二匹の種族
『おかしなものよな、我等が死合に虫が紛れ込んどるわ』
『おい、貴様。儂らの闘いに邪魔は愚か、虫一匹すら入り込まぬと申していたではないか。あれは虚偽か?』
『抜かせ、此処を何処だと思っておる。秘境の地に我等以外入り込める余地などありはしまい』
『ならば何故、斯様に虫が入り込んでおるのかの?』
『……議論してもやむを得まい』
どうやら会話をしているらしい。秘境がどうのとか聞こえてくる。
いや、口は確かに動かしてるんだが、こんな流暢に喋るもんか?しかも人の言葉を。
__いや、俗に言う"念話"とかってやつか?不思議世界だものな、あるある。……何で俺が言葉を理解できてるかは置いとくが。
しかし頭に直接響くようなこれは、慣れなければ存分に気持ちが悪い。
そりゃそうだろ、自分の思考以外に他人の思考が直接送り込まれるようなものなのだから。
下手したら覗かれたりとかしてそう。えっちね。
と言うか今更ながらだが、気付いてなかったのね、あんたら。いや、そこらの石ころ同様に気にする事すら無かったのだろうな。
そんなのに意識を割くぐらいなら目の前のやつに割くほうが余程有意義だわ、うん。
さて、俺を置いて勝手に話し合っていた二匹だが、唐突に片割れであるドラゴンがこちらを睨むようにして顔を向けてきた。
あ、今の睨みでちょっと心臓がキュッとした。寿命縮んだかもしれん。
『して、虫けら』
「え、あ、はい…はい?」
言葉を掛けられて思わず、口で返事してしまったがこれ声届いてるのか?てか、そもそもに言葉通じるのか…?
んー…頭で応じるのが良かったかな…。
てか虫て。
『フンッ、どちらで答えようが構うまい。些事である故にな』
心の声とか聞こえてるんすね、あ、ふーん…。
プライバシーも何もあったもんじゃねぇな、ホント。
『貴様はただ我の問いに答えるだけで良い。貴様は何も問うな、聞くな、喋るな、良いな?』
「流石に喋るなは無茶がありませんかねぇ!?」
思わずと言った感じに愕然とツッコミを入れてしまった。
だって仕方無いじゃない、どうやって喋らないで問いに答えるんだよ。マ○ティーみたいに踊れってか。
あ、今ドラゴンさんの瞼辺りが、ピクッと動いた。狼さんに至っては喋ってないけど、いつでも殺れますよ感で構えてるし。
マジでさーせんした。
『…良いだろう、貴様の図太さに免じて喋ることは許そう。だが口答えはしてくれるなよ、消し炭になっては答えが聞けぬ故な』
「うっす、肝に銘じます!」
『………。まぁ、良い』
おう、ドラゴンさん。今の間は何。すっげー不安になったんだけど。消し炭にまた一歩近付いたのか。
『して、貴様。脆弱なヒトが何故ここに居る。『マレビト』か?』
「まれ…何…?」
『マレビトだ。ヒトの子で何と言ったか…てんせいしゃ、であったか?』
教えてくれんのか、存外に優しいな。問答無用!とかで消しに来なくて助か___待て、今あのドラゴン何て言った?
「てんせい…転生者?! 他にも居んのか!?」
『五月蝿いぞ、虫が』
あまりの唐突な情報に叫ぶようにして聞き返してしまった。
それに嫌悪感でも増したのか、牙を覗かせて窘めてくる狼さん。
すんませんした。
「あ、あぁ…えっと、多分それで合ってる、と思う」
『思う?』
こちらの答えに訝しげな顔つきで聞いてくるドラゴンさん。
一々の言動やらが怖すぎる。
「うっ…漠然としてるのは悪いと思うが、俺だって分からないんだよ…死んだと思えば唐突にこの世界に連れてこられて、目を開ければあんたらが怪獣大戦争繰り広げてたし……」
何か、自分で言葉にしておきながら言うのもあれだが、訳が分からんな、これ。
どんな人生送れば転生先でこんな場面からスタートすんだよ。あぁ、ルナティクモードの人生でしたね。
もうちょい徳を積めば良かったか…。
俺の答えに二匹は暫く黙考をしていたが、やがて徐ろにドラゴンが口を開いた。
『成る程な、なれば虫である貴様が此処に居る理由も得心がいくものだ。いれぎゅらー、であったか。貴様はそれに該当するらしいな』
「イレギュラー…って事は普通は違うのか…」
『聞くな、と言ったはずだが?』
「独り言です!!」
狼さん、一々食って掛からないでください…心臓が持ちません…。
俺って図太く見られてるのか知らないが、繊細なんだよ。
泣き叫んでやろうか、絶対に殺されるだろうけど。
『貴様の言う通り、普通ならばこんな所に生れ出づるものではない。此処は古代龍と狼王の決闘場であるからな』
___?????
あまりの言葉に思考がショートする。
何だって?決闘場?伝説とかで出てくるような生物の?もうわけわかんねーなこれ。
理解しきれない部分はもう置いといて、ある程度の情報を飲み込めば、スゥー…と大きく息を吸い__
「__ッざっけんなクソ神がぁぁああ!! 初エンカウントが絶賛決闘中の古代龍に狼王!? フ○ムですらやらねぇ禁じ手だろうが!! クソゲーにも程があんだろボケェ!!」
喉が許す限りの、腹の底から思いっきり怒声を吐き出した。
もう殺されても良い、転生したばかりだが、もうここで終わっても良い。取り敢えず今はありったけの勢いで叫ばずにはいられなかった。
世の理不尽からようやっと解放されたと思った矢先にこれなのだ。これくらい許せ。
思いっきり叫んだせいか、ゼーハーと息を切らしているこちらの様子を、殺しもせずに静観していた二匹が口を開く
『『深くは知らぬが…苦労しておるな』』
ホントにね!!!