて悪かったな…。俺は転生者だ、こっちじゃマレビトっつーのか? 向こうで死んで、何故かこっちに持ってこられた」
「…? マレビト、持ってる、女神様の加護、無い。嘘、です」
「残念ながら嘘じゃない、神とやらに会うことも無くイレギュラーとして有り得ない場所にぶっ飛ばされた哀れな男だよ」
「む、ぅ…嘘、言ってない、です…ホント、なのです…?」
「言動にそぐわず随分と疑り深いな、お前…」
というか嘘とか看破できんのかよ、マジでこの世界にプライバシーもクソもねぇな。
そうして俺はローブさんこと、ミーアに話を聞かせてもらった。
何故俺を結界内に閉じ込めたのか、とか、此処で何をしているのか、とか。
因みに最初の質問には「イツキ、妖精の砂、持ってた。だから」とか言われた。だからで拉致監禁しないでほしい。
てか手に入れた経緯とかは多分偶然なんだろうが、それにしてもあの看板娘、どっからそんな砂持ってきてやがんだ…。
んで、此処でしていることと言えば、追手から逃げて隠れていただとか。
んー、随分ときな臭くて物騒な話になってきました。
妖精追っ掛ける奴等って何、危険な香りしかしないんだが。
あ、因みに結界からは出してもらえました。人の溢れる公園に無事戻ってこれて凄く安心です。
それとミーアにはフードを脱いでて貰うことにした。
流石にさっきのままでは目立って仕方が無い。
シルフらしい、といえば良いのか分からないが翡翠の髪と瞳の色を持ち、何処かのほほんとした表情をした女の子であり、エルフのようなちょっと尖った耳が特徴的だ。
今も目立つ姿格好ではあるが、旅の者とかなら似たような感じだし、聞かれても上手く誤魔化せるだろ…とか思っていたのだが、どうやら人間_人類種には一部や気配に敏感な者を除いて見えないらしい。
この子の横を通ってったおっちゃんとかガンスルーだったしな。
何で俺には見えているのかと聞けば、許可したからだとか。
何とも便利でご都合主義なこって、俺の立場が危うくなってくばかりである。
だって考えてみろよ。傍から見れば誰も居ない空間に向かってぶつぶつと独り言を言うやつだぜ、俺。
怪しすぎて警備兵とか警邏してる冒険者さんに通報されても仕方無いレベルである。
「はぁー…どうしてこうなるのか…巻き込まれ体質じゃなかったんだがなぁ…」
ベンチに腰掛けたまま、俺は頭を抱えた。
多分転生するとき、イレギュラーついでに、こう…変質が起こったんだろう。そうじゃなきゃここまでの巻き込まれに説明の付けようがない。
うん、そうしておこう。やはり神は許すまじ。
肝心のミーアに至っては俺の横に座ってぷらぷらと足を揺らしている、気楽なものである。
「あのー、ミーアさん…? もう行ってもらっても大丈夫なんですが……?」
「ミーアの、縄張り、此処。イツキが、勝手に、やって来た」
「あ、さいですか…」
うーん、この世界、無力野郎にはホントに肩身が狭いなぁ!
これ以上やり取りすることも無いので、俺はそのままどっこいしょと立ち上がり__
「__あの…?」
「?」
「いや…何? みたいな感じでこちらを覗かれても。何してんの_いや、何で俺の背にぶら下がってんの?」
隣りに座っていた筈のミーアが、いつの間にか俺の背後に立っていたらしく、そのまま何故か俺の背に張り付いていた。
「契約は、果たされた。つまり、どこでも、一緒」
「いや、待て待て待て、契約なんて結んでねぇし覚えもねぇぞ、どこの押し売りセールスマンだよ」
「? 確かに、交わされた。ミーア、イツキの持つ、妖精の砂、取り込んだ」
「お前が勝手に俺のポッケから出して飲み込んだだけだよな!?」
あれで契約が結ばれるとか、どんだけおてがる契約なんですかね!?
しかも何も知らないやつに対し、流れるように契約を結び付けるとかビックリ手法も良いとこだ、N○Kですらしないだろう。
「ミーア、イツキ、守ってやる。だから、イツキ、ミーア、守る」
「俺にそんな力はねぇ!! くっそ、見た目に反して存外に力強いなぁテメェ!?」
ミーアを引き剥がそうと四苦八苦するも、少女にすら負ける非力ボディ。
最終的に剥がせないと結論を渋々ながらに出せば、俺はガクリと項垂れ、代わりにミーアはしてやったりと言った顔を浮かべていた…様な気がする。
くっ、表情が見えない角度だから、どんな顔をしてるか分からない…。
因みに他から見れば、当然ミーアは見えてないので、一人で錯乱するおかしな奴として写っていた事だろう。
あともう少し時間を掛けて剥がそうとしてたら通報されてたかもしれんな、あぶねぇ…。
結局俺は宿へと連れ帰るしか選択肢が無かったのだった。
あ、縄張り?俺に引っ付くと同時に放棄だってさ、自由だなぁ…。