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先輩転生者

 まずギルドに帰ってきて、違和感を覚えたのは中でのざわつきだった。


 別に、酒場が併設されたこのギルドにおいて、騒ぎなんてものは日常茶飯事なので気にする必要性などない。

 精々あっても、自分が帰ってきた時にざわついたりするくらいだ。


 だが、今ギルドの中は別の方でざわつき、ほぼ全員の視線がそちらへと向かっているのだ。

 同じようにならって、入り口からそちらへと見れば、その先は確か受付の方であった。


 大怪我を負いながらも、緊急の依頼を出しに何処かの国の遣いでも来たのだろうか?などと思いながら、同じ様に不思議そうな顔を浮かべる仲間と共に中へと入る。


 そして手近に居た一人の男の冒険者の肩を、ポンポンと軽く叩いて問い掛けた。


「いつもと違って騒がしいが、何があったか聞いても良いか?」


「んぁ? どーもこーもねぇよ、何処ぞから来た田舎モンっぽい三人衆が受付をしてたんだ。女二人は喋らねぇが、ここらでは見ないくらいに美麗なもんでな。んで、そいつらを連れてた男の方は冒険者証は要らない、身分証だけ作れとか言ったり、何ともおかしな奴等でな。んで、魔力量を調べようとして、女の一人が鑑定水晶に手を置いた瞬間、砕けやがったんだよ。男は違うだろうが、あの女はマレビトだろうな」


 男は余程、受付前の出来事を見て状況を逐一(ちくいち)知っておきたいのか、こちらを見向きもせずに答える。


「ふむ、情報提供に感謝する」


 そんな態度を取られても特に気にする素振りも見せず、彼は礼を一つ言えば、人を掻き分けてそのまま前へと進んでいく。


 男はそこで初めて、声を掛けてきた者の方を見て、相手していたのがこのギルドの顔とも言える男とその御一行だと知り、失礼を働いたことに顔を青ざめさせていた。



「取り敢えず受付の姉さん、あいつらの冒険者証を発行してもらいたいんだ。金が必要とかだったら、あー……これ、素材みたいな感じでこう、換金してくんないか? 換金には冒険者証が必要ですとか言われたら詰みだけど…」


 俺は今、何とか目的を達成して早くここから出ていこうと焦りを覚えていた。


 何故って?そりゃ勿論、囲われないようにですよ。

 自由を代償に地位を得たりとかしたくないのよね、過ぎた欲は身を滅ぼすからさ!

 まぁ、囲われるのは俺じゃなく、何か離れた位置にいるあいつらだけども……。


「冒険者証も身分証も、発行に金は掛からんよ」


「へぇ、そうなのか。教えてくれてサンキューな」


 俺は飛んできた言葉に、そちらを見向きもせず、ほぼ反射に近い形で言葉を返していた。


 だが、俺を相手していた受付嬢は驚いた表情で後ろを見ており、周りのざわつきもさっきより小さくなってることに漸く気付いて、俺は恐る恐る後ろを振り向く。


 そこには茶髪の軽装を身に着けた男と、魔女っぽい見た目をした女と、多分弓の扱いに長けた奴っぽい三人が立っていた。


「あー…えっと、わりぃ。邪魔だよな、退()くわ」


 そう言って横に逸れようとするが、魔女っぽい女がスッと音もなく前に出て阻害された。


 え、何、おっさん狩り的なあれですか?それとも初心者が通過する儀礼みたいな?怖いんだけど。


「あぁ、すまない。別に退かなくても良いし、怯えなくても良い。ただ少し気になってね」


 こちらがガクブル状態なのに気付いたのか、茶髪の男は朗らかな笑みを浮かべて声を掛けてきた。


 魔女の方は何処かへ行かす気もないのか、退路を塞いだままだし、その対面には知らぬ内に狩人さんが立ってる。


 あれ?あいつらじゃなくて俺が物理的に囲われたんだが???


「んー…この状況で怯えなくて良い、はちょっと無理があったかな…。ごめんごめん、でもどうしても聞きたくてね、逃げられちゃったらそれも叶わないから」


「逃げてもどうせ追い付くだろ…てかそもそも逃げる兆候が見えた瞬間押さえつけれるくせに、よく言うもんだ…」


 思わずと言った形でついた悪態に、しかし笑みを崩さずに男は口を開いた。



「君は()()()()()?」



 その問い掛けが耳に入った瞬間、一気に目を見開く。

 多分、相手の問い掛けの内容は俺が想像したままの意味だろう__だが、敢えて聞くとしよう。


「……どういう意味だ、それ?」


「きっと、君が思ったままの意味だよ」


 交わす言葉は限りなく短いもの。しかしそこに含まれた意味を知るには十分過ぎるほどの言葉であった。


 俺が予想し得るに、こいつら…いや、目の前のこいつはきっと……。


「俺は__」


「おいイツキ、まーだ掛かるのか? いい加減に儂は飽いてきたぞ」


 答えようと言葉を口にしかけた時、唐突にひょこっと出てきたフェミリアに遮られる。


 どっから出てきた、と言いたくなったが、後ろを見やれば、俺の後ろを塞いでいた魔女さんが何故か倒れてた。えぇ、何故か。


 そして後に続くようにしてグラニアもやって来たと思えば、邪魔だと言うように狩人さんをグイッと横へ押しやった。


 哀れ狩人さんは受付の壁に熱い口付けをすることとなった、鼻血とか出てないと良いのだが…。


「うむ、これ以上に時間が掛かるのであれば、我らは少し出てくるが」


「おいバカ待て、それだけはぜってーにやめろ。お前らが二人して街に繰り出したら収集つかなくなるだろ、迷子捜索なんてしてらんねぇぞ」


「抜かせ、誰が迷子になるか」


「俺がなるんだよ」


 二人してその、あぁ…みたいな顔するのやめてくれませんかね、地味に傷付くんだが。せめて、ちょっとくらいの否定があっても良いんじゃないかな?


 そんな不毛とも言えようやり取りをした後に、茶髪の男との会話が途中だったことに気が付き、そちらへと視線を戻せば驚愕の顔を浮かべていた。


「どうしたんだ? そんな鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして」


「っ__いや、何故、君はそう平然としていられるんだい…?」


「何がだ?」


「何が、って、そこに居るのは()()()()()()()だぞ…」


 そう言って、先程俺がそうだった様に男は愕然とした表情を浮かべていたが、そこから徐々に苦虫を噛み潰したようなものへと変わっていく。

 表には出していないが、おおよそ内心は震え上がっていることだろう。


 そして、その言葉が聞こえる範囲の者達からもどよめく声が上がる。当然だろうな。


「あぁ_お前は『見れる』のか」


 俺は特に気にする素振りも見せず、相手がその言葉を吐くに至ったものを予測で口にする。

 この世界はファンタジー溢れる所だし、こいつらも当然の如く使ってたし、俺とは違うこいつも多分そういったのが使えるのだろう。


 そして茶髪の男はこちらの予想通り、コクリと小さく頷く反応を見せ、そして緊張の走った面持ちで再び口を開く。


「……何故、覇龍と覇狼が、人の形を模した上で此処に居るんだい…?」




 最初は信じられなかった、だが信じるしかないだろう。


 自身の持つスキルが嘘をついた事はない、つまり今伝えてくるこの情報は確かな真実であり、そして現実なのだと突き付けられる。


 目の前の男との会話に割り込むようにしてやって来た、何処かの部族を思わせる衣装に身を包んだ女性に対し、何気無しにスキルの一つである『観察』を発動した。


『観察』とは、相手を視界内に捉えなければならないという制限が少しあるが、それさえ満たした上で発動することで、相手のステータスや状態などを見ることが出来るのだ。彼我の間に実力差が大きく空いていれば、見れるものも差の分だけ制限は掛かってしまうが、大抵のものは見れる。


 それを発動したのはほぼほぼ無意識に近い形だった。

 そして返ってきたものに目を丸くした。


 其処に居るのは、姿形は人間なのだが、その正体はたった一匹で国を幾つも沈めることが出来る、存在自体が伝説の一つに数えられる魔物、【覇狼】。


 彼我の間に空いた、あまりの大きな格差にステータスの全てを見ることが出来なかったが、名前と性別、そして種族は見れた。いや、彼女自身が開示していたのを見れたというのが正しいだろうか。


 何にせよ、訳の分からなさに混乱する頭を必死に抑え、理解しようとしていた時、今度は別の女性がこれまた彼に対して親しげに声を掛けている。


 男は彼女の言葉に何の気兼ねも無く、親しみが感じられ、それがありありと伺える態度や言葉で接していた。

 もしやと思いながら、新たにやってきた女性に対してもスキルを使えば……あぁ、ビンゴだ。


 返ってきたのはこれまた何故か人の姿形を模している、伝説の一つに数えられる魔物、【覇龍】。


 こちらも覇狼と同じような形でしかステータスを見れなかった。


 そんな伝説が記された書物などでしか見聞きしたことがないような存在が、何故か目の前に居る。


 転生して、この世界に来てからそれなりの年月が経ち、様々な経験をしてきたが、こんなのは初めてだ。


 そして、この二匹も当たり前の如く恐ろしいのだが、今一番恐ろしく感じているのは()()()()()()()()()だ。


 スキルを発動して、返ってきたステータスを見てみたらどうだ、同じ異世界からの転生者ではないか。

 そして何よりも驚くほどに、そしてあまりにも違和感を覚えてしまうくらいに拍子抜けなのは、同じ転生者でありながらステータスが著しく低い。おまけに『女神の加護』を持っていない。

 つまりは天恵を受けてないのだ。


 ()()()()()、それだからこそ、この男が異様に、異質に感じられたのだ。


 何故天恵も何も持たず、この世界の住人よりも劣るこの男が、何も臆することなくこの二匹を相手取れているのか。

 そして何故ここまで親しげなのかが、一切理解出来なかった。


 震えを一切表に出さなかったのは、ある種の意地のようなものだったが、緊張が走った顔付きになってしまうのは仕方ないと言える。


 そんな状態で、恐る恐ると口を開き、問い掛けた。


 その問い掛けを受けた目の前の男は小さく、だが確実に笑ってこう告げた。


「知らね」

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