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先の事

「そういや何気に流してたけど、お前らって覇王的なやつなのな」


 あれからそこそこ良さそうで、手頃な値段の宿を何とか見つけ出したので、部屋が空いているか確認をし、俺一人分の宿代を何日か分だけ纏めて支払い、部屋に入って一息ついてから二人へと話し掛ける。


 二人は其々のベッドに腰掛けており、自然では味わえないもふもふ感を堪能しながら反応をする。


「あぁ、言ってなかったか? いや、言った覚えがあるような……ま、気にするほどでもない。誰が言い出したか分からんものだからな」


「うむ、儂は狼王であり、こやつは古代龍。それ以上でも、それ以下でもない。それに、儂はそう言われる前から同族共の王である故、気にしたこともないの」


「生まれながらの強者と王は違うな、やっぱ」


 やれやれと言うように溜め息を吐きながら小さく肩を竦める俺に対し、愉快そうにフェミリアは笑って見せる。


「クカカ、なれば儂らと対等に話す貴様も、儂らの居る場所を目指してみるか? 虫けらの場合であれば何であるか…あぁ、『覇者』であったか」


「冗談、死んでも目指したくねぇな。雑魚は生きるので精一杯なんだよ」


「ククク、なれば手違いで我らに殺されぬよう、契約を努めて果たすことだな。それがある限りは、我はお前を守ってやろうか」


 おう、めっちゃ男前な笑みを見せてカッコいい事言ってくれるじゃないですか。同性でも多分惚れるだろうな。


 え?女に守られるのは、プライドがどうかって?

 やだなー、プライドとかあるわけないじゃないですか、冗談はよしこさんよ。


「頼り甲斐があって有り難い限りだよ」


「ふむ、であれば儂もそれにならって守ってやらんでもない。高くつくがの」


「森に入った辺りにも言われたな、それ」


「では二倍じゃの」


「何をどう払えってんだ!?」


 愕然とした表情でツッコむ俺に対し、ケラケラと楽しそうに笑う二人。

 くっ、こいつらには立場上、口でも勝てそうにないな…。


 俺はそれを悟れば、話題をそらすように小さく咳払いをする。


「んじゃ、取り敢えず接し方は今までと変わらずで良さそうだな。「覇を頂くモノであると知ったならば、接し方を変えて敬い、諂うが良い」とか言われたらたまったもんじゃねぇし」


「おう、今変えても良いぞ? ほれ、やって見せてみぃ」


「へへー、覇を頂く狼の王、フェミリア様! そして覇の龍の頂きに辿りしグラニア様! どうでしょう、肩でもお揉み致しましょうか!」


「……キモいの」


「うむ、右に同じくだな」


 やったらこれだよと言いたいところだが、俺もそう思う。


「仕方無い、貴様の態度は儂らの寛大な懐で許してやるとしよう。感謝せいよ」


「へへー、有難き幸せでさぁ!」


「一度殴って黙らせようか?」


「止めろ、寝泊まりするとこに惨殺死体を置く気か」


 いや、そもそも体が残るかどうかすら怪しいところだけど。


 俺の言葉に、はぁー…と溜め息をつき、結局流すことにしたらしい。

 フェミリアはそのまま腰掛けていたベッドに体を横たえた。人の体だからこそ味わえる、ベッドの感触に幾分か気分も戻った様で少し幸せそうである。


「そう言えば、我らはこうして人種の寝具を使っておるが、お前は良いのか?」


 同じようにベッドに腰掛けていたグラニアが、俺に向けて言葉を掛ける。


 そう、部屋は空いており、借りることが出来た。

 だが、二部屋は流石に空いてなかったらしく、唯一空いていたこの部屋もベッドはツイン。

 つまり三人の内、一人は確実にあぶれることになるのだ。


 流石に中身が魔物とは言え、女性を床やらソファーで寝かす様な事はしたくなかったので、ベッドは二人に押し付けるような形にし、俺はソファーで寝ることにしたのだ。


「いんだよ、俺はこういったので寝るのも慣れてんだ、前世でな。お前らは今、その体でしか体験できない事を楽しんどけ」


「そうじゃぞグラニア、其処な阿呆は放っておけ。気にするだけ無駄じゃて」


「おう、言うじゃねえか」


「儂らに守られるか弱き貴様に、遠慮など必要あるまいて」


「…そうか、では我も享受するとしよう。気遣いには感謝しておく」


 グラニアが良い奴過ぎる…フェミリアも一緒に居るからか、俺の中でグラニアの株が最初に比べてだいぶ上がっている。


 何か守られてんのが、申し訳無く感じられてきた…。


「あ、そうだ。さっき部屋見てみた時、風呂見つけたしついでに入ってこいよ。それなりの期間、体とか洗えてなかっただろ」


「む、風呂…とは何だ? 水浴びの事であるか」


「惜しいな、水じゃなくて湯浴みだ。温かい水で体とか洗うんだよ。んで、それをするのが風呂場だ。操作とかは実際に触って見せながら説明するほうが早そうだな」


 それから俺は二人を連れ、部屋の一角にある風呂場の説明を行う。

 ちょっと驚いたのは、仕組みが前世の物とかなり近しいものだったので、特に苦労せず説明することが出来た。

 備え付けられているシャンプーっぽいものや、ボディーソープっぽいものの使い方、タオルの置いてある位置も同時に教えておく。



 その後、間違っても人化を解かないよう二人に念押しで注意をしておき、俺は一度部屋を出て、一階の食堂らしき場所へと移動する。


 ラッキースケベ?ハハ、そんなもん起こしてみろ、もれなく死体が出来上がるぞ。


 二人がどれだけの時間を掛けて風呂に入るのか知らないが、長くなっても良いように酒を一杯頼み、それをちびちびと嗜むように飲みながら辺りの様子を眺める。


 時間もそれなりに遅いが、ちらほらと座っている他の席から談笑が聞こえてくる。悪くない雰囲気だ、嫌いではない。


 耳に届く様々な話の内容を聞きながら、俺は今後の行動について考えることにした。


 生き抜くことは大前提として、何を為すか。


 それを決めるには、まず前提として自身のことを分析しなければならない。


 自分は何か、この世界において多分だが最も弱い転生者。

 自分は何か、学は無く、力も無い。

 自分は何か、至って自分勝手で、自己中心的である。


 見るもの、聞くものにも依るだろうが、これだけ並べればだいぶ救いようのない奴である。


 自分で並べておいてあれだが、何か悲しくなってきた。

 思考が逸れてきたので、頭を横に振って元の考えを戻す。


 よくある転生物では、主人公が異世界を旅しながら前世の世界__つまり現代社会の地球へと戻るのが通説みたいなところがある。


 残念ながら俺にその願望はない。

 となればこの世界で生を謳歌するくらいだが、此処で出てくるのは最初の問題である『何がしたいか』である。


 何がしたいかを明確に決めることで、どう生きていくかが決まるものだ。ある種の人生設計みたいなものだな。


 何がしたい…何がしたい……。


 こうして考えてみると難しいもんだな、何かを決めるってのは。


 俺の力の無さは俺自身が一番分かっている。正直言えば今現時点で何で生きれてるのか俺自身が不思議で仕方無い。


 うーん……取り敢えず平穏無事に生きれたら良いか、下手に騒ぎとか巻き込まれないように立ち回って無難に生きる。

 うん、これだな。


 確かに俺は力が無い、だが代わりに口がある、言葉がある。後は態度とかもその都度で変えたりとかして、柔軟にやればそれとなく生きていけるだろ。


 ラノベ的なタイトルを付けるなら「無力無能な転生者、口八丁で異世界を生きていく」とかか。

 …ちょっと良いかもしれないな。



 最後に関係ないことをボーッと考えていれば、自身を呼ぶ声が耳に届き、意識を思考の海から引き上げて名を呼んだ相手の方を向く。


「ん、漸く反応をしたか。随分と真剣に考え事をしていたな」


「グラニアか。悪い、ちょっとな。それよりどうしたんだ?」


「風呂が空いたのを伝えに来た、お前もさっさと入って身を綺麗にすると良い」


「あぁ、もう上がったのか、思ったよりも早かったな。んじゃそうさせてもらうか」


 酒が未だに入ったままの杯を机に置いたまま席を立ち、俺は部屋へ向かって歩き始める。


 だがグラニアが後に続いて来ないことに気付き、振り返って見れば当の本人は俺が残した酒を一気に呷っていた。


 うーん、見ているだけで喉が焼けそうである。


「飲んでいくなら金渡しておくが?」


「んっ…ふぅ…うむ、飲みはするが部屋で飲みたい。瓶で買えるならば買っておいてくれ」


「へーへー、仰せのままに」


 豪快なまでの飲み方で喉を鳴らし、酒を下して口端を手の甲で拭い、そう言葉にするグラニアに対し、俺は苦笑を一つ浮かべるのだった。

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